プロディライト(5580) ストック型のビジネスモデルを確立している
インターネット回線を利用したIP電話システムをワンストップで提供
ストック型のビジネスモデルを確立している
業種:情報・通信業
アナリスト:大間知淳
◆ インターネットを利用したIP電話システムをワンストップで提供
プロディライト(以下、同社)は、法人顧客に対して、インターネット回線を利用したIP電話システムをワンストップで提供する情報通信サービス会社である。テレワークの導入やオフィスのフリーアドレス化等の働き方改革、企業のBCP(事業継続計画)対策が求められる中、固定電話を切り口に、固定電話・モバイル端末という垣根を越え、電話の在り方自体を変革する電話のデジタルトランスフォーメーション(DX)を顧客に提供している。
同社は、08年にコールセンター向け人材紹介・派遣会社として、大阪府に設立された。しかし、リーマンショックの影響を受けて派遣事業の展開が計画通りには進まず、09年10月には、NTT西日本等の代理店となり、アウトバウンドを主体とするコールセンター運営に事業を転換した。コールセンターを運営する中で、既存のシステムの使い勝手の悪さに困っていた同社は、技術者を採用し、10年10月にコールセンター向けクラウドコールシステム注1の開発に成功した。11年4月に、クラウドコールシステムの外販を開始すると、利便性の高さから販売が順調に増加したため、事業の軸を再び切替え、14年5月には東京支店を設置した。
15年9月に、同社はクラウドPBX注2「INNOVERA(イノベラ) PBX」を開発し、販売を開始した。同年10月には、アルテリア・ネットワークス(4423東証プライム)と提携し、クラウド直接収容型回線注3「IP-Line」の販売を始めた。発売当初はハードウェアでの利用が当たり前であったPBX機能のクラウド化への懸念や、IP電話への切替に伴う電話番号の変更問題があったが、IP-Lineは電話番号の変更が不要であったため、セット販売によって、販売は徐々に拡大した模様である。
18年3月に、経営破綻した同業他社のシステムサービス事業・端末販売事業を譲受したことにより、同社は、高品質の通信端末を世界中に供給していたYealink社(中国)とディストリビューター契約を締結し、Yealink製のSIP端末注4の販売を開始した。それまで取扱っていた米国メーカー製SIP端末は品質に課題があり、販売が低迷していたが、Yealink製のSIP端末とクラウドPBXを併売することで、相乗効果から販売が軌道に乗った模様である。
同社の事業領域は、音声ソリューション事業の単一セグメントであるが、主にクラウドPBXを販売する「システムサービス」、公衆回線網から各端末までをIP回線を使って音声通信を提供する「回線サービス」、IP電話機等の端末機器を販売する「端末販売」等を手掛けている。また、上記以外の業務受託収入等を「その他」に分類している(図表1)。
22/8期におけるサービス別売上高構成比は、回線サービス53.2%、システムサービス32.2%、端末販売13.1%、その他1.5%であるが、システムサービスの利益率が高いことから、売上総利益構成比では、回線サービス46.6%、システムサービス41.7%、端末販売8.6%、その他3.1%となっている。
(1)システムサービス
システムサービスでは、1,300社以上の企業に導入されたクラウドPBX「INNOVERA PBX」や、アウトバウンド専用のクラウドコールシステム「INNOVERA Outbound」等を顧客に提供している。クラウドPBXは、旧来の電話システムの弱点であった場所の制約がないため、テレワークの導入やオフィスのフリーアドレス化を進める企業に評価され、近年、普及が広がっている。
また、INNOVERAには、過去6カ月の全通話を自動録音する「全通話録音」機能や、自動応答の内容や流す時間を自由に設定できる「ガイダンス設定」機能、「通話履歴検索」、「着信拒否」等の多種多様な標準機能が搭載されている。さらに、災害等で社員の出社が困難になった場合でも、インターネット環境下にある別の場所からPCやスマートフォンのWebブラウザを通して、被災した拠点の電話応対が行えるように発着信設定を変更出来る等、BCP対策としてもINNOVERAは利用可能である。
クラウドPBXは、クラウド上にシステムが構築されているため、従来のPBXのように機械的な故障という概念はなく、現地でのメンテナンスも不要となっている。INNOVERAは同社が随時メンテナンスや更新を実施しており、ユーザーは常に最新状態でサービス利用が可能となっている。また、オプション等の機能追加の際も物理的な作業や工事が不要となっている。
20年12月に、同社は、「INNOVERA2.0」にプラットフォームを一新し、各種の新機能を搭載した。その後も、通話録音の内容を文字化して送る「INNOVERA Text」や、音声通話からユーザーの感情を分析できる「INNOVERA Emotion」等のオプションサービスを追加している。
(2)回線サービス
回線サービスでは、アルテリア・ネットワークスと提携した「IP-Line」等、クラウド上のINNOVERAに直接収容(接続)可能なIP電話回線サービスを中心に顧客にサービスを提供している。電話回線の設置が不要であり、災害時でもインターネットが繋がっていれば電話の利用が可能であるため、BCP対策としても有効である。また、IP-Lineは、「90秒課金」の料金設定により通話料削減が見込めるほか、0ABJ型IP電話注5であるため、IP電話回線でありながら、東京23区や大阪市等の全国主要都市の市外局番が利用でき、使用中の電話番号を変更せずに固定電話回線からIP電話回線へ移行できる等の特徴を持っている。
同社は、IP-Lineのほか、NTT東日本、NTT西日本とのコラボレーション事業である同社ブランドによる光回線「INNOVERA 光」等も提供している。
(3)端末販売
同社は、中国Yealink社との間で、日本におけるSIP電話機の総代理店契約を締結しており、販売やサポート、日本語ファームウェア(組込みソフトウェア)の開発と運用を担っている。そのため、端末販売の売上高にはエンドユーザーへの販売だけではなく、卸販売も含まれている。また、SIP端末はINNOVERA以外の他社製クラウドPBXでも利用できる汎用性を持つため、同社はSIP端末をINNOVERAとセット販売するだけではなく、端末単独でも販売している。
同社が取扱うYealink製の通信端末としては、据置型デスクトップIP電話端末(SIP)のほか、ハンディフォンタイプのIP電話端末(DECT)やMicrosoft Teams対応のデスクトップIP電話端末(MS)等が挙げられる。
また、同社は4K表示の1,200万画素カメラや高性能スピーカーを搭載したWeb会議用大型ディスプレイ「MAXHUB」も販売している。
◆ ストック型のビジネスモデルを確立している
同社の事業の中心を占めるシステムサービスと回線サービスは、新規契約数を増やし、解約率を低水準で抑えることが重要なストック型のビジネスモデルとなっている。そのため、KPIとして、「INNOVERA PBX」の総アカウント数(利用端末数)と月平均解約率、「IP-Line」の総チャネル数(同じ電話番号での同時利用可能者数)と月平均解約率、リカーリング売上高比率を重視している。
「INNOVERA PBX」総アカウント数は、期末時点の「INNOVERA1.0」と「INNOVERA 2.0」の契約アカウント数の合計であり、「INNOVERA Outbound」のアカウント数は含まれていない。月平均解約率は、当月解約数÷前月末総アカウント数(総チャネル数)で毎月の解約率を算出し、12カ月(第2四半期は6カ月)の平均をとったものである。リカーリング売上高比率は、(システムサービス売上高+回線サービス売上高-初期導入費用)÷総売上高で算出している。
21/8期においては、新型コロナウイルス感染症のワクチン接種受付や持続化給付金問合せ対応等で、短期間での閉鎖を前提とするコールセンターが全国各地で開設された。結果として、「INNOVERA PBX」の総アカウント数と「IP-Line」の総チャネル数が大幅に増加したほか、短期で閉鎖されたコールセンターの影響により、解約率も通常より上昇した模様である(図表2)。
22/8期においては、新型コロナウイルス感染症関連需要が鈍化し、各サービスにおける契約数の伸びは鈍化したが、解約率は低下した。
リカーリング売上高比率については、21/8期の74.6%から23/8期第2四半期累計期間(以下、上期)には80.8%に上昇しており、ストック型のビジネスモデルが確立されている。なお、リカーリング売上高比率から推定される、システムサービスと回線サービスにおける初期導入費用(売上高)は、105百万円であり、両サービスの売上高合計の7.0%(22/8期)を占めている。
◆ 各サービスの売上総利益率や限界利益率は分散が大きい
同社の売上総利益率は、回線サービスや端末販売等、外部からの仕入が発生するサービスも手掛けているものの、自社開発によるシステムサービスの貢献等により、48.2%(22/8期)と高水準を確保している。
サービス別では、22/8期におけるシステムサービスの売上原価は215百万円であり、その売上総利益率は62.4%と高い。売上原価のうち、開発部門の人件費である労務費が101百万円(システムサービス売上高比17.8%)、経費が166百万円(同29.0%)、売上原価の控除項目である他勘定振替高(同-9.2%)であった。経費の主な内訳は、通信費65百万円(同11.5%)、販売代理店に対する手数料であるシステム関連インセンティブ費62百万円(同10.9%)等である。証券リサーチセンターでは、同サービスの限界利益率を70~80%と推測している。
22/8期において、回線サービスの売上原価(全て変動費となる回線仕入高)は545百万円であり、その売上総利益率は42.3%であった。一方、端末販売の売上原価は159百万円であり、その売上総利益率は31.6%と、相対的に低い水準にある。端末販売の売上原価は、そのほぼ全てが変動費となる商品仕入高である。また、業務受託収入等のその他については、手数料収入であるため、売上総利益率は100.0%である。
以上のことから、同社の業績を予想する上では、各サービスの売上総利益率や限界利益率の数値はバラつきが大きいことに注意する必要がある。
22/8期の販売費及び一般管理費(以下、販管費)は746百万円、販管費率は42.0%と比較的高い水準であった。内訳としては、給与手当が307百万円、役員報酬が87百万円、賞与引当金繰入額が15百万円、減価償却費が14百万円等であり、大半が固定費と推測される。売上総利益率が高いため、営業利益率は6.2%であった。
同社の22/8期末の自己資本比率は31.1%と比較的低い。有利子負債(リース負債を含む)は、総資産の39.5%にあたる341百万円に達しているが、現金及び預金残高(384百万円)を下回る水準である。また、営業活動によるキャッシュ・フローは、21/8期が100百万円、22/8期が89百万円であるが、この範囲内に投資活動によるキャッシュ・フローは抑えられており、財務の健全性は確保されている。
なお、同社の営業利益率は6.2%と高い水準ではないものの、総資産回転率が2.0回と高いことや、自己資本比率が低いことから、22/8期の自己資本利益率は35.9%と極めて高い水準となっている。
◆ 特定顧客への依存度は低い
同社は、従業員10名以下の事業所から1,000名以上の大企業をターゲットとしている一方、販売代理店とも取引しているが、売上高の1割以上を占めている顧客は存在していない。同社の主要顧客としては、関西電力(9503東証プライム)、日本ビジネスシステムズ(5036東証スタンダード)、Wiz(東京都豊島区)、広済堂ホールディングス(7868東証プライム)の連結子会社である廣済堂ネクスト等が挙げられる。