ニューラルポケット<4056> 端末処理技術を活用したサービスを展開

2020/08/24

独自開発のAIアルゴリズムによる画像・動画解析技術と端末処理技術を活用
したサービスを展開

業種: 情報・通信業
アナリスト: 阪東 広太郎

◆ 人工知能(AI)と端末処理技術を活用したサービスを展開
ニューラルポケット(以下、同社)は、独自開発のAIアルゴリズム注1による画像・動画解析とエッジコンピューティング技術を活用したサービスを提供するAIエンジニアリング事業を行っている。同社は、売上構成比は公表されていないが、主にサイネージ注2広告関連サービス、ファッショントレンド解析関連サービス、スマートシティ注3関連サービスの3つのサービスを展開している。

エッジコンピューティングとは、データをデータセンターに送信せず、端末自体で処理する技術である。AI解析にエッジコンピューティングを活用すると画像や動画などの情報を取得する端末内でAI解析を行うため、従来のクラウドを活用したAI解析と比較して、通信網を活用したデータのアップロード量やサーバーでのデータ処理量が少なく済む。

エッジコンピューティングに深層学習注4モデルを搭載するには、深層学習モデルの大きさ(メモリサイズ)が障壁となっていた。同社は、エッジコンピューティングに搭載可能な独自の軽量・高精度な深層学習モデルを開発し、サービスを展開している。

1) サイネージ広告関連サービス
サイネージ広告関連サービスでは、同社はソフトバンク(9434東証一部)及び大手広告代理店と共に、AIデジタルサイネージ広告サービスの本格提供に向け、商業施設などに同社のAIを搭載したカメラやエッジデバイスを付けたデジタルサイネージを設置し、データを取得・解析する実証実験を行っている。現時点では広告主はいない。

同社のAI を搭載したカメラとエッジデバイスを使ったデジタルサイネージでは、AI によって識別された通行人の属性情報と通行人が端末を見ていた時間などの視聴情報とが一緒に解析され、施設運営者と広告主それぞれに報告される。

施設運営者は、来館者数や人の流れに応じた、クーポンなどを活用したテナントマーケティング支援などによって来訪者行動の流動化を促すことができる。広告主は、広告の効果を測定したり、来館者等の属性情報から、時間帯ごとの視聴者属性に合わせて放映する広告を変更するターゲッティング広告も可能となる。

同社は、AI アルゴリズムの提供・機能更新、AI で検知した数字(広告視聴率、属性解析等)のデータレポーティングを行っている。契約に基づきソフトバンクから固定報酬を受け取っているが、今後、本格運用が進んだ段階においては、現行の固定報酬に加え、ソフトバンクが大手広告代理店から受け取る広告収益のうち一定の割合を受領する報酬形態とするようソフトバンクと協議を進めている。

2) ファッショントレンド解析関連サービス
同社は、アパレル企業向けに18 年8 月にリリースした「AI MD 注5」というファッショントレンド解析サービスを展開している。独自の画像解析エンジンを用いて、SNS などにおける2,500 万枚以上のファッションコーディネート画像をAI が解析し、ファッションのアイテム(シャツ、ポロシャツなど)、色彩(ホワイト、グレーなど)、シルエット(半袖、長そでなど)、素材感(ナイロン、レザーなど) に関するトレンド予測を提供している。

本サービスのユーザーとなるアパレル企業は、翌シーズンの商品投入計画の策定や直近の値引き判断などに「AI MD」を活用することができる。

「AI MD」の導入実績がある企業としては、クロスプラス(3320 東証二部)やイオン(8267 東証一部)の子会社であるコックス(9876 東証JQS)、三陽商会(8011 東証一部)が挙げられる。「AI MD」を導入している顧客企業の一部では、プロパー消化率注6 の改善につながっている。

「AI MD」の収益モデルは、顧客から月次で継続フィーを受領するケースが大半である。フィーは顧客ごとに相対で決めている。契約期間も顧客ごとに相対で決めているが、1 年間が多い様である。

3) スマートシティ関連サービス
スマートシティ関連サービスでは、サイネージ広告関連サービスなどで蓄積されたAI ライブラリを組み合わせて、それぞれの街、地域が抱える課題にソ リューションを提供している。

スマートシティ関連サービスにおいて、同社は特に、スマート物流/スマートファクトリー、AI 搭載スマートフォン・ドライブレコーダー、パーキングの3 つのサービスに注力している。現時点で、上記3 サービスのうち、売上実績があるのはスマート物流/スマートファクトリーのみである。

スマート物流/スマートファクトリーでは、熟練工の経験・ノウハウに基づく動きをAI カメラで可視化し、新人工員の稼働管理に活用したり、工場内にAI カメラを設置することで、設備の稼働状況の常時監視や工場の導線解析によって異常発生時に迅速に対応できる工場運営体制の整備に活用することが可能になる。19/12 期に三菱地所(8802 東証一部)に対して、物流施設内の作業効率・動線可視化ソリューションを提供し、売上を計上している。

AI 搭載スマートフォン・ドライブレコーダーについては、スマートフォンで運用可能なAI 搭載のドライブレコーダー「スマートくん」(19 年12 月iOS 版公開)を提供している。当該アプリケーションをダウンロードすることで、ユーザーのスマートフォンがドライブレコーダーとして使えるようになる。「スマートくん」では録画機能だけでなく、急発進・急ブレーキ検知や前方車両発進アラート等の機能も搭載している。

同社は「スマートくん」を無償で提供し、ユーザーの同意のもと、当該ドライブレコーダーが取得した運転データや道路情報データを取得する。同社は、将来的に、当該情報を自動車会社、タクシー会社や保険会社に有償で提供してゆきたいとしているが、現時点で、本サービスの売上実績は無い。

パーキングでは、同社は、AI 画像解析技術及びエッジ処理技術を応用した駐車場サービスの本格展開に向けた取り組みを進めている。同社のAI カメラを活用することで、駐車場全体の満空だけでなく、どのスペースが空いているかといった詳細な情報を把握することができる。本サービスについても現時点で売上実績は無いが、複数の駐車場事業者との間で商談が行われているようである。

同社は設立1 期目である18/12 期以降、顧客数を増やしているものの、20/12 期第2 四半期累計期間においても、販売は特定の顧客に集中している(図表1)。特にソフトバンクへの売上依存度は57.8%と高い。

同社の顧客獲得経路は、ファッショントレンド解析関連サービスは顧客からの問い合わせ、それ以外のサービスについては同社人材の持つ人的繋がりや既存顧客・金融機関等からの紹介が多いようである。

ファッショントレンド解析関連サービスについて、同社は「AI MD」という独自性の高いサービスを展開していることもあり、繊研新聞などのメディアで度々取り上げられ、業界内における認知度は高く、顧客からの問い合わせからサービス導入に繋がるケースが多い。

顧客との初回接触からサービス導入の意思決定までの期間は3カ月程度から1年程度と幅があるようである。同社の顧客は大手企業が多く、顧客先の担当者が同社サービスを高く評価していても、顧客社内における検討・稟議に時間を要するようである。

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一般社団法人 証券リサーチセンター
資本市場のエンジンである新興市場の企業情報の拡充を目的に、アナリスト・カバーが少なく、適正に評価されていない上場企業に対して、中立的な視点での調査・分析を通じ、作成されたレポートです。