アニメ、ロボット、人形浄瑠璃と初音ミク

2016/01/18 <>

・世の中、どの分野でも「作り手」と「受け手」が存在する。本を書く人、アニメを創る人、ロボットを開発する人、人形浄瑠璃を演じる人、シンガーソングライターなど、「作り手」はさまざまである。ビジネスはほとんどの場合、何らかの「作り手」からスタートし、モノを作ったり、サービスを提供したりする。「受け手」はB to Cの場合、消費者であり、提供される価値を楽しむ人である。

・「作り手」と「受け手」はバリューチェーンの中で、さまざまな連鎖(つながり)をもっており、コンテンツのキャッチボールをしている。“初音ミク”は不思議な存在である。知る人にとっては、もはや当たり前かもしれないが、筆者にとっては、AKB48の人気が爆発した時と同じようにサプライズであった。

・その開発者であるクリプトン・フューチャー・メディアの伊藤博之氏(代表取締役)の話を聴く機会があった。クリプトン・フューチャー・メディアは札幌に本社を置き、創業20年を迎えている。音楽制作に関する材料提供では世界トップクラスであり、音楽配信のアグリゲーターでもある。仮想楽器(Virtual Instruments)を提供している。ドラム、ピアノ、ギターからオーケストラまで、音のシミュレーションをビジネスにしている。

・その中で、2007年8月に人の歌声をキャラクラーと合わせて視聴できるようにした。①音声合成技術と②コンピュータミュージックを組み合わせて、歌唱合成技術に仕上げた。誰でも自分の楽曲をキャラクターに乗せて歌わせることのできるソフトウェアを開発した。

・このキャラクターが初音ミクである。キャラクターが単なるおまけではなく、キャラクター自体が強力なメディア(媒体)となった。つまり、音楽情報の伝達において、中心的な役割を果たすようになったのである。

・音楽を創る人は、若者を中心に山のようにいる。受け手であるユーザーが、自ら音楽のコンテンツを作る。このUGC(User Generated Contents)がネットに載ったとしても、通常ほとんど伝わらない。知られる機会が少ないのである。これに対して、バーチャルシンガーである16歳の少女、初音ミクが歌うと、俄然注目を集めるようになる。

・ここで、ユニークなプラットホームとしての仕組みが作られた。単なる遊びの場ではなく、著作権の課題をいかに乗り越えていくかという点で、対応策を工夫した。著作権から解放して、作品の2次利用ができるルール作りを行ったのである。創作の‘ルール’と‘マナー’を定め、「piapro(ピアプロ)」という投稿サイトを作った。ここに投稿したら、他の人が使ってもよいというルールを定め、利用した時には‘ありがとう’のメッセージを発信するというマナーを設定した。

・初音ミクの作品(彼女に歌ってもらう楽曲)はすでに100万件を超えている。なぜ創作の連鎖がこれほど広がったか。1つは共感の連鎖にあり、もう1つは‘ありがとう’の連鎖にある、と伊藤氏は強調する。すべての人がクリエイターになれる。自分の楽曲が、金銭的なものではないが、多くの人に知ってもらえる場として受け入れられている。

・一連の動きがブームとなった。そうすると人気を博するクリエイターが出てくる。そのクリエイターのビジネス化を、クリプトン・フューチャー・メディアがプロモートしていく。楽曲を軸に、まんが、イラスト、楽譜、アート、ファッション、コスプレなど、さまざまな場面でクリエイターを応援する。

・技術的には、CG(コンピュータグラフィックス)のレベルがかなり高い。AR(拡張現実感)を活用し、ミク型ロボットやゲームにも応用する。ミクのコンサートも活況である。ミクを3D CGで登場させ、ミク以外は生の人間が演奏するというバーチャル・リアルの融合型のコンサート(ミクエキスポ)が始まった。

・このミクエキスポをどのように開催するかについて、10万人のファンに投票してもらい、第1回のバーチャルコンサートを、2014年5月にインドネシアのジャカルタで催した。その後、米国のロサンゼルス、ニューヨーク、中国の上海と続き、2016年は日本、北米(カナダ、メキシコ)にも拡げていく。

・ミクとは何者か。①歌うキャラクターソフト、②クリエイターを生み出す存在、③都市でバーチャル生演奏を行うポップスターである。その本質について、伊藤氏は、1)人は創作することが好きで、いいものをリスペクトする、2)創作にはヒトやモノ・コトを尊ぶというヒューマニティがある、と指摘した。若い人ほど好奇心を持っており、ミクが大好きである。ミクを支持する層は60%が女性であり、その中心は13~17歳で全体の35%を占める。

・日本の文化に人形浄瑠璃がある。人形を人に見立てて、魂を入れる、ここに今のクリエイターの活動に共通するものがある、と伊藤氏は言及した。音楽創作をいかに表現するか。初音ミクというキャラクターを通して、クリエイターである「作り手」が、ファンである「受け手」に共感を求めていく。ミクエキスポが、グローバルに通用する共通文化となるかどうか、大いに注目したい。

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