シャンパン・バブルが再来か? ~アフターコロナ経済を支える高級志向~
ワクチン接種が完了し、マスクでの外出もなくなり、大人数での会食も解禁されたとしたら、あなたは友人との数年ぶりの乾杯のお酒に何をチョイスするであろう。私なら、オードリー・ヘップバーンのセリフを借りてこう応えるであろう。
“Champagne. By all means, Champagne…”
華やかな祝いの席にシャンパンほどマッチするものもない。事実、ワクチン接種が進む欧米では、すでにシャンパン・バブルの萌芽が見られている。新型コロナウイルスが全世界的に広まり、バー、レストランは閉鎖され、会食も規模の縮小または禁止を余儀なくされた昨年(2020年)はシャンパンにとって試練の年であった。しかし今年(2021年)3月の米国におけるシャンパンの売上げは前年比88.5パーセント増加しており、さらにドン・ペリニヨンやモエ・エ・シャンドンなどの高級ブランドを擁する仏LVMHモエヘネシー・ルイヴィトンも同時期で前年比22パーセントの増加を報告している(参考)。
またコロナ禍をつうじて、これまでシャンパンを飲まなかった層にもシャンパン需要が拡大しているという。我が国でも「巣ごもり需要」「宅飲み」へと消費形態が大きく変化したが、これは欧米でも同じで、外出や海外旅行のために貯めた資金が、「宅飲み」でのシャンパンへの需要に回ったためである。そして、ワクチン接種が完了した暁には、ここ数年間の「コロナ疲れ(“pandemic fatigue”)」からの解放感から、シャンパン・バブルが到来するものと期待できる。
(図表:米国へのシャンパン出荷量の推移)
シャンパンの生産者団体シャンパーニュ委員会米国事務局も報告書で述べているように、シャンパンの売上げは通常、景気後退の翌年に回復するという。去る2008年のリーマン・ショック後も、やはり米国でのシャンパン出荷量は一時的に減少したが、その後2012年からは7年連続で上昇に転じている(参考)。さらに、我が国でも財務省の貿易統計によると、リーマン・ショックの翌年からスパークリングワインの輸入量は増加傾向にある(参考)。こうした過去の傾向からも、シャンパン・バブルへの期待は高まるばかりである。
もっともバブルがくるのはシャンパンのみではない。これはコロナ前から進んでいる動きであるが、外資系ホテルの我が国への進出も見逃せない。都内では三井不動産(8801)が手掛ける八重洲の再開発プロジェクトでは「ブルガリホテル東京」が来る2022年に開業するほか、関西でも東急不動産(3289)が手掛ける「ヒルトン」や森トラスト(3478)などが手掛ける「マリオット・インターナショナル」などの出店が相次ぐ(参考)。さらに福岡には積水ハウス(1928)などにより「ザ・リッツカールトン」が誘致される予定だ。東京五輪が終われば「需要は一気に冷え込む」との悲観論がア・プリオリに囁かれる中、グローバル・マネーは確実に我が国に流入していることを認識しなければならない。
(図表:再開発が進む東京駅エリア)
(出典:Wikipedia)
もはや景気の起爆剤としての機能を失った東京五輪だが、アフターコロナ時代の我が国経済はシャンパン、外資系ホテルといった高級志向が手堅く牽引していくのかもしれない。しかし注意が必要なのは、あくまでもこうした流れはワクチン接種の動向次第という点だ。マーケットに与える影響として、金利の水準、為替の変動など様々な要因があるが、今やワクチン接種率も一つの要因となっていることを認識する必要があるためだ。ワクチン接種の動向もおさえつつ、アフターコロナ経済を牽引する高級志向路線につき引き続き注視してまいりたい。
グローバル・インテリジェンス・ユニット リサーチャー
原田 大靖 記す
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