7大投資テーマから考えるポートフォリオ戦略 (その1)「インフレに負けない」ポートフォリオ戦略

7大投資テーマから考えるポートフォリオ戦略
(その1)「インフレに負けない」ポートフォリオ戦略

1.持続的なインフレ率の上昇は起こるだろうか?
2.過去のインフレ率上昇局面と主要資産のパフォーマンス
3.モメンタムを重視、コモディティなどの組み入れも検討

■6月11日付のレポート「最強の資産形成戦略を考える」で、長期・分散・複利が資産形成の要諦とお伝えしました。資産形成を行うにあたり、この3つの中で最も吟味・検討が必要なのが分散=ポートフォリオ戦略です。これから7回シリーズでポートフォリオ戦略についてレポートをお届けします。今回はその第1回目です。

■米国を中心に、先進国市場では1980年以降、持続的なインフレ率の上昇は見られませんでしたが、その背景にはグローバリゼーションの進展や先進国を中心とした高齢化など、世界経済のフレームワークの変化などの影響が指摘できます。その結果この40年余り、私たちはインフレリスクの高まりに直面した時に、ポートフォリオをどのように組み替えるか、という厄介な問題に悩まされることなく現在に至っています。今回は、米国市場の資産を用いて「インフレに負けない」ポートフォリオ戦略、という課題について検討してみようと思います

1.持続的なインフレ率の上昇は起こるだろうか?

<当面驚くようなインフレ率の上昇は起こらない、がメインシナリオ>

■弊社は、ここ2-3年に関して持続的な高インフレ環境になるとは想定していません。米国では経済再開で財政支出が消費に回り、また、労働供給がなかなか伸びない中でインフレ率が大きく上昇していますが、2022年以降はコロナ前の経済状況に戻る見通しで、数年にわたって持続的にインフレ率が高まる可能性は低いと見ています。

■しかし、さらに10年後、20年後といった長期となると、例えば、環境をより強く意識したビジネスモデルが浸透する中で、世界経済全体のコスト負担が重くなっているかもしれません。

<長期的な視点から、持続的なインフレ率の上昇について意識しておこう>

■米国では、これまでの低インフレ環境からインフレ率上昇へと大きく局面が変化することを示唆する要因が幾つか指摘されています。

■1つ目がマネーサプライ(M2)の増加、2つ目が公的債務の拡大、です。実際、1925年以降の消費者物価指数(CPI)の前年比を見ると、公的債務が拡大したり、マネーサプライの伸びが高い局面で、CPIが大きく上昇しています。

■まず、マネーサプライですが、M2は2021年4月末現在で20.1兆ドルと昨年の4月末の17.0兆ドルから3.1兆ドル(日本円で335.1兆円。4月末109.3円/米ドル)も増加しました。前年同月末比伸び率は+18.0%と1940年代前半、第2次世界大戦の戦時インフレ期に次ぐ伸び率です。

■次に公的債務の拡大です。極めて大規模な財政的な緩和政策が行われているため、2020年の公的債務の対GDP比は131.8%に達しました。同比率の前年差は+22.5%と、こちらも1940年代の戦時インフレ以降の大幅な変化水準です。米議会予算局(CBO)は2020年の米国の財政赤字を3.1兆ドル(GDP比で15%)、21年は同2.3兆ドル(同10%)と予測しています。大規模な財政出動は、将来のインフレ率上昇につながる可能性があり、注意が必要です。

 

2.過去のインフレ率上昇局面と主要資産のパフォーマンス

■1950年以降で、米国のインフレ率の上昇が5%を超えた局面は、今回を含め7回あります。インフレ率が大きく上昇した背景には、その当時の政治・経済・金融環境が転換点を迎えていた、という点が指摘できそうです(P4 参考 インフレ率上昇局面の主なイベントを参照)。60年代後半から、90年代初頭までインフレ率は大きく上昇し、かつ、上昇期間も3年前後から4年と比較的長期でした。しかし、ここ10年は上昇期間が短く、インフレ率の振れも小さくなっています。こうした局面でデータが取得可能な70年代以降で主要資産のパフォーマンスを整理しました。

■米国の主要資産のパフォーマンスを見ると、幾つかの点が指摘できます。

■第1に、コモディティ(CRB指数、金、原油)がどの局面においても総じてインフレ上昇率を上回る高いリターンとなりました。第2に、債券は必ずしもインフレ率上昇に弱いわけではない、という点です。コモディディの高いパフォーマンスには及ばないものの、株式のような大幅なマイナスには至っていません。第3に、株式は大幅なマイナスとなる場面もある反面、インフレ率の上昇要因によっては高いリターンを生み出す局面もありました。

 

3.モメンタムを重視、コモディティなどの組み入れも検討

■弊社の見方では、インフレ率は、4-6月にベース効果や、ワクチンの浸透を背景とした経済活動の再開から大きく上昇し、年内はやや高止まるものの、来年はコロナ以前の2%程度に戻る見通しです。

■インフレ率が想定される要因で想定の範囲内で緩やかに変動するのであれば、これまでの株式や債券を中心とした、バイ・アンド・ホールド型のポートフォリオ戦略や、機動的なアロケーションの変更で対応は可能だと思います。

■私たちの課題はこのような短期のインフレ率上昇ではなく、長期に及ぶ大きなインフレ率上昇への備えです。気づかないうちにインフレ率が上昇を始め、しかも、大きな構造変化などを背景に、インフレ率上昇が意外と長期でかつ高水準に達する、といった局面にいかに対応していくか、という課題です。

■例えば、脱炭素の取り組みによってエネルギー源が大きく変化していく過程で、国や地域によってはエネルギーコストが大きく上昇するところが出てくる可能性もあります。オイルショックのようなインフレが起これば、株式・債券を中心とした低インフレ時代に機能したポートフォリオ戦略では、資産価値を大きく棄損してしまう可能性があります。

■警戒すべき重要なリスクは、「高インフレはひとたび発生すると意外と長引く」という点です。こうした想定外の長期にわたって継続するインフレに備えるのであれば、先に見たように、過去のインフレ局面でインフレ上昇率を上回る高いリターンを記録したコモディティ関連資産をポートフォリオに組み入れることで、インフレ率の上昇に備えることが可能となります。

■また、インフレ率が上昇する要因によっては、株式や債券もインフレ上昇率を上回るリターンを生む可能性があるため、ダイナミックにアロケーションを変更する、という手段もあります。ただし、そのタイミングを見極め、ポートフォリオを大きく入れ替えることは一般的には難しいと考えられます。

■「インフレに負けない」ポートフォリオを構築するのであれば、その時々のインフレ率の上昇要因を精査し、順張りで上昇傾向にある資産クラスに投資をする、いわゆるモメンタムやトレンドを重視したポートフォリオ戦略が有望な選択肢となる可能性があります。

 

(2021年6月25日)

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「インフレに負けない」ポートフォリオ戦略

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