Geolocation Technology<4018> 効果的なウェブマーケティングを実現するサービスや不正アクセスを防止するサービスを開発・提供
インターネットユーザーの位置情報などを活用して、効果的なウェブマーケティング
を実現するサービスや不正アクセスを防止するサービスを開発・提供
業種: 情報・通信業
アナリスト: 髙木 伸行
◆ データベース「SURFPOINT™」を利用したサービスを提供
Geolocation Technology(以下、同社)は、IP アドレス注 1 を活用したデータベ ース「SURFPOINT™」を構築し、その運営及び利用による各種サービスの 提供を行う IP Geolocation 事業と IP アドレス売買の仲介を行う IP アドレス移 転事業を行っている(図表 1)。なお、同社は TOKYO PRO Market に上場し ていたが、Q-Board への新規上場の前日である 9 月 12 日付で TOKYO PRO Market については上場廃止となった。
IP Geolocation 事業が 21/6 期の売上高の 94.8%、IP アドレス移転事業が同 5.2%を占めているが、営業利益については IP Geolocation 事業が 53.3%を 占める一方で、IP アドレス移転事業は 46.7%を占めており、売上貢献に比し て IP アドレス移転事業の利益貢献度は高い。
◆ IP Geolocation 事業
同社は独自のデータベース「SURFPOINT™」を維持管理しており、このデ ータベースに基づき顧客企業のサイト閲覧者の属性に合う各種サービスを SaaS 注 2 や API 注 3 で提供している。
「SURFPOINT™」は約 43 億個の IPv4 注 4 アドレスをカバーするデータベー スで、IP アドレスに位置情報、組織属性、回線情報、気象情報など 100種類 以上のデータを組み合わせたものである(図表 2)。IP アドレスを活用した位 置情報を扱う技術である IP Geolocation を始めとした IP アドレスデータを活 用したテクノロジーを実現するためのベースとなっている。
ネットワーク環境を熟知した同社の 7 名の専門調査員が情報の分析や検証 を行い、より正確なデータを「SURFPOINT™」に反映している。この作業を 毎日繰り返すことで「SURFPOINT™」の精度を保っている。人手に頼る作業 ではあるが機械化が進んでいることと、約 700 社に及ぶ同社の顧客企業か らのフィードバックを有効に活用できる仕組み注 5 を確立したことにより、メン テナンス効率が高まり、当初に比べて大幅に少ない人員で対応できている.
(1)提供するサービス
「SURFPOINT™」をベースとして提供しているサービスは、1)エリアターゲ ティング、2)企業分析、3)不正アクセス防止・セキュリティ対応、4)インター ネット広告プラットフォームの提供に分類される。
1) エリアターゲティング
ウェブサイトの閲覧者の位置情報を把握する IP Geolocation 技術を土台とし たサービスで、顧客のニーズに応じて、アクセスユーザーの位置情報を判 定し、ウェブサイト上のコンテンツを切り替えたり、インターネット広告の配信 対象を絞りこんだりすることでアクセスユーザーごとに最適な情報を発信す ることを可能にするサービスである。閲覧者のウェブサイトからの離脱を防ぎ、効果的な販売促進のためのウェブ サイト作りに貢献するツールとして提供している。
2) 企業分析
ウェブサイト閲覧者が属する企業や団体の業種、規模や場合によっては企 業名を判別し、効果的なマーケティングを行えるようにするためのデータを 顧客に提供している。また、国内外の主要なマーケティングオートメーション ツールとの連携が可能で、「SURFPOINT™」を搭載した同社のアプリケーシ ョンである「どこどこ JP」によって連携先の機能を補って法人名、組織 URL、 業種、従業員数などの分析軸を付加することが可能である。
3) 不正アクセス防止・セキュリティ対応
インターネット上のなりすましや不正などの詐欺行為を検出することにより、 不正アクセスから顧客のアカウントを守る機能を提供している。また、ウェブ サイトへのアクセスが正しい権利を持ったユーザーからのものかを判別し配 信管理を行うことを可能にする。金融機関、コンテンツ配信事業者などが顧 客となっている。
4) インターネット広告プラットフォームの提供
IP アドレスの活用によって閲覧者の選別、絞り込みが可能な配信サービス である「どこどこ ad」プラットフォームを提供している。「どこどこ ad」のプラット フォームは「SURFPOINT™」を利用することにより、業種、規模、従業員数、 社名といった企業属性、気温、天気といった気象情報、利用されている回 線、都道府県・市区町村、特定の Wi-Fi スポットのユーザーといった切り口 で選択したサイトの閲覧者に対してバナー広告を配信するものである。
(2)アプリケーション
同社は上述したサービスを顧客企業が利用しやすくするために、同社の主 力である「どこどこ JP」や「らくらくログ解析」、「IP ひろば」、「どこどこ ad」とい った各種のアプリケーションを提供している(図表 3)。
課金形態はアプリケーションごとに異なり、「どこどこ JP」は最低料金プラス従 量課金、「らくらくログ解析」は分析するホームページのアクセス数に応じて 課金、「どこどこ ad」は広告の配信量に応じて課金、「IP ひろば」は基本無料 であるが、詳しい情報の取得については有料となる。
(3)web 制作・各種受託開発
web 制作・各種受託開発はホームページへのアクセスを解析する過程で、 コンサルティングサービスの提供やホームページの制作といった顧客の要 望に応えてきたことで生まれた事業である。地方自治体からの依頼も多く、 「独自の技術とのノウハウを開発し、地域社会にとって価値のある新しいイン ターネットサービスを提供する」という同社の企業理念を体現している事業と も言える。
地域再生、観光振興といった地域の売り込みや知名度の向上、さらには人 口流出を食い止め自治体の維持を目的とする「シティプロモーション」に取り 組む自治体が増えているが、その後方支援を同社が依頼されるケースが増 えてきている。同社の本社がある静岡県三島市との地方創生に関する包括 連携協定や静岡県内でのスタンプラリーのプロジェクトに参画したことでノウ ハウ蓄積しており、今後このノウハウを本格的に事業として他の地域へも展 開していく方針である。
◆ IP アドレス移転事業
法人や各種団体が保有しているが、利用されていない IP アドレスを必要と する企業などへ売却仲介を行うサービスを提供している。同事業はインター ネットサービスプロバイダーからの要望で開始した事業である。IP アドレスの 売り手は大企業や大学などの研究機関などで、買い手としてはインターネッ トサービスプロバイダーに加えて通信キャリアなどがある。同社は売り手と買 い手の両方から手数料を受け取り、売り手や買い手の紹介を受けた時には 紹介者へ紹介料を支払っている。
◆ 収益構造
IP Geolocation 事業はストック型収益とフロー型収益の両方で構成されてい る。売上高や売上構成比は開示されていないが、主力サービスである 「SURFPOINT™」、「どこどこ JP」、「らくらくログ解析」は月額課金型サービス であることからストック型収益、「どこどこad」、web制作・各種受託開発、IP ア ドレス移転事業はフロー型収益である。
IP アドレス移転事業は基本的には売り手市場であり、売り手の有無ならびに ひとつの案件の大小により仲介手数料収入が大きく左右されるため、収益 の安定性が低い事業と言える。
21/6 期の事業セグメント別の利益率は IP Geolocation 事業が 4.8%、IP アド レス移転事業が 77.5%となっている(図表 4)。売上原価項目としては、IP Geolocation 事業が開発要員の労務費や外部データの購入費に相当する 材料費、データセンター費といった負担が大きい一方、IP アドレス移転事業 では紹介手数料や労務費が主なもので負担が小さい点が、利益率の差の ひとつの要因となっている。なお、販売費及び一般管理費(以下、販管費) は、売上比に基づいて各セグメントに按分されている。
21/6 期の全体の販管費率は 58.1%であるが、売上高の拡大に伴い低下傾 向にある。販管費のなかの主要費目である役員報酬、給与及び手当は売 上比で各々11.5%、15.9%となり、販管費の各々19.7%、27.3%を占めてい る。