サインド<4256> サブスクプリクションモデルと効率的な事業運営により、高い成長性と収益性を誇る

2021/12/28

理美容店舗向けクラウド型予約管理システム「ビューティーメリット」を提供
サブスクプリクションモデルと効率的な事業運営により、高い成長性と収益性を誇る

業種: 情報・通信業
アナリスト: 大間知 淳

◆ 理美容店舗向けクラウド型予約管理システムを提供
サインド(以下、同社)は、ヘアサロン、ネイルサロン、エステサロン、リラクゼーションサロン、アイサロン(アイブロウとまつ毛の専門サロン、アイビューティー)等の理美容店舗に対して、店舗と顧客のつながりをサポートする、クラウド型予約管理システム「BeautyMerit(以下、ビューティーメリット)」をサブスクリプション(月額課金)サービスとして提供している。

ビューティーメリットは、「顧客と時間の価値を最大化」というプロダクトポリシーの下、理美容店舗に対して、集客から予約、施術、会計、アフターフォロー、データ分析に至るまでを一気通貫で支援するサービスである。同社は、店舗と顧客のつながりに対して、最適な顧客体験(CX注1)の構築とデジタルトランスフォーメーション(DX注2)を支援することを目指している。

同社は、理美容店舗が自店の公式iOSアプリ・Androidアプリを作成できるクラウド型サービスであるビューティーメリットの提供を12年5月に開始した。継続的な機能の追加と営業体制の強化等により、ビューティーメリットは21年10月末時点で5,600店以上に導入されている。

ビューティーメリットの主な特徴としては以下の点が挙げられる。

1)店舗と顧客のつながりを構築するスマートフォンアプリ
理美容店舗に来店した顧客に、iPhoneのApp StoreやAndroidのPlayストアから、ビューティーメリットを通じて作成された理美容店舗の公式アプリのダウンロードを働きかけ、会員登録をしてもらうことで、顧客に対して様々なサービスを提供することが可能となっている。

具体的には、店舗情報の掲載や24時間利用可能な予約機能、マイページ機能による予約履歴の確認、店舗独自に設定できるポイント・ランク機能によるリピーター化支援、トーク機能を活用したアフターフォロー、インターネットによる商品販売等のEC機能、日々蓄積される顧客データを活用したクーポン配信やプッシュ通知等による来店促進等の販促機能等を備えている。

2)一元管理(サイトコントローラー)による予約管理の自動化
消費者向けサービスを提供する様々な業界において、ネット予約が急速に普及する中、理美容業界においても新規顧客の獲得支援を目的とした集客サイトがネット予約機能を搭載した集客支援を行っている。しかし、複数の集客サイトを利用する理美容店舗が各集客サイトの情報を管理するには、それぞれの管理画面から予約情報や店舗スタッフのシフト情報を更新する必要があり、多くの業務負担が発生していた。同社は、14年1月、複数の集客サイトの予約管理を自動化する一元管理(サイトコントローラー)機能の提供をビューティーメリットにおいて開始し、顧客である理美容店舗の負担を大幅に軽減した。21年10月末で11の集客サイトと連携している。

また、ビューティーメリットは、POSシステムとも連携する機能を備えている。同機能により、会計時におけるPOSシステムへの予約情報の入力作業が自動化され、会計業務の大幅削減が可能となっている。21年10月末で11社のPOSシステムと連携している。

3)SNSを活用した集客をサポートするWeb予約機能
近年、消費者が店舗を選ぶ際、理美容店舗のスタッフがソーシャルメディア等で発信する情報の重要性が増している。理美容店舗は、ビューティーメリットのWeb予約機能を活用することで、ソーシャルメディア等で集客した潜在顧客をオンライン上でスムーズに予約まで誘導できる。また、LINE上に予約の窓口を開設できる「LINEミニアプリ」や、Google検索やGoogleマップから直接ネット予約が可能な「Googleで予約」にも対応している。

4)会計業務の効率化やノーショー(No Show)対策を実現する決済機能
同社は、顧客がネット予約時にクレジットカード情報を登録することで、施術終了後に登録情報から決済を行える「BeautyMerit Pay」という決済機能を提供している。理美容店舗は、同機能を導入することで、会計業務の効率化が期待できる。また、予約したにも関わらず来店しないという、いわゆるノーショー(No Show)が業界の問題となる中、同機能の導入により、店舗が設定したキャンセル規定に基づき、キャンセル料を徴収することが可能となっている。

5)業界特有の課題に対応したEC機能
同社は、理美容店舗で販売されている商品をスマートフォンアプリ上で販売できるEC 機能を提供している。理美容店舗では来店顧客に対して対面に よる商品販売を行っているが、シャンプー等の消耗品の購入周期と顧客の 来店周期は必ずしも一致しないため、機会損失が発生している。

一部の理美容チェーンでは、EC 販売を行っているものの、少人数で運営されている多くの理美容店舗では、発送業務に対応することが困難であるため、EC販売を実施できていない。同社では、理美容店舗に対して美容商材を販売する理美容ディーラー等の理美容関連事業者と提携し、EC 販売における梱包・発送業務を請け負うことで、小規模な理美容店舗にもEC 販売に取り組める環境を提供している。

6)店舗の経営指標を自動で可視化するデータ分析
ビューティーメリットでは、集客サイトやPOS システムの管理を自動化する一元管理(サイトコントローラー)機能を活用して、予約経路別の売上高やキャンセル率等を可視化するデータ分析機能を提供しており、店舗経営を支援している。また、顧客の施術情報や接客情報をクラウド上で管理できるカルテ機能も備えており、カルテの有効活用を通じた顧客満足度の向上を支援している。

同社は、本社(東京都品川区)と、営業所(大阪市中央区及び福岡市中央区)に営業拠点を構え、都心部を中心とした直販営業を行っている。理美容業界は横のつながりが強いため、口コミで多くの顧客を開拓しており、広告宣伝費の支出は少ない。また、代理店パートナーとなっている理美容関連事業者からは顧客紹介を受けている。結果、同社の従業員数は21 年10 月末時点で63 名と小規模ながら、理美容店舗の顧客は全国に広がっている。

ビューティーメリットは、クラウド形態で契約店舗にサービスを提供している。契約店舗からは、初期導入売上(契約時のフロー型収入)と、月額料金であるサブスクプリプション売上(利用期間中のストック型収入)を受領している。複数店舗を運営する法人にとっては、初期導入売上、月額料金共に、利用店舗数が増えるほど1 店当たりの料金が段階的に低減する料金体系となっている。また、同社は、必要最低限の機能を備えた「エントリープラン」、EC 機能等の様々な基本機能を利用できる「ベーシックプラン」、英語・中国語によるWeb 予約等の先端機能を搭載した「アドバンスプラン」の3 プランを用意しており、プランの内容に応じた月額料金を受領している。

同社は、継続的なサービス提供を前提としているが、利用期間において店舗の満足度を高めることが契約継続のために重要と認識している。店舗の満足度の向上が実現できている結果、同社は、長期利用の店舗が増加し、継続的に収益が積み上がっていくストック型の収益構造となっている。21/3 期のサブスクプリプション売上比率は77.3%であった。

同社は、顧客満足度を高めることを重視した組織運営を行っている。顧客との契約及びビューティーメリットの導入は、代理店パートナーからの紹介案件を含めて、全て同社社員が行っている。利用開始後は、営業やカスタマーサポートを通じた店舗に対する丁寧な運用支援を行うほか、蓄積されたノウハウを基に、店舗の状況に合わせた使い方を提案し、解約率の抑制とNRR注3の向上を目指している。実際、20/3期末時点の既存店舗を対象として、「21/3期サブスクプリプション売上÷20/3期サブスクプリプション売上」の計算式によって算出されたNRRは112.4%となっており、既存店舗との取引拡大が実現できている。

また、営業やカスタマーサポートを通じて収集した店舗のニーズや課題は、開発部門にフィードバックされ、同社が集計・分析したデータと共に、サービスの改善に活かされている。同社は、開発、営業、カスタマーサポートが一体となって、こうした一連の改善サイクルを繰り返している。

同社は、KPIとして、契約店舗数、ARPU(Average Revenue Per User、1有料課金店舗当たりの平均月額単価)、カスタマーチャーンレート、ARR(Annual Recurring Revenue)を挙げており、17/3期末以降の年度末月と22/3期第2四半期累計期間(以下、上期)末月の数値を開示している(図表1)。カスタマーチャーンレートとは直近12カ月の平均月次解約率である。ARRとは各期末の月次サブスクプリプション売上を12倍して年換算したものである。

17/3期末から19/3期末までは、エントリープランだけを提供していたため、ARPUがほぼ横ばいで推移したが、契約店舗数の拡大がARRの増加に繋がった。エントリープランよりも単価が高いベーシックプランとアドバンスプランの追加に伴い、19/3期末から21/3期末かけては、契約店舗数の増加にARPUの上昇が加わり、ARRが更に増加した。

22/3期上期末においては、契約店舗数の急増に伴い、ARRが大幅に増加した。契約店舗数の増加には大手チェーン店との契約によるものが含まれていたが、当該契約の1 店舗当たりの月額料金は21/3 期のARPU を下回る水準であったため、22/3 期上期末のARPU は前期末比で低下した。

◆ 22 年3 月期上期売上高の約9 割がサブスクプリクション売上
同社の顧客は、ビューティーメリットのサービス提供先である理美容店舗と、ビューティーメリットとの連携の対価として連携手数料を受領するサービスパートナー(集客サイトやPOS システム会社等)に大別される。理美容店舗からの売上高は、主として、ビューティーメリットの利用契約を締結した際に受領する初期導入売上と、利用期間に亘って月額課金方式で受領するサブスクプリクション売上によって構成されている。また、理美容店舗がビューティーメリットのEC 機能を利用して物品を販売した場合は、当該EC 売上に対する決済手数料を徴収している。

ビューティーメリットの契約店舗数は21 年10 月末時点で5,600 店以上となっているが、過半の事業者とは1 店のみの契約である。契約店舗のうち、約7 割がヘアサロンであり、ネイルサロン等のヘアサロン以外が約3 割である。売上高の1 割を超える顧客は存在していないが、中には数十店舗以上をチェーン展開する事業者とも契約している。ビューティーメリットの主要顧客としては、シーボン(4926 東証一部)、資生堂(4911 東証一部)の連結子会社である資生堂美容室、ヘッドライト(東京都港区)、アースホールディングス(東京都渋谷区)等が挙げられる。

同社によれば、ビューティーメリットは、21 年10 月末時点で、美容師版「ミシュランガイド」と言われる「カミカリスマ 東京2021」掲載店舗の39.1%に利用されているほか、矢野経済研究所が発表した「理美容サロンマーケティング総鑑2021 年度版」の理美容市場の売上高上位40 社(18 年度~20 年度) のうち、11 社に導入されている。

同社は、理美容ソリューション事業の単一セグメントであるが、22/3 期上期においては課金形態別の売上高を開示している。22/3 期上期の課金形態別売上高構成比は、サブスクプリクション売上88.3%、初期導入売上6.2%、その他(サービスパートナーからの連携手数料、EC 売上に対する決済手数料等)5.5%となっている(図表2)。

◆ 原価率の低さが要因となり、営業利益率等は高水準を確保
同社の21/3期の原価率は16.9%であり、極めて低い水準にある。売上原価は開発部門の技術者の給与等である労務費(固定費)と経費で構成されている。経費は、ビューティーメリットのサービス提供に係るサーバ費用(固定費及び変動費)のほか、地代家賃、支払手数料等が含まれている。原価率を分解すると、売上高労務費率が11.6%、売上高経費率が5.3%であった。

販売費及び一般管理費(以下、販管費)は、役員報酬、給料及び手当(対象部門は営業、カスタマーサポート、管理)等の固定費と代理店手数料(変動費)等によって構成されている。代理店手数料は、代理店パートナーがビューティーメリットの顧客を同社に紹介し、同社が顧客と契約した場合に、顧客から受領する初期費用及び月額利用料の金額に応じて支払われている。なお、広告宣伝費の金額は少額であるため、開示対象となっていない。

21/3期の売上高に対する比率は、給料及び手当が18.9%、役員報酬が7.9%、代理店手数料が6.6%であった。販管費率は59.6%に達しているが、原価率の低さが要因となり、営業利益率は23.5%と高水準を確保している。また、総資産回転率は1.8回と良好な数値となっている。結果、総資産経常利益率は42.0%、自己資本利益率は47.3%と、資産利益率も極めて高い水準を誇っている。

一般社団法人 証券リサーチセンター
ホリスティック企業レポート   一般社団法人 証券リサーチセンター
資本市場のエンジンである新興市場の企業情報の拡充を目的に、アナリスト・カバーが少なく、適正に評価されていない上場企業に対して、中立的な視点での調査・分析を通じ、作成されたレポートです。

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