トランプ政権の中国政策─本邦勢の対米債券投資にも追い風か

 

為替操作国認定撤回に加えた米国金利の安定指向表明は、米国債券市場にも好材料とみられます。

取引レンジ下限を下抜けした米国金利

米国債券市場では4月12日、トランプ大統領の「米国金利は低いままが望ましい」など一連の発言を受け、長期金利(10年国債利回り)は、昨年11月半ばから5ヵ月近く続いた取引レンジの下限を下方に抜け、大きく低下しました。昨年11月の大統領選でのトランプ氏勝利以降の急速な金利上昇(債券価格は下落)で打撃を受けた米国債券市場ですが、今後は、もしもトランプ政権の減税策が明らかになり議会承認の公算が高まる──すなわちトランプ・ラリー(株高、金利上昇、ドル高)が再燃するとしても、それまでは、落ち着きを取り戻しそうな気配です。

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為替操作国認定の撤回だけでない対中政策

トランプ大統領が一連の発言をした場にムニューシン財務長官も同席していたと報じられており、発言は個人的な思い付きでなく、政権としての見解とみておいた方が無難なようです。

ドル高牽制発言については、市場では「ドル/円為替レートは現状、ドル高を牽制すべき程の水準ではないはず」、「(これまでの持論を撤回する形となる)『中国を為替操作国に認定しない』との方針表明に際して、ドル/人民元為替レートを念頭に、中国にくぎを刺しておきたかっただけ」との冷静な見方も目立ちます。

「中国を為替操作国に認定しない」との発言について、トランプ大統領は「今、認定すれば、北朝鮮の脅威に対処するための米中対話に悪影響が出る」と理由を説明しました。これは、トランプ政権の政策間の優先順位づけを示唆する発言と筆者は考えます。「強い米国の復活」を自国民にアピールして国民ひいては議会の求心力を高めるには、「過 去20年間の対話の試みは失敗だった」とこれまでの政権の北朝鮮政策を批判して、強硬姿勢を示すことは効果的です。つまり、貿易赤字問題で中国に圧力を強める政策よりも、「強い米国の復活」をアピールできる対北朝鮮強硬姿勢に中国を巻き込む政策の方を優先した、との見立てです。

米国金利の低位安定指向の表明については、為替操作国認定の撤回表明と同時になされたことを筆者は注目しています。中国は、日本と並び世界最大規模の米国債保有国です。「中国は米国債券市場で巨大なプレーヤー」と市場は意識しています。これまで米国債を売却して外貨準備を取り崩し、その資金で人民元を買い支えた中国当局の人民元安の抑制策はかなり大規模とみられ、中国の外貨準備高は急速に減少し、3兆ドルを割り込みました。中国の米国債売りが、昨年11月以降の米国金利の急上昇に拍車をかけた模様です。

米国金利の低位安定を迫られるトランプ政権

今回の「米国金利は低いままが望ましい」とのトランプ発言には、まず、自身が注力中の減税策など景気刺激策も数ヵ月後に控え、先行き米国景気を腰折れさせかねない金利急上昇を避けたいとの意向が感じられます。インフラ投資策には「低金利の方が財政負担は少ない」との思惑もありそうです。さらに、大きく下落した米国債価格(上昇する金利)を安定させることで「資産目減りを嫌う中国に、さらなる米国債売却を思いとどまらせたい」との意向も働いたと推測されます。

イエレン議長の再任示唆は投資家に好印象

米国金利の低位安定に向け、トランプ大統領が、慎重に利上げを続けるFRB(米連邦準備制度理事会)のイエレン議長を、来年の任期切れ後も起用すると示唆したことは理にかなっています。かつて、慎重な利上げ姿勢を批判したこともあった持論を撤回し、イエレン議長を再任するとの示唆は、中国だけでなく本邦勢も含めた海外投資家にも安心材料です。折しも例年4月末頃にかけては、保険会社など本邦の機関投資家が今年度上期の運用計画を固める時期です。米国金利が低下し、日米金利差を通じたドルの上昇圧力が弱まったこのタイミングで、トランプ政権が米国金利の低位安定に本腰を入れざるを得ない(上述の)事情が意識され始めたことは、本邦勢の米国債券投資にも追い風と考えられます。

明治安田アセットマネジメント株式会社
かつて山間部の中学校などに金融教育の補助教材を届けていた頃の現場の先生方の言葉が、コラム執筆の原動力です。「金銭面で生きる力をつける教育は大切だが、私自身、株式など金融は教えられないのですよ」と。
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