ジェイファーマ(520A)グローバル第3相臨床試験中の胆道がん2次療法薬の薬事承認を目指す
LAT1阻害剤をがん治療薬や自己免疫疾患治療薬としてグローバルに開発
グローバル第3相臨床試験中の胆道がん2次療法薬の薬事承認を目指す
業種:医薬品
アナリスト:鎌田良彦
◆ LAT1阻害剤をがん治療薬や自己免疫疾患治療薬として開発
ジェイファーマ(以下、同社)は、細胞膜等の生体膜を通して様々な物質を取り入れたり排出したりするタンパク質である溶質輸送体(Solute Carrier)トランスポーター(以下、SLCトランスポーター)の一種であるL型アミノ酸トランスポーター1(以下、LAT1)を治療標的とする低分子化合物のLAT1阻害剤の開発を行っている。
SLCトランスポーターはヒトの体に400種類以上あるとされ、アミノ酸、糖、ビタミン、薬等、多くの物質の出入りを調整している。
LAT1は、トランスポーター研究の第一人者で、同社創業者の遠藤仁杏林大学名誉教授が発見した12種類のトランスポーターのうちの一つであり、がん細胞や活性化した免疫細胞に多く発現する。
LAT1は、がん細胞の成長・増殖に不可欠な大型中性アミノ酸の取り込みを担っており、これを阻害するLAT1阻害剤は、がんの進行を抑制する治療薬として期待されている。
また、LAT1は免疫細胞の活性化や、炎症を引き起こす物質である炎症性サイトカインの制御を行っており、LAT1阻害剤は多発性硬化症のような神経に炎症が生じる自己免疫疾患の治療薬としても期待されている。
◆ 開発パイプライン
LAT1阻害剤の開発パイプラインは、胆道がん、大腸がんを対象とした静脈注射剤のナンブランラト、「再発を伴わない2次性進行型多発性硬化症」と悪性脳腫瘍の一つであるグリオーマを対象とした経口薬のJPH034、ナンブランラトと同様の効能を経口薬として開発するJPT-0008の3つであり、中でもナンブランラトとJPH034の開発に注力している(図表1)。
◆ ナンブランラト
ナンブランラトのがん治療薬としての作用機序は、がん細胞に発現するLAT1にナンブランラトが結合して、LAT1がアミノ酸と結合することを阻害し、がん細胞の成長・増殖を抑制する直接的な効果に加え、LAT1によるアミノ酸の過剰取り込みにより機能が低下していた免疫細胞の抗腫瘍機能回復による効果もあると考えられている。ナンブランラトは正常細胞に発現するLAT2には作用せず、LAT1を選択的に阻害する。
LAT1は様々な固形がんに発現するが、静脈注射で体内に取り込まれたナンブランラトは、肝臓に吸収されて胆管経由で胆汁中に高い濃度で蓄積する。この組織分布特性を活かし、胆道がん、大腸がんを対象とした開発が進められている。
1)胆道がん2次療法での単剤投与
現在、最も開発が進んでいるのは、胆道がんの2次療法での単剤投与である。現在、胆道がんの2次療法としては、分子標的薬注1が使われているが、これらの薬剤が有効な遺伝子変異を持つ患者は、2次治療対象患者の約30%に留まっており、ナンブランラトは残りの約70%の患者に対する治療選択肢となることが期待されている。
胆道がんの2次療法を対象とした臨床試験は、18年11月に100名以上の患者を対象としたプラセボ群との比較による国内での第2相臨床試験(以下、フェーズ2)を開始し、22年12月に終了した。この臨床試験により、安全性、腫瘍が拡大するまでの期間延長、及び患者の生存期間の改善効果が確認された。
19年4月に国内とアジア主要国でのナンブランラトの開発・販売権を大原薬品工業(滋賀県甲賀市)に導出した。欧米については、全ての権利を同社が保有している。
国内フェーズ2のデータを基に、米国食品医薬品局(以下、米国FDA)と協議の上、25年12月にグローバル第3相臨床試験(以下、フェーズ3)を開始した。グローバルフェーズ3は、用法・用量を確定するために米国で行われるパートAと、パートAで選択された用法・用量群と最善支持療法群との比較をグローバルに行うパートBからなる。パートAは2年、パートBは2.5年の期間を想定している。
2)胆道がん1次療法での免役チェックポイント阻害剤との併用
現在の胆道がんの1次療法は、化学療法に加え、免疫チェックポイント阻害剤注2の抗PD-1抗体薬、抗PD-L1抗体薬であり、現在の標準療法は、化学療法と抗PD-1抗体薬、抗PD-L1抗体薬の併用療法である。しかし、1次療法での治療を受けた患者のうち24カ月後に生存しているのは25%以下に留まっており、新たな治療法が望まれている。標準療法では25週以降は抗PD-L1抗体薬単剤又は抗PD-1薬と化学療法の併用による維持療法注3に切り替わるが、この維持療法においてナンブランラトを併用することで、生存期間の改善を目指している。
胆道がん1次療法については、免疫チェックポイント阻害剤とナンブランラトの併用による国内での医師主導試験により安全性と有効性を確認する計画である。
3)KRAS変異大腸がん
大腸から他の臓器へがんが広がった転移性大腸がんの約40%を占める遺伝子に変異があるKRAS変異大腸がんでは、既存薬の効果が限定的である一方、LAT1の高発現が患者の予後不良と強く関連する臨床データが示されている。複数の固形がんを対象としたナンブランラトの国内第1相臨床試験(以下、フェーズ1)では、大腸がんにおいて進行抑制効果があることが示された。
KRAS変異大腸がんでは米国の大学から共同研究開発の提案を受け、現在、同大学で医師主導臨床試験に向けた補助金申請を行っている。同社は、将来的には胆道がんよりも患者数が多い大腸がんへのナンブランラトの適用拡大を目指す考えである。
◆ JPH034
1)再発を伴わない2次性進行型多発性硬化症
JPH034は、再発を伴わない2次性進行型多発性硬化症を対象に開発を進めている。多発性硬化症は、若年成人の発症が多い自己免疫疾患の一種で、免疫反応の炎症により脳や脊髄の神経線維のミエリン鞘が損傷を受け、神経信号の伝達が妨げられ、視覚障害、運動麻痺等の多様な神経症状が現われる疾患である。患者の約85%は再発と寛解を繰り返す再発寛解型として発症し、10~15年かけて2次性進行型に移行する。2次性進行型では、脳内で慢性的な微弱炎症である「くすぶり炎症」が持続して症状が進行するが、既存薬の効果は乏しく、新たな治療薬が求められている。
脳内のくすぶり炎症を起こすのは、脳内の免役細胞のミクログリアの活性化であり、LAT1がアミノ酸輸送を介してこの活性化に関与している。
低分子化合物であるJPH034は脳内に移行する特性を持っており、LAT1を阻害することでミクログリアの活性化を抑制する働きをする。
JPH034は、元々はがんの治療薬候補として大阪大学と神戸天然物化学(6568東証グロース)が開発した化合物で、同社が物質特許の実施権の許諾を受けた。LAT1阻害剤の多発性硬化症を含む中枢神経系の炎症疾患に関する用途特許の実施権を米国のGeorgetown Universityから受けて、再発を伴わない2次性進行型多発性硬化症を対象に開発を進めている。
JPH034は、米国National Multiple Sclerosis SocietyのFast Forward Research Grantに選出され、60万ドルの補助金交付を受けている。また、日本医療研究開発機構(以下、AMED)の創薬ベンチャーエコシステムに採用され、IPO時まで利用可能な最大20億円規模の補助金を確保している。
JPH034は26年2月に米国FDAによる新薬治験申請の審査が完了し、今後、米国でのフェーズ1が開始される予定となっている。
2)グリオーマ
グリオーマを対象とするJPH034の開発は、米国の研究機関から提案を受け、同社は同研究機関に薬剤を提供し、臨床試験実施に向けた準備を進めている。
◆ JPT-0008
JPT-0008はナンブランラトと同等またはそれ以上のLAT1選択性と阻害活性を有し、経口投与を可能とすることで、Best-in-Class注4の次世代LAT1阻害剤として、非臨床試験に着手している。