誠実な企業~次のハードルは海外腐敗行為の防止

2015/05/07

・「誠実な企業」賞2015 -Integrity Award において、表彰を受けた3社の話を聴いた。
加えて、次なるテーマである海外腐敗行為の防止についても警鐘を受けた。注目すべき点について、いくつか論じたい。2003年から始まったこの表彰は、今回で13回目を迎えたが、CSRについては一定の定着をみたということで終了となる。

・企業は社会の公器である。よって、企業は人と同じように誠実であるべし。そして、怯まずにリスクテイクに挑戦し、悪しきを行うことなく、真実を語るという姿勢はいつの時代でも貫くべきであろう。審査に当たった長友委員長は、この点を強調した。

・最優秀賞の伊藤忠商事は、創業157年目、商人の道をひたすら歩んでいる。初代の伊藤忠兵衛(1842~1903)は15歳で麻の商売始め、利真於勤(利は勤むるに於いて真なり)をモットーとした。2代目の伊藤忠兵衛(1886~1973)は、「嘘をつくな、一度嘘をつくと何倍にもなって暴れ出す」ということを戒めとした。現在の岡村社長(8代目)は、「現場力と高めよ、プロの商売人であれ」と強調している。昨年からは、“ひとりの商人、無数の使命”をコーポレートメッセージにして、事業に取り組んでいる。

・伊藤忠が2013年10月より導入した「朝型勤務」は、働き方の創意工夫として高く評価されている。夜8時以降の残業を禁止して、早朝から働けるようにした。そこに残業代もつけ、朝食も用意するようにした。組合からも最も優れた労使協定といわれ、働き方が大きく変化した。生産性は上がり、トータルの残業代も7%ほど減少している。

・また、女性の活躍を推進する方策として、「げんこつ改革」を実行している。現場(げん)、個別(こ)、つながり(つ)、を重視する。商社の業務遂行において、女性の場合、育児、海外駐在、管理職登用が大きなハードルとなる。その時に、一般論として難しいというのではなく、げん・こ・つ を重視して、具体的に手を打っていく。実際、女性社員の活躍の場は、これによって広がっている。

・滋賀銀行は、「自分に厳しく、人には親切、社会に尽くす」を行是(社是)としている。創業82年で、①地元でも高いシェア(預金・貸出シェア45%)と、②早くからの県外進出を強みとしている。グリーンバンクやエコファースト、エコファイナンスを実践して、自然を大事にして、地域社会へ還元する姿勢を強めている。近江商人の三方よし(売り手よし、買い手よし、世間よし)に、“地域環境よし”を加えて、“四方よし”をCSRのコアとしている。

・東レは創業時のレーヨン工場を滋賀県に作った。来年、創業90周年を迎える。「新しい価値を創造して社会に貢献する」ことをモットーとする。事業活動そのものが持続的社会を作り、素材には社会を変える力があると自負している。事業を基幹事業(繊維、プラスチック・ケミカル)、戦略的拡大事業(情報通信材料・機器、炭素繊維複合材料)、重点育成・拡大事業(環境・エンジニアリング、ライフサイエンス)に分けて、各事業分野において世界で№1になるべく取り組んでいる。

・東レは企業理念、経営戦略と一体となったCSRに推進している。CSRのロードマップを作成し、分野ごとに担当役員を決め、目標、KPIを定めてPDCAをまわしている。グリーンイノベーションでは、ボーイングの777Xやトヨタのミライ(新型燃料電池車)に炭素繊維を用い、燃費の改善に大きく貢献しようとしている。ライフイノベーションでは、がん診断用の高感度DNAチップの開発や、紙おむつ・衛生材料用不織布のアジアでの生産拡大を図っている。全ての活動でイノベーションを追求し、企業の成長と社会の持続性を両立させようとしている。

・3社とも近江出身であるが、CSRを事業の根幹において実践している。この10年で日本企業のCSR活動はかなり充実してきた。しかし、新興国へのグローバル展開を目指すにつれて、新たな課題も浮かび上がっている。グローバルリスクとしての海外腐敗行為をいかに防ぐかである。この点について、麗澤大学の高教授が重要な問題提起を行った。

・海外において事業を推進しようとする時、何らかの贈収賄が意図的に行われる場合があり、自らが当事者でない時でも不正行為が波及してくることがある。人権、労働、環境などにおいて、金を支払えば不正がスムーズに通ってしまうことがある。それが、報奨金付きの内部告発によって摘発される。その時の制裁が、とんでもなく重いものとなってしまう可能性がある。

・これをどのように防ぐか。海外での事業のウエイトが高まっていくと、迂闊な対応では済まない。これまで通用していた袖の下が、違法行為として晒されてしなう可能性が高まっている。賄賂やカルテルは許されない。何らかの嫌疑がかけられた時に、不正の意図はなかったということを明確に示すような記録をきちんととっていく必要がある。

・第三者のエージェントを使ったとしても、エージェントのリスクを評価するようなグリップをきかせるべし、と高教授は指摘する。「郷に入っては郷に従え」とはいえ、「ならぬことはならぬ」と明確に歯止めをかけることが絶対的に必要である。それぞれの場面でトップの判断とリスク志向がどこまで浸透し、実践されているかが、ますます問われることになろう。

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