(6166)株式会社中村超硬 短期業績と中期的事業進捗に注目
井上 誠 社長 |
株式会社中村超硬(6166) |
|
企業情報
市場 |
東証マザーズ |
業種 |
機械(製造業) |
代表取締役社長 |
井上 誠 |
所在地 |
大阪府堺市西区鶴田町27-27 |
決算月 |
3月末日 |
HP |
株式情報
株価 |
発行済株式数(期末) |
時価総額 |
ROE(実) |
売買単位 |
|
668円 |
10,020,900株 |
6,693百万円 |
1.5% |
100株 |
|
DPS(予) |
配当利回り(予) |
EPS(予) |
PER(予) |
BPS(実) |
PBR(倍) |
0.00円 |
– |
79.83円 |
8.4倍 |
50.01円 |
13.4倍 |
*株価は7/6終値。各数値は21年3月期決算短信より。
業績推移
決算期 |
売上高 |
営業利益 |
経常利益 |
当期純利益 |
EPS |
DPS |
2018年3月(実) |
12,140 |
1,570 |
1,365 |
1,381 |
288.94 |
0.00 |
2019年3月(実) |
4,809 |
-4,193 |
-4,263 |
-9,721 |
-1,911.28 |
0.00 |
2020年3月(実) |
2,797 |
-578 |
-716 |
-600 |
-73.16 |
0.00 |
2021年3月(実) |
3,806 |
167 |
181 |
7 |
0.75 |
0.00 |
2022年3月(予) |
4,600 |
600 |
600 |
800 |
79.83 |
0.00 |
*単位:百万円、円。今期予想は会社側公表。当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。以下同様。
株式会社中村超硬の2021年3月期決算概要等をお伝えします。
目次
今回のポイント
1.会社概要
2. 2021年3月期決算概要
3. 2022年3月期業績予想
4.今後の注目点
<参考:コーポレートガバナンスについて>
今回のポイント
- 21年3月期の売上高は前期比10億8百万円増加の38億6百万円。電子材料スライス周辺事業、特殊精密機器事業は減収も、化学繊維用紡糸ノズル事業は新型コロナウイルス感染拡大からマスク需要増で大幅な増収。営業利益は同7億45百万円増加の1億67百万円と黒字に転換した。電子材料スライス周辺事業の損失幅が縮小したことに加え、化学繊維用紡糸ノズル事業が大幅な増益となった。
- 2020年3月期末において債務超過は解消していたが、手元流動資金に対する有利子負債が高水準であったことや、ダイヤモンドワイヤ生産設備等の譲渡案件が未完了であったことから「継続企業の前提に関する注記」を記載していたが、21年3月期末において、増収で黒字転換したこと、有利子負債が3,1億円まで減少したこと、資金面における当面の不安が解消したことなどから「継続企業の前提に関する注記」の記載を解消した。
- 22年3月期の売上高は前期比20.9%増の46億円、営業利益は同258.1%増の6億円の予想。電子材料スライス周辺事業の生産設備譲渡が完了することを前提としている。特殊精密機器事業は回復、化学繊維用紡糸ノズル事業は前期並みを見込む。またマテリアルサイエンス事業はサンプル提供の売上を中心に50百万円を見込む。
- 3期ぶりに黒字を計上、「継続企業の前提に関する注記」の記載を解消と、再成長に向けたスタート台に立った形だ。江蘇三超社へのダイヤモンドワイヤ生産設備譲渡案件が当初想定通りに完了しなかった点はやや気になるが、特殊精密機器事業の回復、引き続き堅調が予想される化学繊維用紡糸ノズル事業、事業化ステージに入ってきたマテリアルサイエンス事業という事業ポートフォリオによる事業基盤強化が進めば、投資家の見方も変わってくるのではないか。短期的な四半期業績、中期的なマテリアルサイエンス事業の進捗、双方を注目していきたい。
1.会社概要
太陽電池に用いられるシリコンウエハの製造工程で使用されるダイヤモンドワイヤ製造装置の開発・販売、半導体向けダイヤモンドワイヤの開発を行う電子材料スライス周辺事業の他、特殊精密部品や工具の開発・製造・販売を行う特殊精密機器事業、化学繊維用紡糸ノズル及び周辺部品、不織布製造装置、不織布関連ノズル等の設計・製造・販売を行う化学繊維用紡糸ノズル事業を展開。新規事業としてナノサイズゼオライトの早期事業化に注力している。
ウエハ(※1)
電子材料の塊(インゴット)から目的に応じて薄くスライスされた板状の機能部品。シリコン、サファイア、SiC(炭化ケイ素)、GaN(窒化ガリウム)など、用途に応じて様々な材質がある。ICチップや太陽電池に多く用いられるのがシリコンウエハ。
【1-1 沿革】
1954年10月大阪府堺市においてミシン用の小ネジを作る会社として創業した「中村鉄工所」が前身。
1970年12月に超硬合金を用いた切削工具、耐摩工具である超硬工具を主に取り扱う「株式会社中村超硬」を設立した。1988年には超硬工具からダイヤモンドへ主材料を転換し、1993年にはダイヤモンドノズル(※1)の開発・製造・販売を開始。IT産業の製造革新の下支えとなり業容は大きく拡大した。ITバブル崩壊後の2004年にはエネルギー産業をターゲットとしてダイヤモンドワイヤの研究開発をスタートさせ、2010年には販売を開始。ダイヤモンドワイヤの製造販売だけでなく、スライス事業も手掛けてリーマンショックの苦境を乗り越え、2015年6月、東証マザーズ市場に上場した。
中国市場において最先端技術を武器にダイヤモンドワイヤの極細線化を進め市場をリードしてきたが、ダイヤモンドワイヤ市場における急速な価格下落の影響を受け業績が悪化。2019年11月、ダイヤモンドワイヤ生産事業から撤退した。
今後は、ダイヤモンドワイヤ製造技術の高さを活かして、ダイヤモンドワイヤ製造装置及び半導体向けダイヤモンドワイヤ開発・販売に注力する。
ダイヤモンドノズル(※1)
先端に焼結ダイヤモンドを使用したノズル。電子部品をプリント基板に装着したりする際に用いられる。ダイヤモンドを使用する事がノズルの長寿命化や電子部品の保持能力、画像認識への有効性の向上、実装率向上につながっている。
【1-2経営理念】
全員営業、全員製造、全員参加の経営をもってものづくりのエキスパート集団となり夢ある未来をともに育てる。 |
①お客様、協力会社との共栄のために ②従業員とその家族の幸せのために ③社会と地球環境への貢献のために |
【1-3 事業内容】
1.セグメント
同社の事業は2021年3月期より電子材料スライス周辺事業、特殊精密機器事業、化学繊維用紡糸ノズル事業、マテリアルサイエンス事業の4セグメントで構成されている。
(1)電子材料スライス周辺事業
太陽電池の製造工程におけるシリコンインゴットのスライス加工で使用するダイヤモンドワイヤの生産・販売からは撤退し、生産技術の優位性を活かして新型ダイヤモンドワイヤ製造装置及び半導体向けダイヤモンドワイヤの開発・販売を行っている。
ダイヤモンドワイヤとは?
ダイヤモンドワイヤは、太陽電池パネルや半導体の基盤となるウエハの製造工程のうち、スライス加工工程において使用される。
ウエハ一枚分の大きさに合わせてシリコンインゴットを薄くスライスする際に用いる工具が「ダイヤモンドワイヤ」。細いピアノ線にダイヤモンドの粒を強く固定した髪の毛より細い糸状の切断工具である。
スライス加工機で、短い間隔で並べられたダイヤモンドワイヤが高速回転するガイドローラーによって走行し、インゴットをスライスしていく。
(同社資料より)
(2)特殊精密機器事業
ダイヤモンドや超硬合金、セラミックスなど耐摩耗性の高い硬脆材料を用いた特殊精密部品、工具の開発・製造・販売を行っている。
主要製品は、自動車部品やベアリング製造用工作機械に用いられるダイヤモンド部品、液晶テレビやスマートフォン、タブレット等の電子機器の製造に必要な電子部品実装用の産業機械に用いられるダイヤモンドノズルなど。
特殊精密部品・工具の他、実装機用ノズル等を洗浄する装置などの開発・製造・販売も行っている。
(3)化学繊維用紡糸ノズル事業
主に、化学繊維用紡糸ノズル及び周辺部品、不織布用ノズル・同装置等の設計・製造・販売を行っている。
同社は、1928年に創業して以来、化学繊維用(レイヨン製造用)ノズルを国産化し、化学繊維の紡糸ノズル専業メーカーとして事業展開してきた。紡糸ノズルは、不織布、炭素繊維などの製造において繊維の品質を決定づける基幹部品。その製造にあたっては微細加工(孔(あな)あけ加工、パンチング加工)及び工具・冶具の製造に関して繊細な技術が必要となるが、同社では、長年にわたり同事業に特化してきたことにより多くの技術的蓄積を有し、市場のニーズに対応している。
(4)マテリアルサイエンス事業
シリカ(二酸化ケイ素)とアルミナ(酸化アルミニウム)を主成分とし、無数の穴を持つ多孔質構造が特長で、1gでテニスコート1面分以上という大きな表面積を持つ物質であるゼオライトを用いた素材開発に取り組む事業。
ダイヤモンドワイヤに次ぐ新たな収益の柱を打ち立てるべく、早期事業化に取り組んでいる。
(ゼオライト、ナノサイズゼオライトとは?)
ゼオライトは、その特長から、「吸着」、「イオン交換」、「触媒」といった機能を持っており、一般的にはミクロンサイズの粒子が流通しているが、粒子径をナノサイズ化することにより、飛躍的にこれらの基本性能が向上し、新たな用途への展開が期待できる。
ただし、これまでのナノ粒子製造手法では製造コストが高く、具体的な市場評価が進んでいなかった。
そうした中、同社では、東京大学が保有する「粉砕・再結晶化」技術を活用して、ゼオライトのナノ粒子化のための革新的プロセスの開発に着手した結果、低コストで直径が通常のゼオライトの100万分の1となる「ナノサイズゼオライト」の製造に成功した。(この「粉砕・再結晶化プロセス」は特許取得済み。)
「ナノサイズゼオライト」は吸着速度やイオン交換速度が大幅に向上するほか、沈降速度が低下するなど機能性が上昇。これに伴い用途も大きく拡大する。
(用途例)
①高機能透明フィルム
フィルムにナノサイズゼオライトを添加すると、透明性を保ったまま内部の水分やガスを吸着し品質をキープすることができる。
高機能透明フィルムとして薬包材や電子基板の封止剤に用いられる。
大手メーカーにおいて開発ステージから事業化ステージへ移行し、エンドユーザーへのサンプル供給がスタートしている。
②抗菌・抗ウイルス機能付き透明コーティング剤
少ない添加量においてコーティング表面で効果的に抗菌・抗ウイルス機能を発現したことに加え、コーティング面の平滑とコーティング層の透明・薄型化を実現したため、知的財産としての技術確立を目指している。
複数のコーティング剤と金属イオンの組み合わせで実証試験中である。サンプル出荷量も増加傾向にある。
③接着剤・塗料の吸湿用添加剤
ナノサイズゼオライトを接着剤・塗料に均一に拡散させて混錬する技術を獲得した。また、水分の影響により内部発生するガスも吸着できる条件を開発した。
この技術開発により、水の侵入を防ぐとともに内部で発生した水やガスを吸着することで、使用期限の延長(長寿命化)や高品質化(高強度・高品位)が可能となる。
高機能透明フィルム同様、大手化学メーカー等において開発ステージから事業化ステージへ移行し、エンドユーザーへのサンプル供給がスタートした。
➃メーカー・商社と連携したBtoC商品への採用拡大
発熱反応、ガス吸着、徐放性(ナノサイズゼオライトに吸着させた有効成分を徐々に放出すること)といった特性を活かし、パック・クレンジング・マッサージジェル、石鹸・シャンプー、入浴剤・芳香スプレーなどBtoC商品への採用拡大をメーカーや商社と連携して進めていく。
(今後の方針)
今後も、積極的なPR活動、市場の早期創出、低コスト中量生産体制の確立などを通じてさらなる顧客開拓に努める。
2.2021年3月期決算概要
(1)連結業績概要
|
20/3期 |
21/3期 |
前期比 |
期初予想比 |
修正予想比 |
売上高 |
2,797 |
3,806 |
+1,008 |
+456 |
+106 |
売上総利益 |
583 |
1,208 |
+625 |
– |
– |
販管費 |
1,161 |
1,041 |
-120 |
– |
– |
営業利益 |
-578 |
167 |
+745 |
-132 |
+107 |
経常利益 |
-716 |
181 |
+898 |
-18 |
+121 |
当期純利益 |
-600 |
7 |
+607 |
-692 |
+167 |
*単位:百万円。
増収・黒字転換。「継続企業の前提に関する注記」の記載を解消。
売上高は前期比10億8百万円増加の38億6百万円。電子材料スライス周辺事業、特殊精密機器事業は減収も、化学繊維用紡糸ノズル事業は新型コロナウイルス感染拡大からマスク需要増で大幅な増収。
営業利益は同7億45百万円増加の1億67百万円と黒字に転換した。電子材料スライス周辺事業の損失幅が縮小したことに加え、化学繊維用紡糸ノズル事業が大幅な増益となった。
2020年3月期末において債務超過は解消していたが、手元流動資金に対する有利子負債が高水準であることや、ダイヤモンドワイヤ生産設備等の譲渡案件が未完了であったことから「継続企業の前提に関する注記」を記載していたが、21年3月期末において、増収で黒字転換したこと、有利子負債が31億円まで減少したこと、資金面における当面の不安が解消したことなどから「継続企業の前提に関する注記」の記載を解消した。
(2)セグメント別動向
|
20/3期 |
21/3期 |
前期比 |
売上高 |
|
|
|
電子材料スライス周辺事業 |
697 |
5 |
-692 |
特殊精密機器事業 |
845 |
768 |
-76 |
化学繊維用紡糸ノズル事業 |
1,242 |
3,023 |
+1,781 |
マテリアルサイエンス事業 |
6 |
8 |
+1 |
その他 |
5 |
– |
-5 |
合計 |
2,797 |
3,806 |
+1,008 |
営業利益 |
|
|
|
電子材料スライス周辺事業 |
-687 |
-410 |
+277 |
特殊精密機器事業 |
118 |
42 |
-76 |
化学繊維用紡糸ノズル事業 |
149 |
644 |
+494 |
マテリアルサイエンス事業 |
-121 |
-155 |
-33 |
その他 |
-59 |
– |
+59 |
調整 |
22 |
46 |
+24 |
合計 |
-578 |
167 |
+745 |
*単位:百万円。売上は外部顧客への売上高。利益の構成比は売上高営業利益率。
21年3月期第1四半期より、従来「その他」に含まれていた「マテリアルサイエンス事業」について、量的な重要性が増したため、報告セグメントとして記載している。20年3月期については変更後の区分により作成している。また、従来、株式会社中村超硬の本社経費の配賦基準を主に電子材料スライス周辺事業と特殊精密機器事業の売上割合としていたが、20年3月期第4四半期より対象セグメントに所属する従業員数割合に変更し、対象セグメントの利益又は損失を算定している。この変更は、ダイヤモンドワイヤ生産事業からの撤退ならびに関連部門に所属する従業員の希望退職が2019年12月で完了したことに伴うもの。
<電子材料スライス周辺事業>
減収・損失幅縮小
江蘇三超社へのダイヤモンドワイヤ生産設備などの譲渡は2020年9月より中国への渡航を開始し、現地での作業を再開した。全台、引渡し前の状態まで作業は完了したが、検収条件に対する双方の認識相違により検収には至らず、収益計上は2022年3月期にずれ込むこととなった。
<特殊精密機器事業>
減収・減益
産業機械向け実装機用ノズルの売上は「5G」関連分野における需要の盛り上がりを受け増収となったが、耐摩工具関連の売上は、新型コロナウイルス感染拡大の影響による工作機械関連の市場環境の悪化により減収。
<化学繊維用紡糸ノズル事業>
増収・増益
世界的なマスク需要の拡大を受け、同社が扱う不織布製造装置や不織布関連ノズル等に関する売上が大きく伸長した。
<マテリアルサイエンス事業>
増収・減益
ナノサイズゼオライトの開発に取り組んだ。フィルム試作における「ナノサイズゼオライトの高濃度化」「透明度向上」等、技術面で大きな進展を見た。量産顧客の獲得に向け多数の企業へサンプル提供を行った。売上高はサンプル提供等に係るもの。
(3)財務状態とキャッシュ・フロー
◎主要BS
|
20年3月末 |
21年3月末 |
|
20年3月末 |
21年3月末 |
流動資産 |
5,236 |
4,760 |
流動負債 |
3,050 |
3,157 |
現預金 |
4,239 |
3,027 |
仕入債務 |
135 |
625 |
売上債権 |
380 |
680 |
短期有利子負債 |
2,225 |
1,308 |
たな卸資産 |
425 |
775 |
固定負債 |
2,904 |
2,348 |
固定遺産 |
1,241 |
1,261 |
長期有利子負債 |
2,365 |
1,825 |
有形固定資産 |
1,197 |
1,214 |
負債合計 |
5,955 |
5,506 |
無形固定資産 |
2 |
9 |
純資産 |
523 |
515 |
投資その他の資産 |
42 |
37 |
負債純資産計 |
6,478 |
6,021 |
資産合計 |
6,478 |
6,021 |
有利子負債合計 |
4,590 |
3,133 |
*単位:百万円。有利子負債にはリース債務を含む。
借入金の返済に伴う現預金の減少等で資産合計は前期末に比べ4億円減少の60億円となった。借入金の減少、前受金の増加等で負債合計は同4億円減少の55億円。純資産はほぼ変わらず5億円。有利子負債は同14億円減少し31億円。自己資本比率は前期末より0.5%上昇し8.3%となった。
◎キャッシュ・フロー
|
20/3期 |
21/3期 |
増減 |
営業CF |
228 |
530 |
+302 |
投資CF |
1,994 |
161 |
-1,833 |
フリーCF |
2,222 |
692 |
-1,530 |
財務CF |
-699 |
-1,466 |
-766 |
現金及び現金同等物 |
3,795 |
3,027 |
-768 |
*単位:百万円
有形固定資産の売却による収入が減少し投資CF及びフリーCFのプラス幅は縮小。
借入金の返済により財務CFのマイナス幅は拡大。キャッシュポジションは低下した。
(4)トピックス
①ナノサイズゼオライト実用化に向け株式会社山全と共同開発契約を締結
2021年3月、ナノサイズゼオライト実用化に向けた基本合意書を締結した株式会社山全(徳島県)と共同開発契約を締結した。
現在、ナノサイズゼオライトの開発は中村超硬の工場内にて行っているが、ナノサイズゼオライト事業化に際しては、これまで各工程で行っていた作業を連続して行えるようプラント化することを検討している。
そのため、まずパイロットプラントを設置し、パイロットプラントの運用を通じ、ナノサイズゼオライトの生産体制を確立するとともに、将来的な本プラントの設置に向けたプラントの最適化を行っていく考えだ。
中村超硬は山全社との間でパイロットプラントの設置に向け検討を進めてきたが、正式に共同開発契約書を締結することとした。2022年3月期中のパイロットプラントの稼働を目指している。
(主な合意事項)
・ ナノサイズゼオライト事業化の協業スキーム
・ 和泉工場内にパイロットプラントを設置(本プラントは徳島県内に設置予定)
・ パイロットプラントの開発・稼働に向けた想定スケジュール
・ パイロットプラントに関する費用負担の基本方針
具体的な内容、条件、実施時期等の詳細については、別途両社間で検討する。
②第三者割当による第9回新株予約権発行により資金調達を実施
同社にとっては新たな収益の柱にと期待するナノサイズゼオライトの早期事業化が需要な課題である。
そのためには工場のインフラ設備や製造装置などの新規導入が必要だが、手元流動性に対する有利子負債は高水準であり、手元資金からの捻出は困難である。
そのため、ナノサイズゼオライト事業化及び有利子負債削減を目的として、第三者割当による新株予約権を発行することとした。
調達資金は約7億円の予定で、希薄化率は全て行使された場合で9.98%。
資金使途は以下の通りである。
使途 |
金額 |
概要 |
ナノサイズゼオライト事業化に伴う設備投資 |
4億円 |
山全社との共同開発契約に基づく和泉工場へのパイロットプラント設置
*ナノサイズゼオライト生産のための設備投資(3.5億円) *和泉工場の改装費用(0.5億円) |
有利子負債の削減 |
3億円 |
早期の財務状況の安定化を図る。 |
3.2022年3月期業績予想
(1)連結業績予想
|
21/3期 |
構成比 |
22/3期(予) |
構成比 |
前期比 |
売上高 |
3,806 |
100.0% |
4,600 |
100.0% |
+20.9% |
営業利益 |
167 |
4.4% |
600 |
13.0% |
+258.1% |
経常利益 |
181 |
4.8% |
600 |
13.0% |
+229.7% |
当期純利益 |
7 |
0.2% |
800 |
17.4% |
– |
*単位:百万円。当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。
増収、大幅増益
売上高は前期比20.9%増の46億円、営業利益は同258.1%増の6億円の予想。
電子材料スライス周辺事業の生産設備譲渡が完了することを前提としている。
特殊精密機器事業は回復、化学繊維用紡糸ノズル事業は前期並みを見込む。
マテリアルサイエンス事業は大幅増収の計画。
(2)各事業の取組み
*売上高見込み
|
21/3期 |
22/3期(予) |
前期比 |
電子材料スライス周辺事業 |
5 |
650 |
– |
特殊精密機器事業 |
768 |
900 |
+17.2% |
化学繊維用紡糸ノズル事業 |
3,023 |
3,000 |
-0.8% |
マテリアルサイエンス事業 |
8 |
50 |
+508.6% |
*単位:百万円
①電子材料スライス周辺事業
江蘇三超社との協議において新たな合意が得られ、現地工場での作業実施後、2022年3月までに残契約が完了する前提。
中国企業に対する極細線ダイヤモンドワイヤ製造技術に関する優位性を活かした「新型ダイヤモンドワイヤ製造装置」、蓄積してきた太陽光発電向けダイヤモンドワイヤ製造技術を活かした「半導体向けダイヤモンドワイヤ」の開発・販売に取り組んでいく。
②特殊精密機器事業
米中貿易摩擦や新型コロナウイルスの影響が懸念されるものの、次世代通信規格「5G」関連分野において電子部品需要は好調に推移するとみている。また、チップ型電子部品の極小化を加速させ、ダイヤモンドノズル推奨による受注拡大を目指す。
一方、工作機械向け耐摩工具関連は厳しい事業環境だが、同業他社に廃業などが相次ぐ中、同社への新規発注も増加しており、商社ルートなどを通じて大手企業との取引拡大に取り組む。
中国における景気刺激策による投資拡大や国内自動車産業の復調もあり増収を計画。
➂化学繊維用紡糸ノズル事業
医療用衛生不織布需要の高まりを受けメルトブローン不織布製造装置の受注・販売は来期も好調と見ている。国内におけるサプライチェーン対策補助金も追い風となっている。
また、再生エネルギー拡大に合わせ、風力発電用ブレード向け炭素繊維市場に対する紡糸ノズルの販売も拡大している。
これらにより21年4月末時点で20億円の受注を獲得している。全額22年3月期の売上計上分であり、売上予想の約7割に相当する。
今後はフィルター、断熱材などコロナ関連以外のニーズ・用途向けにも製造装置販売を伸ばしていく。
➃マテリアルサイエンス事業
同事業の中心的な開発対象が「ナノサイズゼオライト」である。
同社ではダイヤモンドワイヤに次ぐ新たな収益の柱を打ち立てるべく、新規事業の早期事業化に取り組んでおり、今期より「マテリアルサイエンス事業」を新たにセグメントとした。
同社では新型コロナウイルス感染拡大の中、ナノサイズゼオライトの開発成果を応用し2020年9月、脱臭・保湿効果の高いゼオライトと、抗菌・脱臭効果を持つ銀イオンを第2層に付着させた「ゼオールAg+マスク」の販売を開始、同年10月には
「ゼオールAg+ガウン」を販売開始した。生産量の点から今期業績への寄与は小さいが、ナノサイズゼオライト実用化をアピールする。
透明吸湿フィルム分野、接着剤・塗料、抗菌・抗ウイルスコーティング剤、コスメヘルスケア分野といった用途向けに多数の企業へのサンプル提供を行っている。
一部顧客では開発ステージから事業化ステージへ移行する見込みで、22年3月期中の量産顧客の獲得を目指している。
4.今後の注目点
3期ぶりに黒字を計上、「継続企業の前提に関する注記」の記載を解消と、再成長に向けたスタート台に立った形だ。
江蘇三超社へのダイヤモンドワイヤ生産設備譲渡案件が当初想定通りに完了しなかった点はやや気になるが、特殊精密機器事業の回復、引き続き堅調が予想される化学繊維用紡糸ノズル事業、事業化ステージに入ってきたマテリアルサイエンス事業という事業ポートフォリオによる事業基盤強化が進めば、投資家の見方も変わってくるのではないか。
短期的な四半期業績、中期的なマテリアルサイエンス事業の進捗、双方を注目していきたい。
<参考:コーポレートガバナンスについて>
◎組織形態、取締役、監査役の構成
組織形態 |
監査役設置会社 |
取締役 |
8名、うち社外2名 |
監査役 |
3名、うち社外3名 |
◎コーポレートガバナンス報告書
最終更新日:2020年6月26日
<基本的な考え方>
当社は、「お客様」「取引先」「株主」「社員」「社会」という全てのステークホルダーから「価値ある企業」として支持され続けるために、企業価値・株主価値の最大化に努めるとともに、経営の透明性・公正性の確保、社会的な責任を果たしていくことが重要であると認識し、コーポレート・ガバナンスの強化に努めております。
<実施しない主な原則とその理由>
「当社は、マザーズ上場企業としてコーポレートガバナンス・コードの基本原則をすべて実施しております」と記載している。