満足度基準をどこに

2026/03/25 <>

・日本の相対的競争力は落ちている。IMFによると2025年の1人当たりGDP(付加価値額)は、世界38位であった。日本は3.4万ドルで、韓国、台湾にやや負けている。要因は、成長率の低さ、生産性の低さ、高齢化の進行、政策の拙さ、円安の進行などにあろう。

・国民の幸福度はさらに厳しい。世界幸福度報告書(英オックスフォード大、2025年)によると、日本は55位(147カ国中)で、タイより低く、韓国をやや上回る。これは、主観的な評価項目(満足度、自由度、感情)も入れているので、それが反映されている。

・私の主観で評価してみると、日本(55位)は70点レベルで、メキシコ(10位)より著しく低いとは思えない。人生の自由度や寛容さ、否定的感情がネガティブに働いているのだろう。

・幸福度(ウェルビーイング)をいかに上げるか。気持ちの上で、人生は苦しみばかり、少しも思うようにならない、という人々は多い。一方で、外からみると楽しそうに暮らしている人も多い。幸せそうな人を見ると、羨ましがる気持ちはあるが、ふつう外には出さず、じっと我慢している。

・“人並みに”と考えると、他と比べることばかりに捉われる。人生、何かに囚われると上手くいかない。目標は大事であるが、無理ばかりでは続かない。自分なりに納得できる満足度基準をいくつか定めておくと、心の落ち着きも得られよう。

・企業経営においても、ウェルビーイングが重視されている。資本主義を前提として、どんな資本主義を目指すのか。

・株主の利益極大化を目指す株主資本主義か。株式会社は公器であるとする公益資本主義を目指すか。ステークホルダー間のバランスを図るステークホルダー資本主義を目指すのか。人を大事にする人的資本主義を目指すのか。社会的課題のソリューションにフォーカスするインパクト資本主義を目指すのか。

・シンボリックにいくつか並べてみたが、制度としての株式会社、ゲームのルールとしての株式会社、自らの自己実現を図る上での株式会社、という3つの軸の中で、調和がとれる満足度基準を定めたい。

・分かり易くいえば、1)株価と資本コストを意識した経営は、これが第一義的目標ではなく、自らの目指すべき目標の中で、一定水準を超えていれば十分である。ここだけの極大化を図る必要はない。

・2)ROEよりも付加価値利益率(投下資本付加価値率)を重視して、人的資本を明示的に組み込んでほしい。3)価値創造のインパクトを、バリューチェーンにおける付加価値配分として、価値創造ストーリーを語ってほしい、ということである。

・株式会社では、議決権において株式数がものを言う。しかし、株主総会では、少数株主でも発言の機会がある。また、議決権行使で取締役への信任が80%を下回ってくると、そこには一定の課題があると認識されることも多い。

・スキのある経営にアクティビストは寄ってくる。自らの利益中心主義が、公器としての株式会社と対立することも多々ある。公器としての株式会社経営を確立しておかないと、社会的信用と大多数の株主の賛同は得られない。その時でも企業のサステナビリティを満足度基準として示し、達成していくことが必須である。

・人的資本という点では、まずは総人件費を開示してほしい。人件費が分かれば、付加価値が計算できる。売上高付加価値率、投下資本付加価値率などを使って、その企業の価値創造を知ることができる。さらに、付加価値の配分から、人的資本への分配、設備資本への分配、外部資本への配分などを知ることができる。

・スズキトモ教授(早大)は、P/L(損益計算書)ではなく、付加価値分配計算書を提案し、企業への提言も行っている。付加価値=人件費+法定福利費+株主還元+税金+内部留保という中で、人件費をP/L上のコストとして先に差し引くのではなく、付加価値分配計算書の中で、その配分を明示すべしと主張している。

・人件費は費用ではなく、人的資本への投資と認識し、人的資産の償却額が通常の人件費として計上されるという考え方になろう。キャピタルアロケーションにも人的資本への投資を明示的に入れる必要が出てこよう。

・どんな付加価値を生み出すのか。サプライチェーンを仕入れ、販売という流れではなく、ステークホルダーにとってのバリューチェーンとしてとらえ、付加価値の分配に注目していく。

・外部から仕入れた商品・サービスに対して、自らはどんな付加価値を作り出したのか。その提供を受けた顧客や取引先は、それを活用してさらにどんな付加価値を生み出しているのか。そこまでを詳細に追っていくと、価値創造の意味付けが違ってくる。わが社の存在意義(パーパス)を問うならば、そこまで知りたい。

・そうすると、1)バリューチェーンの中でなくてはならない存在か、2)価格は価値提供に見合っているか、3)今のビジネスにサステナビリティはあるか、などがはっきりと分かってこよう。投資家もそこまで知りたい。

・満足度基準のあり方も、そこまで追い求めたい。例えばROE 12%を確保したならば、資本コストを上回っているので文句はあるまい、ということではない。逆に、ROEが12%になったら、次は20%を目指せ、というROEの極大化を求めることでもない。

・もっと大事なことを知りたい。どのような価値を生み出しているのか。それを付加価値として、バリューチェーンの連鎖として捉えたい。そうすると、自らが提供している社会的ソリューションが経済的価値として、どのように具現化しているかが分かるようになる。

・それを付加価値額、付加価値率を用いて、収益性、効率性、調和性を描いてほしい。こういう経営を実践する企業を探し求めたい。まずは社員がいきいきと働いている会社に注目したい。

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