ビズメイツ(9345) 資本効率が高く、営業利益率も良好な独自のビジネスモデル
オンラインビジネス英会話サービス「Bizmates」等を運営
資本効率が高く、営業利益率も良好な独自のビジネスモデル
業種: サービス業
アナリスト:大間知淳
◆ オンラインビジネス英会話サービス「Bizmates」等を運営
ビズメイツ(以下、同社)は、オンラインビジネス英会話サービス「Bizmates」等を運営するランゲージソリューション事業と外国人ITエンジニア等を対象にした人材紹介サービス「G Talent」等を提供するタレントソリューション事業を展開している。
22/12期の売上高構成比は、12年11月に開始した創業事業であるランゲージソリューション事業が96.3%、タレントソリューション事業が3.7%であった。セグメント利益率では、ランゲージソリューション事業が34.5%であった一方、18年10月に開始したタレントソリューション事業は、未だ投資費用が先行する段階にあり、セグメント損失が継続している(図表1)。
23年1月末の数値となるが、ランゲージソリューション事業に123名(うち、単体44名、フィリピン子会社79名)、タレントソリューション事業に17名、管理部門に17名が配属されている。
◆ ランゲージソリューション事業の中核サービスはBizmates
ランゲージソリューション事業では、中核サービスであるBizmatesと、オンラインビジネス日本語会話サービス「Zipan(ジパン)」を運営している。売上高ではBizmatesが大部分を占めている模様である。
(1)Bizmates
Bizmatesは、初心者でもビジネス英会話を学ぶことができ、低価格で高品質なサービスを提供することをコンセプトとしている。通学型の語学スクールとは異なり、インターネットとウェブカメラを利用し、場所や時間をほとんど問わずに、利用者にとって最適な環境で受けられる遠隔レッスンを、個人顧客のみならず、法人顧客にも提供している。
受講生は、朝5時から深夜25時までの希望する時間帯で、毎日1回、トレーナーと1対1でレッスンを受けられる仕組みとなっている。受講の際は、「Skype」や同社が開発したアカウント登録不要の「MyStage」等の通信システムが利用されている。
月額定額利用料は、毎日1レッスン25分が受講可能なプランは税込13,200円、毎日1レッスン50分が受講可能なプランは同19,800円であり、受講生が続けやすい料金体系となっている(入学金や教材費は無料)。個人顧客に対しては、1カ月単位(自動更新)、1カ月分の料金前払い(法人顧客に対しては3~12カ月単位の契約期間分の前払い)で契約している。
サービスの特徴としては、ビジネス英会話に特化していること、トレーナー品質が優れていること、豊富なビジネス向けオリジナル教材を揃えていること、ラーニングメソッドを確立していることが挙げられる。
①ビジネス特化型
「英語を話すこと」ではなく、「英語で仕事をすること」を目的にしたレッスンを提供しており、ビジネスを成功に導くためのコミュニケーションスキルを効率的に高める工夫が施されている。同社では、世界で活躍するための5つの要素(ベースとなる英語力、相手との信頼関係を築くための人間性、異なる文化や価値観を受け入れるマインド、周囲を巻き込むリーダーシップ、効果的なコミュニケーション力)を総合的に高めることを目指している。
②トレーナー品質
同社は、学歴、ティーチングスキル、コミュニケーションスキル、人間性に加えて「ビジネス経験」をトレーナーの採用条件としている。採用率1.0%以下(コロナ禍前の19年実績)の厳しい選考条件を通過したプロのトレーナーから、英語だけでなく自身の職業や職種に合ったビジネススキルまでを学べる環境を提供している。
同社のトレーナーは、22/12期末時点で約2,000人在籍しているが、連結子会社であるBizmates Philippines, Incが、主としてフィリピン在住者との間で業務委託契約を締結して確保している。トレーナーに対しては、レッスン数に応じて、業務委託料をフィリピンペソ建てで支払っており、講師費を変動費化している。
③4つのビジネス向けオリジナル教材
基本レッスンである「Bizmates Program」は、初心者からネイティブ並みの上級者までに対応した6段階のレベルが設定されており、各レベルにはA~Eの5段階(ランク)が設けられている。更に各段階は20レッスンで構成されており、合計600種類の段階的、体系的なレッスンが用意されている。
その他、Eメールの書き方やプレゼンテーション等のビジネスシーンに応じて、業務別、業種別、職位別に選択して特定のスキルを身に付けられる「Other Programs」(600教材)や、英語での資料作りや英語面接対応等を自由にカスタマイズしてサポートする「Assist Lesson」、ビジネス・パーソンに必要な教養と創造性の習得を目的に、異文化をテーマに受講生とトレーナーがディスカッションする「Discovery」(1,000以上のテーマから選択可)等、様々なニーズに対応したオリジナル教材を揃えている。
④ラーニングメソッド
同社のレッスンは、1回25分間の中で、「5つのステップ」(Warm Up→See
→Try→Act→Wrap Up)に則って体系立てて進められている。
1.Warm Up~簡単な挨拶後、前回の復習と習熟度をチェックする。
2.See~レッスンで学ぶ内容の確認とゴールの設定、モデルとなる構文を読みながら理解する。
3.Try~Seeで理解した内容を実際に使って話して、正しい使い方を学ぶ。
4.Act~理解した内容を使いこなせるように、リアルなシチュエーションを設定したロールプレイ等で定着させる。
5.Wrap Up~受講生へのフィードバックと、次のレッスンまでに理解しておくべきことの確認が行われる。
上記のレッスンフローに基づくトレーナーとのコミュニケーションを通じて、受講生にパーソナライズされたレッスンを提供している。
また、同社は、有料オプションサービスとして、オリジナル教材と連動した自己学習ツールである「Video Lesson」と、専属コンサルタントによるオンラインコーチングサービスである「Bizmates Coaching」を提供している。
Video Lessonにおいては、Bizmates Programでは、受講生の現在のランクと受講済みの各ランクの全ての動画が月額税込990円の追加料金で見放題となっている。また、Other Programsでは、申込テーマ毎に全ての動画が税込1,980円の追加料金で3カ月間見放題となっている。
同社は、オンライン英会話レッスンにおいて衰えがちな学習継続意欲を維持・向上するために、Bizmates Coachingを21年3月に開始した。専属の日本人コンサルタントが、受講生に最適な学習プランを個別に提案、作成し、1回15分、月4回のコンサルティングにより、定期的な学習フォローを行っている。料金は、1カ月単位の契約で、月額税込19,800円である。他社の同様なコーチングサービスと比較して1/4以下の料金となっている。
(2)Zipan
同社は、世界で活躍するためのビジネス英会話レッスン「Bizmates」を日本人に提供しているだけでなく、外国人向けに日本で活躍するためのビジネス日本語習得サービス「Zipan」を提供している。同社が外国人ITエンジニアの人材紹介業に進出した後、日本で働く外国人をサポートする目的で、19年5月にZipanが開始された。
22/12期において、ランゲージソリューション事業の業績は、売上高2,732百万円(前期比13.6%増)、セグメント利益941百万円(同22.3%増)であった(図表2)。
◆ タレントソリューション事業では2サービスを提供している
タレントソリューション事業では、即戦力の外国人ITエンジニアに特化した人材紹介サービス「G Talent」(ジータレント)と、グローバルで活躍することのできる幅広いIT人材を対象としたマッチングサイト「Git Tap」(ギットタップ)を展開し、国籍に関わらず、多くのIT人材が日本で働き、活躍できる場を提供している。現状では、売上高の中心はG Talentとなっている模様である。
同社は、国内のIT人材不足を背景に拡大が予想されるITエンジニア市場において、「グローバル×IT」に特化したHRサービスを展開し、ランゲージソリューション事業とのシナジー効果を追求する方針である。
(1)G Talent
GTalentは、日本に在住する外国人ITエンジニア(求職者)を、IT業界に精通した同社のバイリンガルキャリアコンサルタントが正社員として顧客企業に紹介し、当該候補者が顧客企業に入社した時点で成功報酬を得るサービスである。同サービスを通じて、22年12月時点で、100カ国以上の外国籍エンジニアが300社以上の企業に転職している。
求職者はキャリアコンサルタントによる日本語面接対策レッスン(無料)が受けられるほか、入社が決定したエンジニアに対しては日本語学習サービスを2カ月間無料で提供している。更に日本語学習の継続を望む求職者やG Talentを通じて転職した外国人に対して、同社はZipanを提供している。
G Talentでは、現在は日本在住者に対象求職者を限定しているが、将来は海外在住の外国人ITエンジニアや日本人のグローバル人材にまで拡大する等、登録者の充実を図る方針である。G Talentの登録者層の拡充は、Zipanの受講生拡大に繋がるものと期待される。
(2)Git Tap
Git Tapは、20年11月に開始されたグローバルIT人材に特化したダイレクト・リクルーティングプラットフォーム(採用マッチングサイト)である。完全成果報酬型であるため、企業の採用担当者は、気軽に同社のグローバルIT人材データベースにアプローチし、直接スカウトすることが可能となっている。キャリアコンサルタントを介さない仕組みであるため、人材紹介を利用した場合と比べて成果報酬の手数料率は大幅に低くなっている。
求職者にとっても、プロフィールを登録すると、興味を持った企業に対して、直接、求人に応募したり、企業からのスカウトを受け取ったりできるため、煩わしさを感じずにサービスを利用できる仕組みとなっている。
サービス開始当初は、外国人ITエンジニアを対象としていたが、22年9月に帰国子女や留学経験者等の日本人のグローバルIT人材(エンジニア以外のデザイナーやコンサルタント等)にも対象を拡張した。
22/12期のタレントソリューション事業の業績は、売上高105百万円(前期比119.8%増)、セグメント損失142百万円(前期は129百万円の損失)であった(図表3)。同事業では、G Talentが黒字化する前に、20年11月からGitTapのサービス提供を開始したため、費用の増加ペースが売上高の増加ペースを上回っており、過去2期においてセグメント損失が拡大している。
◆ 売上高や営業利益等に加え、Bizmatesの累積有料会員数を重視
同社は、安定的な成長を図るため、成長性や収益性、効率性を重視した経営が必要と認識している。そのため、売上高、売上総利益、営業利益、売上総利益率、営業利益率に加え、売上高の大部分を占めるBizmatesの累積有料会員数を経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標としている。
累積有料会員数は、新規有料会員獲得数の積上げにより算定されており、会員登録後、休会・退会となった人数が含まれている。また、法人契約は契約アカウント数(受講生数)が集計されている。累積有料会員数は、12/12期末の71人から22/12期末には92,579人に増加している(図表4)。
新規有料会員獲得数で見ると、18/12期が10,639人、19/12期が11,499人であったのに対し、20/12期は14,693人、21/12期は15,284人、22/12期は16,742人に拡大していることから、コロナ禍で新しい生活様式が広がり、同社の様なオンライン学習サービスにはポジティブな影響があったと推測される。
◆ 資本効率が高く、営業利益率も良好な独自のビジネスモデル
同社の事業については、タレントソリューション事業が一時点で移転されるサービスに該当する一方、ランゲージソリューション事業は一定の期間にわたり移転されるサービスに該当する。しかし、ランゲージソリューション事業においては、個人顧客との契約は1カ月単位の自動更新であることや、提供サービスが語学学習であることから、学習意欲の低下や環境の変化、目標としていた語学レベルへの到達等により、多くの個人契約については突然、解約されるリスクが存在している。よって、月額定額料金を受け取るサービス形態ではあるものの、証券リサーチセンター(以下、当センター)では、同社のランゲージソリューション事業をいわゆるストック型のビジネスモデルとは考えていない。
同社の売上原価(21/12期646百万円)は、ランゲージソリューション事業におけるトレーナーへの業務委託費(同570百万円)が大半を占めている。21/12期の原価率が20/12期の27.1%から26.4%に改善したのは、平均受講頻度の減少に伴い、ランゲージソリューション事業売上高に対する業務委託費の比率が、20/12期の26.0%から23.7%に低下したためである。22/12期の売上総利益率が前期比1.2%ポイント改善の74.9%に上昇したのも、平均受講頻度の減少が要因と考えられる。
販売費及び一般管理費(以下、販管費)については、給料及び手当(ランゲージソリューション事業、タレントソリューション事業、管理部門)や、IT関連費用等の業務委託料(ランゲージソリューション事業、タレントソリューション事業)、広告宣伝費(主にランゲージソリューション事業)、オフィスの賃借料(ランゲージソリューション事業、タレントソリューション事業、管理部門)等が中心となっており、22/12期の販管費率は62.7%に達している。しかし、売上総利益率が高いため、営業利益率は12.1%と良好な水準を確保している。
22/12期末において、有利子負債依存度は7.5%に過ぎないが、未払金(負債純資産合計比17.7%)や契約負債(同13.4%、ランゲージソリューション事業の法人顧客を中心とした前受金)等の残高が大きいため、自己資本比率は52.2%とさほど高い水準ではない。
資産サイドを見ると、売掛金(売上債権)は31百万円であることや棚卸資産が未計上であることから、運転資本(売上債権+棚卸資産-仕入債務-契約負債)は168百万円のマイナスと資金繰りについて余裕のある状態となっている。主力サービスであるランゲージソリューション事業においては、売上債権が発生しにくく、法人顧客が増えるほど契約負債が積み上がる構造となっていることがその要因である。
総資産(1,338百万円)の65.5%を占めるのは現金及び預金であり、有形固定資産(73百万円)、無形固定資産(143百万円、ソフトウエア等)、投資その他の資産(119百万円)によって構成される固定資産合計は337百万円に過ぎない。
固定資産合計に運転資本を加算した投下資本は169百万円であり、売上高を投下資本で除した投下資本回転率は16.8回と高水準を誇る。結果、良好な営業利益率と高い投下資本回転率により、投下資本利益率(Return on Invested Capital、以下、ROIC)は132.8%と極めて高い水準であった。こうした資本効率の高さと良好な営業利益率から、当センターでは同社のビジネスモデルには独自性があると評価している。なお、ROICの分子となる税引後営業利益は、同社の法定実効税率34.6%を使って算出している。
◆ 法人顧客が売上高の4割以上を占めている
同社は、個人、法人の両方と取引しているが、22/12期第3四半期累計期間では、個人顧客が売上高の56.0%、法人顧客が同44.0%を占めている(図表5)。Bizmatesの導入企業は、1,000社を超えているが、売上高の1割以上を占めている顧客は存在していない。
主な導入企業としては、東日本旅客鉄道(9020東証プライム)、オリンパス(7733東証プライム)、野村総合研究所(4307東証プライム)、SCSK(9719東証プライム)、東京海上ホールディングス(8766東証プライム)の連結子会社である東京海上日動火災保険等が挙げられる。
◆ ベルリッツ・ジャパン出身の鈴木社長と伊藤取締役が創業
同社は、12年7月にオンライン英会話レッスンの提供を目的に、現代表取締役社長である鈴木伸明氏と現取締役ランゲージソリューション事業部長である伊藤日加氏によって設立された。鈴木氏は、ヤフーでKPI分析や事業計画策定等に従事した後、09年10月からベルリッツ・ジャパン(東京都新宿区)に転職し、経営企画業務やWEBマーケティング、法人マーケティングを担当した。伊藤取締役は、カナダで生まれ、96年に来日して英語教
師としてベルリッツ・ジャパンに入社した。ベルリッツ・ジャパンでは、教師の採用やマネジメント、教材開発、企業向けのセミナー講師等も経験している。