Photosynth<4379> 大企業を含めた導入実績数とハードウェア・ソフトウェアの技術力に強み

2021/11/09

オフィス向けのクラウド型入退室管理システムに関する事業を主に展開
大企業を含めた導入実績数とハードウェア・ソフトウェアの技術力に強み

業種: 情報・通信業
アナリスト: 阪東 広太郎

◆クラウド型の入退室管理システムに関する事業を展開
Photosynth(以下、同社)グループは、同社及び連結子会社 1 社(MIWA Akerun Technologies)で構成されており、スマートロック注 1 等のエッジ端末注 2 による個人認証とセキュリティを主軸としたサービスをオフィス向け、住宅向 けに提供する「Akerun 事業」を展開している。同社グループは「Akerun 事 業」の単一セグメントである。21/12 期第 2 四半期累計期間(以下、上期)に おける売上のほとんどが法人オフィス向けである。

◆ オフィス領域における Akerun 事業
(1)製品・サービス内容
同社の中核サービスである法人向け「Akerun 入退室管理システム」は、鍵 の物理的開閉やデータ通信などを担うハードウェアと、認証・鍵権限の管 理・履歴の閲覧などを行うスマートデバイス向けアプリケーション及びWeb ア プリケーション等のソフトウェアで構成されている。

「Akerun 入退室管理システム」で提供されるハードェアには、サムターン錠注 3 に対応する「Akerun Pro」と、電気錠注 4 や自動ドア、フラッパーゲート等の 電気制御の扉に対応する「Akerun コントローラー」がある。21/12 期上期の 売上高の約 9 割を「Akerun Pro」が占めている。

「Akerun Pro」は、工事無しで既存の扉に後付け可能なスマートロックである。 扉の既存のサムターン錠に設置するだけで、取り付け工事不要、初期費用 0 円で導入できるため、従来の入退室管理システムと比較して導入にかかる 工数や費用を大きく低減しており、顧客は最短で 3 日で導入することが可能 である。

「Akerun コントローラー」は、既存の自動ドアや電磁錠などの電気錠に後付 けで導入でき、簡易的な工事のみで導入・運用できるハードウェアである。

同社によると、「Akerun Pro」は築年数が古く、比較的小型のオフィスビル、 「Akerun コントローラー」は築年数が新しく、大型のオフィスビルにそれぞれ 導入されるケースが多いようである。

「Akerun Pro」及び「Akerun コントローラー」に共通のハードウェアとして、IC カードリーダーも付帯している。IC カードリーダーを活用することで、ユーザ ーが日常的に利用している交通系 IC カードや社員証、ビル入館カードなど FeliCa 注 5及び Mifare 注 6の各規格に対応する IC カードによる認証を通じた 施錠・解錠が可能である。

「Akerun Pro」や「Akerun コントーラー」のハードウェアは顧客にレンタル提 供しており、顧客の解約後、機器の製造元にて点検・部品交換などをしたう えで、他の顧客に提供している。同社によると、ハードウェアの減価償却期 間は 5 年だが、ドアの開閉回数などの利用状況にもよるが、7 年程度は利用 可能としている。

「Akerun 入退室管理システム」は、Web 管理ツールによる鍵権限の設定、シ ステムから取得するデータの利活用、API 注 7 による外部システムとの連携と いう 3 つの機能を提供している。

Web 管理ツールによる鍵権限の設定に関しては、オフィスのセキュリティ担 当者が、ユーザーごとの要件に応じた入退室権限を設定できるなど、ニー ズに合わせた柔軟な鍵権限の運用が可能である。

システムから取得するデータの利活用に関しては、ユーザーの利用履歴を 永続的に保持することが可能であり、ユーザー動静の把握・確認や貸し会 議室等のサービス利用のエビデンスとしての活用などが可能である。

API による外部システムとの連携により、外部システムからの入退室履歴な どの各種情報の取得や遠隔での解錠・施錠などの操作などが可能になる。 また、ユーザーのシステムやサービスと「Akerun 入退室管理システム」の連 携や、外部パートナー企業の勤怠管理システム、生体認証などの認証シス テム、会員管理システム、決済システムなどとの連携が可能である。

(2)収益モデル
同社は顧客が「Akerun 入退室管理システム」を使用する期間にわたって月 次使用料を受け取る。月次使用料の定価は、1 扉当たり 17,500 円(税抜)で あり、契約期間や導入する扉の数に応じて変動する。月次使用料には、ハードウェアとソフトウェアの使用料に加えて、「Akerun Pro」や「Akerun コント ローラー」の交換用電池の費用も含まれている。導入費用は、原則として受 け取らないが、「Akerun コントローラー」の設置工事業者や IC カードの手配 を顧客から依頼された際には、それらの代金を顧客より受け取る。21/12 期 上期の売上高の約 9 割が月次使用料である。契約期間は、1 カ月と 1 年間 の 2 種類があり、どちらも自動更新条項が付いている。

(3)顧客構成と獲得経路・サービス利用の状況
21 年 3 月末時点で「Akerun 入退室管理システム」の契約社数は 3,700 社、 登録アカウント数は 91 万ユーザーである。同社によると、「Akerun 入退室管 理システム」の顧客構成は、中小企業が約 8 割、大企業が約 2 割で、特定 の業種への偏りはない。東京都の顧客が約 6 割を占めている。

新規顧客の獲得経路は、顧客からの問い合わせが約 5 割、販売パートナー からの紹介が約 2 割、大企業への直接営業が約 2 割、販売代理店経由が 約 1 割であり、プル型営業が中心である。

顧客からの問い合わせは、中小企業の総務部門や情報システム部門による ものが大半である。オフィス移転等をきっかけに、入退室管理システムの導 入を検討する際に、インターネット検索などを通して、同社を見つけ、資料 請求や見積りの問い合わせをしている。問い合わせを受けた後、同社のイ ンサイドセールスが電話・Web で契約を締結している。

契約締結後、同社のロジスティクス・センターより、顧客のオフィスにハードウ ェアが配送され、「Akerun Pro」については顧客自身、「Akerun コントローラ ー」については工事事業者が取り付けを行う。ソフトウェアの設定は顧客自 身で行うが、必要に応じて、同社のカスタマーサクセス部門に、Web や電話 で、不明点の確認やサポートを原則無料で依頼することが可能である。導 入後、使用状況は同社でモニターされており、電池の交換タイミングも同社 で察知し、交換用電池を顧客に送付し、顧客自身で交換する。

顧客当たりの導入扉数は、中小企業で平均 2 枚、大手企業で同 5 枚であ る。同社によると、中小企業では、執務室の入り口といった多くの人が利用 する扉や、サーバールームや役員室といった利用者は少ないが高いセキュ リティが求められる扉に設置されるケースが多いようである。

1 社当たりの月次使用料の平均値である ARPU 注 8は、16/12 期の 11,847 円 から、月次使用料の値上げや、既存顧客の導入扉数の増加などによって、 20/12 期には 29,059 円へと増加している。

前月の月次使用料に対する、当月の月次使用料の解約金額の割合である チャーンレートは、顧客の「Akerun 入退室管理システム」導入時のサポート強化や年間契約を促すといった様々な施策の積み上げによって、17/12 期 上期の 1.88%から 21/12 期上期には 1.67%に低減している。解約の理由と しては、顧客のオフィス移転や、事業縮小・撤退、倒産などが多いようである。

◆ 住宅領域における Akerun 事業
同社は住宅領域における事業展開に向けて、建築用錠前の提供で国内大 手の美和ロック(東京都港区)と合弁で MIWA Akerun Technologies を 21 年 1 月に設立した。出資比率は同社が 51%、美和ロックが 49%である。同社は 住宅向けサービスの基盤となるクラウド上の認証基盤及びスマートデバイス 向けアプリケーションの開発、美和ロックは Akerun と連携する住宅向けスマ ートロックの開発と提供、そして MIWA Akerun Technologies が住宅向けの サービスの開発と提供をそれぞれ担う。

MIWAAkerun Technologies は、9 月末に最初の製品となる「Akerun.M(アケ ルン・ドット・エム)」を発表した。「Akerun.M」のスマートフォンアプリを活用す ることで、集合住宅などに既に導入されている美和ロック製のスマートロック を、追加の機器導入無く開ける事が可能となる。「Akerun.M」によって、賃貸 物件の内見・修繕における不動産管理会社の立ち合いや鍵の貸し出しの 手間を無くすことなどが可能となる。

◆ サービスの提供体制
同社グループの従業員の配置は、営業が約 4 割、ソフトウェア及びハードウ ェア開発が約 3 割、物流やカスタマーサクセスを含む本社部門が約 3 割で ある。

同社グループは、東京だけでなく他の大都市圏における法人顧客の獲得 を加速するために、19 年 6 月に大阪市、20 年 6 月に福岡市、21 年 8 月に 名古屋市にオフィスを設立している。主に、各地の販売パートナーの開拓と、 販売パートナー経由での顧客獲得を担っている。

ハードウェア製品の在庫管理・入出荷管理については、販売量の拡大を受 けて、20 年 10 月に東京都港区にロジスティクス・センターを設立し、完全内 製化をしている。ハードウェアの製造については、同社は製造工場を持た ず外部に委託している。

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