フリークアウト・ホールディングス (6094) 先端技術を駆使 コロナ禍でも好調

2020/09/17

 

 

本田 謙 社長 Global CEO

株式会社フリークアウト・ホールディングス(6094)

 

 

会社情報

市場

東証マザーズ

業種

サービス業

代表者

本田 謙

所在地

東京都港区六本木6-3-1

決算月

9月末日

HP

https://www.fout.co.jp/

 

株式情報

株価

発行済株式数(自己株式を控除)

時価総額

ROE(実)

売買単位

907円

15,766,360株

14,300百万円

100株

DPS(予)

配当利回り(予)

EPS(予)

PER(予)

BPS(実)

PBR(実)

0.00円

280.12円

3.2倍

*株価は8/19終値。発行済株式数は直近期決算短信より。ROE、BPSは前期実績。

 

連結業績推移

決算期

売上高

営業利益

経常利益

当期純利益

EPS

DPS

2015年9月(実)

4,217

96

95

65

5.23

0.00

2016年9月(実)

5,792

358

561

394

30.72

0.00

2017年9月(実)

12,019

601

1,208

842

64.12

0.00

2018年9月(実)

14,745

-532

307

25

1.94

0.00

2019年9月(実)

21,709

-1,270

-1,497

-3,512

0.00

2020年9月(予)

27,000

200

200

未定

未定

0.00

* 予想は会社予想。単位は百万円。2016年9月1日付で1:2の株式分割を実施。EPSは遡及して調整。

 

 

株式会社フリークアウト・ホールディングスの2020年9月期第3四半期決算概要などを報告します。

目次

今回のポイント
1.会社概要
2.2020年9月期第3四半期決算概要
3.2020年9月期業績見通し
4.各事業の進捗
5.今後の注目点
<参考:コーポレート・ガバナンスについて>

 

今回のポイント

  • 最適な消費者に最適なタイミングで最適なメッセージを伝えたいという広告主の課題を、AI(人工知能)を用いた先端テクノロジーで解決するマーケティング・テクノロジー・カンパニー。広告主や広告代理店が、広告主の利益を最大化するために効率的にインターネット広告を買い付け、配信するプラットフォーム「DSP(デマンドサイド・プラットフォーム)」の運営やOEM提供を行う「DSP事業」が事業の中心。「最大級のデータ保有量」、「良質な広告掲載面の確保」、「優れたアルゴリズム構築のための積極的な投資」などが大きな強み・特長。広告に留まらず様々な分野でテクノロジーによって「人に人らしい仕事を」提供し、創造的な社会づくりに貢献する事を経営理念としている。

     

  • 20/9期3Q累計は20.4%増収、EBITDAは233.0%増。大幅増収増益ながら新型コロナの影響を受け、3Q(4~6月)は失速した。持分法適用会社も3Qは苦戦。一方で、一部事業を除くと影響は軽微、逆にメリットが生じている事業も見られた。上期までの貯金が大きかったため、通期予想24.4%増収、EBITDA5億円に修正はなかった。

     

  • 新型コロナの影響を受けながらも3Q累計では大幅増収、利益は大幅な回復を見せた。もっとも、3Q(4~6月)ではさすがに失速した。ただし、月ごとに回復しており、新型コロナ影響は想定されたより軽微にとどまりそう。3Q累計のEBITDAの進捗率は通期予想に対して85.2%に達しており、通予期予想EBITDAは大幅に上回りそうだ。また、新型コロナでプラス影響を受けた事業は収束してもそのままプラスに働くと思われ、影響を受けた事業を含めても総じて同社の収益力を押し上げることになりそうだ。秋にも発表を予定している新中期計画に注目したい

     

     

1.会社概要

最適な消費者に最適なタイミングで最適なメッセージを伝えたいという広告主の課題を、AI(人工知能)を用いた先端テクノロジーで解決するマーケティング・テクノロジー・カンパニー。
広告主や広告代理店が、広告主の利益を最大化するために効率的にインターネット広告を買い付け、配信するプラットフォーム「DSP(デマンドサイド・プラットフォーム)」の運営やOEM提供を行う「DSP事業」が事業の中心。
「最大級のデータ保有量」、「良質な広告掲載面の確保」、「優れたアルゴリズム構築のための積極的な投資」などが大きな強み・特長。
広告に留まらず様々な分野でテクノロジーによって「人に人らしい仕事を」提供し、創造的な社会づくりに貢献する事を経営理念としている。

 

【1-1 沿革】

日本よりも1年ほど先行して米国でRTB(Real-Time Bidding)という、インターネット広告の表示回数ごとに入札形式で広告枠を自動的に売買する配信手法が一般化していたころ、日本でもこの手法を導入して広告分野におけるGame Changeを起こすことを目指してエンジニアでありヤフー株式会社で広告ビジネスに携わった経歴を持つ代表取締役Global CEO本田兼氏が2010年10月、同社を設立。グーグル株式会社で同じくエンジニアとして広告製品を担当していた佐藤 裕介氏(前代表取締役社長、現取締役 新領域事業管掌)も創業に参画し、2011年1月、日本国内で初めてRTB技術の商用化を実現した。
新しいプロダクトに対する感度が高いという広告業界の特性もあり、リリース直後から利用する企業は多数に上ると同時に顧客の満足度も高く、売上、利益は順調に拡大。2014年6月、設立から4年弱で東証マザーズに上場した。
2017年1月には意思決定のスピードアップやよりダイナミックな事業展開を目指し持株会社体制に移行した。

2010年

10月

同社設立

2011年

1月

日本初のRTB技術を用いたDSP「Freak Out」をリリース

2012年

5月

スマートフォン向けサービスを開始

2013年

6月

合弁会社(現連結子会社)「(株)インティメート・マージャー」設立

2013年

10月

YouTubeにホスティングされた動画を利用した動画広告配信サービスを提供開始

12月

LINE株式会社と合弁会社M.T.Burn株式会社を設立

2014年

6月

東証マザーズに上場

6月

M.T.Burn(株)がネイティブ広告プラットフォーム「AppDavis(現 Hike)」をリリース

2016年

1月

M.T.Burn(株)の「Hike」とRTB接続を開始

5月

モバイルマーケティングプラットフォーム「Red」をリリース

2017年

1月

持株会社体制へ移行し商号を「株式会社フリークアウト・ホールディングス」へ変更

3月

Gardia(株)設立、Fintec領域へ参入

2018年

12月

伊藤忠商事との資本業務提携を発表

2019年

1月

国内・海外広告事業を統合

Playwire, LLC を連結子会社化

5月

M.T.Burn(株)を解散

10月

子会社インティメート・マージャーが東証マザーズに上場

 

【1-2 経営理念など】

『Give People Work That Requires A Person.』、『人に人らしい仕事を』を経営理念として掲げている。

 

沿革にあるように、インターネット広告のリアルタイム取引を日本で初めて事業化し、広告取引を人間の手作業からコンピュータ間の取引に変えていくことを目指したのが創業の経緯。

 

テクノロジーによって、広告主は消費者一人ひとりとコミュニケーションを取ることが可能になり、従来のマス広告では不可能だった真の 1to1 マーケティングに近づく。
また同時に、広告業に従事する「人」たちは、取引に関する雑務から解放され、より人間らしいコミュニケーションのプランニングや、共感を起こすメッセージの作成など、クリエイティブな仕事に集中できるようになる。

 

同社は、「コンピュータにできることはコンピュータに任せることで、余剰労働力(人が創造的な仕事と向き合う時間)をつくること。」が使命であると考えている。
広告分野に留まらずあらゆる分野において、自社の高度なテクノロジーによって、人に人らしい仕事を提供し、より創造的な社会作りに貢献する事が同社の目指す姿である。

 

【1-3 インターネット広告市場概要】

同社の事業内容を理解するためには、広告主やメディアのニーズと広告市場の変化、テクノロジー、メインプレーヤーといった「インターネット広告」運営を取り巻く環境、構成要素等について一定の知識を有していることが欠かせない。以下、主要ポイントについて概要を説明する。

 

≪広告市場の変化≫
従来の広告市場、特にテレビや新聞といったマスメディアを利用した広告ビジネスにおいては、サプライサイドであるメディアや広告代理店にとっては在庫の独占性や排他性が事業展開するうえで最も重要な要素であった。
大手広告代理店は限りのあるTVのスポット枠をほぼ完全に押さえることで広告主に対する価格リーダーシップを握り、メディアとともに大きな利益を生み出してきた。
ところがTVや新聞によるマス広告は、右肩上がりの経済成長の終焉と、従来のメディアと比較した際のコストの安さや双方向性を大きな特徴とするインターネット広告の登場によりその需要は縮小する傾向にある。

 

日本の総広告費用が過去10年間でほぼ横ばいの中、2005年には3,777億円であったインターネット広告費は地上波テレビの2割弱、新聞の4割弱であったが年平均成長率12%超で拡大を続け、2019年には2兆1,048億円となり、地上波テレビ(18,612億円)を初めて上回った。(「電通 日本の広告費 2019」より)

 

一方で、より効果的な広告を求める広告主のニーズはますます増大しており、いかにして「最適な消費者に」、「最適なタイミングで」、「最適なメッセージ」を届けるかが大きな課題となっている。

 

こうした中、「アドエクスチェンジ」と呼ばれる、広告枠のオープンなマーケットプレイスが登場してきた。これは、広告主、メディア、広告代理店などが広告枠を自由に売買することができるまさに「市場」であり、広告主にとっては、より高い広告パフォーマンスを求めて最適な広告枠を買うことが極めて重要になってくるわけだが、それを実現するためのカギとなるテクノロジーの一つが、同社が日本国内で初めて商用化を実現した「RTB」である。

 

≪RTBによる広告枠のリアルタイム取引≫
RTB(Real-Time Bidding:リアルタイムビッディング)とは、インプレッション(広告の表示回数)ごとに入札形式で広告枠を自動的に売買する配信手法。

 

RTBが登場するまで一般的であった「純広告取引」は、ディスプレイ広告(ウェブサイトに表示される画像やFlash、動画などを用いた広告)の枠を、メディアや広告代理店がインプレッション保証や期間保証を付けてパッケージ販売するいわばコースメニュー。
これに対してRTBは、ディスプレイ広告を1インプレッションごとにアクセスしてきたユーザーの属性を解析し、「特定の属性を持ったユーザーへの広告」として1インプレッションごとに入札方式で売買を行なうシステムである。

 

RTB技術の活用により、広告主は従来の特定サイトの広告枠を予め決定された価格で購入する純広告や、検索キーワードに関連した検索連動型広告では難しかった潜在的な消費者層の開拓や、興味・関心をもってもらうための効果的な広告配信による認知施策が可能となる。

 

(RTBの流れ)

インターネットユーザーが広告枠のあるウェブサイトに来訪した瞬間に、広告枠を管理するアドエクスチェンジやSSP、あるいはアドネットワーク(※)などから、複数のDSP事業者に来訪ユーザーの情報と広告枠情報(入札リクエスト)が送信される。

各DSP事業者はデータベースを解析し、入札を実行する。

広告枠のオークションの結果、競り勝ったDSP事業者は広告枠の配信を行う。

同社では、オークションが成立した瞬間にSSP等から広告枠を仕入れ、広告枠の入札価額に一定のマージンを載せて販売価額を決定し、広告枠の配信を行う。

(※)アドネットワーク:複数の媒体サイトの広告枠を束ねてネットワーク化し、広告販売や広告配信を一元的に管理して収益化を実現するもの。

 

「RTB」には広告枠の需要サイドのシステムである「DSP」と、供給サイドのシステムである「SSP」が主要プレーヤーとして登場する。

 

(DSP「Demand Side Platform:デマンドサイド・プラットフォーム」とは?)
広告主や広告代理店が、広告主の利益を最大化するために効率的にインターネット広告を買い付け、配信するプラットフォーム。

 

具体的には、広告主や広告代理店が、RTB技術を活用し独自のアルゴリズムにより、アドエクスチェンジやSSP、あるいはアドネットワークなどに対して、ユーザーの広告1インプレッションごとに最適な自動入札取引・広告配信を行うプラットフォームである。
広告主はあらかじめDSPを通じて広告を見て欲しい対象者の属性、入札の上限額を決めておき、広告主の要望にマッチするユーザーが見つかった場合は瞬時(およそ0.05秒程度)に入札が行われ、最も高い価格を提示した広告が媒体に配信される。

 

RTBが登場するまでは、広告主は、ターゲットであるユーザーが閲覧すると思われるサイトを想定して、特定の広告枠を予め決められた価格で買い付けていた。しかし、DSPを用いることにより、広告主は広告を配信したいユーザーをリアルタイムで判断し、入札による適切な価格で広告を配信することができるため、広告主は広告の費用対効果を高めることが可能である。

 

同社は自社開発のDSPである「Red」や「FreakOut」の販売やOEM供給を行う「DSP事業」をメインビジネスとしている。
常に最適なユーザーに広告を配信し、最適な価格で入札を行うには、極めて高度なアルゴリズムを構築し、大量のデータを元に機械学習を繰り返すことで「より賢いAI(人工知能)」に磨き上げていく必要があるが、同社はその点で強力な競争優位性を有している。(詳細は【1-6 特徴・強み】を参照)

 

(SSP「Supply Side Platform:サプライサイド・プラットフォーム」とは?)
メディア側から見た広告効果の最大化を支援するシステム。メディアが広告枠を管理及び販売する際に使用するプラットフォームであり、DSPのリアルタイムな入札に対応する技術を有している。

 

このように、RTB技術をベースにして従来の純広告では困難であった最適化を自動かつ瞬時に行う費用対効果に優れた広告は「運用型広告」と呼ばれ、インターネット広告全体を上回るスピードで成長を続けている。
2019年には日本のインターネット広告の79.8%が運用型広告となっている。

(電通「日本の広告費 2019」を基に当社作成)

 

(※)運用型広告:膨大なデータを処理するプラットフォームにより広告の最適化を自動的もしくは即時的に支援する広告手法の事。検索連動型広告や一部のアドネットワークが含まれるほか、新しく登場してきたDSP、アドエクスチェンジ、SSPなどが典型例。枠売り広告、タイアップ広告、アフィリエイト広告などは運用型広告に含まれない。

 

また、同社が日本国内で商用化したRTBは、市場規模は米国の10分の1以下であるが、急成長を遂げている。

 

このように、他の媒体と比べて高い伸びを見せるインターネット広告の中でも特に伸長著しいRTB技術をベースとした「運用型広告」が同社のフィールドであり、旺盛な需要を確実に取り込んで業容を拡大させている。
加えて、後述するように同社では東南アジアを中心とした海外事業の拡大にも積極的に取り組んでいるが、東南アジアにおいても台湾を筆頭に各国において広告市場におけるデジタル広告費の割合は上昇傾向にあり、マーケットは継続的に拡大している。

(同社資料より)

 

【1-4 事業内容】

1.事業セグメント
事業セグメントは、「DSP事業」、「DMP事業」、「その他事業」、及び20/9期から「投資事業」が新たに加わり、4事業となる。

① DSP事業
◎ビジネスモデル
SSP・アドエクスチェンジおよびメディアを通じて広告枠を仕入れ、広告主・広告代理店に対してインターネット広告枠を提供。一部広告代理店に対してはDSPプラットフォームのOEM提供を行っている。

(会社側資料より)

 

◎主要プロダクト、サービス
広告主の自社サイトのアクセスデータ、広告配信データ、会員データ、購買データなどのビッグデータを用いて、DSP「Red」、「FreakOut」による広告配信効果の最大化を追求している。

 

「Red」、「FreakOut」は広告主にとって有望な見込顧客にターゲティングするために、多様な配信手法を備えている。
具体的には、「知らない人(潜在層)」には知ってもらうための「オーディエンス拡張」等の配信手法を用いた潜在層ターゲティング、「既に知っている人(興味層)」には欲しいと思ってもらうための「キーワードマッチ」等の配信手法を用いた興味関心層ターゲティング、「欲しいと思った人(顕在層)」にはコンバージョン(購入、資料請求、会員登録など実際の行動)してもらうための「リターゲティング」等の配信手法を用いた顕在層ターゲティングを行い、消費者の行動プロセスに応じてターゲティングした広告配信を実施している。

プロダクト、サービス

概要

Red

生活者のインターネット利用シーンがPC からスマートフォンへ移行していることをふまえ、スマートフォン領域における広告効果の最大化を目指し、最先端の広告配信最適化技術の適用、優良な独自広告枠在庫の確保を実現したモバイル特化型のマーケティングプラットフォーム。2016年5月リリース。

(特徴)

◇ 最先端の独自機械学習エンジンを搭載

◇ 業界最大級、数百億インプレッション規模のモバイル・インフィード広告枠在庫の確保

◇ 月間 1,300 億インプレッションに及ぶ業界最大級のモバイル広告枠在庫の確保

 

モバイルメディア上で、広告主が効率的にターゲット顧客にリーチすることを可能にするプラットフォームを日本、東南アジア、中近東エリアなどグローバルに展開していく。

Red for Publishers

プレミアムメディア(大規模なトラフィックを有する媒体)や広告主を対象として、販売支援、オペレーション支援、開発支援、プロジェクト管理面から独自の広告プラットフォーム立ち上げを支援する技術および、それに付帯するサービスパッケージ。2017年9月リリース。

媒体社は広告配信による収益最大化を「Red for Publishers」に委ね、本来リソースを注ぐべきコンテンツの充実や集客に専念することが可能となる。

広告主も、優良な媒体社の広告枠へDSP「Red」が優先的に接続されることによって、従来からの「Red」の目的であった広告価値の最大化のさらなる追求が可能となる。

 

マネタイズとしてはDSPとしての売上に加え、プレミアムメディアから受領する「広告配信システム利用料」。後者は100%が粗利となるため収益貢献大。

Freakout

2010年、国内初のDSPとして開発された。ブランド認知促進から販売促進までさまざまな目的に利用されている。

Poets(ポエット)

コンテンツ UI と親和性の高い広告フォーマットを活用した、ユーザー体験を損なわずに広告体験を提供することができるプレミアムアドプラットフォーム。

ダイレクトレスポンスでの広告効果が最大限に期待できる、厳選されたメディアのみを保有しているため、広告主はコンテンツに馴染むフォーマットにより、目標 KPI に合わせた高い広告効果を得ることができる。また、媒体社に対しては、Red for Publishers の広告配信技術を活用し、高額買付けの広告主をマッチングする。

トレーディングデスクサービス

広告主のオンラインマーケティングにおける成果向上を目的としたサービス。

新たなマーケティング技術を活用したオンラインマーケティング戦略の立案から、高度化・複雑化する広告運用支援までを行っている。

 

② DMP事業
DMPとは「Data Management Platform(データ・マネジメント・プラットフォーム)」の略で、広告主がもつ自社サイトへのアクセスデータ、広告配信データ、会員データなどのデータを管理及び解析し、メール配信や分析調査などの様々なデータ活用チャネルと連携して利用可能にする、データ統合管理ツールのこと。
クライント企業や広告代理店のデータマーケティングの最適化を実現するため、メディア企業や調査会社などデータプロバイダーから多様かつ膨大なデータを集め、DMPで蓄積・解析を行い、独自性の高い膨大なパブリックデータDMPの提供、大規模ポータルサイトのDMP構築支援、最適なマーケティングチャネルでの自社データの活用のコンサルティングサービス等を提供している。 

 

③ 投資事業
20年9月期より新設されたセグメント。従前より将来有望なベンチャー企業への投資を行い一定の成果を上げてきたが、安定的な収益基盤の拡大とそれに伴う企業価値の向上を図るため、投資事業部門を設立、投資活動を組織的に事業として行う。

 

④ その他の事業
持株会社体制への移行に伴い17年9月期より新設されたセグメント。国内外のグループにおける新規事業、及び経営管理が含まれる。

 

【1-5 グループ企業】

持株会社である株式会社フリークアウト・ホールディングスの下、グループを形成している。
海外事業においてはFreakOut Pte.Ltd. (本社:シンガポール)をヘッドクォーターとして、ネイティブ広告プラットフォーム事業を中軸とするグローバル展開を推進してきた。
2015年に、東南アジア初のネイティブ広告プラットフォームをリリース以降、各国上位のメディアを中心に提携先を拡大してきた。18/9期には、アジア中心にグローバル16カ国にてサービスを提供。19/9期下期から米Playwireを子会社化し、英語圏に進出した。しかし、19/9期から20/9期に事業体制を見直している。5カ国で事業を停止するなど、現在進行中。

 

【1-6 特長と強み】

前述のように、常に最適なユーザーに広告を配信し、最適な価格で入札を行うには、極めて高度なアルゴリズムを構築し、大量のデータを元に機械学習を繰り返すことでより「賢いAI(人工知能)」に磨き上げていく必要があるが、同社はその点で強力な競争優位性を有している。加えて、良質な広告掲載面を有している点も大きな強みとなっている。

 

① 最大級のデータ保有量
RTB技術を日本国内で初めて商用化したこともあり、データ保有量は国内最大規模となっている。
どんなに優れたAIを開発したとしても、大量のデータを使って機械学習を繰り返し行わないと実用的で効果の高いAIには成長しない。
「日本で一番スマートフォン所有者のことを知っている」同社は、全国6,000万人のモバイルユーザーのうち、5%、300万人の正確なデータがあれば、残り5,700万人の年齢や性別による思考、行動はほぼ正確に類推することが可能ということで、広告主に対し高い顧客満足度を提供している。

 

② 良質な広告掲載面を確保
一方、RTBの登場によってオープンな環境でのプラットフォームの「賢さ」が優位性である時期がある程度続くと、技術の格差・優劣が相対的に縮小し、特にモバイルの世界でどれだけ良質な掲載面を確保しているかという「掲載面の品質とその独占性」が再び有力な競争条件となってきた。

 

③ 優れたアルゴリズム構築に向けた積極的な投資
ターゲティング広告においては入札金額が高ければ落札はできる。売上規模拡大を目指す同社としては、できるだけ多くの広告枠を買いたいが、パフォーマンスが悪ければ広告主から評価されず、継続的な取引も難しくなってしまう。
そこで、高く買ったとしても結果としてはリーズナブルであったと判断してもらえるような結果を生むことが極めて重要である。
この課題に対し同社では「クリック率予測モデル」、「コンバージョン率予測モデル」を開発し、広告主に対する提案力を高めており、加えてこれらモデルの正確性を一段と向上させるために常に投資を行っている。
同社のデータ・サイエンスチームは日本の、特に中堅企業クラスではトップレベルの能力を有しているとのことで、積極的な投資の蓄積が継続的かつ高いパフォーマンスの提供に結び付いている。

 

④ 優秀な人材の獲得
インターン制度を積極的に活用し学生との接点を増やしているのに加え、広告がメイン事業ではあるが、今後は新規分野としてHR tech、Fintechといった幅広いフィールドで活躍できる可能性がある事、エンジニアとして業界でも著名な優秀なエンジニアと一緒に働くことが出来る事を魅力と感じているということだ。
また、チャレンジを最大に評価するインセンティブ制度も学生からの人気が高い要因の一つであると会社側は考えている。

 

【1-7 伊藤忠商事との資本業務提携】

18年12月には、伊藤忠商事との資本業務提携を発表した。
伊藤忠商事が保有する膨大な有形・無形のアセットと、同社のテクノロジー基盤をかけあわせることで、デジタルマーケティング領域における新規サービスの共同開発やアジアを中心とした海外事業の拡大など、広範囲にわたる提携を行う。

 

 

 

2.2020年9月期第3四半期決算概要

(1)連結業績

単位:百万円

19/9期 3Q累計

構成比

20/9期 3Q累計

構成比

前年同期比

売上高

15,504

100.0%

18,666

100.0%

+20.4%

売上総利益

4,045

26.1%

4,335

23.2%

+7.2%

販管費

4,561

29.4%

4,223

22.6%

-7.4%

営業利益

-516

112

0.6%

経常利益

-645

-74

EBITDA

128

0.8%

426

2.3%

+233.0%

当期純利益

-1,035

-438

※数値には(株)インベストメントブリッジが参考値として算出した数値が含まれており、実際の数値と誤差が生じている場合があります(以下同じ)。

 

前年同期比20.4%の増収、EBITDAは233.0%増の4億26百万円
20/9期第3四半期累計の売上高は前年同期比20.4%増の186億66百万円。国内インターネット広告市場においては、新型コロナの影響で広告主の予算の低下、物理的な移動を前提とするサービスの売上の減少などはあったものの、「Red」は比較的順調に推移し、「Poets」はインターネットメディアのView数増加によって過去最高の売上・売上総利益を計上するなど業績を牽引した。海外においては、新型コロナの影響はあるものの、引き続きPlaywireやインドネシア、台湾子会社が業績を牽引した。また、本田商事や中国子会社が収益貢献を開始するなど今後に向けて事業を推進している。
営業利益は前年同期5億16百万円の損失から1億12百万円の黒字に転じた。売上総利益は前年同期26.1%から23.2%に低下したものの、販管費が縮小し黒字に転じた。
EBITDAは前年比233.0%増の4億26百万円。持分法適用会社ではタクシー内のデジタルサイネージを提供するIRIS社について、新型コロナの影響で物理的な人の移動が減少し、一時的な赤字に転落した。
四半期毎の推移は下図の通り。国内広告_DSP等で、粗利率が低い事業を中心に売上が大幅減となった。海外広告は新型コロナウイルスの影響を受けるも、EBITDA黒字を継続した。持分法IRISは赤字に転じた。

 

売上高・EBIDAの推移

(同社資料より)

 

(2)セグメント別動向      

セグメント別売上高・利益

 

 

(単位:百万円)

 

19/9期 3Q累計

構成比

20/9期 3Q累計

構成比

前年同期比

DSP事業

13,095

83.1%

16,758

89.8%

+28.0%

DMP事業

1,639

10.6%

1,554

8.3%

-5.2%

投資事業

345

1.9%

その他

1,023

6.6%

863

4.6%

-15.7%

全社・消去

-253

-854

連結売上高

15,504

100.0%

18,666

100.0%

+20.4%

DSP事業

-7

456

2.7%

DMP事業

130

8.0%

28

1.8%

-78.2%

投資事業

168

48.7%

その他

-639

68

8.0%

連結調整

0

-609

連結営業利益

-516

112

0.6%

※営業利益の構成比は営業利益率

 

DSP事業
売上高は前年同期比28.0%増の167億58百万円、セグメント利益は4億56百万円(前年同期は7百万円の損失)、EBITDAは同37.2%増の7億48百万円。
モバイルマーケティングプラットフォーム「Red」、アドプラットフォーム開発・運用支援「Red for Publishers」、ネイティブアドプラットフォーム及びトレーディングデスクの提供を行い、広告主の広告効果最大化及び媒体社の収益最大化に取り組んだ。
全体として新型コロナの影響が売上・売上総利益への押し下げ要因となったものの、ネイティブアドプラットフォーム「poets」が過去最高の売上・売上総利益を計上して業績を牽引した。「Red」についても堅調に推移している。また、海外子会社の事業も引き続きPlaywire、adGeekが業績を牽引したほか、グローバルアプリ事業を営む本田商事、中国子会社が急速に黒字化した。新型コロナウイルス感染症の影響については物理的な人の移動が前提となるプロダクトを中心に売上の減少が生じている。

 

DMP事業
売上高は前年同期比5.2%減の15億54百万円、セグメント利益は同78.2%減の28百万円。EBITDAは75.4%減の35百万円。
子会社インティメート・マージャーがデータ活用によりクライアント企業のマーケティング課題を解決する事業を行う。引き続きデータを活用したデータマーケティングにおける認知度向上及び導入社数の増加を進めた。しかし、新型コロナウイルス感染症の影響による景気鈍化が、同社の顧客である旅行業界やエンターテインメント業界の広告費に影響を及ぼしており、売上・売上総利益の押し下げ要因となった。

 

投資事業
売上高は3億45百万円、セグメント利益は1億68百万円、EBITDAは1億68百万円。
20/9期からの新セグメント。従前より将来有望なベンチャー企業への投資を行い一定の成果を上げてきたが、1Qより安定的な収益基盤の拡大とそれに伴う企業価値の向上を図るため、投資事業部門を設立、投資活動を組織的に事業として行う。今3Q累計期間中に、既存の投資先について一部売却を行った。

 

その他事業
売上高は前年同期比15.7%減の8億63百万円、セグメント利益は68百万円(前年同期はセグメント損失6億39百万円)。EBITDAは83百万円(前年同期は5億63百万円の損失)。
その他事業では、国内外のグループにおける新規事業及び経営管理機能の提供をしている。M&A先を中心とする海外拠点の拡大に伴う管理体制の強化、海外子会社からの配当金受領等を実施した。

 

新型コロナの影響について
≪正常収益力ベースでは引き続きEBITDA黒字を継続≫
特に大きなところでは、株式会社フリークアウトを主とする国内広告_DSP等のところで、位置情報を活用した来店促進ニーズをメインターゲットとするリテールテック事業のASEや、タクシーサイネージのTokyo Prime商流の売上が影響を受けている。また、2Qに引き続き、インティメート・マージャーにて新型コロナウイルスによる影響も相当程度ある。そして、海外のところでも、主要子会社である米国法人のPlaywireと台湾法人であるadGeekを中心に引き続き影響が出ている。さらに、持分法のところでは従来は四半期で0.5億円程度の収益貢献を安定的に果たしていたIRISが赤字となった影響等が0.9億円程度出ている。これらから、売上高で14.6億円、EBITDAで3.0億円程度が新型コロナウイルスの影響と同社で把握している数字であり、5月以降徐々に回復してきているものの、今3Qは厳しい数字となっている。

(同社資料より)

 

≪国内広告_DSP等の内訳≫
まず、大きく落ち込んだものが、①タクシーサイネージに関連する売上、②ASEの売上、③広告運用系の売上となる。この3つの売上が下表のとおり2Qの17.8億円から3Q8.3億円と、半分以下となっている。 一方で、この3つを除く、その他DSP等の売上については、ほぼ落ちていない。(ただし、2Qで3月の広告需要を新型コロナウイルスの影響で取り込めなかったこと、3Qも当初想定の成長を阻害されたことなどから、影響は相応に出ている)。
落ち込んだもののうち、1つ目がタクシーサイネージに関連する売上となる。同社はタクシーサイネージの事業内で、2つのマネタイズポイントを持っている。持分法適用関連会社IRISの持分法投資利益と、商流としてフリークアウト・ホールディングスがタクシーサイネージ事業に関与することによる売上・粗利となる。そのうち後者の売上についても、新型コロナウイルスの影響を大きく受けて、4月以降売上が大幅に減少している。ただし、同事業の回復とさらなる成長に向けたストーリーがかなり明確に見えてきており、来期以降は再び成長軌道に回帰する蓋然性が非常に高く、落ち込みも一時的なものと推測される。
位置情報を活用したリテールテックのASEについては、来店促進ニーズを主なターゲットとしている関係もあり、外出自粛の波を受けて、3月以降大きく売上を落としている。昨今の感染者増などの状況から、完全な回復には多少時間を要すると見ている。4月から6月、足元7月にかけて徐々にではあるが着実に回復をしてきている。
また、当社で提供している広告運用のサービスについては、もともと3Qはそれほど強くないこともあるが、ブランド広告主の予算減少などの影響を受けて、相応に落ちている。
上記3つを合計すると、売上が2Qから3Qにかけて、半分以下ということで大幅に減少しているが、いずれも4Q以降に向けては回復の兆しが見えてきている。
一方で、それ以外の事業についてはピンク色のグラフの通り、それほど減少していない。特に月次では、4月はかなり落ち込んだが、5・6月と新型コロナウイルスの影響を受ける前の水準に近いところまで回復してきている。足元7月も堅調に成長している。新型コロナウイルスの影響で、当初見込みに比べると弱い数字となっているものの、明らかにネガティブな影響を受けているサービスと比較して、そこまでネガティブな影響を受けることなく、早期に回復・成長軌道に戻りつつある。

 

(同社資料より)

 

海外広告事業
最も大きなポートフォリオを占めるPlaywireについては、例年2Qから年末に向けて売上が徐々に回復・成長してくる傾向がある。しかし、新型コロナウイルスの影響を受けて、今期は2Qから3Qにかけて売上が減少している。一方で、粗利率が高いクライアントをしっかりと維持したこと、スピーディかつドラスティックにコストの見直しもしっかり進めた結果、売上の減に反してEBITDAベースでは2Qと比べても増、前年度と比較しても微減程度の水準を維持している。また、スリムダウンを進めて収益化させてきたadGeek+The Studio by CtrlShiftについては、事業エリアである台湾が比較的回復が早かったこともあり、傾向的にも良くない3Qでも0.3億円のEBITDAと、しっかりと収益を出している。
さらに、自社拠点についても、特にグローバルアプリ広告事業(中国法人と本田商事)を中心に収益化が進んでいる。新型コロナの影響下ではあるが、3Qで0.2億円と過去最高のEBITDAを計上した。
一方で、M&A先その他については赤字が発生している。次の中期経営計画に向けて、一部子会社の売却や買戻し含めて、グループ全体として3年後の最適な事業ポートフォリオとなるように検討を進めているところ。

 

海外広告売上、EBITDAの内訳

(同社資料より)

 

 

(3)財政状態と資金調達について

財政状態

単位:百万円 

19年9月

20年6月

 

19年9月

20年6月

現預金

5,690

4,840

仕入債務

2,854

2,437

売上債権

4,454

3,607

短期有利子負債

3,358

7,526

流動資産

14,511

10,768

流動負債

11,498

11,382

有形固定資産

239

188

長期有利子負債

6,809

2,289

無形固定資産

2,615

2,417

負債合計

18,353

13,717

投資有価証券

5,830

5,513

純資産

5,885

5,912

投資その他

6,872

6,254

負債・純資産合計

24,239

19,629

固定資産

9,727

8,861

有利子負債合計

10,168

9,815

※ 有利子負債=借入金+リース債務

 

3Q末の総資産は196億29百万円となり、前期末比46億9百万円減少した。これは主に、現預金が8億49百万円、未収入金が33億21百万円減少したことによるもの。
負債は137億17百万円となり、前期末比46億35万円減少した。これは主に、未払金が34億54百万円、短期借入金が4億89百万円減少したことによるもの。
純資産は59億12百万円となり、前期末比26百万円増加した。
自己資本比率は、21.4%(前期末18.2%)となった。

 

資金調達について
6月19日に資金調達について開示を行った。今年10月に償還期限を迎える第1回新株予約権付社債(第1回CB)の償還資金のための調達。第1回CBを発行した17年9月当時からの大きな誤算として、大きな提携事業がかなり急速に失われたこと、海外や新領域の事業についても、当初想定よりは時間がかかったことなどで、結果として株価水準も転換価格に遠く届かない状況となった。
その中で、今年10月のCB償還に対応するための検討過程では、当然公募やMSワラントのみで決着させるというプランや、伊藤忠商事に続く事業会社との資本業務提携などというプランも検討はしていた。しかし、2月半ば以降新型コロナウイルスの影響で株価がさらに下がる中で、その株価水準で40数億円もの調達をエクイティのみで行い、安易に希薄化させるべきではないというのが、同社としての判断であった。
検討の結果、同社として現在及び将来の換金可能性のある資産の価値を最大限活用することで、最も希薄化を抑制できる、現時点でベストな調達手法ということで採用したのが本資金調達となる。概要についてはこの下表の今回調達の特徴というところに記載している通り。ダイリューションの程度についても、全てワーストシナリオで移行した場合には最大で24%超となりうるが、ベースケース(第3回CBの償還など)の場合には、13%程度の希薄化に留まる見込み。
なお、このうちの第10回新株予約権については、すでにその77%の行使が完了している。一方で、想定以上に立会外取引の実施を公表してから実施されるまでの1日の間に株価の下落が生じた。スキームとしては、最大限株価の短期的な下落にも配慮した設計となっていたが、結果として下落が生じ、想定していた調達額に満たない額しか調達できなかった。当該不足については、投資有価証券の売却により速やかに充足されている。

 

3.2020年9月期業績見通し

(1)通期業績予想

 

19/9期 実績

構成比

20/9期 予想

構成比

前期比

売上高

21,709

100.0%

27,000

100.0%

+24.4%

営業利益

-1,270

200

0.7%

経常利益

-1,497

200

0.7%

EBITDA

-491

500

1.9%

当期純利益

-3,512

未定

*単位:百万円

 

20/9期は24.4%増収、EBITDAは5億円の見通し
通期予想は修正なく、20/9期は売上高が前期比24.4%増の270億円、経常利益は2億円(前年同期は14億97百万円の損失)、EBITDAは5億円(前年同期は4億91百万円の損失)を計画する。
資金調達費用の影響で3Qの経常利益がマイナスになったが、足元7月以降業績が回復傾向であること、有価証券の売却などを通じて業績予想通りの着地をまだ十分に狙える水準であることなどから、現時点では業績予想の修正を行う予定はない。
尚、投資先の有価証券を一部売却している。次期の中計策定にも関連して、コア事業以外の事業資産・金融資産については、入れ替え・Cash化を足元積極的に進めている。

 

(2)中期計画への進捗状況

中期3カ年計画では、20/9期に「売上高330億円、EBITDA30億円」を目指していたが、この目標は未達となる見通し。未達要因として大きいところでは、a)国内広告事業で3年前提携関係にあったトップメディアとの取引が失われたこと、b)Playwireを除く海外広告事業の収益化に時間を要したことがある。今秋に新型コロナの影響を踏まえた、新たな中期計画を策定する見通し。

 

4.各事業の進捗

◎広告事業
① Poets事業の成長
Poetsはモバイル向けのインフィードアドネットワーク。広告在庫にあたるインプレッションは、四半期ごとに継続的に成長し、その成長角度が3Qに少し上がっている。これは、新型コロナウイルスの影響によって、ユーザーのメディア滞在時間が伸張するのと合わせて、この四半期は特定芸能人のスキャンダルが要因で、芸能ニュース記事のビューがスポットで伸びたこと、また他社ネットワークからのリプレイスが進んだことにより広告インプレッションが全体としても大きく伸びた。売上総利益についても前年同期比での成長を継続し、3Q累計で昨年対比+73.5%、また四半期でも過去最高の売上総利益を記録した。
昨今、インターネット広告業界でも、特にPoetsが対象市場とするパフォーマンス領域において数々の不正があらわになってきている。業界の透明性、健全性という点において、同社では、これまでにも他社に先駆けてブランドセーフ機能をリリースするなど、技術によって解決できるものは率先して開発・リリースし、短期的に技術で解決することが難しいクリエイティブに関する問題についても、審査基準を業界水準より高く設定し、厳格に適用することで、インターネット広告業界の健全な発展に寄与してきた。そういったクリーンな審査基準がメディアパートナー各社からも評価され、同業他社から優良枠のリプレイスが進んだということも、新型コロナウイルスの影響と同程度ポジティブに働いている。

Poetsのインプレション数と売上総利益の推移

(同社資料より)

 

② グローバルアプリ広告事業(中国法人・本田商事)の成長
中国法人及び本田商事は、中国・日本のアプリクライアントのマーケティングを国内外(主には、日本、台湾、東南アジア)にて支援している事業。Google、Facebookなどを用いた広告運用サービスの提供はもちろん、現地チームを活かしたローカルメディアとのタイアップやインフルエンサーのキャスティングなどに強みを持つ。
またサンフランシスコ投資先で本田商事が専売権をもつMobileAction社の「SearchAds.com」や、フリークアウト自社プロダクトであるアプリエンゲージメントプラットフォーム「LayApp」など、独自商材も提供している。数年前より、中国アプリデベロッパーの日本進出が急加速していることもあり、国内アプリ市場が急激に競争激化し、そのことが日本のアプリデベロッパーの海外展開の検討を本格化させている。
中国アプリデベロッパーの日本進出を主とした海外へのクロスボーダー案件を中国法人が、日本デベロッパーの日本市場及び海外へのクロスボーダー案件を本田商事が、中国・日本・台湾・東南アジアの各ローカルチームとも連携しながら、現地ユーザーインサイトも踏まえたマーケティング支援サービスを提供してきた。
フリークアウトグループとしては、コア事業であるDSP、アドネットワーク事業がブランド案件やECなどのパフォーマンス案件に強いのに対して、アプリ案件はほとんど取り込めていなかった。このため、クロスボーダーを切り口としてアプリセールスチャネルを獲得し、「LayApp」含めて中長期的にはアプリプロダクトの開発・成長に有意なサービスとなるようにする方針。
サービス提供開始以降、着実に売上を積んでおり、2Qには損益分岐を超え、3Qについては新型コロナウイルスによる事業へのポジティブな影響もあり大きな成長を遂げることができた。
4Q以降は、新型コロナウイルスの短期的なポジティブ要因を除外しても安定的に収益を出せる事業基盤が構築できてきたことで、次なる事業拡張へ向け準備中。

 

③ 主力事業であるDSPは4月を底に売上回復基調
主力事業であるDSPでは、19年4月に協業解消した特定メディアでの配信を除いたDSP売上は、上半期は順調に成長し昨年対比10%増にて進捗していた。新型コロナウイルスの影響が顕在化してきた3月初旬〜中旬から出稿のキャンセルや、4月以降の出稿見送りなどが相次いで発生し、4月には昨年対比でも64%と大幅に売上を落とした。
しかし、5月以降は出稿の検討も再開され、一部を除く広告主では通常通りの出稿水準にまで戻ってきている。7月以降も引き続き一部影響は出てくると思われるが、最悪の状況は脱した模様。

 

DSPの売上推移

(同社資料より)

 

④ adGeekの収益安定化
17年に買収したadGeekについては、18年以降、ディスプレイ広告、チャット、Eメールなど、あらゆるマーケティングチャネル上で統合コミュニケーションを可能とする「Smart Engage Platform」への開発投資を進めてきた。しかし、成果がなかなか出てこない中で、昨年度には通期で大幅な赤字に転落するなど、成長投資に対して収益化が想定していたタイムラインで進捗していなかった。そういった背景から、昨年度の下期より積極的に経営へ関与し、特定部門についての外部協業切り替えやチームサイズの縮小など、かなりドラスティックな整理を進めてきた。
一方で、AIを活用したキャンペーンの効果の最適化と作業の一部自動化による運用の立ち上りにより、販管費を25%削減した中でも売上成長及び収益性を維持させることができ、2Q以降は月次でも安定して営業利益が出せるまでに回復した。今後については他のグループ会社についても同様に、状況次第では積極的な経営関与を通じて、グループ全体として規律をもった成長投資を実現していけるようマネージしていく方針。
総じて、新型コロナのネガティブな影響も徐々に快方に向かっている。ポートフォリオの分散によって、新型コロナ自体が経営的にポジティブに影響するセグメントも存在する。加えて、前期から強化してきた経営管理の強化によって、非常に筋肉質な組織となっていたことが奏功し、新型コロナによる経営面のネガティブな影響を最小限度に止めることができている。

 

adGeekの業績推移

(同社資料より)

 

◎FinTech事業
① 新領域事業(カンム)のビジネス
カンムが現在行っている事業は、バンドルカードという主にスマホ上で機能するプリチャージのVISAカードの発行等。そこにチャージの後払い機能を付すことで、誰でもスマホベースで非常にライトにクレジットカードと同等の便益を享受できるサービスを提供している。ユーザーの継続率は非常に高く、また、不景気で短期的にお金を必要とするライトユーザーが増えるほどユーザーが増加・継続しやすいという傾向がある。同社主要事業である広告事業は、比較的景気やテクノロジー、ガジェットの変動・発展の波に左右されやすい。そのため、BtoCのストック型の事業を収益の柱の一つとすることで、グループ全体の事業の負のボラティリティを下げるという狙いがあった。
今回の新型コロナについては、決してポジティブなものではないが、カンムの事業に限ってはこのような性質から、ポジティブな影響を受けて推移している。
具体的なインストール数の推移については、下表の通り。19年末には200万人弱であったインストール数が、6月末までで250万人強まで増加している。また注目されるのは、①インストール数とは異なる要素としてユーザー1人1人のLTV(ライフタイムバリュー)が、獲得コストを明確に上回ってきたこと、②この増加数が新型コロナの影響への懸念から広告宣伝コストを極力絞った中での結果であるという2点である。

 

 

① 誰でもすぐつくれる

② すぐ確認できる

③ 後でも払える

インストール数(万人)

 

 

② 事業成長のポイントと進捗
カンムの事業を成長させるためには、①ミクロの経済が成立することを前提として、さらに②広告宣伝コストをある程度かけてインストール数を拡大させていくこと、③売上の増加に伴って必要となる膨大な運転資金を確保することが必要となる。
このうち、足元の状況として、①についてはすでに確立された。また、③についても当社グループの資本業務提携パートナーである伊藤忠商事にペイメント機能を担っていたGardia社を譲渡したことで、すでに懸念は解消されている。成長のための残る最後のピースとして、②の広告宣伝コストをかけるための資金調達という課題があったが、これについてもカンムからリリースされた通り、セブン銀行との資本業務提携に基づき同社から出資を受けることで解決された。
カンムを成長させるために必要なピースが全てそろい、今後は調達した資金を効率的に利用して広告宣伝に投下し、セブン銀行からの送客効果などのシナジーもしっかりと作りつつ、損益分岐点を越えて収益化をしっかり図っていくフェイズに入った。

 

◎IRISの進捗
コロナ禍による影響で人々の外出が急減したことで、屋外広告全体が大きくマイナスの影響を受けたが、タクシー車内のサイネージ広告もまた例外ではなかった。外出規制が強くなった時期と大きく被る今回の4-6月決算では、昨年比56.1%、計画に対して25.7%という結果となった。これが国内広告事業全体に対しても大きな影響を出した。
20年の全国タクシー乗車傾向について、3月から一気に落ち込み、4月、5月で底を打ってから、6月からは急速に回復という傾向になっている。またアプリによる配車数も、7月の時点では、2月と比べてすでに7~8割にまで回復している模様で、全体的に急速に落ちた需要が急速に回復しつつある。これに対してタクシーサイネージ広告売上は、乗車需要回復を確認した広告主が代理店を経由して媒体選定、発注、そして実際の広告掲載まで数ヶ月のタイムラグがある関係上、この急速なタクシー需要の回復よりも少し遅れて広告売上が回復していくことになる。よって、4-6月決算では大幅減収となった一方、7-9月の受注状況については、急速な回復傾向にある。7月の売上実績に対し9月の受注状況はすでに250%となっており、まだまだ伸びるのではないかといったのが最新の状況。

 

IRISを巡る事業環境と受注動向

(同社資料より)

 

いよいよジョイントベンチャーIRISの相手方パートナーであるMobility Technologies社のJapanTaxiとMOVが統合し新たなタクシーアプリとして「GO」という単一ブランドで展開されていく。タクシー広告については、IRISのTokyo Primeと、MOVのPremium Taxi Visionが統合されたあとも、引き続きTokyo Primeのブランドが残ることとなり、これまで通りの座組のまま、この統合によってタクシー台数が全国で5万台に拡大することとなった。
同社としては来期の初月にあたる10月から、この統合が予定される中、新型コロナウイルスによる広告受注状況が最大の懸念ではあったが、7-9月の受注状況改善を見る限りでは、良い形でこの統合を迎えられそう。
また、このような規模感で事業拡大していく中での変化として、これまでになかった行政機関、官公庁が新たにこのTokyo Primeを利用する動きがでてきている。Tokyo Primeは他媒体と比べても、広告掲載の審査基準を非常に高く設定して運営を続けており、現在のコロナ禍で一時的に売上が下がることがあっても、決してこの基準を下げるようなことはしていない。その結果、Tokyo Primeの高い媒体基準とメディア規模を、公的機関からも評価されたことになる。「より地域に根ざしたメディア」として、高い信頼性を保ちながら、これからも拡大を続けていく方針。

 

 

5.今後の注目点

新型コロナの影響を受けながらも3Q累計では大幅増収、利益は大幅な回復を見せた。もっとも、3Q(4~6月)ではさすがに失速した。ただし、月ごとに回復しており、新型コロナ影響は想定されたより軽微にとどまりそう。3Q累計のEBITDAの進捗率は通期予想に対して85.2%に達しており、4Qの回復基調を加味すると会社予想EBITDAは大幅に上回りそうだ。また、新型コロナでプラス影響を受けた事業は収束してもそのままプラスに働くと思われ、影響を受けた事業を含めても総じて同社の収益力を押し上げることになりそうだ。秋にも発表を予定している新中期計画に注目したい。

 

 

 

<参考:コーポレート・ガバナンスについて>

◎組織形態、取締役、監査役の構成

組織形態

監査等委員会設置会社

取締役

8名、うち社外4名

 

◎コーポレート・ガバナンス報告書
最終更新日:2019年12月26日

 

<基本的な考え方>
当社は、経営の効率化を図ると同時に、経営の健全性、透明性及びコンプライアンスを高めていくことが長期的に企業価値を向上させていくと考えており、それによって、株主をはじめとした多くのステークホルダーへの利益還元ができると考えております。経営の健全性、透明性及びコンプライアンスを高めるために、コーポレート・ガバナンスの充実を図りながら、経営環境の変化に迅速かつ柔軟に対応できる組織体制を構築することが重要な課題であると位置付け、会社の所有者たる株主の視点を踏まえた効率的な経営を行っております。

 

 

<実施しない主な原則とその理由>
「当社は、コーポレートガバナンス・コードの基本原則をすべて実施しております。」と記述している。

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