ジャパンM&Aソリューション(9236)相対的に競争が緩やかな中小規模の案件に対応できる仕組みが競争力の源泉

2023/10/30

中小企業を主な対象としたM&Aアドバイザリーファーム
相対的に競争が緩やかな中小規模の案件に対応できる仕組みが競争力の源泉

業種:サービス業
アナリスト:藤野敬太

◆ 国内中小企業を対象としたM&Aアドバイザリーサービスを提供
ジャパンM&Aソリューション(以下、同社)は、国内中小企業を主な対象としたM&Aアドバイザリーサービスを提供している。フィンテックグローバル(8789東証スタンダード)の子会社であったフィンテックM&Aソリューションの役員であった三橋透氏が19年11月に設立して以来、日本の事業承継問題の解決を目指して、アドバイザリー契約数及び成約組数を増やしてきた。

同社は、M&A関連サービス事業者大手を中心に、最低成約手数料が2,000万円を超える案件の獲得を目指す傾向が強まっていると分析している。そうした大型の案件を巡る競争とは一線を画し、最低成約手数料が500万円レベルの案件にも対応できる仕組みを構築し、差別化を図っている。

◆ 仲介形式によるサポートが中心
同社のM&Aアドバイザリーサービスには、売り手希望者と買い手希望者の両者に対して仲介及び助言を行う仲介形式と、売り手希望者と買い手希望者のどちらか一方と個別に契約を結び、一方に対してのみサポートするFA形式の2種類がある。売上高の大部分は仲介形式によるものであり、仲介形式の案件は、多くの場合、以下の流れで進められている。

(1) 売り手の発掘(案件獲得)
(2) 売り手希望者とアドバイザリー契約を結んだ上での買い手希望者の探索
(3) 買い手希望者への案件情報の提供と仲介業務契約締結
(4) トップ面談を経て基本合意契約
(5) 買い手希望者による売り手希望者へのデューデリジェンス
(6) 譲渡契約及び取引の実行

◆ 案件獲得に時間をかけないことが特徴
大手M&A関連サービス事業者を中心に大規模案件の獲得を目指す傾向が強まっているため、多くの大手事業者は、売り手の発掘に時間と労力をかけている。一方、大手事業者が扱わないような中小規模の案件に積極的に対応していくことを特徴とする同社は、相対的に案件発掘における競争が緩やかな中小規模の案件を獲得しやすい状態にある。

案件は提携先から紹介されるものが多い。設立当初は提携先のほとんどが士業や事業会社であったが、最近は金融機関が増加している(図表1)。なお、23/10期第3四半期末において、金融機関の提携先は61件と全体の約13%だが、第3四半期累計期間における新規アドバイザリー契約数の約55%、並びに成約組数の約61%が、金融機関からの紹介によるものであり、同社の売上成長の大きな要因となっている(図表2、図表3)。

提携先からの紹介が主となるため、同社のM&Aアドバイザー(以下、アドバイザー)は、同業他社が実施しているアドバイザーによる電話営業等を行う必要がない。このため、アドバイザーが本来のM&Aアドバイザリー業務に集中できるようになっており、同社のアドバイザーが早期に戦力化する一因となっている。

◆ 収益構造上の特徴
同社の収益は、(1)アドバイザリー契約に基づいた売り手希望者からの月額報酬、(2)譲渡が成立して業務が完了した後に受領する成約報酬で構成される。(1)の月額報酬は固定金額であり、収益の大半は(2)の成功報酬からとなる。

業界では、アドバイザリー契約締結時に売り手希望者から着手金を得ることが一般的であり、同社のように月額報酬を得ることは非常に珍しい。月額報酬であることのメリットとして、次の点が挙げられる。

(1) 着手金での支払いだと一時的な負担が重くなるが、月額報酬にすることで、その負担が軽減される
(2) 同社としても、月額報酬とすることにより、収益が平準化して収益管理が安定する
(3) 月額報酬体系だと課金が続いていくため、売り手希望者にとっては、案件を早くクロージングしようとするインセンティブが高まる。
(4) 案件のクロージングまでの時間が短くなれば、アドバイザーは次の案件を手掛けることができるようになるため、全体して回転が良くなる

成約報酬は、業務が完了した後に買い手側と売り手側双方から受領する。成約報酬は取引金額が大きくなるにつれて料率が低減するレーマン方式に基づいて算出された金額となる。最低成約報酬は500万円と、業界内でも低い水準となっており、小規模な案件まで対応できるひとつの要因となっている。

◆ M&Aアドバイザーが育成される仕組み
アドバイザーが案件獲得のための営業を行わないことや、売り手希望者に対する月額報酬を課すことで案件の回転期間が短くなることにより、アドバイザーはより多くの経験を積む機会を得られる。これら以外にもアドバイザーが早く育成される仕組みがある。

大手の同業他社の場合、案件のプロセスごとに担当部署を設置する分業体制を採っているところが多い。一方、同社の場合、案件ごとに2人1組のチームを組成し、M&Aアドバイザリー業務のすべてのプロセスを担当する体制を採っている。また、2人1組のチームは経験者と未経験者を組み合わせることで育成スピードを加速させている。同社によれば、未経験者でも半年から1年程度で成約実績を積むことができるとしている。

こうした未経験者の早期戦⼒化が可能な体制が整っていることにより、未経験者の採用も可能となり、アドバイザーの増員につながっている。

アドバイザーの人数は21/10期末17人、22/10期20人、23/10期第3四半期末27人と増加が続いている(図表4)。

◆ 成約組数と成約平均単価
案件を速く回す仕組みと、未経験者でも早くアドバイザーとして戦力化する仕組みにより、同社は成約組数を積み上げてきた。成約組数は、21/10期31組、22/10期59組、23/10期第3四半期累計期間は49組である。

一方、同社は中小規模の案件でも積極的に獲得することを特徴としているため、1組当たり成約平均単価の変動は大きく、21/10期946.7万円、22/10期633.0万円、23/10期第3四半期累計期間942.9万円となった(図表5)。

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一般社団法人 証券リサーチセンター
資本市場のエンジンである新興市場の企業情報の拡充を目的に、アナリスト・カバーが少なく、適正に評価されていない上場企業に対して、中立的な視点での調査・分析を通じ、作成されたレポートです。