エコム(6225) 環境対応需要の獲得を目指す

2023/04/06

工業炉の開発・設計・製造から稼働後の保守サービスまでを一貫して提供
環境対応需要の獲得を目指す

業種: 機械
アナリスト:髙木伸行

◆ 工業炉の開発からメンテナンスまでを一貫して手掛ける
エコム(以下、同社)は、工業炉の開発、設計、製造から点検、監視、改造などの保守サービスまでの全プロセスを一貫して行っている。工業炉は材料を目的の温度で溶解、加熱、熱処理するための装置で、分野や製品、工程によって様々な種類があり、オーダーメイドのものが多い。同社は100℃~600℃程度の温度帯で、高速熱風による時短や排熱回収による省エネなどを付加価値とする装置を得意としている。同社のエコムという社名は
Ecology(環境)&Combustion(燃焼)をもとにした造語である。

同社の事業セグメントは工業炉の開発・設計・製造を行う産業システム事業と工業炉の保守サービス事業で構成されている(図表1)。

◆ 産業システム事業
自動車やスマートフォンなどのモバイル機器など日常使用されている様々な製品には熱処理が施され強度などが増している部品が多く使用されている。同社の産業システム事業は熱処理を行う大型工業炉を顧客の仕様に合わせて設計・製造する事業である。同社の設計、製造している工業炉には、金属を溶解する「溶解炉」、塗装を乾燥する「乾燥炉」、樹脂を硬化する「硬化炉」など様々な種類がある。また、ガス、電気、マイクロ波などの多様な熱源を取り扱っている。

産業システム事業の販売先については、22/7期までの3期間において、自動車業界が同社の売上高の78.1%を占め、販売先としては圧倒的な地位にある。その他は樹脂7.7%、環境4.4%、セラミック3.3%などとなる(図表2)。

1)ヒートトライアル(製品加熱テスト)
大型炉の受注は開発機として1台の受注から始まり、その後複数台数が長期に亘って発注されることが多く、リピート受注が期待できる。Webや展示会などで得た見込み客や既得意客からの引き合いを成約に結び付けるための仕組みがヒートトライアルである。ヒートトライアルは業界内における同社の差別化ポイントとなっている。

顧客がエンジンブロックやホイールなどの加熱対象物を持ち込み、「何分間、何度で加熱すれば良いのか」という最適解を同社のスタッフとともに見つけるのがヒートトライアルというプロセスである。ヒートトライアルのためにエコムテクニカルセンターでは複数種類のテスト炉を常に使える状態にしてある。

熱処理には熱源、温度、圧力、風速、加熱方向など様々なパラメーターが関係するが、顧客企業が工業炉を発注するには、これらのパラメーターを記載した仕様書が必要になる。他社は顧客企業が作成した仕様書を基に設備提案を行うが、同社は顧客企業とともにテストを行い仕様書の作成から関与し、顧客企業と共同開発をしているようなプロセスを経ることが多い。

オーダーメイドの工業炉を実際に作った後に求めていた性能が出ないということは往々にして起こりうる。作り直しにともなう製造コストの増加を抑えるためにヒートトライアルによるアナログ試験データと3D熱流体解析シミュレーションによるデジタルデータにより、失敗の少ないものづくりを可能にしている。

2)省エネ環境デバイスの外販
工業炉は大量のCO₂を排出することから、エネルギー効率の高い設備への需要は大きい。そのような需要に向けて、通常のバーナーに比べてNOxやCO₂の排出を抑制した省エネバーナー「ecoNext(エコネクスト)」、加熱処理時間の短縮が可能な遠赤外線パネルヒーター「EIRヒーター」といった製品を販売している。将来的には海外向けの販売を目指している。

◆ 保守サービス事業
保守サービス事業は、同社の設立時からのビジネスである。顧客企業が保有する工業炉を支障なく稼働できるように年に1~2回の定期点検に加え不定期での点検も行い、設備保全を行っている。22年末時点で539社、1,252設備の工業炉のメンテナンスを請け負っている。

また、同社のメンテナンスサービスは、自社製品に加えて他社製品も多くメンテナンスしており、他社製品比率は81%となっている。地域的には、過去3期間における東海地区での売上高が保守サービス事業の売上高の約4分の3を占めている。

23年1月末で保守サービス事業の従業員数は15人だが、入社して一定期間はメンテナンスを経験することが同社の基本であることから、管理部門を除く社員全員がメンテナンス対応可能な多能工となっている。

保守サービス事業については、定期保守料金収入に加えて、ファーネスエンジニアリングやパーツセールスの売上収益がある(図表3)。また、今後の成長分野である、修理から予防に重点を置くIoTメンテナンスサービスに注力している。

ファーネスエンジニアリングは顧客企業の工場において改造工事などを行うサービスである。他社が製作した装置も対象としていることや、現場で起きた問題点についての情報を得ることができることから、同社にとって技術力向上面でのメリットも大きい。また、省エネ改造工事など環境への配慮を進めている顧客企業の省エネニーズにも対応しており、成長分野の側面も持つ。

同社は工業炉に必要な各種の消耗品や交換部品を販売している。常時600以上のパーツを在庫として持ち、緊急対応を可能としている。工業炉は使用年数が長いことから、廃盤となった部品も多く、部品がないケースにも対応している。

20年に新しい定期点検のかたちとして、関西電力(9503東証プライム)との共同開発によりIoTメンテナンスサービスMiterune(ミテルネ)をリリースした。訪問点検に代えて顧客の工業炉にセンサーを設置し、クラウド上に収集した各種燃焼データを遠隔監視することで設備の不具合や故障を事前に察知し、生産停止などの致命的なトラブルを防ぐ仕組みである。

加えて、カルテ形式のMiterune診断レポートを定期配信することで工業炉の稼働状況を継続的かつ客観的なデータとして蓄積することが可能になる。関西電力とは20年7月に資本提携を結んでいる。

◆ 事業モデル
産業システム事業はフロー型ビジネスの要素が強いが、受注の多くは開発機(テスト機)として1台の受注から始まるものの、最終的には複数台の受注につながることが期待できるビジネスモデルとなっている。産業システム事業の付加価値の源泉は、新装なったエコムヒートスクエア内のエコムテクニカルセンターにおいて顧客とともに装置の仕様書を様々な熱源を使用して作りあげるプロセスであるヒートトライアルにある。

産業システム事業は1件当たりの受注額が大きいが、受注は景気の影響を受けやすく、費用面では材料費や外注費などの変動費の比率が高い。

保守サービス事業はストック型のビジネスであり、継続的な収益が長期間見込める事業である。自社製品に限定せず広く他社製品も保守しており、現場での問題点や他社製品の情報などを収集することにもつながり、産業システム事業の製造に反映されている。

保守サービス事業は1件当たりの受注額が小さいが一定の収益が上がり、変動費率の低い事業であるため、安定的な利益をもたらしている。

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一般社団法人 証券リサーチセンター
資本市場のエンジンである新興市場の企業情報の拡充を目的に、アナリスト・カバーが少なく、適正に評価されていない上場企業に対して、中立的な視点での調査・分析を通じ、作成されたレポートです。