ラストワンマイル<9252> 自社サービスの増加によるストックビジネス化と収益安定化の進捗に注目

2021/11/30

新生活マーケットに特化して生活関連インフラサービスを提供
自社サービスの増加によるストックビジネス化と収益安定化の進捗に注目

業種: サービス業
アナリスト: 藤野 敬太

◆ 引越し等の新生活マーケットに特化してアプローチする
生活インフラサービス提供事業者

ラストワンマイル(以下、同社)は、電気、ガス、宅配水、インターネット回線等の生活インフラサービスの一括手配を行っている。最大の特徴は、引越し等の生活環境が変化するタイミングで発生する需要に関連する市場を「新生活マーケット」と定義し、この新生活マーケットに特化していることである。同社の「引越しワンストップサービスまるっとチェンジ(以下、まるっとチェンジ)」を利用すると、引越し先で新生活を開始する際に必要なサービスの契約を、電話1本ですべて代行してもらうことができ、契約のための煩雑な手続きから解放される。

同社の事業は、ラストワンマイル事業の単一セグメントだが、提供するサービスの収益モデルの違いにより、ストック型売上とフロー型売上に分類されている(図表1)。フロー型売上の増減により全体の売上高も増減しているが、ストック型売上は着実に増加を続けており、20/11期の売上構成比も36.0%まで上昇してきている。

◆ 「四方よし」の引越しワンストップサービス「まるっとチェンジ」
同社が着目したのは、引っ越しという、複数のサービスの契約が行われるタイミングである。当然、多くのサービス提供事業者も、ユーザーの引っ越しのタイミングを販売機会と捉えている。しかし、他のサービス提供事業者は、インターネット回線ならインターネット回線という個別のサービスを提供する場合が多く、他社との差別化が図りづらく、競争が激しい。

こうした市場の状況に対し、同社が提供するのが、引っ越し先で新生活を開始する際に必要なサービスの契約を、電話1本ですべて代行する「まるっとチェンジ」である。これにより、エンドユーザーは、複数のライフラインサービスの契約のための煩雑な手続きから解放される。

「まるっとチェンジ」では、エンドユーザーの集客は、引越し先の物件を紹介する不動産企業等によるところが多い。アフターサービスをオプションでつけることで、不動産企業はエンドユーザーに対する利便性を高める事が可能な上に、紹介手数料を得ることができる。また、生活インフラサービスの提供事業者にとっては、「まるっとチェンジ」が、引越し需要があるエンドユーザーに対する販売チャネルとなる。

このように、「まるっとチェンジ」は、新生活を開始するエンドユーザーだけでなく、不動産企業等の紹介元、サービス提供事業者にとってもメリットがあり、同社も含めて「四方よし」のサービスに仕上がっている。

◆ 提携企業からの紹介とインサイドセールス
同社では、エンドユーザーの紹介元を提携企業と位置づけている。現在は、引越し先の物件を手配する不動産企業を中心に、ハウスメーカー、引越し業者、家賃保証やかけつけサービス提供事業者等、3,700社以上と連携している。

こうした提携企業からの紹介に対して、同社のインサイドセールス部門がエンドユーザーに電話で対応し、エンドユーザーが必要とするサービスの契約を進めていく。インサイドセールスセンターは、本社がある東京・池袋、仙台、博多の3カ所あり、合計約400席の規模となっている。

同社では、提携企業からの紹介件数(連携顧客数)と、新規販売件数(サービス流通数)を重要業績指標としている(図表2)。20/11期においては、260,795件の紹介件数に対し、126,890件のサービスを新規に提供した。

◆ 提供するサービス
「まるっとチェンジ」で取り扱っているサービスは、電気、ガス、インターネット回線等多岐にわたるが、大別すると2つに分類される。

ひとつは、サービス提供事業者のブランドでそのまま提供する取次サービスである。現在、100種類以上のサービスを取り扱っている。取次サービスの場合、同社の収益は販売手数料となるため、売上総利益率は100%である。売上総利益率は高いが、サービス契約時の1度きりの単発収益となる。この取次サービスが上述のフロー型売上を構成している。

もうひとつは、他社のサービスを自社ブランドとして提供する自社サービスである。現在、「まるっとシリーズ」のブランドで、7種類の自社サービスを提供している。自社サービスの場合、同社の収益はユーザーから支払われる利用料だが、サービス提供事業者に対する仕入原価が発生するため、売上総利益率は取次サービスより低くなる。ただし、ユーザーが利用している期間にわたって継続的に収益が得られるため、同じようなサービスであれば、他社ブランドの取次サービスによる単発収益に比べて、収益合計、すなわち顧客生涯価値は大きくなる。この自社サービスが、上述のストック型売上を構成している。

利用期間にわたって収益が計上されるため、自社サービスにおいては、保有契約数が重要経営指標となる(図表3)。保有契約数は20/11 期末に51,393 件、21/11 期第3 四半期末に63,302 件となっており、増加が続いている。また、自社サービスがもたらすストック売上を期中平均保有契約数で除して算出される1 契約当たり売上高は、20/11 期は60,972 円となり、顧客単価も上昇している。また、解約率も20/11 期平均で1.7%に抑えられている。

◆ エンドユーザーを囲い込む仕組み
自社サービスを利用するエンドユーザーのために、同社は自社開発のアプリ「まるっとポータル」を運用している。このアプリでは、「まるっとシリーズ」の月々の明細を一括管理できる仕様になっており、決済ポータルとしての機能を有している。さらに、未契約サービスも追加できるため、サービスのクロスセルのためのツールにもなっている。

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資本市場のエンジンである新興市場の企業情報の拡充を目的に、アナリスト・カバーが少なく、適正に評価されていない上場企業に対して、中立的な視点での調査・分析を通じ、作成されたレポートです。