Terra Drone(278A)海外14カ国でサービスを展開しており、海外売上高比率は約4割

2024/12/05

測量・点検・農業等のドローン関連サービスと運航管理システム(UTM)を提供
海外14カ国でサービスを展開しており、海外売上高比率は約4割

業種:精密機器
アナリスト:大間知淳

◆ ドローン関連サービスと運航管理システム(UTM)を提供
Terra Drone(テラ ドローン、以下、同社)は、国内外の法人顧客に対して、測量・点検・農業等のドローン関連サービス(ハードウェア及びソフトウェアの販売、各種ソリューションサービス)や、運航管理システム(UTM注1)を提供している。国内のほか、欧米や東南アジア等、海外14カ国でサービスを展開しており、24/1期の海外売上高比率は39.2%に達している。

同社の代表取締役社長である德重 徹氏は、住友海上火災保険を退職後、米国シリコンバレーでベンチャー企業のインキュベーション事業に従事していたが、EV事業を目的として10年にTerra Motors(東京都港区、現Terra Charge)を設立した。Terra Motorsは、新規事業として開始したドローン事業をスピンアウトし、16年2月に同社を設立した。24年2月には、Terra Motorsは、会社分割を行い、Terra Motorsの社名を、EV充電インフラ事業を展開するTerra Chargeに変更している。

德重社長はTerra Chargeの代表取締役を兼務しているが、同社は、利益相反防止体制を整備すると共に、業務執行を担う幹部陣等への権限移譲により、組織的な企業運営体制を構築している。同社とTerra Chargeの間で、德重社長以外の兼任者はおらず、資本関係や取引面、資金面の関係もない。

同社は、事業セグメントを「ドローンソリューション」と「運航管理」に区分している(図表1)。24/1期におけるセグメント別売上高構成比は、ドローンソリューション88.5%、運航管理11.5%であった。

運航管理セグメントは、23年7月に実施されたM&Aに伴って新設されたため、24/1期には6カ月間の数値しか反映されていない。25/1期中間期(以下、上期)のセグメント別売上高構成比は、ドローンソリューション82.2%、運航管理17.8%であった。

同社グループは、同社と連結子会社8社、持分法適用会社1社によって構成されている。各社の所在地、所属セグメント及び事業、出資比率は図表2の通りである。

1)ドローンソリューション
ドローンソリューションにおいては、測量・点検・農業の3事業別に異なるハードウェアとソフトウェア製品を販売するだけではなく、顧客のニーズに対応したソリューションサービスを提供している。

① 測量事業
測量事業は、16年の創業時から展開している主力分野であり、国内においては、サービスの提供とソフトウェアの販売による継続的な取引と顧客数の増加を背景に、安定収益源となっている。インドネシアやサウジアラビアにおいては、事業の立上げ期となっている。

測量事業では、仕入商品のドローン及びドローンに搭載して利用する独自開発した測量用レーザー製品「Terra Lidar(テラ・ライダー)」といったハードウェアとライセンス販売及びSaaS形態でのクラウド解析サービス「Terra Cloud」といったソフトウェアほか、測量サービスを提供している。

Terra Lidarは、低価格かつ高性能を実現したUAV注2レーザーであり、地上型レーザー測量や写真測量が適さない山林等の障害物がある現場でも測量することできる。従来は、計測するポイント毎に測量機器を人が移動させながら測量する方法が主流であったが、UAVレーザーをドローンに搭載して上空から地上のデータを取得することで、短時間かつ広範囲に測量することが可能となっている。

国内測量サービスは、建設コンサルタントや測量会社等に対して、Terra Lidarシリーズの販売だけではなく、ドローンを使用した高精度(計測精度±5~10cm)の3次元計測からの図面作成サービス、BIM/CIMによる3次元モデル作成注3サービス、画像処理サービスまでを一気通貫で提供しており、i-Construction注4にも対応している。

Terra Lidarシリーズの国内販売実績を有する地域は41都道府県(24年3月末時点)にのぼり、災害復旧や河川、山間部等の測量で利用されている。国内外における24/1期の測量サービス件数は延べ200件以上、24/1期末時点での累計件数は2,000件を超えている。

インドネシア子会社では、写真測量や森林測量サービスを提供するほか、ハードウェアの販売、ドローンパイロットの育成トレーニング等も行っている。また、サウジアラビア子会社では、下水道、空港、道路の設計等のインフラ整備のため、ドローンによる地形調査等を行っている。

② 点検事業
点検事業は、主として、自社開発した特許取得済みのTerra UTドローンと、ドローンで取得したデータをクラウド上で管理するソフトウェア・プラットフォーム「Terra Inspection」を用いて、石油化学プラントや電力設備の煙突、タンク、ボイラー等のインフラ設備の点検サービスを提供している。Terra UTドローンは、タンク等の表面を壊さずに板厚点検が可能な超音波探傷機能を搭載した初めてのドローンである。

点検事業の売上高の中心は、オランダ子会社が海外事業者向けに提供する法定定期点検を対象とするサービスであり、その他、同社が国内事業者向けに自主点検を対象とするサービスを提供している。

オランダ子会社は、石油メジャーであるシェルの欧州最大規模の製油所での点検や、世界最大手総合化学メーカーのBASFのプラントでの点検等、24年8月末時点で累計1,500件以上の点検を実施している。

③ 農業事業
農業事業は、世界のパーム油生産の約8割を占めるインドネシアとマレーシアで、高精度(スプレー半径10cm以内)での散布が可能な自社開発ドローンを用いて農薬散布サービスを行っている。

同社は、インドネシア及びマレーシアにおける農業用ドローン市場に本格参入するため、23年7月に、インドネシアとマレーシアで17年からサービスを提供しているAvirtech Solutions Pte. Ltd.の農薬散布事業を、インドネシア子会社を通じて譲受し、マレーシアでも事業を展開するため、マレーシア子会社を設立した。23年9月時点で150機以上のドローンを所有し、1日あたり最大4,000回の飛行を行っている。ドローンの利用により、人力での作業時間と比較して10倍のスピードで農薬散布が可能であるほか、約30%のコスト削減を実現している。

ドローンソリューションセグメントの業績推移は図表3の通りである。

ドイツのドローン産業分析会社Drone Industry Insights が公表している世界の大手ドローンサービス会社の調査によれば、Remote Sensing Drone Service Providers 部門で、同社は21年から3年連続2位にランクされている。

2)運航管理
運航管理においては、ベルギー子会社のUnifly NVと、Unifly NVの米国子会社であるUnifly Inc.、米国の民間UTM事業者の最大手で、持分法適用会社のAloft Technologies, Inc. が、世界各国の航空管制局(Air Navigation Service Provider、以下、ANSP)に対して、UTMを提供している。

現在、多くの国や地域において、ドローンが飛行する低空域では十分な空域管理がなされておらず、安全が十分確保されていない。目視外飛行(目視の範囲を超えての飛行)を実現した場合、ドローン同士や、ドローンと有人機との衝突を回避する仕組みを作ることで、空の安全を守りながら、ドローンの利活用を効率化するUTMは必要不可欠なシステムと考えられる。

現在、UTM検討国は世界で42カ国存在しているが、その中で、UTMを実装済みの国又は稼働実績がある国は16カ国となっている。Unifly NVは、世界におけるUTMのリーディングカンパニーであり、民間UTM事業者の導入実績がある16カ国中、ベルギー、ドイツ、スペイン、カナダ等8カ国のANSPにUTMを提供している。同社が提供する日本と、Aloft Technologies, Inc.が提供する米国を加えると、10カ国が同社グループのUTMを採用している。

運航管理事業の収益構造は、初期導入料のスポット収益に加え、年間ライセンスや飛行回数に応じた従量課金等のリカーリング収益が中心となっている。その他、顧客別の要求に応じて追加の機能開発に係る受託料を受領する場合もある。

運航管理セグメントの業績推移は図表4の通りである。

◆ 海外売上高比率は約4割に達している
同社は、「ドローン、空飛ぶクルマといった新しい産業領域で空の産業革命を起こし、世界をリード出来る存在」になることを目指している。創業9カ月後の16年11月にベルギーでUTMの開発技術を持つUnifly NVに初回出資を行い、持分法適用会社とする等、積極的に海外展開を進めている。

23/1期の地域別売上高構成比は、日本81.9%、欧州(オランダのみ)11.3%、インドネシア6.8%であった。24/1期は、日本60.8%、インドネシア18.6%、欧州(オランダ以外を含む)16.9%、北米3.7%となり、海外売上高比率は39.2%に達している(図表5)。

23年7月に、持分法適用会社であったUnifly NVを連結子会社化したことから、欧州の売上高が大幅に増えたほか、Unifly NVの米国子会社であるUnifly Inc.が展開する北米の売上高も新たに加わった。同じく23年7月に、同社のインドネシア子会社がAvirtech Solutions Pte. Ltd.のドローン農薬散布事業を譲受したことから、インドネシアの売上高が大幅に増加している。

◆ 売上高や営業利益、調整後EBITDAを重視している
同社グループは、成長性及びキャッシュ・フロー創出を把握するために、重要業績評価指標(KPI)として、売上高、営業利益及び調整後EBITDAを挙げている(図表6)。調整後EBITDAとは、営業損益に減価償却費、のれん償却額、株式上場費用等を加算したものである。

24/1期においては、既存会社の拡大とM&Aの影響により、売上高は前期比52.0%増の2,963百万円と急増した一方、営業損益は前期の90百万円の利益から333百万円減少し、243百万円の損失となった。一方、調整後EBITDAは前期の264百万円から280百万円減少したものの、16百万円と小幅な損失にとどまった。

なお、同社は、新規上場時の公募増資によって調達した資金のうち、900百万円をグローバル事業展開のためのM&A資金(Aloft Technologies, Inc.への追加出資600百万円、Unifly NVへの追加出資300百万円)、800百万円を子会社成長のための投融資、785 百万円を国内UTM システム、グループ管理システム、連結会計システム、在庫・生産管理システムの構築費用に充当する計画を公表している。

◆ 赤字の海外子会社が多く、連結ベースでは営業損失となっている
24/1期における単体の売上総利益率は54.7%であった。主要原価項目の売上高に対する比率をみると、売上高材料費率が24.6%、売上高労務費率が8.8%、売上高経費率8.7%(うち、売上高原価外注費率8.0%)、売上高当期商品仕入高率が3.2%と、変動費である材料費や外注費、仕入高の割合が高くなっている。

24/1期における単体の販売費及び一般管理費(以下、販管費)は927百万円であり、販管費率は51.3%と高水準であった。内訳としては、給料手当が264百万円、支払報酬料が101百万円、減価償却費が42百万円等であり、固定費が多いと推測される。売上総利益率が販管費率を上回った結果、単
体では営業利益を確保している。

一方、Unifly NVやインドネシア子会社等、多くの海外子会社は赤字であるため、連結では営業損失となっている。連結の売上総利益率が単体数値を2.8%ポイント下回る51.9%となっているのは、インドネシア子会社等の利益率が単体数値を下回っているためと推測される。

24/1期における連結の販管費は1,782百万円であり、販管費率は60.1%と高水準であった。内訳としては、給料手当が408百万円、法定福利費が224百万円、研究開発費が67百万円、有給休暇引当金繰入額が46百万円等であり、固定費が多いと推測される。継続的に人材投資を行っていることや、事業立ち上げ期にある子会社が多いことから、販管費率が売上総利益率を上回り、営業損失となっている。

同社の24/1期末における自己資本比率は63.5%であった。有利子負債(リース債務を含む)は11億円存在するものの、現金及び預金(50億円)を下回っており、財務体質は健全である。

なお、同社は、世界中で様々な業種の企業や行政機関等と取引をしているが、顧客は幅広く分散しており、売上高の10%以上を占める大手顧客は存在していない。売上高1位は欧州の宇宙開発・研究機関であるEuropean Space Agency(25/1期上期の売上高比率6.8%)、2位はスペインの情報技術・防衛システム企業のIndra Sistemas S.A. /Enaire(同2.6%)である。

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ホリスティック企業レポート   一般社団法人 証券リサーチセンター
資本市場のエンジンである新興市場の企業情報の拡充を目的に、アナリスト・カバーが少なく、適正に評価されていない上場企業に対して、中立的な視点での調査・分析を通じ、作成されたレポートです。

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