イノバセル(504A)切迫性便失禁治療の細胞治療製品の日欧薬事承認取得を目指す
失禁領域を対象に患者の骨格筋由来の細胞治療製品をグローバルに開発
切迫性便失禁治療の細胞治療製品の日欧薬事承認取得を目指す
業種:医薬品
アナリスト:鎌田良彦
◆ 失禁治療の細胞治療製品をグローバルに開発し、商業化を目指す
イノバセル(以下、同社)グループは、同社とオーストリアの子会社Innovacell GmbHからなり、ヒト細胞を用いた細胞治療製品を軸に、創薬シーズを世界各国で探索・発掘し、それらのシーズを開発してグローバル市場で商業化する、「細胞治療・再生医療グローバルアグリゲーションモデル」を展開している。現在は、同モデルの第一弾として、筋肉修復・再生技術を基盤に、「失禁」領域を対象とする細胞治療製品開発に取り組んでおり、便失禁、尿失禁の分野で3つのパイプラインの開発を進めている。
同社グループの母体は、オーストリアのインスブルック医科大学からスピンアウトして00年11月に設立された細胞治療研究開発企業Innovacell Biotechnologie GmbH(現Innovacell GmbH)である。Innovacell GmbHは、ヒトの身体の運動や姿勢制御を担う筋肉である骨格筋細胞の培養の研究成果を基に設立され、失禁領域を対象とした細胞治療製品の基礎研究と欧州での臨床開発を進めてきた。同社の3つの開発パイプラインはいずれもInnovacell GmbHから誕生したものである。Innovacell GmbH はGMP 注1 認証を受けた細胞製造施設を持ち、臨床試験のための細胞治療製品の製造も行っている。
Innovacell GmbHは、欧州で2つの開発パイプラインで第Ⅱ相臨床試験までを行ったが、欧州での資金調達環境が厳しかったことから、日本での資金調達と臨床試験実施のため、21年1月に同社が設立され、Innovacell GmbHを同社の子会社とする組織再編が行われた。組織再編の過程で、細胞治療・再生医療薬事コンサルタントとしての経験が豊富な、現Co-CEOのノビック・コーリン氏とシーガー・ジェイソン氏が経営を担当する体制となった。
同社グループの事業体制は、同社はグループ統括機能のほか、研究開発パイプラインの構築・拡充・管理と、日本での臨床試験実施、及び全社的な資金調達を担当している。Innovacell GmbH は3つのパイプラインの研究開発を主導し、欧州での臨床試験実施、臨床試験に必要となる細胞治療製品の製造を担当している。
◆ 開発パイプライン
現在の同社グループの開発パイプラインは、失禁領域(便失禁、尿失禁)を対象とし、患者の細胞から培養・製造する自家細胞治療製品であるICEF15、ICEF13、ICEF16の3つであり、ICEF15の開発が最も先行している(図表1)。
◆ ICEF15
ICEF15は切迫性便失禁を対象としている。切迫性便失禁とは、便意を感じるもののトイレに行くまでの時間を我慢できずに便が漏れてしまう症状で、外肛門括約筋の機能低下が原因となって生じやすいとされている。
ICEF15で使用する細胞は、患者の骨格筋から取得して製造した自家骨格筋由来細胞である。患者の脇の下の骨格筋から、筋組織の幹細胞である衛星細胞を取得し、それを分化、増殖させた筋芽細胞を外肛門括約筋層に注射で12カ所に注入する。注入された筋芽細胞は患部に残っている筋線維と融合して外肛門括約筋の再生を促す。投与は単回投与を想定している。投与後4週間は細胞の生着を促進するため、骨盤底筋電気刺激装置を使用して、1日に2回、朝晩20分ずつの電気刺激を与える。
ICEF15は現在、欧州11カ国と日本で第Ⅲ相国際共同治験を実施中である。同治験では、290例の患者組入れを目標としており、26年2月4日時点で、209例の患者の組入れが完了している。細胞投入後の経過観察期間は1年間となっている。
今後、米国やカナダ、オーストラリア等での第Ⅲ相臨床試験を追加する準備を進めている。
過去の臨床試験では、欧州で07年から08年と、11年から12年にかけて行われた第Ⅰ/Ⅱ相臨床試験では、細胞移植手技の実行可能性と細胞移植の安全性が確認され、細胞移植1カ月後より便失禁頻度の低下が認められた。
欧州で13年から16年にかけて投与用量設定試験として行われた後期第Ⅱ相臨床試験では、高用量群でプラセボ対照群と比較し、統計学的に有意な便失禁頻度の低下が認められた。
◆ ICES13
ICES13は、腹圧性尿失禁を治療対象としている。腹圧性尿失禁は、尿失禁のなかで最も多く、咳、くしゃみや運動等によって腹腔の圧力が高まった時に自分の意思とは関係なく排尿してしまう症状である。加齢や出産等で尿道括約筋を含む骨盤底の筋肉が弱ったり、傷ついたりすることが原因とされており、女性の疾患者が多い。
ICES13による治療は、ICEF15と同様に患者の脇の下の骨格筋細胞から採取した衛星細胞を活性化、増殖した筋芽細胞を、尿道括約筋層に注入する。注入された筋芽細胞は、患部に残っている筋管と融合して括約筋の再生を促す。ICEF15と同様に細胞の投入後に電気刺激装置による電気刺激により、細胞の生着を促す。
ICES13は、欧州での後期第Ⅱ相臨床試験を終え、第Ⅲ相臨床試験を行ったが、第Ⅲ相臨床試験の過程で臨床試験を委託したCRO注2が倒産したため、有効性の確認に至っていない。今後、第Ⅲ相国際共同治験を実施する予定である。
◆ ICEF16
ICEF16が対象とする漏出性便疾患は、便意を伴わず、気づかないうちに便を漏らす症状であり、内肛門平滑筋の機能低下により生じやすいと考えられている。
ICEF16による治療は、内肛門平滑筋層に患者の骨格筋細胞由来の平滑筋細胞を注入する。十分な量の平滑筋細胞を採取するのは困難であるため、ICEF15と同様の手順で筋芽細胞を増殖したのちに、平滑筋細胞に分化させる。細胞注入後には電気刺激装置による電気刺激を実施し、投与した細胞の生着を促す。
ICEF16は、第Ⅰ/Ⅱ相臨床試験開始を目指して非臨床試験を実施中である。
◆ その他の研究開発シーズ
「細胞治療・再生医療グルーバルアグリゲーションモデル」に基づく研究開発シーズの仕入として、23年から佐賀大学医学部の杉山庸一郎教授との共同研究として、「筋芽細胞移植による嚥下機能改善効果の検証についての基礎研究」を行っている。この共同研究は、ICEF15の適応拡大の可能性を模索する活動の一環である。

