エーアイ<4388> 音声合成が関わる分野拡大を追い風に成長が続く見込み

2018/07/04

「AITalk®」をベースに音声合成分野に特化して展開してきた会社
音声合成が関わる分野拡大を追い風に成長が続く見込み

業種: 情報・通信業
アナリスト: 藤野敬太

◆ 音声合成分野に特化した事業展開
エーアイ(以下、同社)は、音声合成分野に特化して事業を展開する企業で
ある。自社で開発した音声合成エンジン「AITalk®」をベースとした製品、サ
ービスを提供している。

同社の事業は、音声合成事業の単一セグメントだが、サービスの特性に応
じて3 つのサービス区分に分類される(図表1)。18/3 期は、コンシューマー
向けが13.2%、法人向け(法人向け製品と法人向けサービスの合計)が
86.8%であり、法人向けを中心に製品・サービスが提供されている。

◆ 音声合成エンジン「AITalk® 」
音声技術は、音声を文字情報に転換する「音声認識」の技術と、文字情報
を音声に転換する「音声合成」の技術に大別されるが、同社は後者の「音声
合成」に特化して展開している。

「音声合成」にはいくつかの方式がある。収録した音声をそのまま再生する「録音編集方式」や、機械的に音声を生成する「規則合成方式」といった従来から存在する方式は、音質や生成の自由度に制約があった。一方、同社が技術的に依拠している「コーパスベース音声合成方式」は、収録した音声から母音と子音を分解し、再接続して音声波形を生成する方式であり、音質と生成の自由度の両面で優れているとされている。

同社の音声合成エンジンである「AITalk®」は、この「コーパスベース音声合成方式」をベースに独自開発を加えられたものである。なお、「コーパスベース音声合成方式」は90年代半ばに確立した技術であり、音声合成関連の製品・サービスの多くが依拠する技術である。

◆ 提供の仕方によって異なる3つのビジネスモデル
同社は現在、「AITalk®」を用いて、法人向け製品、法人向けサービス、コンシューマー向け製品の3つのビジネスモデルで事業を展開している。

法人向け製品は、さらに、音声合成エンジンの利用に対して許諾料を得るライセンス提供(初期費用、月額使用料、ロイヤリティの組み合わせ)、パッケージ販売、受託開発の3種類の販売形態で展開されている。18/3期の全体の売上高の65.5%を占めた。

法人向けサービスは、「AICloud®シリーズ」としてクラウド環境で提供するクラウドサービスのほか、法人向け製品でライセンス提供をしている顧客に対するサポートサービスが含まれる。パッケージ販売で提供されるか、クラウドサービスで提供されるかは、提供形式の違いであるため、音声合成の品質には大きな差はない。18/3期の全体の売上高の21.3%を占めた。

コンシューマー向け製品は、パッケージ製品として提供される。販売店に販売を委託しているため、原則として直販は行っていない。法人向けに近い製品のほか、「VOICEROID®シリーズ」として、人気声優の声をベースとした入力文字読み上げソフトもある。18/3期の全体の売上高の13.2%を占めた。

◆ 合成音声が活用されるシーン
「AITalk®」を用いて作成された音声は、多くの分野で用いられている。消防庁の「J-ALERT」や全国の自治体の防災行政無線のような防災分野をはじめ、日本道路交通情報センターの「道路交通情報」、NTTドコモ(9437東証一部)の「しゃべってキャラ®」や「my daiz」といったスマートフォン音声対話、ソフトバンクロボティクス(東京都港区)の「Pepper」やマツコロイド製作委員会の「マツコロイド」等のコミュニケーションロボット等に用いられている。ほかには、館内放送や駅構内放送、電話自動応答システム、ゲーム等にも活用実績がある。

◆ 「AITalk®」の優位性と自社内で一気通貫に展開できる体制が強み
「コーパスベース音声合成方式」の他の製品・サービスに対する、「AITalk®」の優位性として、以下の点が挙げられる。

(1) 品質向上のために他の製品・サービスは収録量を増やさなくてはならず、そのための膨大な音声辞書の作成のために費用と時間がかかるが、「AITalk®」は少ない収録量での品質向上が実現されている。なお、その技術はあえて特許申請せず、ブラックボックス化している。

(2) 少ない収録音声で音声辞書をつくることができるため、いろいろなタイプの話者を提供することができる。

(3) 少ない収録音声で音声辞書をつくることができるため、カスタムボイス(専用に作成された音声)を安価に作ることができる。

こうした技術優位性の確立の背景には、研究開発、製品開発、販売、サポートまでの全プロセスを自社内で一気通貫に行う体制が構築されていることがあり、同社の事業展開上の強みの源泉となっている。
>>続きはこちら(873 KB)

一般社団法人 証券リサーチセンター
資本市場のエンジンである新興市場の企業情報の拡充を目的に、アナリスト・カバーが少なく、適正に評価されていない上場企業に対して、中立的な視点での調査・分析を通じ、作成されたレポートです。