グッピーズ<5127> 収益源の人材サービス事業では歯科職種向けで高い競争力を誇る

2022/10/11

医療・介護・福祉に特化した求人サイト運営と健康管理アプリの提供を手掛ける
収益源の人材サービス事業では歯科職種向けで高い競争力を誇る

業種: 情報・通信業
アナリスト: 大間知 淳

◆ 医療・介護の求人サイト運営と健康管理アプリ提供を手掛けている
グッピーズ(以下、同社)は、医療・介護・福祉に特化した求人サイトを運営する人材サービス事業と、スマートフォンによる健康管理アプリを提供するヘルスケア事業を展開している。

21/8期の売上高構成比は、人材サービス事業86.2%、ヘルスケア事業13.8%であった。セグメント利益率(セグメントに帰属しない一般管理費である調整額を各事業に配賦しないベース)では、収益源の人材サービス事業は46.6%と高水準を誇る。一方、投資段階にあるヘルスケア事業は損失を計上している(図表1)。

22年7月末の数値となるが、従業員は、人材サービス事業の47名に対して、ヘルスケア事業には18名が配属されている。売上高構成比に比べてより高い比率で人材を投入していることが、ヘルスケア事業のセグメント損失の一因と考えられる。

人材サービス事業については、中途転職者向けと新卒学生向けに分かれており21/8期の売上高構成比は、中途転職者向け64.5%、新卒学生向け21.7%となっている。

◆ 人材サービス事業では2 種類のサイトを運営している
人材サービス事業では、医療・介護・福祉業界における、主に有資格者に対応した求人サイト(求人情報・求職者情報提供事業)を運営している。中途転職者向けは「GUPPY 求人」(求人職種数57 職種)、新卒学生向けは「GUPPY 新卒」(同27 職種)のサービス名で展開しており、21/8 期末時点における両サイト合計の求人件数は47,930 件であった。

同社は、医療・介護・福祉業界の中でも、採用にあまり費用を掛けられない、小規模な歯科医院の需要を取り込むため、求職者が求人広告をクリックした時点で料金が発生する、コストパフォーマンスの良い閲覧課金(クリック課金)型の料金システムを09 年に導入した。同料金システムは、歯科医院に受け入れられ、21 年8 月末時点で、全国68,018 の歯科医院のうち、26.8% にあたる18,229 院が同社の求人サイトに登録している。歯科医院には求人広告等の人材サービスを利用していないところも多いため、同社では、自社の実質的な市場シェアはもっと高いと認識している。

一方、求職者に関しては、同社サイトの歯科3 職種(歯科医師、歯科衛生士、歯科技工士)の会員数は21/8 期末で約9.5 万人であり、歯科3 職種の就業者約22.6 万人に対する割合は約42%に達している。また、21/8 期における歯科3 職種のユニークユーザー数(同年度1 年間で「GUPPY 求人」に訪問したユーザー数)は約201 万人にのぼっており、その数は5 期前比で約2.1 倍に増加している。なお、「GUPPY 求人」全体の会員数は、21/8 期末で約47 万人となっている。

(1)中途転職者向けサービス~「GUPPY 求人」
中途転職者向け求人サイト「GUPPY 求人」では、歯科職種(歯科医師、歯科衛生士、歯科技工士、歯科助手、歯科受付)を対象として、閲覧課金型の料金システムを適用している。

同社と契約した歯科医院(求人者)は、まず、一定額のポイント(最低1 万ポイント、1 ポイント=1 円)を購入する。求人者が入力した求人情報(詳細)が求職者にクリック(閲覧)されたときに120 ポイントずつ消費される仕組みとなっている。仮に50 回目にクリックした求職者を採用できた場合、1 人当たりの採用コストは6,000 円となる。閲覧した求職者が求人情報に関心を持った場合、同社の従業員は間に入らず、当事者が直接Web や電話等でやり取りし、採用交渉を行うため、同社は低コストでの運営が可能となっている。

閲覧課金はWeb 広告では一般的な課金形態ではあるものの、求人サイトでは期間掲載型料金や成功報酬型料金(求職者に支払われる年収の一定率) が一般的なようである。

また、同社は、サイトの登録会員に関する匿名のプロフィール、スキル、希望条件を見て、興味を持った人材に直接スカウトのメッセージを送信できるスカウト機能を付加サービスとして求人者に提供している。スカウト機能の料金はスカウトメール1通当たり1,000ポイントであり、購入したポイント残高から消費される。

同社は、歯科職種における同社サービスの需要(契約歯科医院数、クリック数)の拡大を受け、クリック単価の値上げを進めているほか、スカウト送信数も増加傾向にある。結果として、クリック、スカウト送信、オプション広告等の売上高によって構成される閲覧課金売上高(税込)は、20/8期第1四半期(クリック単価を税込100円に値上げ)の159百万円から22/8期第3四半期(同120円に値上げ)には344百万円に増加した(図表2)。

また、平均クリック単価(スカウト送信によるポイント消費を含む閲覧課金売上高をクリック数で除して算出、税抜)は、20/8期第1四半期の92.8円から22/8期第3四半期には122.2円に上昇した。

「GUPPY求人」においても、歯科職種以外の医療・介護・福祉職種に対しては、採用時に料金が発生する採用課金(成功報酬)型の料金システムを適用している。しかし、歯科職種以外の医療・介護・福祉職種においては他社との競争が激しく、売上高は小規模にとどまっている。21/8期における「GUPPY求人」の売上高のうち、歯科職種を対象とした閲覧課金売上が94.7%を占めるのに対し、その他の売上は5.3%にとどまっている。

(2)新卒学生向けサービス~「GUPPY新卒」等
新卒学生向けサービスでは、新卒学生向け就職情報提供サイト「GUPPY新卒」を運営しており、21年卒の会員数は36,834人であった。その他、サイトへの掲載を契約した求人者に対するオプションとして、合同就職説明会の開催、学校への求人票の発送代行等を行っている一方、新卒学生に対しては、「GUPPY新卒」を訴求するため、国家試験過去問対策アプリの提供や就職情報誌の発行を行っている。「GUPPY新卒」の料金体系は、採用シーズン毎の期間掲載型固定料金を適用しており、採用が決まっても追加料金は発生しない仕組みとなっている。

合同就職説明会は、歯科衛生士、歯科医師の求職者に対してオフラインで開催しており、求人者(歯科医院)に説明会に参加する権利を販売している。求人票の発送代行は、求人者に代わり求人票の印刷と全国の学校への発送を行うものであり、求人者から別途料金を受領している。求職者は同社が作成した求人票のQRコードから「GUPPY新卒」のサイト経由で応募することも可能になっている。

就職情報誌は、医療・介護・福祉の10職種を対象に作成されており、「GUPPY新卒」への掲載を契約した求人者が無料で掲載できるものとなっており、全国の学生に向けて約13万部(21/8期)を発行している。

国家試験過去問対策アプリは、17職種に対応し、最長9年間の過去問を無償で提供している。歯科衛生士・管理栄養士分野では約8割の学生に利用されている。

新卒求職者が国家試験過去問対策アプリ利用時に登録する会員情報は、同社の求人サイトの会員登録情報と共通になっているため、登録後に同アプリ内で「GUPPY新卒」に掲載されている求人を閲覧、応募することが可能となっている。国家試験受験者の新規登録者を増やし、同社の知名度を高めることにより、「GUPPY新卒」の登録者数の増加だけでなく、将来の中途転職での「GUPPY求人」の利用に繋がる仕組みを形成している。

◆ 人材サービス事業は歯科職種向けが成長を牽引している
人材サービス事業は、歯科職種(歯科医師、歯科衛生士、歯科技工士、歯科助手、歯科受付)向けのサービスに対する売上高構成比が、21/8期において82.3%を占めている。新卒学生向けの約3倍の売上規模である中途転職者向けにおいては、歯科職種が売上高の94.7%と高い割合を占めている。また、新卒学生向けでも歯科職種が売上高の4~5割に達していると推測される。

21/8期の歯科業種年間延べ求人件数は、16/8期の41,284件から110,825件へと2.7 倍に増加した。歯科医院累積アカウント数(登録医院数)が約5 割増加した上に、歯科医院累積アカウント数1 院当たりの年間求人件数が、 16/8 期の3.4 回から6.1 回に増加したためである(図表3)。

同社は、従来、常勤・非常勤を分けずに求人情報を掲載していたが、19/8 期に両者を分割して掲載したところ、マッチング精度が大幅に向上し、歯科医院累積アカウント数1 院当たりの年間求人件数が大幅に増加した。

21/8 期において、人材サービス事業の業績は、売上高1,203 百万円(前期比48.6%増)、セグメント利益560 百万円(同83.4%増)であった。また、セグメント利益に減価償却費を加算したEBITDA は567 百万円、EBITDA マージンは47.2%となっている(図表4)。

◆ ヘルスケア事業では企業、健康保険組合等から収益を得ている
ヘルスケア事業では、健康寿命の延伸、医療費の削減等、持続的な社会保障の実現に向け、スマートフォンによる健康管理アプリ「グッピー ヘルスケア」を開発し、一般利用者には無料で、企業、健康保険組合、地方自治体には有料で提供している。アプリは、一般利用者、従業員、組合員、地域住民に利用されており、総利用者数は40 万人を超えている。

ヘルスケア事業の特徴としては、19 種類の健康管理コンテンツの搭載、福利厚生を目的とした企業向けの機能拡張サービスの提供、自治体や健康保険組合のニーズに応じたカスタマイズやサービスの提供が挙げられる。

一般利用者は、歩く(歩数)、体重、睡眠、エクササイズ、お酒、食事、検診、走る、メンタル、生理、禁煙、ラジオ体操等、19 種類の機能(コンテンツ)の中から、ダイエットや生活習慣の改善等の個人の目的に沿って、サービスを無料で利用している。同社は、各コンテンツの利用データを分析し、アプリ品質の向上に努めている。

同社は、従業員の健康の維持・増進等、福利厚生を目的とした企業に対し、機能を拡張した従量課金制サービスを提供している。月額利用料は、従業員1 人当たりの月額システム利用料×従業員(ID)数によって決定される。21/8 期末の利用者ID 数は3,066 となっている。

健康管理アプリを利用して、従業員が管理記録した運動、飲食、睡眠等に係るデータが、同社が設定する一定の基準を満たすと健康ポイントが貯まり、健康ポイントはAmazon ギフト券等と交換できる仕組みとなっている。

同社は、企業向けサービスで培った経験やノウハウを活かして、地方自治体や企業の健康保険組合のニーズにも対応したカスタマイズやサービスを提供している。料金体系は定額制を採用しており、利用者は健康ポイント獲得後に抽選で当選すると賞品を獲得できる仕組みとなっている。同社は19 年には東京都と「ラジオ体操プロジェクト」で事業連携した。21/8 期末では3 自治体に対してサービスを提供している。

21/8 期のヘルスケア事業の売上高は、前期比52.1%増の193 百万円となったものの、セグメント損失は同18 百万円増の80 百万円であった。なお、同事業はソフトウェアの減価償却費の負担が重く、EBITDA は33 百万円の損失であった(図表5)。

◆ 売上高前年対比と売上高営業利益率を重視している
同社は、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を目指しており、「売上高前年対比」と「売上高営業利益率」を重要な経営指標と位置付けている。また、事業別KPIでは、求人サイトの閲覧数と採用決定数の双方に影響を与えるものとして、人材サービス事業では各年度の累計求人件数(全職種)を、事業の売上高に影響を与えるものとして、ヘルスケア事業では健康管理アプリの利用事業者数(企業のみ)を重視している。

各事業のKPIの過去5期の推移は図表6の通りである。

◆ 売上総利益率と限界利益率が高いビジネスモデル
21/8期の売上総利益率は91.4%と極めて高い水準にある。売上原価の4~5割は外注費(主として人材サービス事業)、残りの5~6割は経費(主としてヘルスケア事業)で構成されているが、売上高外注費率が3.8%、売上高経費率が4.8%であった。経費の過半はソフトウェアの減価償却費(ヘルスケア事業)であり、残りは褒賞費用引当金繰入額(人材サービス事業)や健康ポイント引当金繰入額(ヘルスケア事業)等によって構成されている。同社は、採用課金形態の人材広告において、一定の条件を満たしたサービス利用者に対する褒賞金キャンペーンを実施しており、当該支出に備えて、将来発生見込額を褒賞費用引当金として計上している。褒賞費用引当金の残高は、20/8期末が3百万円、21/8期末が7百万円であった。

販売費及び一般管理費(以下、販管費)については、給与手当や広告宣伝費、システム関連費等の固定費が中心となっており、販管費率は69.6%と高水準である。

売上原価と販管費のなかで、変動費と見られるのは外注費だけであるため、証券リサーチセンターでは、同社の限界利益率を9割以上と推定している。

◆ ヘルスケア事業は健康保険組合連合会への依存度が高い
人材サービス事業については、数多くの医療機関や介護事業者と取引をしており、特定の顧客(求人者)に対する売上高の依存度は小さい。一方、ヘルスケア事業については、健康保険組合連合会に大きく依存する状況となっており、21/8期においては、総売上高の11.8%を占めている(図表7)。

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一般社団法人 証券リサーチセンター
資本市場のエンジンである新興市場の企業情報の拡充を目的に、アナリスト・カバーが少なく、適正に評価されていない上場企業に対して、中立的な視点での調査・分析を通じ、作成されたレポートです。