ティムス<4891> Biogen社に導出した急性期脳梗塞治療薬に続く医薬品開発を進める

2022/11/28

東京農工大学発の創薬型バイオベンチャー企業
Biogen社に導出した急性期脳梗塞治療薬に続く医薬品開発を進める

業種: 医薬品
アナリスト: 鎌田 良彦

◆ 東京農工大学発の創薬型バイオベンチャー企業
ティムス(以下、同社)は、東京農工大学発酵学研究室(蓮見惠司教授)の医薬シーズを実用化することを目的に05年に設立された、グローバル医薬品市場に向けた医薬品開発を目指す、創薬型バイオベンチャーである。

◆ 抗炎症作用を持つSMTP化合物による医薬品開発
現在は、黒カビの一種であるスタキボトリス・ミクロスポラ(Stachybotrys Microspora)が産生する化合物(Staplabin)及び、その誘導体約60種類からなるSMTP(Stachybotrys Microspora Triprenyl Phenol)化合物が持つ抗炎症作用及び、一部のSMTP化合物が持つ血栓溶解効果を利用した医薬品の開発を進めている。

SMTP化合物による抗炎症作用はsEH (可溶性エポキシドハイドロラーゼ)の阻害により得られる。sEHは、ヒトが体内に持つ酵素の一つで、二つの作用を有すると考えられている。一つ目は、エポキシド構造の化合物を加水分解する作用(EH活性)で、具体的には炎症を抑制する効果がある生理活性脂質エポキシエイコサトリエン酸(EETs:Epoxyeicosatrienoic Acid)を加水分解によりジヒドロキシエイコサトリエン酸(DHETs:Dihydroxyeicosatrienoic Acid)に変換する作用である。このため、sEHを阻害することで、抗炎症作用を持つEETsの減少を抑えることができる。もう一つは、脱リン酸化作用(Phos活性)で、 sEHの脱リン酸化作用の詳細はまだほとんど解明されていないが、同社が東京農工大学等の共同研究で解明に取り組んでおり、sEH阻害による抗炎症作用の中核を担う作用であることが分かってきている。

◆ 事業モデル
同社の基本的な事業モデルは、医薬品開発の研究段階から早期臨床段階までを同社が行い、後期臨床段階からは国内外の製薬会社と提携して開発製造販売権を付与し、提携先製薬会社から開発一時金(マイルストーン収入)及び医薬品上市後のロイヤリティ収入等を得るものである。また、疾患分野によっては、同社が後期臨床段階及び製造販売承認取得、販売までを手掛けることも視野に入れている。

◆ 開発パイプライン
同社の現在のパイプラインは、前期第Ⅱ相臨床試験を終えたTMS-007、前臨床段階にあるTMS-008の2化合物からなり、TMS-008のバックアップ化合物としてTMS-009がある。急性期脳梗塞、急性腎障害、がん悪液質を適応症とする3つのパイプラインを持っている(図表1)。

① TMS-007(急性期脳梗塞)
TMS-007は、SMTP化合物の中で抗炎症作用に加え、血栓溶解作用を持つ唯一の化合物で、急性期脳梗塞治療薬として開発が進められている。急性期脳梗塞は、血栓により脳血管が閉塞して脳への血液供給が滞ることで発症する。片麻痺、記憶障害、言語障害、読解力・理解力の低下、その他の合併症を引き起こし、脳の永久的な損傷につながる可能性がある。

TMS-007は、17年11月から21年8月にかけて国内で前期第Ⅱ相臨床試験を行い、プラセボ投与群に比較して良好な試験結果を得た(図表2)。

臨床試験の患者の組入基準は、脳梗塞発症後12時間以内の急性期脳梗塞患者であり、安全性を主要評価項目に行われ、症候性頭蓋内出血注1の発症率で評価された。TMS-007群では該当する症例は報告されず(52例中0例)、プラセボ群の2.6%(38例中1例)を下回った。

また、副次評価項目である脳卒中発症後90日での生活自立度の指標であるmRS(modified Rankin Scale)で、TMS-007群では40.4%の被験者が、0から6までの7段階の評価のうちの0(全く症候がない)または1(症候はあっても明らかな障害はない)のスコアとなったのに対し、プラセボ群では18.4%に留まった。発症90日後のmRSで0-1への転帰率は、急性期脳梗塞の有効性主要評価項目(ゴールド・スタンダード)とされている。血管閉塞を有する一部の被験者における血管の再開通率は、TMS-007群では58.3%(24例中14例)だったのに対し、プラセボ群では26.7%(15例中4例)であった。

TMS-007の前臨床試験での有効性の高さを背景に、18年6月にはSMTP化合物について、米Biogen社とオプション契約を締結し、21年5月にBiogen社はオプション権を行使した。これにより、同社が持つSMTP化合物に関する特許権(出願中のものを含む)及びデータの所有権は全てBiogen社に移転され、今後のTMS-007(Biogen社の開発コードBIIB131)の開発及び各国での承認取得、販売はBiogen社が行うことになっている。

② TMS-008(急性腎障害、がん悪液質)
TMS-008は、血栓溶解作用はほとんどなく、sEH阻害による抗炎症作用を持つSMTP化合物である。同社では、急性腎障害及びがん悪液質を適応として前臨床試験と、治験薬製造に向けての準備を進めている。急性腎障害の適応については、24/2期の臨床試験入りを目指している。

Biogen社のオプション権行使に伴い、全てのSMTP化合物に関する製造開発権はBiogen 社に移転されたが、TMS-008 を含む複数の化合物を一定 の疾患を適応として開発する権利は、Biogen 社から無償での使用許諾を受 けており、同社のTMS-008 のパイプラインの適応は、無償使用許諾の範囲 内になっている。

急性腎障害は、数時間から数日の間に腎機能が急激に低下する疾患で、多種多様な病院があり、他疾患との合併症によるものが多いとされている。一方で、急性腎障害を対象として承認された治療薬は存在せず、大きなアンメット・メディカル・ニーズ注2 がある。TMS-008 は、マウスを用いた前臨床試験で、腎機能の指標であるScr(血清クレアチニン)及びBUN(血中尿素窒素)の改善が確認された。

がん悪液質は、がん患者が罹患する骨格筋量や体重の減少を特徴とする症候群である。進行がん患者の80%が悪液質の症状を呈し、がん患者の死因の20%を占めるとの報告もある。TMS-008 は、マウスを用いた前臨床試験において、筋肉量の減少を抑える効果が確認された。

がん悪液質の治療薬としては、21 年1 月に世界に先駆け、日本で小野薬品工業(4528 東証プライム)のエドルミズ錠が承認され、21 年4 月に販売が開始された。エドルミズ錠は、体重減少を抑制する効果がある。

③ TMS-009(TMS-008 のバックアップ化合物)
TMS-009 は、TMS-008 の開発において、重大な毒性等が見られた場合のバックアップ化合物である。TMS-008 と類似した性質を持っているが、動物試験によってはTMS-008 よりも高い薬理効果を示しているため、適応疾患によっては、TMS-009 をメインに開発を行うことも視野に入れている。

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一般社団法人 証券リサーチセンター
資本市場のエンジンである新興市場の企業情報の拡充を目的に、アナリスト・カバーが少なく、適正に評価されていない上場企業に対して、中立的な視点での調査・分析を通じ、作成されたレポートです。