金融市場の変動要因を整理 金融市場は落ち着きを取り戻そう

金融市場の変動要因を整理 金融市場は落ち着きを取り戻そう

■世界の金融市場は年初こそ堅調でしたが、その後は米長期金利の上昇、米国発の貿易摩擦の高まり、それらを嫌気した株式市場の調整や新興国市場からの資金流出と、波乱含みの展開となっています。また、経済も、日本の1-3月期実質GDPが前期比で9四半期ぶりにマイナス成長になった他、米欧でも景気の減速が見られました。

■今後の景気や金融市場はどのように推移すると見込まれるのでしょうか。以下では、経済見通し、米長期金利の上昇、原油価格の上昇、米中貿易摩擦、新興国市場の変調について、見通しをまとめたいと思います。

【まとめ】世界経済は堅調さを保ち、金融市場は落ち着きを取り戻そう

<ポイント1:経済見通し>
■今年1-3月期の世界景気は、天候悪化などを背景に一時的に鈍化しました。4-6月期以降は、米国を中心に財政政策もプラスに作用し始める見通しで、世界景気は回復に向かう可能性が高いと見られます。

<ポイント2:米長期金利の上昇>
■現在の金利上昇は、好調な米景気への期待の高まりが反映される一方、インフレ率の上昇がもたらす本格的な金融引き締めを示唆するものではないと言えそうです。今後は緩やかな上昇が想定されます。

<ポイント3:原油価格の上昇>
■足元の原油価格は、①主要産油国による協調減産、②好調な景気拡大に伴う需要の増加、③米政権によるイラン制裁再開の可能性、が背景です。米政権によるイラン制裁が再開され、イランからの原油供給が減少しても、サウジアラビアや米シェールオイルの増産などで補うことが可能と見られるため、持続的に原油が上昇する可能性は低いと見込まれます。

<ポイント4:米中貿易摩擦>
■関税による貿易への直接的な影響だけであればインパクトは限定的です。また、企業行動が慎重化して、グローバルに設備投資が抑制されるような事態も避けられると思われます。5月17日、18日の米中交渉では、交渉が決裂せず、対話路線が続く見通しとなりました。

<ポイント5:新興国市場の変調>
■米長期金利の上昇は本格的な金融引き締めを示唆するものではなく、新興国経済への影響は限られると思われます。ただ、経常赤字や高インフレの国・地域では、しばらく動揺が続く可能性があります。新興国の中でも、アジアに多く見られる経済状態が良好な国・地域の金融市場は、比較的安定して推移しており、今後も相対的に良好な状態が続くと見られます。

【ポイント1】経済見通し

■世界的に観測された今年1-3月期の景気鈍化ですが、一時的なものと見られます。例えば、スマートフォンやビットコイン等の仮想通貨に関連した一部のIT業界の需要・生産の盛り上がりが一服したことや、米国のハリケーン被害からの復興需要が一巡したことが挙げられます。また、多くの先進国が今年の冬に天候不順に見舞われ、寒く、雪が多かったことも一時的な景気鈍化の原因と指摘できます。ドイツでは賃上げを巡って一部の業種で2月にストライキが行われ、生産を抑える要因になりましたが、これも一時的なものと言えます。

■4-6月期以降はこれらの一時的な要因が終わる他、米国を中心に財政政策もプラスに作用し始める見通しであり、世界景気は回復に向かう可能性が高いと見られます。

【ポイント2】米長期金利の上昇

■米国も今年1-3月期はやや経済成長率が低下しましたが、減税や財政支出の増加によって今後は経済成長率が高まると見込まれます。これを受け、今後の利上げペースの加速観測が高まってきており、米長期金利が上昇しています。米10年国債利回りは、足元では約4年ぶりに3%を超えてきています。

■3%は、数十年という単位で見れば、依然として極めて低水準になりますが、過去5年程度の期間で区切ると、重要な節目に当たります。特に、2013年に当時の米連邦準備制度理事会(FRB)バーナンキ議長が、量的緩和の縮小と将来的な停止を示唆したことをきっかけに始まった長期金利の上昇局面では、米国10年債利回りは3%まで上昇しました。その時は社債市場や新興国市場等が混乱しましたので、3%と言う数字は金融市場参加者にとっては意味のある数字となっていると考えられます。

■この金利上昇をインフレ期待と実質金利に分解すると、インフレ期待の高まりが緩やかであるのに対して、実質金利の上昇が大きくなっています。これは賃金やインフレが落ち着いて推移しているためで、現在の金利上昇は、好調な米景気への期待の高まりが反映されている一方、インフレ率上昇やそれがもたらす本格的な金融引き締めを示唆するものではないと言えそうです。

 

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【ポイント3】原油価格の上昇

■足元原油価格の上昇が続いており、指標となる米ウエスト・テキサス・インターミディエート(WTI)の価格は、5月に入って70ドル/バレルを超えています。これは、2016年11月に決定した石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど主要産油国による協調減産と、好調な景気に伴う需要の堅調な伸びによって、需給が締まっているためです。

■加えて、米政権は、5月8日にイラン核合意から離脱し、イランに対して経済制裁を再開する事を表明しました。近い将来イランからの原油供給が減少する可能性があり、このところの原油価格の上昇はこの影響を一部織り込んでいると見られます。

■今後については、仮に米政権の表明通り経済制裁が再開され、イランからの原油供給量が減少した場合でも、サウジアラビアや米シェールオイルの増産などで補うことが可能と見られますので、持続的に原油価格が上昇を続けることはないのではないかと見込んでいます。

【ポイント4】米中貿易摩擦

■米国は今年に入って通商問題で対外強硬姿勢を強めています。1月のソーラー製品や洗濯機への輸入関税から始まり、鉄鋼・アルミ製品への関税を経て、3月22日には通商法301条に基づく対中制裁措置を実施すると発表し、中国との交渉を開始しています。米側が1,500億ドル、中国側が500億ドルの貿易に関税をかける他、米国は中国のハイテクセクターなどの育成に歯止めをかけるような主張を行っています。

■関税による貿易への影響だけであれば、世界景気の腰を折るほどのインパクトではない見込みですが、先行き不透明感等から企業行動が慎重化して、世界的に設備投資が抑制されると、影響は大きくなると懸念されます。

■こうした中、中国と米国の両政府は貿易摩擦に関する2回目の閣僚級協議を5月17日、18日に開催しました。19日の共同声明で、両政府が対話路線を継続し、大枠で合意に至ったことが明確になり、市場では前向きな評価となりました。交渉が決裂せず、対話路線が続く見通しとなったことで、米中貿易摩擦は一旦終息に向かうと思われます。

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【ポイント5】新興国市場の変調
■米国の利上げは、新興国市場の動揺、新興国通貨の下落を招くことがあります。一般的に新興国は物価が高く対外債務も多いために、米国金利の上昇や米ドル高現地通貨安の影響を受けて、金融引き締めや資金の国外流出による経済減速などが連想されるためです。

■現在の米国の利上げサイクルは2015年の12月に始まりましたが、その後、新興国市場は、概ね安定的に推移してきました。新興国自身を含んだ世界的な景気回復や、主要先進国の緩和的な金融政策が、新興国市場への安心感を作り出していたためです。

■ところが、今年の4月以降、新興国市場は経常収支が赤字の国やインフレ率が高い国を中心に、通貨や株式、債券などの下落に見舞われています。

■前述の通り、現在のところ、米国金利の上昇は本格的な金融引き締めを示唆するものではなく、新興国経済への影響も限定的であると見込まれますが、新興国の経常赤字や高インフレが短期的に改善するとは見込みがたく、新興国市場の動揺はしばらく継続するリスクがあります。

■なお、新興国の中でも、アジアに多く見られる経済状態が良好な国・地域の金融市場や通貨は比較的安定しており、今後もこのような良好な状況が続くと見られます。

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(2018年 5月22日)

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