PBRのもう1つの意味

2024/01/29 <>

・財務分析では、主要項目を分解して理解を深めていく。例えば、ROE = 売上高利益率×総資本回転率×財務レバレッジと分ける。最近では、PBR=ROE×PERもよく使われている。

・日本企業のROEが低い理由は、売上高利益率の低さにある。PBRが1.0倍を割っているのも、ROEが低いからである、という指摘もよく知られている。

・ただ、この手の分解は、注意してみていく必要がある。数式で分けてみるということと、その意味を理解することは異なる。人がものごとを判断する時、その要因をきちんと分けてみることは重要である。一方で、分解しても要因が特定できないこともある。

・PBR=ROE×PERという算式は、ROE=PBR/PERとも表記できる。ROEを改善するには、PERを低めに抑えた方がよいといえるだろうか。ほとんど無意味といえよう。

・財務数値の分解は、そもそも要因が互いに独立ではないことが多いので、理解しやすいからといって、短絡的に結び付けてしまわない方がよい。

・ROE 8.0%×PER 10倍=PBR 0.8倍という企業にとって、収益性を高めることと、成長性を高めることは、互いに独立ではなく、かなり結び付いていることが多い。

・PBR 0.8倍は、どのように解釈すればよいのか。バランスシートの自己資本(簿価)に対して株価(時価)がそれを下回っている。ということは、帳簿上の資産が実態として目減りしているともいえる。

・つまり、資産の一部が、企業価値を生まない不良資産や不稼働資産になっているかもしれない。では、その不良資産を除けば、PBRは1.0倍に戻すことができるのか。価値を生まない不良資産とは、実際何なのか。ここを知りたい。

・売れもしない商品の在庫が貯まり、それを作る設備が余っているのか。うまくいくと思って買収した企業ののれんが実は無駄になっているのか。安全のために株や現金をもっているが、それが役立っているのか。とすれば、それらを再構築すればよい。

・ROE 15%×PER 20倍=PBR 3.0倍という時の3倍は何を意味するのか。純資産の時価が簿価の3倍あるので、総資産に純資産の2倍を足したものが、時価の資産ということになる。つまり、見えない資産が純資産の2倍あると評価されている。

・この見えない資産とは何か。商品やサービスがもっと売れるはず、のれんがどんどん価値を生むはず、ということを意味しているともいえる。

・さらに言えば、新たな企業価値を生み出す仕組みのうち、バランスシートに載ってないものを、市場が評価しているともいえる。それは、人的資本、知的資本、組織資本などを反映したものである。

・PBR 0.8倍は、純資産の20%に相当する不稼働資産がある。PBR 3.0倍は純資産の2倍に相当する優良な見えない資産を有している。

・PBR 0.8倍は、収益性が低く、成長性も今1つである。PBR 3.0倍は、収益性が高く、成長性も高く評価されている、という解釈もできよう。

・何がポイントなのか。PBR=ROE×PERは1つの算式であるが、それをそのまま因果関係と結び付けないことである。企業の価値創造の仕組みがビジネスモデル(BM)である。このBMを3つの側面からみる。

・①BMは今いくらのROEを生み出しているのか。②このBMの成長性はどのくらいあるとみられているのか。そして、③BMの時価は簿価に対して、どのように評価されているのか。

・その上で、投資家が知りたいのは将来である。今のBMをBM1とすれば、将来の目指すBMをBM2として、それをどのように実現していくのか。その戦略を知りたい。それを支える経営力は十分か。成長をリードするイノベーションに取り組んでいるか。

・突然ドスンとくることがないように、リスクマネジメントはできているか。サステナビリティのベースとなるESGはしっかり運営されているか。こうしたBM2の評価がPBRに現れてくる。

・まだ十分評価されていないとすれば、BM2とそれに向けた戦略を大いに語ってほしい。PBRはROE×PERの結果ではなく、独立した1つの財務指標として、その意味付けを充実してほしい。

・ここが本物でないと、企業価値の向上もおぼつかないものとなろう。ここを見極めて、PBRの上がる企業に投資したい。

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