日米首脳会談を終えドルは再び上昇局面へ

 

円安誘導を批判するトランプ発言も出ず、市場の関心は米国の景気刺激策に移りつつあります。

日米首脳会談を警戒した市場

日米首脳会談(2月10日)を控え市場は、トランプ米大統領から円安誘導を批判する発言が飛び出すのではないかと警戒していました。少し前、トランプ氏が「中国や日本は何年も通貨安誘導を繰り広げている」「他国は資金供給と通貨切り下げで有利な立場をとってきた」と批判していたからです(1月31日)。市場は「批判の矛先が、日銀の量的緩和策に向けられたのでは」と受け止めました。

確かに、約4年前の衆議院選挙で発足した第二次安倍政権下では、衆院選直前の1ドル=80円台前半から2015年にかけ125円台へと、大きく円安が進行した経緯があります。安倍・自民党は衆院選公約で、「日銀法の改正も視野に」との日本銀行への露骨な政治圧力による「大胆な金融緩和」を唱えました。そして公約通り、新総裁に任命された黒田氏率いる日本銀行が異次元緩和をスタートさせました。これにより日米の金利差が拡大し、円安が進行したのです。

折しも市場では、ここ数週間、一旦ドル買い持ちポジションを調整する動きが広がっており、ドルはやや軟調でした。トランプ氏が大統領選で勝利して以降、新政権の景気刺激策への期待が先行する形でドル高が急ピッチで進行したことへの警戒感や、就任直後からトランプ氏が通商政策や移民政策で大統領令を数多く出し始めたことが「景気刺激策は後回し」との印象を与え、市場を失望させかけていたためでした。

市場の警戒感を和らげた日米首脳会談

日米首脳会談後の共同会見でトランプ氏は、「通貨安に関して言えば、私はかなり以前から不満を述べてきた」と発言するにとどめました。安倍首相は「為替は、専門家たる日米の財務大臣間で緊密な議論を継続することになった」と述べ、主要議題ではなかったと示唆しました。「トランプ氏が批判の矛先を向けた」日本銀行の緩和策に関しては、「緩和的な金融政策を継続していくことを日米が確認した」との財務省関係者のコメントが一部メディアで報じられました。これらの動きは市場の警戒感を和らげ、ドルが反発する要因となりました。

トランプ氏の現実的な対中姿勢を市場は好感

さらに、これまで米中間の貿易不均衡の原因として人民元安を批判してきたトランプ氏は、安倍首相との共同会見では、通商・為替問題で中国の名指し批判を控えました。むしろトランプ氏は、日米首脳会談の前日に中国の習近平国家主席と電話会談したことに触れ、「中国とはよい関係を築く過程にある」「これは日本にも有益なものだと思う」と述べました。

トランプ氏は昨年12月、次期大統領としての慣例を破り台湾総統と電話会談し、中国本土と台湾は不可分とする「一つの中国」の原則を唱える中国を刺激しました。そして、中国海軍が南シナ海で米国の海洋調査用ドローンを拿捕する事件にまで発展しました。米中間の緊張が高まれば、リスク回避の逃避的な円買いにつながりドル安要因となり得ます。米中間の緊張を和らげたのは、日米首脳会談の前日にセットされた米中首脳の電話会談で、トランプ氏が習主席に「一つの中国の原則を尊重する」と伝えたことでした。これまでの過激な言動とは対照的な、こうしたトランプ氏の現実的な対中姿勢は、市場心理を改善させる要因となりました。

トランプ氏は景気刺激策(大幅減税)を予告

ドルが反発した要因には、米新政権は「景気刺激策を後回し」と失望しつつあった市場が、トランプ氏の発言で再び活気づいたこともあります。日米首脳会談の前日、トランプ氏は「驚くべき」税制改革案を2~3週間以内に発表すると述べ、日米首脳会談後の共同会見でも「税制につき近く発表する」と改めて述べました。ホワイトハウス報道官によると「1986年以降で最も包括的な法人・個人税制の抜本的改革案を策定中」とのことです。市場は「現行35%の法人税が20%程度に引き下げられるのでは」と期待しています。

このトランプ発言で米国金利は上昇、日米金利差拡大でドルは下げ止まり、NYダウは史上最高値を更新しています。ドル/円は、年初から5~6週間続いた短期的な下落トレンドの上値抵抗線を上抜け、再び上昇局面入りしつつあります(図表参照)。

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明治安田アセットマネジメント株式会社
かつて山間部の中学校などに金融教育の補助教材を届けていた頃の現場の先生方の言葉が、コラム執筆の原動力です。「金銭面で生きる力をつける教育は大切だが、私自身、株式など金融は教えられないのですよ」と。
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