Synspective(290A)分解能と広域性を両立した衛星の開発、独自ソリューション開発に強み
自社開発・製造の小型SAR衛星により地球観測データ・画像を提供
分解能と広域性を両立した衛星の開発、独自ソリューション開発に強み
業種:情報・通信業
アナリスト:星匠
◆ 自社開発・製造の小型SAR衛星により地球観測データ・画像を提供
Synspective(以下、同社)は、小型注1SAR注2衛星を開発・製造し、軌道に打ち上げられた衛星コンステレーション注3の運用によって取得した地球観測データ・画像の販売、データ解析技術を活用したソリューション提供を行う衛星データ事業を展開している。
内閣府が所管するハイリスク・ハイインパクトの技術開発を目的とした革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)のもとで、小型SAR衛星を開発していたメンバーが、技術成果を社会実装するために同社を設立した。同社の小型SAR衛星は、従来の大型衛星に比べて重量比注4で約10分の1の小型化注5を達成し、折り畳み可能なSARアンテナ(展開型スロットアレーアンテナ注6)、高出力化と高度な熱制御などにより、衛星サイズの小型化と大型SAR衛星と遜色ない撮像能力を実現した。
コスト面は、大型と比較し、打ち上げと製造費用の合計で約20分の1の低コスト化が可能となった。これによって、従来の衛星では費用面で不可能であった多数機でのコンステレーション形成が可能となり、多地点の高頻度観測が可能となる。
同社の衛星は、ロケット打ち上げ事業者である米国のRocket labのロケットに搭載して打ち上げられ、これまで6回の打ち上げを実施した。実証機として、20年12月に1号機、22年3月に2号機、22年9月に3号機を打ち上げた。商用機としては、24年3月に4号機、8月に5号機、12月に6号機を打ち上げている。現在、3号機、4号機、5号機の3機を運用し、地球観測データ・画像の取得と販売、データ解析をもとにしたソリューション開発を手掛けている。6号機は打ち上げ後の検証中で、25/12期第1四半期から商用利用を開始する予定である。人工衛星は目的に応じて通信、測位、地球観測衛星の3つに大別され、地球観測衛星は光学衛星、SAR衛星に分類される。
同社が開発・製造・運用するSAR衛星の特徴は、天候や時間帯を問わず常時データ取得が可能な点にある。光学衛星は宇宙から写真を撮影するもので直感的に理解しやすく、Google Earthをはじめとする様々なWEBサービスで利用が進んでいるが、撮影の際には雲により視界が妨げられるほか、夜間には視認性が落ちるため、情報取得の頻度が限定される。一方、SAR衛星は雲を透過する波長の電波を照射し、地上からの反射波を観測するため、常時データ取得が可能である。データには、地形や構造物の形・物性を把握できる情報が含まれ、時系列分析や変化抽出に強みがあり、経済や環境に関する事象の連続的変化を捉えるのに適しているという特徴を有している。
◆ 売上の内訳
同社の売上高は、おもにデータ販売及びソリューション提供により構成されている。データ販売は23/12期の売上高の54.6%、ソリューション提供は27.6%、防衛省からの受託研究などのその他が17.8%を占めた。
(1)データ販売
データ販売は、小型SAR衛星によるコンステレーションから取得したデータを販売するサービスである。データは地表から反射して返ってきた信号を処理し、画像化したもので、地形・対象物の形状や変化を把握するために利用される。画像データを利用するためには、高い専門性と知識、分析能力が必要になるため、防衛関連省庁などの各国政府が主要顧客で、主な利用目的は、安全保障、防災・減災、インフラ・国土開発などである。
(2)ソリューション提供
ソリューション提供は、SAR衛星データをもとに自動解析を行い、顧客の業務に利用できる情報に加工して提供するサービスである。同社は、データ解析のための技術・チームを保有し、SAR衛星データの解釈・分析における専門的知識がない顧客においても衛星データを活用できるソリューションを提供している。顧客は各国政府に加え、損害保険、インフラ開発・土木工事、資源エネルギー開発などを手掛ける民間企業などである。
代表的なソリューションとしては、地盤変動モニタリングソリューションと洪水被害分析ソリューションがある。
地盤変動モニタリングソリューションは、広域の地盤変動を解析した結果を提供するソリューションである。独自の解析技術により、広域な地表面の変動量をミリメートル単位で検出し、時系列データとして蓄積する。地下工事などによって発生する陥没事故の領域予測機能も実装されている。1日停滞すると多大なコストが生じる大規模地下工事のリスク管理、多額の測量コストがかかる地下資源・エネルギー採掘の地表への影響調査、脆弱な地盤や海上に建設した発電プラント、港湾のメンテナンス管理などが利用用途である。
洪水被害分析ソリューションは、浸水被害(浸水域、浸水深、被害道路、被害建物)の分析結果を提供するソリューションである。台風などにより洪水被害が発生した際、光学衛星や飛行機・ドローンでは、状況把握を天候回復後にしていたが、SAR衛星を用いることで天候に左右されず広域の浸水状況を観測可能で、即時にデータ解析を行い、道路・建物などの施設への影響範囲を特定できる。大規模災害で大きなコストやリードタイムを要する損害保険調査、新興国において迅速な復興支援が必要な国際機関のアセスメント、迅速な人命救助活動が求められる政府や自治体の初動計画作成などが利用用途である。