外貨建て資産の魅力高まる─米国大統領選を受けて

 

米国の経済成長の加速期待や利上げ観測で、ゆるやかな円安の流れは長期化するとみています。

 ■トランプ候補の勝利を好感した米国市場

米国大統領選は、事前予想に反し、共和党のトランプ候補が勝利しました。開票段階の119日(日本時間)には、「トランプ候補、僅差でリード」との予想外の報道を受け、日経平均株価は前日比900円を超える急落となりました。高まる市場の不安心理を背景に、円相場は同日朝の105円台から一時101円付近へ急伸しました。ところがその日、米国株価は逆に大きく上昇しました。このため翌10日の日経平均株価は急反発し、急落前の水準を回復しました。円相場も105円台に戻り、ドル買いの流れとなっています。

 ■企業のアニマル・スピリット復活へ

トランプ候補は「強い米国の再生」を唱え、勝利しました。過激な言動が物議をかもしてきましたが、ビジネスで成功した企業家として、この過激な言動がかえってプラス材料となった可能性があります。既存の慣習を打ち破る熱い情熱──すなわちアニマル・スピリット(野心的意欲)──を持った人物と受け止められ、「低成長に陥りつつある米国経済を再び活性化してくれる」との期待から、米国市場が株高で反応したのではないかと考えられます。

 ■イエレンFRB議長の「高圧経済」

FRB(米連邦準備制度理事会)のイエレン議長は10月の講演で、現実味を帯びてきた「完全雇用に到達し、企業の設備投資も盛り上がってくる経済情勢」を、蒸気が噴き出す圧力釜を連想させる「高圧経済」という言葉で表現しました。これは「バブルの初期」とも言えますが、イエレン議長は、多少のバブルは覚悟の上で、当面は緩和的な金融政策を続けることが、低成長に陥りかけている米国経済への処方箋の一つと示唆しました。政策金利引き上げなど金融政策の正常化をゆるやかなペースで慎重に進める姿勢を改めて示したと言えましょう。

 ■日米金利差は拡大へ

イエレン議長の夫、アカロフ教授はシラー教授(いずれもノーベル経済学賞受賞者)との共著『アニマル・スピリット』(2009年)において、経済活動を左右する心理的な側面の重要性を示唆しました。10月に講演したフィッシャーFRB副議長も、低成長への処方箋として「企業の設備投資を促進するアニマル・スピリットが高まれば、潜在成長率、ひいては長期金利の水準は、中長期的に引き上げ可能」と示唆しました。トランプ氏は大規模なインフラ投資や大幅な法人税減税など企業活動を後押しする公約を掲げて勝利しました。共和党主流派と軋轢はある模様ですが、上下両院とも共和党が過半数を維持する結果となったことで、選挙公約は一定程度、実現すると期待されます。これが、米国市場が株高で反応した理由と考えられます。

 一方、トランプ氏の公約では「財政赤字が急拡大する」との懸念もあります。米国の財政収支は、リーマンショックへの対応で2009年には財政赤字が1.5兆ドル近くまで急拡大した後は、赤字幅の縮小が進んでいました(図表参照)。20169月におわる財政年度は、7年ぶりに財政赤字の拡大が見込まれています。これが、トランプ新政権の誕生で、数年後には再び1兆ドル台に急増するとの試算があるのです。

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 今後、この財政悪化による「悪い金利上昇」につながるのか、それとも、FRBが企図する潜在成長率の引き上げを通じた「良い金利上昇」につながるのか、市場は見極めようとしています。いずれにせよ、米国の市場金利が中長期的に上昇すると見込まれることは、日米金利差の拡大を通じて、ドル高、円安の流れにつながりやすいと考えられます。低成長の問題が克服され、米国の経済成長が加速すれば、FRBの慎重な利上げ姿勢も追い風となり、ゆるやかな円安の流れは長期化すると考えられます。外貨建て資産への投資魅力が高まる可能性がありそうです。

明治安田アセットマネジメント株式会社
かつて山間部の中学校などに金融教育の補助教材を届けていた頃の現場の先生方の言葉が、コラム執筆の原動力です。「金銭面で生きる力をつける教育は大切だが、私自身、株式など金融は教えられないのですよ」と。
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