S&J(5599)自社開発製品を用いた監視・運用サービスを行う等、高い技術力を誇る

2023/12/20

SOCサービスやコンサルティングサービス等のサイバーセキュリティ事業を展開
自社開発製品を用いた監視・運用サービスを行う等、高い技術力を誇る

業種:情報・通信業
アナリスト:大間知淳

◆ SOCサービス等のサイバーセキュリティ事業を展開
S&J(以下、同社)は、サイバー攻撃の検出や分析、対応を行うSOC注1サービス及び各種コンサルティングサービス等のサイバーセキュリティ事業を展開している。同社サービスの最終的なユーザーは企業・団体であるが、直販または販売代理店経由でサービスが提供されている。

同社は、ラック(3857東証スタンダード)がエー・アンド・アイシステムと統合する以前の旧ラックで代表取締役社長を務めた三輪信雄氏によって、08年11月にS&Jコンサルティングとして設立された(14年12月に現社名に商号が変更された)。三輪社長は、95年から旧ラックでセキュリティ事業の立上げを主導しており、日本のサイバーセキュリティ業界における草分け的存在である。同社は、09年1月にセキュリティ・コンサルティングサービス(現コンサルティングサービス)の提供を開始して、徐々に顧客を開拓した後、15年3月には、自社開発したSOC Engine(R)を用いて、ネットワーク機器やセキュリティデバイスから出力されたアラートやログ等を監視するSOCサービスの提供を始めた。

◆ マクニカの関係会社となった経緯
同社は、17年7月に、同社の技術に関心を持ったマクニカネットワークス(21年10月にマクニカが吸収合併)と販売代理店契約を締結した。同年10月にはマクニカが組成したベンチャーキャピタルから出資を受けた。SOC Engineに不具合が発生し、その対応に時間と労力を費やしたため、同社は18/3期から20/3期に掛けて3期連続の経常損失に陥った。

財務基盤の強化のため、20年2月にマクニカからの出資を受け入れた結果、同社はマクニカの非連結子会社となり、マクニカの親会社であるマクニカ・富士エレホールディングス(現マクニカホールディングス、3132東証プライム)も同社の親会社となった。上場時の公募増資と売出しにより、マクニカホールディングス(全てマクニカを通じた間接保有)による出資比率は38.5%に低下したが、同社の経営に影響を及ぼし得る立場にある。

なお、同社の取締役である星野喬氏は、マクニカのネットワークカンパニーのバイスプレジデントである。また、同社の主力販売代理店であるマクニカ向けの売上高は、23/3期において全売上高の36.4%を占めている。

SOC Engineの不具合の解決に伴い、売上高が増加したため、同社は21/3期に経常黒字に転換した。

◆ SOCサービス等のストック型売上が中心を占めている
同社は、サイバーセキュリティ事業の単一セグメントであるが、サービスの内容により、コンサルティングサービスとSOCサービスに区分している。23/3期におけるサービス別売上高構成比は、SOCサービス72.5%、コンサルティングサービス27.5%であった(図表1)。また、後述するようにSOCサービス、コンサルティングサービスともにストック型売上とスポット型売上で構成されているが、23/3期売上高の80.5%がストック型、19.5%がスポット型であった。

1. コンサルティングサービス

(1) セキュリティアドバイザー
顧客のセキュリティ対策実施状況を把握した上で、サイバーセキュリティ事故発生時に備えた課題を抽出し、優先度の高い課題への対応支援や中期的な改善提案を行うアドバイザリーサービスである。

(2) インシデント対応
顧客にインシデント(サイバーセキュリティ事故)が発生した際、対応を支援するサービスである。顧客の事業継続や事業復旧を考慮し、被害にあった特定の機器だけでなく、ITネットワークを総合的に調査することで、全ての事業が停止してしまうことを防ぎ、原因調査、暫定対応を進めた上で、事業再開の判断を助言し、再発防止策までの一連の対応をトータルでサポートするサービスを提供している。

(3) メールセキュリティ
顧客に届いた不審なメールの添付ファイルやリンク先等を調査、分析し、結果を報告するサービスである。また、当サービスで得られた知見を活用し、疑似的な不審メールを用いて行う訓練サービスも提供している。

(4) 脆弱性診断
Webアプリケーション、スマートフォンアプリ、クラウド環境を含めたサーバやネットワーク等のプラットフォーム等を対象として、最新の脅威動向に知見のある専門家が、セキュリティ事故の発生につながる脆弱性を診断し、推奨する対策を記載した診断報告書を提供するサービスである。

(5) セキュリティプロダクト
海外の高度なセキュリティ製品を販売代理店として提供するサービスである。提供サービスとしては、米Flashpointの「Flashpointインテリジェンス・プラットフォーム」や、スイスJoe Securityの「Joe Sandbox」、英Darktraceの「DARKTRACE Enterprise Immune System」が挙げられる。

コンサルティングサービスにおいては、セキュリティアドバイザー等は年間契約を基本とするストック型売上となっているが、その他のサービスの多くは、スポット型売上となっている。結果、コンサルティングサービスの23/3期売上高構成比は、ストック型が39.7%、スポット型が60.3%であった。

2. SOCサービス

(1) SOCアウトソーシング
① SOC Engine運用
同社が開発したSIEM注2であるSOC Engineを用いて、顧客の情報システム全体(パソコン、重要サーバ、セキュリティ機器、クラウド環境等)を監視・運用するサービスである。当サービスは、顧客のSOC支援として、同社のセキュリティアナリストが、24時間365日体制でセキュリティアドバイスからのアラートや関連する情報システムのログを高度に脅威分析し、脅威があると判定されたアラートに対して影響度や対応策を顧客に報告することも包含している。

② 他社製品運用
同社は、SOC Engineの開発、監視・運用で培った知見や経験を活かし、他社のSIEM製品を用いた監視・運用サービスも提供している。

③ AD(アクティブディレクトリ)監視
ディレクトリサービス機能注3に特化した検知ロジックを搭載した独自開発の監視用エージェント「S&J AD Agent(R)」により、SIEM等では検知が困難な脅威を検出し、影響度や対応策を顧客に報告するサービスである。

(2) EDR注4監視サービス
① KeepEye(R)運用
独自開発のクラウド型EDRであるKeepEyeを用いて、顧客のパソコンにおける既知及び未知のウイルスを検知して防御する監視サービスである。当サービスでも同社のセキュリティアナリストが、24時間365日体制で監視しており、不審な挙動や操作が発生した際には原因や影響の分析を報告している。

② 他社EDR製品運用
同社は、他社のEDR製品を利用した監視・運用サービスも提供している。他社EDR製品からのアラート通知に対して、同社のセキュリティアナリストが、24時間365日体制で監視し、必要に応じて対処すると共に、顧客のセキュリティ担当者に報告している。対応製品としては、米CrowdStrikeの「CrowdStrike」、米Microsoftの「Microsoft Defender for Endpoint」等が挙げられる。

セキュリティ製品の多くは海外製品であるため高価であるが、同社は自社製品を用いた監視・運用サービスをリーズナブルな価格帯で幅広い顧客に提供している。

SOCサービスにおいては、全てのサービスが年間契約を基本とするストック型売上となっているが、初期構築売上だけはスポット型売上となっている。結果、SOCサービスの23/3期売上高構成比は、ストック型が96.0%、スポット型が4.0%であった。

◆ ARRと営業利益率を重視している
同社は、継続的なサービスの提供によるストック型売上の積上げであるARR注5を成長性の重要な経営指標としている。セキュリティアドバイザーやSOCサービスの新規案件の獲得が好調であったことや、既存顧客においても高い継続率を維持できたことから、23/3期末時点のARRは1,231,091千円と、前期末比41.4%増加した。一方、収益性の経営指標としては、営業利益率を重視している。23/3期の営業利益率は、増収効果による売上総利益率の改善により、25.9%と、前期比2.5%ポイント上昇した。

◆ 高い売上総利益率や高水準の受注残高に特徴がある
同社は、他社商品の仕入販売や自社製品の販売を行っておらず、サービス提供に特化しているため、売上総利益率が高い(23/3期は49.0%)。売上高に対する主要原価の比率は、正社員技術者に支払う労務費が22.4%、派遣社員を派遣する人材会社に支払う派遣料が13.0%、外注先の協力会社に支払う外注費が7.5%であった。

23/3期の販売費及び一般管理費(以下、販管費)は295百万円であり、販管費率は23.1%に抑えられている。内訳としては、給料及び手当が73百万円、役員報酬が71百万円、販売手数料が27百万円、減価償却費が5百万円であり、固定費が中心と推測される。

同社の23/3期末における自己資本比率は48.8%であり、高水準とは言えないが、有利子負債はない。負債の中心は契約負債(主に監視サービスを提供する顧客からの年払いの前受金)であり、総資産の36.6%にあたる565百万円に達している。21/3期以降の利益蓄積に伴う利益剰余金(517百万円)と契約負債等が原資となり、現金及び預金は総資産の87.6%にあたる1,353百万円に積み上がっている。こうしたことから、財務体質は強固と言える。

なお、23/3期末の受注残高は、売上高の75.5%に相当する967,978千円に達しているが、これは、サービスの中心が年間契約であることや、1年を超える長期契約の顧客も存在していることによる。23/3期末の受注残高に占める、1年超の契約の比率は20.2%であった(図表2)。

◆ マクニカ等の特定の販売代理店への依存度が高い
同社は、直販と販売代理店経由で、大企業と中堅企業を対象にサービスを提供している。販売代理店としては、マクニカやソフトクリエイト(3371東証プライム)が挙げられる。エンドユーザーとしては、SMBC日興証券のグループ会社である日興システムソリューションズ、日本製鉄(5401東証プライム)、一般社団法人東北電気保安協会、セガサミーホールディングス(6460東証プライム)等が挙げられる。

中でも、売上高に占めるマクニカ及び日興システムソリューションズ、ソフトクリエイト向けの比率は各々、23/3期が36.4%、13.3%、13.3%、24/3期第2四半期累計期間(以下、上期)が33.9%、12.8%、14.1%であり、当該3社に対する依存度が高い状態にある(図表3)。特に、マクニカやソフトクリエイト等、特定の販売代理店に対する依存度の高さには注意が必要である。

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一般社団法人 証券リサーチセンター
ホリスティック企業レポート   一般社団法人 証券リサーチセンター
資本市場のエンジンである新興市場の企業情報の拡充を目的に、アナリスト・カバーが少なく、適正に評価されていない上場企業に対して、中立的な視点での調査・分析を通じ、作成されたレポートです。

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