バイデノミクスとレッセフェールの死~米中対立が惹起する40年ぶりのレジームの転換~

【ストラテジーブレティン(336号)】

(1) 急進展する台湾有事への備え

ウクライナ戦争は世界の民主主義諸国の価値観を根底から変え、各国の政策レジームを大転換させている。2021年までは、G7に結集する民主主義先進国の人々は法が支配する安全な秩序のもとにあるという神話を信じていた。しかし、プーチン氏のウクライナ侵略により、この世は未だに弱肉強食のジャングルの掟が貫徹しているのだ、ということを思い知らされた。

台湾進攻の蓋然性
専制国家群と民主主義国家群の和解の無い対立が熾烈化する中で、民主主義諸国の盟主である米国は、プーチン氏とは比較にならない手強いライバルである中国に対する備えを、最大限のスピードで構築し始めた。深く考えれば、プーチン氏のウクライナ侵略よりは、習近平氏の台湾進攻の方がはるかにハードルが低い。中国は、①人口、経済力、軍事力において圧倒的優位にあること、②ウクライナは独立国家だが台湾は中国の一部であることを、米国も国連も認めているこという道義的正当性が存在すること(もちろん民主主義諸国は認めていないが)、③国内の統治能力は議会制民主主義を取っている(形ばかりとは言え)ロシアより、一党独裁かつ個人への権力集中が貫徹した中国の方がはるかに大きいこと、の3つは否定しがたい事実である。加えて、中国経済の衰弱、人口減少から中国の国際的プレゼンスはここ5年がピークであり、台湾統一という国家悲願の実現には、米中の国力が最も接近している現在が最後のチャンスである、と習近平氏が考える蓋然性は高い。習氏を思い留まらせる唯一の要素は米国の介入への意志の強さしかない、少なくとも米国指導部はそのように考えているはずであり、それに対応して非常事態的政策を遂行し始めた、と見るべきだろう。

(2) バイデノミクスの成立、40年ぶりのレジーム転換

そうした非常事態的体制として、米国でのレッセフェールの否定、大きな政府へのシフトという、レーガノミクス登場以来40年ぶりのレジーム転換が実現しつつある。

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