スパイダープラス<4192> 21年12月期はICT事業拡大に向けての正念場
建設業向け建築図面・現場管理アプリ「SPIDERPLUS」を開発・販売
21年12月期はICT事業拡大に向けての正念場
業種: 情報・通信業
アナリスト: 髙木 伸行
◆ ICT事業とエンジニアリング事業を展開
スパイダープラス(以下、同社)は熱絶縁工事会社として2000年2月に設立された。生産性改善に取り組む過程で、ITを活用する必要性を感じ、自社のみならず建設業界の生産性改善につながるICT注1事業を10年頃より開始した。11年9月に同社の主力となるSaaS注2型の建築図面・現場管理アプリ「SPIDERPLUS」をリリース、以来オプション機能を充実してきている。
同社はICT事業とエンジニアリング事業の二つから構成されており、20/12期の売上構成比はICT事業が75.2%、エンジニアリング事業が24.8%となっている(図表1)。
◆ ICT事業
建設業や電気・空調設備業の現場での生産性向上につながるSPIDERPLUSを中心としたサービスを提供している。
SPIDERPLUSはタブレットやスマートフォンで建設現場の図面のペーパーレス化を図るとともに、現場の写真や検査機器と連携してアプリの中へ計測
値を取り込むことができ業務の効率化を可能にする。現場のペーパーレス化につながり、クラウドで一元管理されるため事務所やチームメンバー同士での情報共有を促進し、長時間労働や人手不足が恒常的な問題となっている建設業の生産性向上をもたらすサービスである(図表2)。
現場監督は、現場からパソコンのある事務所に戻って情報を整理したり、大量の書類や図面を持ち歩かなければならないなど、非効率な動きが多くなる傾向がある。タブレットを利用することにより必要なデータをその場で確認・編集できるため事務作業の軽減や施工情報の共有も円滑になる。
また、建設現場では、職人のみでは判断できないケースが往々にして発生するが、現場監督に現場を確認してもらおうとすると規模が大きい工事現場では移動時間が増えてしまい、時間のロスにつながる。電話で指示を出すことは可能だが、正確に状況を把握しなければならない場合などには、タブレットのカメラと通話機能により、責任者が移動しなくても状況把握や作業指示を行うことができ、効率化につながるというメリットがある。
同社は熱絶縁工事会社としてスタートしており、建設業界のほんの一部分に通じているだけであることから、建設業界の各分野の企業の協力を得ながら開発し、SPIDERPLUS を使いやすいアプリケーションに仕上げてきた。11 年9 月にSPIDERPLUS をリリースして以来、図面管理、写真管理、報告書(帳票)作成、電子小黒板注3 といった最低限必要な機能を網羅した標準機能に加え、総合建設業、電気工事業、空調衛生設備業のユーザーと協業しながら現場の声を反映し、効率化につながる多くのオプション機能を開発してきた(図表3)。
SPIDERPLUSは月額利用料を受け取るサブスクリプションモデルである。標準機能のみなら1IDにつき月額3,000円、オプション機能については月額1,000円~2,500円となっている。この他、サーバーの初期設定費用と月額利用料を利用者が負担することになる(図表4)。
総合建設、電気工事、空調衛生設備、デベロッパー、不動産、プラントなどの分野において、20/12期末では793社で導入され、ID数は38,560となっている(図表5)。利用者の増加ペースは衰えず、足元ではID数は40,000を超えてきている。
販売経路は取次店経由がICT事業の売上高の7割程度を占めている。従業員数30名以上の建設会社をSPIDERPLUSの販売対象としていることから、煩雑な請求業務負担を肩代わりしてもらう目的もあり取次店を活用している。取次店からの紹介に対して同社の担当者が説明に出向き成約するという流れである。なお契約規模の大きい先については同社が直接対応する場合が多い。
サポート体制も充実しており、コロナ禍前には年間2,000回に及ぶ定期的な説明会やセミナー、顧客に合わせたテーマでの勉強会を行っていた。新型コロナ感染拡大後はオンラインに切り替え、更に、サポートセンターの専任スタッフが電話、メール、チャットにより問題解決に向けてサポートしている。
フォローアップ体制の強化は、解約防止並びに利用率を高めることにつながるとともに、オプション機能の追加を促すという効果をもたらしている。
20/12期の月次平均解約率注4は0.6%と非常に低い水準にある。解約する先は建設業界に所属する企業というよりは、大量の図面や写真を使用する企業がSPIDERPLUSの図面管理機能などに注目し、トライアル的に利用してみたが、意図した効果が得られなかったために解約するというケースが殆どとのことである。
同社によれば20ID以上利用している建設関連企業での解約はないとのことである。顧客先でのID数の増加とオプション機能の利用が進んでいることから、20/12期の既存顧客のNRR注5は145%となっている。いずれの数値などからも顧客の高い満足度が伺える。
◆ エンジニアリング事業
同社の創業時からの事業で、熱を使うビルや工場などでエネルギー効率を高めるために装置や配管に断熱材を取り付ける熱絶縁工事を主に行っている。
ガラス繊維でできたグラスウールなどの熱断熱材の他に、独立気泡ニトリル系合成ゴム断熱材である「アーマフレックス」も取り扱っている。アーマフレックスには難燃性、耐湿性や圧縮負荷がかかっても変形しにくい、繊維の風散、飛散がなく人体に吸い込む恐れがない、フロンを使用していないので環境にやさしいといった特徴がある。
同社はルクセンブルグに本拠地を置く保温・吸音用弾性断熱材メーカーであるアーマセル社の認定工事店として20年近い施工実績がある。このため、配管工事や空調衛生工事会社のみならず、同業他社からの依頼も多い。
エンジニアリング事業の役割は単に売上高を確保するというものではなく、建設現場に直接従事しているため、現場情報を把握し、且つ現場での業務改善ニーズの発掘にある。ここで得た情報をICT事業と共有することでSPIDERPLUSの進化つなげることがエンジニアリング事業の重要なミッションとなっている。