スパークスのまいこばなしIFIS出張版 第8号 「イメージ価値と営業利益率」
営業利益率からわかる事業の付加価値
営業利益率は、事業の付加価値の度合いを示す指標の一つです。ビジネスモデルによってその重要性は異なりますが、筆者はその会社の存在意義の度合いを示す極めて重要な指標と捉えています。私どもが事業を分析する際に注力することは、営業利益率が高い、もしくは低いという現象の背景を探ることです。その事業の付加価値の源泉は何か、他社と何が違うからその会社は顧客から選ばれているのかを私どもなりに解釈しようと努めています。筆者は初めて分析する企業には、大半の時間を付加価値の源泉を理解することに割いています。
付加価値の源泉
付加価値の源泉は何か。筆者は当社で企業調査を始めて8年になりますが、アナリストとして駆け出しの頃、マイケルポーター氏の5フォース分析を軸に情報を整理して、どこで付加価値が生じているかを探りました。その後、より顧客に焦点を当て、顧客は何のためにお金を支払っているのかを考えるようになりました。すると、『ドリルを買いに来た人が欲しいのはドリルではなく穴である』という格言の通り、顧客は製品自体ではなく、製品が与える何らかの効用、付加価値を期待して買っていることを実感します。今回は、河合拓『ブランドで競争する技術』(ダイヤモンド社、2012年)が論じるブランド価値の考え方が、もう一段分析を深める上で示唆に富むと考えましたのでご紹介させて頂きたいと思います。
ブランドの三つの価値
顧客に選ばれるには、他とは違う何かがなくてはいけません。同著によると、『差別化され、確立された価値を持つものを「ブランド」と呼ぶ』としています。「A社製品のここが良い」という場合の「ここ」がA社製品のブランドであると理解します。そして、ブランドは以下の3つの価値軸に分類されるとしています。
① 機能価値
商品そのものが持つ価値。衣料品であれば商品が持つ通気性や保湿性などの機能性、正確な縫製技術など、工業製品としての「物理的な完成度」が高いことに由来する価値。
② サービス価値
商品の機能ではなく、付随するサービスが持つ価値。ザ・リッツカールトンを、『「ホスピタリティ」を前面に押し出して独自のブランド・ポジションを確立している例』に挙げている。
③ イメージ価値
その商品が持っている世界観やストーリーなどのイメージが生み出す価値。欧米のスーパー・ブランドを例に挙げている。顧客はブランドが醸し出すイメージにプレミアムを支払っている。
また、同著によると、『「機能価値」と「サービス価値」は、価格との関係において相対的になりやすい。』としています。コストパフォーマンスの下で競争に晒されているということでしょう。一方、『「イメージ価値」の大きさは価格との相対関係が弱い。ルイ・ヴィトンとプラダを価格で迷って購買する人は少ない』としています。
営業利益率と「イメージ価値」の関係
衛生陶器のTOTOとエアコンのダイキン工業の中国事業は、ともに営業利益率25%前後を達成しています。筆者の理解では、メーカーで営業利益率25%というのは驚異的であり、特許による高い参入障壁が存在する場合など特殊な理由がないと達成困難な水準です。両社はともに特殊な参入障壁で守られていません。競合他社は無数に存在します。富裕層向けの高級品市場に特化しているからでしょうか。これも本質的な理由ではないと考えます。私は両社が築いたイメージ価値が驚異的な営業利益率の理由だと理解しています。両社は機能価値を長年追求することで支持を広げ、いつしか中国の富裕層の富の象徴、自宅に設置していると自慢できるものとなりました。この段階においては、他社製品では代替できないイメージ価値へと昇華され、高い営業利益率の源泉になっているというのが筆者の仮説です。
これまでの投資で筆者は多くの失敗を経ながら、分析の切り口、引き出しを一つずつ増やしてきました。イメージ価値の考え方は、企業の高い営業利益率の源泉を探る上で有効な切り口の一つであるというのが今回の結論であります。皆様の事業を分析する際の一助になれば幸いです。
※当コラムは執筆者の見解が含まれている場合があり、スパークス・アセット・マネジメント株式会社の見解と異なることがあります。上記の企業名はあくまでもご参考であり、特定の有価証券等の取引を勧誘しているものではございません。