ドル安調整は短命か─オバマ・ケア代替法案の撤回で

 

トランプ・ラリー再燃が予想外に早まっても、FRBの政策で適度なドル高にとどまりそうです。

オバマ・ケア廃止より減税策を優先

米国トランプ政権は、オバマ・ケア(医療保険制度改革法)を廃止するための代替法案を下院で採決する前に取下げ、撤回しました(3月24日)。その3日前には、法案通過の難航を見越した市場の動きで、米国株価(NYダウ)は、トランプ・ラリー(株高、金利上昇、ドル高)が始まった昨年11月以来、初めてやや大きめに(前日比-1%超)下落していました。市場は「オバマ・ケア代替法案で難航するのであれば、(昨秋のトランプ・ラリーの原動力となった)減税策の法案成立にはかなり時間を要する」として、しびれを切らし始めていたところでした。

トランプ大統領が、オバマ・ケア廃案には拘泥せず「次はおそらく税制改革に取組む」と語り、減税策を優先する姿勢を示したことが市場に好感され、その日のNYダウは取引時間終了間際に急反発しました。オバマ・ケア代替法案は今回、たとえ下院を通過しても、さらに上院での審議難航が予想されたことから、これ以上、時間をとられることなく法案を撤回し、市場が期待する減税策を優先すると示唆したトランプ大統領の現実的な姿勢が市場に好感されたようです。

法案撤回は、一部では「米トランプ政権の政策実行能力の低さが露呈され、他の選挙公約の実現にも疑問符がついた」との受け止めもあった一方、「減税策やインフラ投資策は、オバマ・ケア代替法案ほど複雑でない案件であり、法案の議会通過は比較的容易」との観測も浮上しています。このため、オバマ・ケア代替法案の審議難航を見込み「減税策の法案成立は8月の議会休会前には困難」として、「初秋まで先送りされる」との観測も出ていたトランプ・ラリーの再燃は、予想外に早まりそうです。

FRBは過度なドル高の抑制策を用意か?

減税策などトランプ政権の財政政策を、FRB(米連邦準備制度理事会)は、まだ金融政策に反映していません。これまで具体的な内容が不明だったからです。市場では、トランプ政権の減税策等を考慮し「2017年中の利上げ回数は、FRBが見込む3回でなく4回に増える」との観測が広まりつつある中でも、FRBは3月の会合(3月14~15日)で「3回」との見通しを据え置きました。これをきっかけに、現状、ややドル安の流れになっています。

今後、トランプ政権の減税など財政政策の具体的な内容が明らかになるにつれ、米国市場金利の上昇──ひいてはドル高の圧力が強まっていくと考えられます。市場では、「利上げペースが急激に早まれば、米国経済には打撃」との見方も根強いようです。筆者は「トランプ財政政策に対して、FRBは利上げペースを早める代わりに、(過去の量的緩和策による国債等の買入れで膨張した)『FRBのバランスシート縮小開始をアナウンスする策』により、(インフレ懸念の高まりによる)悪い金利上昇を封じ込める作戦をFRBは立案中」とみています。つまり、「トランプ・ラリーが再燃すれば、FRBは利上げを加速するのではなく、バランスシート正常化アナウンスのカードを切る」という見立てです。

今年1月、バーナンキ前FRB議長は「あと10年もすれば、拡大しつつある米国経済の規模を考慮した妥当なFRBのバランスシート規模は4兆ドル台となる。このため、現行4.5兆ドルのバランスシートの縮小を、向こう2~3年で性急に開始すべき差し迫った理由はない」との見方を示しました。にもかかわらず、イエレンFRB議長は3月会合後の会見冒頭で、いきなり「FRBのバランスシートの正常化(縮小)について議論した」と述べました。しかもイエレン議長は1月の講演で、「バランスシート縮小開始をアナウンスすれば、2017年中に長期金利を0.15%ポイント程度上昇させる。0.25%ポイントの利上げであれば、2回分に相当する」とのFRBスタッフの試算を紹介しています。1回しか切れないカードではありますが、タイミング良くアナウンスすることで、利上げに反応しやすい2年物の日米金利差の拡大を抑え、過度なドル高圧力を和らげる効果をFRBは期待していると推測されます。

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明治安田アセットマネジメント株式会社
かつて山間部の中学校などに金融教育の補助教材を届けていた頃の現場の先生方の言葉が、コラム執筆の原動力です。「金銭面で生きる力をつける教育は大切だが、私自身、株式など金融は教えられないのですよ」と。
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