米軍シリア攻撃と同じ日に、円安に動き始めたのはなぜか?

 

「地政学リスク」より「米国景気上振れリスク」が勝り、円安圧力につながったようです。

「有事の円買い」は長続きせず

東京外国為替市場では4月7日(金)、一時、ほぼ瞬間的に円高が進みました。1ドル=111円割れ付近から110円台前半へ約60~70銭、値が飛んだのです。きっかけは、化学兵器の使用が疑われるシリアの軍事施設に対し「米軍が巡航ミサイルで攻撃」との報道でした。もっとも、同日のニューヨーク市場では111円台を回復し、米軍攻撃前よりも円安水準で取引を終えました。

市場が懸念したのは米露関係やインフレ圧力等

米軍シリア攻撃の第一報を受け、市場が最も懸念したのは(1)「ロシアとの関係が悪化すれば、米政権が泥沼化するシリア情勢にはまり込む」との懸念や、(2)原油高騰が長期化した場合の世界的なインフレ圧力への懸念でした。

(1)については、「米政府はロシア側に攻撃を事前に通告していた」と、早いタイミングで報道されたことで、市場の不安心理がやや和らぎました。(2)については、当初、かつて米軍の巡航ミサイル攻撃が原油高騰をもたらした湾岸戦争(1991年)時の連想も働いたようです。しかし、当時のイラクとは対照的に「シリアには有力な油田やパイプラインは存在せず、原油急騰は長続きしないだろう」との比較的冷静な受け止めが市場では目立ちました。さらに、「トランプ大統領から中国牽制発言が飛び出すのでは」と市場が身構えた米中首脳会談が、友好ムードで無事終了したことも市場心理の下支えとなり、「有事の円買い」は長続きしなかったようです。

米国景気の上振れリスク

むしろ市場で意識されていたのは、米国景気の上振れリスクです。その2日前に公表されたFOMC(米連邦公開市場委員会)3月会合の議事要旨の記述が改めて材料視されました。FOMC議事要旨は、米国景気が腰折れする「下振れリスク」よりも、景気が過熱する「上振れリスク」の方が高まっている、と示唆したのです。そしてリスクに対処するためFRB(米連邦準備制度理事会)は、(リーマンショック後に進めた量的緩和策で市場から買い取った国債等の保有で)膨張した「FRBバランスシートの縮小に着手することを年内にもアナウンスする」との見通しを示しました。

FOMC議事要旨が公表された日(4月5日)には、当初、「FRBバランスシート縮小策は、米国景気を腰折れさせかねない」等として、米国株価(NYダウ)の下落要因にもなりました。その後、「FRBバランスシートの縮小を必要とするほど米国景気は力強い」との見方が優勢となり、米国株価は反発しました。さらにFRB高官が、「バランスシート縮小に伴って、その間、利上げは休止されるだろうが、あくまで小休止にとどまる」(ダドリーNY連銀総裁、4月7日)との発言が、米国景気の上振れリスクを警戒するFRBの姿勢を印象づけました。この発言を受け、米軍シリア攻撃を受けて安全資産として買われ低下傾向となっていた米国国債利回りが逆に上昇し、日米金利差の拡大観測で円安につながりました。

加えて同日(4月7日)には、「トランプ政権は、議会民主党が好むインフラ投資策と減税策を抱き合わせで法案提出を計画しているのではないか」との観測も浮上しました。「トランプ・ラリー再燃は予想外に早まるかも知れない」との期待も市場心理を改善したようです。

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【コラム】 経験則が通用しづらくなった北朝鮮情勢

例外的に北朝鮮情勢については、「地政学リスクは長続きしない」との経験則が通用しにくくなるかも知れません。「米国が北朝鮮に先制攻撃するリスクが、最近ではリアルに感じられる」との声も市場では聞かれます。「過去20年間の対話の試みは失敗だった」とこれまでの米国の北朝鮮政策をトランプ政権は批判し、軍事行動も辞さない構えです。「中国が北朝鮮問題で役割を果たさないなら米国単独で行動する」との強い姿勢が、今回の米軍の対シリア単独行動で現実味を帯びた面もあります。「米国はシリアと北朝鮮を同一視していない」との観測は安心材料ですが、北朝鮮情勢については、注意深くモニターするに越したことはないのかも知れません。

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