130円超の円安を日銀は回避できるか?─米利上げを受けて

 

日米金利差の急拡大(≒円急落)回避のため、日銀の長期金利ゼロ%解除は早まるとみています。

トランプ財政政策は未反映のFRB利上げ回数増

FRB(米連邦準備制度理事会)は12月13-14日のFOMC(連邦公開市場委員会)で、政策金利を引き上げました。利上げは事前予想通りでしたが、2017年中の利上げ回数見通し(FOMCメンバー16名の中央値)が2回から3回に増えました。市場は「利上げペースが早まる」と受け止め、米国の市場金利(国債利回り)は急上昇しました。このため日米金利差が拡大し、ドルは対円で前日比2円超、急上昇しました(115円付近→117円台半ば)。

イエレンFRB議長が会見で、(1)完全雇用の達成には「財政政策は明らかに不要である」と述べたことに市場は注目しました。加えて筆者は、(2)利上げ回数が増えた今回の見通しは「非常に控えめなもの。FOMCメンバー全員でなく、一部メンバの意向が反映されただけ」との発言にも注目しています。完全雇用の達成後も進む米国景気の過熱──ひいては市場金利の大幅上昇を生みかねないトランプ新政権の財政政策ですが、イエレン議長は「政策の中身を知るのは時期尚早」として今回の政策判断に殆ど反映しなかったと示唆したからです。

つまり「今後、新政権の財政政策の中身が明らかになるにつれて、FRBは利上げペースをさらに早める必要に迫られる」とみられるのです。市場では、景気過熱を抑え米国経済の持続的拡大につながるトランプ氏の規制緩和の公約実現には「時間がかかる」との観測も浮上し、早くも2017年3月の利上げを織り込み始めており、日米金利差の拡大でドルの一段高が見込まれます。

長期金利は日銀のゼロ%誘導がなければ0.3%超か

米国では、大胆な財政政策などトランプ氏の選挙公約が意識され、長期金利(10年国債利回り)が急上昇しています。リーマンショック前からの過去10年間のチャートをみますと、上値抵抗線(2.1%付近)を大統領選の直後に上方に抜けました(図表1)。このため、欧州債券市場の指標であるドイツの長期金利も、ECB(欧州中央銀行)の(日本銀行と同様の)国債買入れ策にもかかわらず、上値抵抗線(0.2%付近)を上方に抜けています。

米欧の長期金利上昇を受け、日本の長期金利にも上昇圧力が強まっています。しかし、上値抵抗線(0.3%付近)までは、かなり距離が空いています(図表2)。日本銀行が、長期金利をも政策金利とする前代未聞の政策で「ゼロ%程度」にコントロールしているからです。コントロールがなければ、米欧同様、上値抵抗線を上方に抜け0.3%超の水準になっていることでしょう。日本銀行が、日米金利差の拡大、円安進行を加速している形です。 %e5%9b%b3%e8%a1%a8%e3%80%80130%e5%86%86%e8%b6%85%e3%81%ae%e5%86%86%e5%ae%89%e3%82%92%e6%97%a5%e9%8a%80%e3%81%af昨夏125円円安局面にかけて広がった国民的不安

2015年夏に125円に到達した「アベノミクス円安」局面では、1ドル=105円を突破した頃(2014年秋)から財界や与党・自民党内等から、円安を懸念する声が出始めました。円安メリットの少ない内需に頼る中小企業や、賃金上昇の実感に乏しい家計などで、円安に伴う原材料、エネルギー、食品など輸入物価の上昇に不安が広がったためです。最近、再び自民党内に「これ以上は円安にならないことを願う」(幹事長代行、12月5日の発言)との声が出始めています。チャート上はドル上昇が昨年夏の125円で止まれば、ダブル・トップをつけて反落も期待できますが、125円を超えると、歯止めがなくなり130円超も現実味を帯びてきます。

市場では当初、日本銀行が長期金利のゼロ%誘導を解除して、引き上げ始めるタイミングは「2017年半ば」との見方が目立ちました。原油など資源価格等が2016年半ばに持ち直し始めたため、1年経過すればインフレ数値は改善すると見込まれたためです。しかし、今回の米国利上げで判明した米国の金利上昇圧力の強さや、日本国内での円安懸念の再燃を踏まえると、日本銀行の長期金利ゼロ%解除はやや早まる可能性があると考えられます。

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かつて山間部の中学校などに金融教育の補助教材を届けていた頃の現場の先生方の言葉が、コラム執筆の原動力です。「金銭面で生きる力をつける教育は大切だが、私自身、株式など金融は教えられないのですよ」と。
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