Atlas Technologies<9563> 高利益率でストック型に近いビジネスモデルを確立している

2022/11/08

Fintech領域のコンサルティングとプロジェクト実行支援を提供
高利益率でストック型に近いビジネスモデルを確立している

業種: サービス業
アナリスト: 大間知 淳

◆ Fintech 領域のコンサルティングとプロジェクト実行支援を提供
Atlas Technologies(以下、同社)は、独立系のFintech コンサルティング会社として、プロジェクトマネジメントに特化して、クライアントの戦略立案(コンサルティング)から実行支援までを一気通貫で提供している。具体的には、戦略策定・事業企画等の上流フェーズの「コンサルティング」から、その後のシステムや業務プロセスの開発・構築段階におけるクライアントの課題解決に向けて、「要件定義・外部設計」、「テスト計画・運用設計・各種テスト」、「研修・トレーニング」、「PMO(Project Management Office)」等の各種支援サービスの提供、サービスイン後のシステム運用・保守、業務運用等のBPO サービスの提供を行っている。

コンサルティングサービスにおいては、独立系であることの中立性とFintech 領域で蓄積した知見を活かし、同社のコンサルタントが、事業の上流フェーズからクライアントと共創しながら戦略を立案している。多くの企業では社内のリソースや知見等が不足しており、自社単独でのFintech 事業の立上げ・運営は難易度が高くなっている。同社は、各業界のリーディングカンパニーとの先進的なプロジェクトを通じて培った経験等も活用して、高付加価値なサービスを提供すると共に、グローバルレベルの専門知識とローカルレベルの知見を組合せ、国内案件のみならずクロスボーダー案件にも柔軟に対応している。

クロスボーダー案件においては、国内クライアント企業の海外企業とのプロジェクトのみならず、海外クライアントの日本国内におけるプロジェクトも支援している。支援例としては、日本企業では、総合商社に対するグローバル決済市場への参入に向けた事業計画の策定支援等、海外企業では、シンガポールの大手決済代行会社に対する日本市場への参入に向けた戦略立案の支援等が挙げられる。クロスボーダー案件のプロジェクト関連国としては、米国、英国、ドイツ、中国、インド、豪州、シンガポール、タイ、インドネシア、マレーシアの10 カ国が挙げられる。

プロジェクト実行支援においては、同社のコンサルタントとシステムインテグレーター(以下、SIer)等のビジネスパートナー(外注先)のエンジニアがチームを組成し、クライアントの現場で共に課題解決を推進している。プロジェクトに最適なシステムや業務プロセスを構築するためのパートナー選定等を支援するほか、クライアントの既存システム・業務運用とも効率的な統合を実現することで、プロジェクト全体を通した全体最適の実現に取り組んでいる。

主要なビジネスパートナーとしては、日立システムズ、リンクレア(東京都港区)、インテリジェント ウェイブ(4847 東証プライム)、シイエヌエス(4076 東証グロース)、富士ソフト(9749 東証プライム)等が挙げられる。

◆ 多様な種類の高付加価値なサービスを提供している
同社は、Fintech 領域において、多様な種類の高付加価値なサービスを提供している。金融関連の法令・規制、事業ライセンス、商品・システム・業務、決済機関との接続、データ処理や利活用、不正対策やサイバーセキュリティ強化、顧客体験の構築等についての多様なノウハウやナレッジの提供により、クライアントのプロジェクトを支援している。決済ビジネスにおける提供サービスの種類は図表1 の通りであり、同社は、クライアントの要望に応じて、複数のサービスを組み合わせて提供している。

同社は、現在、Fintech 領域の中でも、決済・送金、融資(個人向け及び法人向け)を注力分野としているが、今後は、投資、預金、保険、証券分野を強化する方針を掲げている。

◆ NTTドコモへの依存度が高い
同社の主要顧客としては、NTTドコモ(業務委託契約締結19年1月、dカードプロジェクトにおける各種業務支援)や、auフィナンシャルサービス(同20年5月、カード業務における各種支援業務)、パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(7532東証プライム)傘下のパン・パシフィック・インターナショナルフィナンシャルサービス、リクルートホールディングス(6098東証プライム)の中核子会社であるリクルート等が挙げられる。

中でも、売上高に占めるNTTドコモの比率は、20/12期93.2%、21/12期90.4%、22/12期第2四半期累計期間(以下、上期)80.5%であり、NTTドコモに対する依存度が極めて高い状態にある(図表2)。

同社は、NTTドコモのdカードプロジェクトに発足当初より参画している。NTTドコモのクレジットカードである「dカード」は、上位カードである「dカードゴールド」との合計会員数が21年9月時点で1,500万人を突破した。同社は、現在、コンサルティングに加え、「新たなシステム開発」、「国際ブランド認定」、「業務企画」、「Webアプリ」の4プロジェクトを並行して支援しており、取引が高水準になっている。NTTドコモ向けの売上高は将来、段階的に減少すると想定されるため、同社は、クライアントポートフォリオの多様化を図ることで、売上高の持続的な成長を実現する方針を掲げている。

同社は、売上高、売上総利益、営業利益を重視する経営指標としている。売上高に関連するKPIとしては、クライアント数を開示しており、18/12期の2社から21/12期には14社に増加している(図表3)。

プロジェクト実績を有するクライアント業種としては、通信、ITサービス(SIer)、小売、総合サービス(総合商社、生活関連サービス)、金融(カード、決済代行)が挙げられる。産業の垣根を超えて、様々な業界で自社サービスとFintech を融合する動きが広がっているため、同社は、今後の開拓を目指す 業種として、交通機関、物流、製造、エネルギー、不動産を挙げている。

◆ Fintech 領域のバックグラウンドと専門性を有する経営陣
同社は、18 年1 月にFintech コンサルティング事業の展開を目的に、現代表取締役社長である山本浩司氏によって設立された。山本氏は、独立行政法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)等の宇宙関連組織での勤務を経て、ソフトバンク・ペイメント・サービス(現SB ペイメントサービス)に転職した。転職後は、Fintech 領域の各種事業の企画業務を担当していたが、Visa、Master、銀聯等の国際ブランド企業や、Apple、Google、PayPal、Amazon 等のグローバル企業とのプロジェクトを推進する等、多様な経験を積んだ後、起業に踏み切った。

19 年1 月に取締役に就任した小椋祐治氏(現取締役副社長)は、アコム(8572 東証スタンダード)や、日立システムズ、ソフトバンク・ペイメント・サービスにおいて、システム開発等に27 年に亘って従事した技術者である。ソフトバンク・ペイメント・サービスでは、加盟店事業・カード事業の新規構築やシステム部門の統括業務を担当した。

20 年10 月に入社し、21 年1 月に取締役に就任した高橋みのり氏(現取締役コーポレート本部長)は、ソフトバンク・ペイメント・サービスや、後払い決済サービスを提供するPaidy(東京都港区)等で、15 年に亘りFintech 領域の法務実務やコンプライアンス推進を統括した経験を持っている。

◆ 高利益率でストック型に近いビジネスモデルを確立している
システム開発に係るプロジェクト実行支援とは、基本的にはSIer が担当するシステム開発自体ではなく、システム開発の支援サービスであるため、同社はクライアントとの間で請負契約を締結しているわけではない。契約形態としては、同社のコンサルタントが主導するチームが、クライアント先への常駐やオンラインでプロジェクトを支援し、月額の定額報酬を受け取る準委任契約が多数を占めている。

準委任契約の契約期間は3 カ月(6 カ月や1 年もある)となっているが、一気通貫でサービスを提供するビジネスモデルであるため、クライアントからの継続・追加受注を獲得することにより、通常は3 カ月単位で更新される。多くの場合、クライアントのプロジェクト期間全体(長期大型案件では1 年から5 年程度)を通じて売上高の計上が見込まれる様である。

また、同社は、各業界の大手企業を中心とした、高難易度の中規模(年間売上高1 億円以上5 億円未満)~大規模(同5 億円以上)のプロジェクトを長期(プロジェクト期間1 年以上)に亘って支援することを目指している。

結果、21/12期においては、継続クライアント(前期と当期の両方で売上計上したクライアント)による売上高が2,152百万円と総売上高の98.4%を占めている。一方、当該クライアントによる20/12期の売上高は1,204百万円であった。クライアントの高い継続性と追加受注によるアップセル(受注プロジェクトや提供サービスの増加)が、当該クライアントによる売上高の高い伸び(21/12期の前期比増加率78.7%)に繋がった。同社のビジネスは解約がない限り契約が継続するという意味での純粋なストック型とは言えないが、継続クライアント比率の高さからはストック型に近いビジネスモデルであると言えよう。

同社の21/12期の売上総利益率は36.7%であり、ソフトウェア業界平均と比べて高い水準にある。競合先が少ないことや、一気通貫での支援により、高い人員稼働率を維持していることが要因であると同社は説明している。売上総利益率については、コンサルティングは平均より高く、プロジェクト実行支援は平均より低くなっている模様である。

売上原価は、社内のコンサルタント(22年8月末27名)に支払う労務費やビジネスパートナーに支払う業務委託費によって構成されている。自社コンサルタントを大幅に上回る人数の外注先エンジニアを活用してプロジェクト実行を支援しているため、業務委託費は1,208百万円に達している。また、8月31日時点での平均年間給与(管理部門を含む)は11,007千円であり、同社と同規模のSIerと比べて高水準である。そのため、コンサルタントの人数は少ないものの、労務費は176百万円に達している。

一方、販売費及び一般管理費(以下、販管費)については、役員報酬、地代家賃等が中心を占めているが、販管費率は15.1%にとどまる。売上総利益率が高いため、営業利益率は21.6%と高い水準にある。以上のことから、同社は、高利益率のビジネスモデルを確立していると言えよう。

有利子負債がなく、利益剰余金が総資産の57.3%を占めているため、上場前時点でも、自己資本比率は58.5%(21/12期末)と比較的高い水準に達している。利益剰余金の大部分は現金及び預金として保有されており、キャッシュリッチの状態にある。21/12期において、良好な総資産回転率(2.4回転)と営業利益率を背景に、総資産経常利益率(52.9%)と自己資本利益率(60.5%)は共に極めて高い水準となっている。

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一般社団法人 証券リサーチセンター
資本市場のエンジンである新興市場の企業情報の拡充を目的に、アナリスト・カバーが少なく、適正に評価されていない上場企業に対して、中立的な視点での調査・分析を通じ、作成されたレポートです。