JDSC<4418> Joint R&D パートナーと共同開発した AI ソリューションを横展開
AI や機械学習を活用したアルゴリズムモジュールを開発
Joint R&D パートナーと共同開発した AI ソリューションを横展開
業種: 情報・通信業
アナリスト: 髙木 伸行
◆ AI関連サービスやソリューションを開発・提供
JDSC(以下、同社)は産業や社会全体の課題を解決すべく、データサイエンス注1、機械学習注2、AI注3といった最先端の技術を個社の課題の解決にとどまらず、産業全体の改革やSDGs達成を実現するために、社会に実装することを目指している。
同社の社名はJapan Data Science Consortiumの頭文字をとったものである。その名に示されるように各産業を代表する大手企業との共同研究を通じて産業共通課題を解決するAI関連のサービスやソリューションを創出し、それらを自社プロダクトとして、他の企業にも幅広く提供(横展開)することで収益を上げている。
各産業の大手企業との提携を通じて、それぞれの企業が保有する非公開のデータへのアクセスが可能となる。産業内の複数の顧客に対してサービスやソリューションを横展開することによりデータの量や種類が更に増え、それにより同社が所有権を持つAIアルゴリズム注4の精度が更に向上するというAI領域の特性を活かした好循環を描くことが可能なビジネスモデルである。また、この循環を繰り返すことにより、参入障壁が高くなり、競争上優位なポジションにもつながる。
同社はAIソリューションの顧客との共同開発並びに初期導入フェーズでは課題特定や戦略策定の支援、PoC注5の実施、AIアルゴリズムの構築及びシステム実装などの役務を準委任型で提供し、フロー型の収益を得ている。
また、AI ソリューション導入後のフェーズでは保守運用料、サービス利用料、 ライセンス利用料、コンソーシアム会費などのストック型の収益を得ている。
◆ プロダクト化しているAI ソリューション
同社は現在、需要予測やマーケティング最適化などの7 つのAI ソリューションやサービスをプロダクト化している(図表1)。
1) demand insight
需要予測が困難、製品数が多すぎて管理が難しい、欠品と滞留の連続といった課題を抱える顧客に対して機械学習を用いた需要予測、在庫最適化、発注自動化のAI ソリューションを提供している。
2) response insight
ダイレクトメールやカタログ送付などのマーケティング手法についてAI を活用してターゲティングすることで、より高い精度や生産性を実現するソリューションを提供している。
3) home insight
電力のスマートメーターから取得可能なデータを用いて、二つの社会的課題に取り組んでいる。
ひとつは、「フレイル」という虚弱状態(健康な状態と要介護状態の中間に位置)を検知・予測するという同社保有の特許技術を活用して中部電力(9502東証一部)と共同でサービスを開発している。中長期的には、幅広い業界の主要プレーヤーと協業して介護・ヘルスケア領域の様々な課題の解決を目指している。
もうひとつは、在宅か否かを検知・予測し物流の配送ルートの最適化につなげるという同社の保有特許技術を活用して大手運送会社と共同で不在配送比率引き下げプロジェクトに取り組んでいる。
4) learning insight
問題やヒント提示を生徒の学習に合わせて最適化して提供するアダプティブラーニング注6のシステム及びアプリケーションの開発を行っている。大手予備校を運営する学校法人駿河大学園(東京都千代田区)が主要顧客である。教育以外にも社内研修の効率化といったニーズに対応してゆく考えである。
5) sales insight
製薬会社のMR向けにe-Detail注7システムをfrontconnectというサービス名で提供している。新型コロナウイルス感染症が拡大するなか、同サービスへのニーズが高まっており、複数の日系・外資系の大手製薬会社での導入が進んでいる。
6) maintenance insight
家電製品、製造装置の運転や太陽光発電の稼働の状況など、様々な領域における運転や稼働の状態を時系列データをもとに解析し、AIアルゴリズムを用いて異常が発生する確率や頻度を予測するソリューションを提供している。
7) Wodom!
社内に散在するデータを集積し、AIや機械学習の活用が可能な形でデータ基盤を構築するソリューションを提供している。同社のinsightシリーズを導入する前段階で、データが整備されておらず、データに基づく経営判断ができていないケースで、このデータ基盤構築サービスが活用される事例が増えている。
◆ 主要顧客に対する高い売上依存度
同社は、各業界を代表する大手企業をJoint R&D(共同開発)パートナーと位置付け、パートナーシップを組みながら共同でAIソリューションを開発し、産業内に横展開している。このため特定顧客に対する売上依存度が高くなる傾向がある(図表2)。
21/6期の売上高の29.8%を占める駿河台学園とはlearning insightを開発しており、横展開先としては駿河台学園グループに属し、eラーニングやIT教育による社員研修などを行うエスエイティーティーがある。この他、maintenance insightのJoint R&Dパートナーであるダイキン工業(6367東証一部)、demand insightのJoint R&Dパートナーであり、イオングループのプライベートブランド「トップバリュ」を開発するイオントップバリュ向けの売上高が21/6期売上高の各々13.2%、10.8%と高い比率を占めている。
◆ 費用の中心は製造原価の労務費、業務委託料と販管費の給与手当
21/6期実績では原価率46.6%、販管費率が49.9%、営業利益率は3.5%であった。売上原価明細書によれば21/6期の製造費用579百万円の内、労務費が250百万円(売上比23.0%)、業務委託料が263百万円(同24.2%)となっている(期末の在庫に振り替えられる分があり、全てが売上原価とはならない)。労務費は固定費的要素が強いが、業務委託については顧客企業へ実装する際にフリーランスのエンジニアが活用される場合が多く、費用としては変動費の要素が強い。
また、販売費及び一般管理費(以下、販管費)543百万円のうち給料手当が184百万円(売上比16.9%)となっている。この他では研究開発費75百万円(同6.9%)、採用費44百万円(同4.0%)が主な費目として開示されている。
同社は設立後3年が経過したばかりで、事業の拡大期にあたるため、事業部門、管理部門ともに先行的な人材採用や、研究開発投資を活発化する可能性が高く、今後費用の支出額が大きく増加する可能性がある点には留意が必要である。