モイ<5031> 業界最大級の3,000万人を超える累積ユーザー数を誇る

2022/04/28

スマートフォン等を用いたインターネットライブ配信サービス「ツイキャス」を運営
業界最大級の3,000万人を超える累積ユーザー数を誇る

業種: 情報・通信業
アナリスト: 大間知 淳

◆ インターネットライブ配信サービス「ツイキャス」を運営
モイ(以下、同社)は、スマートフォンのアプリやPC等のウェブブラウザから動画や音声をリアルタイムで送受信するインターネットライブ配信サービス「ツイキャス」を開発、運営している。

ユーザーは、自ら実際にライブ配信を行う配信者とそのライブ配信された動画や音声を視聴する視聴者に大別される。ユーザーは、原則として、ライブ配信及びその視聴を無料で行えるほか、ライブ配信を自由に視聴できる仕組みとなっている。

ライブ配信においては、配信者が一方的にコンテンツを提供するのではなく、視聴者がライブ配信画面内に設置されている「コメント機能」や「アイテム機能」を使用してライブ配信に積極的に参加することで、配信者や他の視聴者とリアルタイムでコミュニケーションを楽しむことが出来る。このため、同社は「ツイキャス」をライブ配信コミュニケーションプラットフォームと位置付けている。主なアイテムとしては、配信を盛り上げるために使用される「拍手」や「クラッカー」、配信ライブを延長するために使用される「コンティニューコイン」等が挙げられる。

「ツイキャス」では、SNS連携機能を活かし、ユーザー自身が「ツイキャス」上で展開されるライブ配信をSNS上で拡散、宣伝することで、新たなユーザーの獲得につながるという特徴がある。「ツイキャス」と連携しているSNSとしては、TwitterやInstagramが挙げられる。

同社は、ツイキャスを構成するアプリ・ウェブサイトとして、主に以下を運営している。

①ツイキャス・ライブ
iPhoneユーザーである配信者が手軽にライブ配信を行えるiOS版アプリ

②ツイキャス・ビュワー
iPhoneユーザーである視聴者のためのライブ配信視聴用のiOS版アプリ

③ツイキャス
ツイキャス・ライブとツイキャス・ビュワーの統合版であり、ライブ配信・視聴の両方ができるAndroid版アプリ

④twitcasting.tv ツイキャス
PC、スマートフォン、タブレット等からウェブブラウザを通じてライブ配信・視聴をするためのウェブサイト

⑤ツイキャスゲームズ
「ツイキャス」でゲーム実況を行うことに特化したiOS版・Android版アプリ

10年2月のサービス開始から5年2カ月が経過した15年4月に、累積登録ユーザー数(以下、累積ユーザー数)は1,000万人を突破した。累積ユーザー数は、更に2年4カ月が経過した17年8月には2,000万人を超え、更に2年11カ月が経過した20年7月には3,000万人を突破した。

21年7月末時点では、累積ユーザー数は業界最大級の3,360万人に達している。また、Business Insiderによる20年6月時点の主要ライブ配信アプリ11タイトルのMAU注1の比較調査によれば、「ツイキャス」のMAUは229万人で1位にランクされている。21年1月20日から4月19日までの90日間を対象とした同社のユーザー属性調査によると、男女比は女性62%、男性38%、年齢構成は24歳以下60%、25歳~34歳30%、35歳以上10%となっている。同社は、配信者、視聴者別に見ても、全体のユーザー構成と大きな違いはないと説明している。

同社は、10年以上に亘ってコミュニティ運営のノウハウを蓄積しており、若年層のユーザーが安心して利用できるよう、サービスの健全性の維持、改善に取り組んでいる。具体的な対応としては、児童・未成年ユーザー保護対応、配信者保護対応、ユーザー啓蒙活動推進、著作権保護対応、サービス監視体制整備、ユーザー主導監視促進等が挙げられる。

「ツイキャス」では、雑談、音楽、ゲーム等、多様なジャンルでユーザー主導による独自文化が自発的に発生している。ユーザー同士が容易に自分の興味や関心があるトピックを通じたコミュニケーションができる空間(ライブ配信)を見つけられるよう、100 以上の配信カテゴリーが提供されている。

同社は、ユーザー規模が大きい配信カテゴリーにおいて積極的なサポートを実施している。サポートの例としては、「ツイキャスアニメ」(アニメの共有視聴体験をオンライン化)、「VTuber 専用プログラム」(「ツイキャス」上でバーチャルキャラクターを使用してライブ配信を行う配信者に対し、各種優遇条件、機能等を提供する認証プログラム)、「ツイキャス100V」(配信者の魅力や個性を引き出してバーチャル化する支援プロジェクト)等が挙げられる。

インフラシステムにおいては、同社は配信の遅延対策とスマートフォンに特化した独自の配信システムを構築している。独自配信システムをオンプレミスで運用するほか、クラウドシステムの併用によって柔軟な拡張性を備えており、低コストで大規模配信に耐えられるシステム体制を実現している。

◆ 3 つの形態で売上高は構成されている
同社のサービスは、基本的には配信者、視聴者共に無料で利用できるが、配信者への応援や特別サービスの利用等を目的に、一部の視聴者が配信者に支払う金額の一部が同社の売上高となっている。売上高は、以下の3 つの形態によって構成されている。

(1)ポイント販売売上
ユーザーは、同社が付与する無料ポイントと同社から購入する有料ポイントを利用して、各種アイテムを使用できる仕組みとなっている。ユーザーが購入した有料ポイントのうち、ユーザーが実際に使用した部分を同社は売上高(以下、ポイント販売売上)として計上している。

同社は、配信者のライブにおいて使用されたアイテム数や配信が閲覧された回数等に応じて、一定の条件の下、報酬を支払う仕組みである「ライブ収益」を当該配信者に提供している。ライブ収益により配信者へ支払った報酬は、アイテム報酬として売上原価に計上されている。

有料ポイントを購入して、アイテムを使用する行為は、インターネット上では「投げ銭注2」と言われており、多くのライブ配信サービスで採用されている。

(2)メンバーシップ販売手数料売上
「ツイキャス」では、一定条件を満たした配信者を、ファンである視聴者が毎月定額の会員費で応援できる「メンバーシップ」機能を提供している。配信者は、自身の月額支払プランを特典別に最大3 つまで作成することが認められており、ファンである視聴者は、その中から任意のプランに入会して、毎月一定額を支払う仕組みとなっている。

同社は、サービスプラットフォーム提供者として、「メンバーシップ」機能の購入者から会員費を受領し、一部手数料を控除した額を配信者へ支払っており、手数料部分を売上高(以下、メンバーシップ販売手数料売上)として計上している。

(3)「キャスマーケット」におけるチケット・コンテンツ販売手数料売上
同社は、「ツイキャス」を利用するユーザーが商品等を売買できるオンラインストア「キャスマーケット」を運営している。配信者は、自身がオフラインで主催するイベント等のチケットや、「ツイキャス」上の有料配信である「プレミア配信」のチケット、制作物(デジタルコンテンツ)を「キャスマーケット」上で出品することができる。

同社は、マーケットプレイス提供者として、チケットやコンテンツの購入者から購入代金を受領し、一部手数料を控除した額を配信者へ支払っており、手数料部分を売上高(以下、チケット・コンテンツ販売手数料売上)として計上している。

21/1期におけるサービス別の売上高構成比は、ポイント販売売上が96.38%、メンバーシップ販売手数料売上が0.06%、チケット・コンテンツ販売手数料売上が2.64%であった。

同社は、「ツイキャス」への新たな機能追加や各種マーケティング活動を通して、競合企業との差別化や新規の配信者・視聴者の獲得、既存ユーザーの満足度向上に向けた機能改善・サービス運営等を推進し、収益機会の創出・拡大を目指す方針である。

同社は、重要経営指標(KPI)として以下の4指標を挙げている。

①ポイント販売売上
「ツイキャス」で視聴者がアイテムを利用するために消費するポイントの購入に伴う売上高

②ポイントPU(Paid User)
ポイントを購入した月間ユニークユーザー数

③ポイントARPPU(Average Revenue Per Paid User)
ポイントを購入したユーザー当たりの月間平均課金額

④実質売上総利益
総売上高から、収益化が承認された配信者に対して支払う報酬額(売上原価)と、決済代行業者に支払う決済手数料を控除した金額(実質ベースの売上総利益)

19/1期においては、18年6月に配信者がライブ配信を通じて収益を得られる「ツイキャス・マネタイズ」機能の提供を開始したことから、配信者を応援することを目的として特別収益対象アイテムを利用する視聴者が増加し、ポイントPUが25千人、ポイントARPPUが3,955円となった(図表1)。

20/1期においては、19年8月のゲーム実況アプリ「ツイキャスゲームズ」のリリースや各種ユーザー参加型キャンペーンの実施効果等から、ポイントPUが前期比58%増、ポイントARPPUが同22%増となり、ポイント販売売上は同89%増加した。

21/1期においては、新型コロナ感染症に伴う外出自粛により、ライブ配信アプリの利用者が大きく増加した。ユーザー参加型のオリジナルミュージックビデオ作成等のブランディング施策やユーザー参加型キャンペーンの実施効果等も加わり、ポイントPUが前期比108%増、ポイントARPPUが同9%増となった結果、ポイント販売売上は同127%増と大幅に拡大した。

同社によると、ポイントPUに占める高額課金ユーザーの比率は高くない模様である。同社は、サービスの健全性を維持するため、今後は、ポイントPUの拡大に重点を置いたポイント販売売上の増加を目指す方針である。

◆ AppleやGoogle、PAYを通じた販売が中心を占めている
同社サービスのユーザーは、配信者と視聴者によって構成されているが、動画等を送信する配信者は仕入先に相当し、ポイントを購入した一部の視聴者(ポイントPU)が販売先に相当する。22/1期のポイントPUは89千人であり、販売先は広く分散しているが、同社は、スマートフォン用アプリのプラットフォーム事業者やその他の決済代行業者を経由して購入代金を受領しているため、特定の事業者への売上高依存度が高い状態にある。

主要な決済代行業者としては、スマートフォン用アプリのプラットフォーム事業者のApple Inc.及びGoogle LLC、BASE(4477東証グロース)の連結子会社であり、オンライン決済サービスを手掛けるPAYが挙げられる。これら売上高上位3社向け販売高は売上高の9割以上を占めている(図表2)。

◆ 限界利益率は20%前後と試算される
同社の売上原価の全ては、ポイント販売売上に係る配信者への還元金額であり、ポイント販売売上に対する還元率(原価率)は、20/1期が45.1%、21/1期が53.0%であった。一方、「キャスマーケット」で販売された電子チケットやデジタルコンテンツの販売や「メンバーシップ」の販売に係る手数料売上については、売上原価は発生しない。

販売費及び一般管理費(以下、販管費)については、プラットフォーム事業者等に支払う決済手数料とJASRAC等へ支払う音源使用料等の著作権利用料等によって構成される支払手数料、広告宣伝費、サーバ費用等の通信費、給料手当等が中心を占めており、21/1期の販管費率は51.3%であった。主要科目の内訳は、支払手数料1,611百万円(売上高比率29.4%)、広告宣伝費347百万円(同6.3%)、通信費273百万円(同5.0%)、給料手当(同4.3%)であった。

同社が重視している実質売上総利益(21/1期1,237百万円)は、売上高(同5,479百万円)から配信者への還元額である売上原価(同2,800百万円)と決済代行業者に支払う決済手数料を控除したものである。従って、21/1期の支払手数料の内訳は、決済手数料が1,441百万円、著作権利用料等が170百万円と推測される。また、売上原価と支払手数料はいずれも変動費であるため、同社の限界利益率は20%前後と試算される。

◆ 貸借対照表には他社とは内容が異なる勘定科目が存在している
同社の貸借対照表には、一般的な内容とは異なる資産や負債が含まれている勘定科目が存在しており、注意が必要である。

投資その他の資産に計上されている差入保証金は、通常、不動産を賃借する際の敷金等が主体となっている。一方、「ツイキャス」で利用される有料ポイントには資金決済に関する法律が適用されているため、同社の差入保証金には、敷金に加え、法務局に預けた供託金(基準日における有料ポイントの未使用残高の2分の1以上の金額)が含まれている。

また、流動負債に計上されている預り金は、通常の会社では従業員の給料等に係る源泉所得税等が主体となっている。一方、同社の預り金には、同社が購入者から受領した「キャスマーケット」におけるチケット・コンテンツの販売代金や「メンバーシップ」の会員費のうち、その時点では販売元の配信者に対する支払いが完了していない金額が含まれている。

また、同社は、17/1 期から21/1 期までにおいて、18/1 期を除いて経常損失を計上していたが、20/1 期末以降の貸借対照表に借入金は存在していない。22/1 期末の自己資本比率が35.9%と低水準であるのは、買掛金等の非有利子負債が自己資本に比べて多いためである。現金及び預金の総資産に対する比率は46.6%に達しており、実質的な財務体質は健全と言える。

◆ 設立経緯
同社は、エンジニアである赤松洋介氏(現代表取締役社長)が05 年8 月に設立したサイドフィード(現Moi Labs、休眠中)を源流としている。サイドフィードは、09 年8 月から、映像を見ながらラジコンカーをインターネット経由で遠隔操作できるサービスである「Joker Racer」の運営をしていた。iPhone の普及により、Joker Racer で培ったライブ配信技術をiOS に移植することで、一般ユーザーが手軽にライブ配信を行える環境が整ったと判断し、10 年2月にサイドフィードはライブ配信サービス「TwitCasting」(通称「ツイキャス」)をリリースした。スマートフォンによるライブ配信サービスは、日本企業では初めて、世界でも3 番目の早さであったと同社は説明している。

サイドフィードは、当時、様々なサービスを展開していたが、株主からの要望もあり、事業を「ツイキャス」に集中することを決定し、12 年2 月に会社分割によって同社を設立した。赤松社長は、サイドフィード設立前、サイボウズ(4776 東証プライム)に勤務していたが、当時の同僚であった芝岡寛之氏が13 年4 月に、入山高光氏(共に現取締役)が20 年2 月に入社し、経営体制が強化された。

なお、同社は、19 年3 月にベンチャーキャピタルが組成した投資事業有限責任組合3 法人に対してA 種優先株式を発行した。21 年9 月には、全てのA 種優先株式を取得して、対価として当該株主にA 種優先株式1 株につき普通株式1 株を交付し、当該A 種優先株式を全て消却した。

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一般社団法人 証券リサーチセンター
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