ゴールデン・ウィーク前後は円高か?─英国離脱交渉スタート

 

離脱交渉の困難さが意識されやすい時期に仏大統領選も迎え、一時的ながら円高となりそうです。

4月下旬のEU首脳会議は波乱要因か

英国のメイ首相は3月29日、EU(欧州連合)に対し、リスボン条約第50条に基づく正式な離脱を通告し、2年間の離脱交渉がスタートします。昨年6月の国民投票の際には、事前予想に反し離脱派が勝利したことから、わずか数日間ではありましたが世界的な株安連鎖、そして急速な円高となりました。当時と比べ、正式な離脱通告後も市場は落ち着いています。

もしも市場の不安が高まり、逃避的な円高につながるとすれば、まずは対英交渉方針を承認する4月29日のEU首脳会議の前後ではないかと考えられます。他のEU加盟国で離脱に追随する動きを牽制するためにも、相応に厳しい対英交渉方針が文書化されるとみられ、離脱交渉の困難さを市場に印象づける可能性があるからです。しかも、その直前のフランス大統領選の第一回投票(4月23日)では、EU離脱を唱える排他的な極右政党の党首が勝ち残って決戦投票(5月7日)に進むとみられます。「決選投票では大差で敗退する」との最近の複数の世論調査の結果通りになるまでの間は、一時的とは言え、市場の不安は高まる可能性があります。

ちょうどゴールデン・ウィークとも重なることから、もしも円高に動いた場合には、日本の市場参加者の不在で外為市場の流動性は低く、値動きは増幅されそうです。もっとも、米国トランプ政権の景気刺激策が具体化してくればドル高となりやすいことに加え、以下の理由で、リスク回避的な円高は、一時的と考えられます。

その1:英国企業のEU移転を抑制へ

メイ首相は、「離脱交渉の合意前に2年間の交渉期間が終了すれば、厳しい通商条件に直面する」と懸念する英国企業に対し、「何らかの暫定的な合意を結ぶことで新たな通商関係を構築する時間的余裕を確保する」と示唆し(2016年11月)、EUに拠点を移そうとする英国企業の引き留め策を講じる方針です。もっとも、この暫定的な移行措置は、2018年3月頃までにEUと合意できなければ、2019年3月の離脱まで残り12ヵ月を切ってくることから、英国企業の見切り発車的なEU移転開始につながる可能性もありそうです。

その2:「強硬離脱」は国内の治安対策か

メイ首相が昨年11月、「域内無関税の欧州単一市場へのアクセス継続より、移民の流入抑制を優先する」姿勢を示して以降、域内無関税のEU単一市場へのアクセスを断念する「強硬離脱」への警戒感が折に触れポンド安要因となってきました。一方、「英政権は、意図的に混乱を引き起こそうとする国内勢力に対し強硬姿勢をアピールしようとしているだけ」(英BBC放送、3月28日付)とのEU側関係者のコメントも報道されています。国内治安対策も講じつつ、メイ政権は慎重に交渉を進めていくとみられます。

その3:現実的な英政権の交渉スタンス

EU側は「通商交渉を始める前に、(a)英国の負担金と(b)移民に関し合意する必要がある」と主張し、これらの合意は(通商交渉に要する時間を考慮して)今年12月頃が期限との立場です。英国側は、通商交渉と並行した協議を主張しています。

(a)英国の負担金は、「英国が拠出を確約した未払い金約600億ユーロ(約7.2兆円)を支払う」との合意です。英国側は、外相が難色を示している様子ながら、EU離脱担当相の発言「EU単一市場へのアクセスを確保するため、EUへの対価の支払いを検討する」(2016年12月)からは、英政権の現実的な交渉スタンスが感じられます。

(b)移民については、「(多様な人種で構成される)英国社会での移民抑圧は良い発想ではない。英政権は『2020年までに移民流入を10万人以下に抑える』との数値目標を取り下げ、移民管理の厳格化に方向転換する公算がある」(前出の英BBC放送)とのEU側関係者のコメントも報じられています。こうした最近の情勢では、離脱交渉が決裂する可能性は低そうです。

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明治安田アセットマネジメント株式会社
かつて山間部の中学校などに金融教育の補助教材を届けていた頃の現場の先生方の言葉が、コラム執筆の原動力です。「金銭面で生きる力をつける教育は大切だが、私自身、株式など金融は教えられないのですよ」と。
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