良い金利上昇と悪い金利上昇

良い金利上昇と悪い金利上昇

1.2月以降、大きく上昇した米の長期金利
2.良い金利上昇と悪い金利上昇
3.今後の見通し~物価は落ち着き、資産運用の中心は引き続き株式投資

■本年3月31日に米10年国債利回りは一時1.774%を付けた後、低下に転じ、4月16日には1.578%まで大きく低下しました。長期金利の急速な上昇は一旦収まった可能性がありますが、弊社は21年を通して米長期金利は緩やかに上昇すると見ています。今回は、急速に進んだ米長期金利の上昇の背景と、景気・財政との関係、そして、今後の物価動向と資産運用についてまとめたいと思います。

1.2月以降、大きく上昇した米の長期金利

■昨年は年初から4月まで積極的で矢継ぎ早の金融緩和措置により、10年国債利回りは1.7%台から0.6%台まで大きく低下しました。5月に一旦金利が上昇しましたが、10年国債利回りは8月4日の0.508%まで低下基調となりました。その後は、相次ぐ追加経済対策に対する期待で緩やかに長期金利が上昇していましたが、21年1月に民主党が大統領と上下院を制するブルースイープが実現してから、長期金利の上昇に拍車がかかりました。

■米長期金利の上昇は、主にワクチン接種の進展、追加経済対策(1.9兆ドル)、追加的なインフラ投資法案(2.25兆ドル)、FRBの長期金利上昇容認姿勢などが、重なったことが要因です。こうした中、市場参加者の間では、1月にバイデン政権が誕生してからの長期金利の上昇が、果たして、良い金利上昇なのか、悪い金利上昇なのかが議論になりました。

2.良い金利上昇と悪い金利上昇

■良い金利上昇とは、景気の回復が見込め、株価が上昇、債券が売られる(利回りが上昇)、設備投資などが活発化し、資金需要が増える、などの場合での金利上昇が該当します。一方、悪い金利上昇とは、例えば、財政が拡大し、国債価値が下落する恐れがある、あるいは、景気の過熱によってインフレ率が急伸し、それを抑制するために中央銀行が引き締め政策をとる、などの場合での金利上昇が該当します。

■ただ、良い金利上昇か悪い金利上昇かを判断するのは難しい面もあります。例えば、実質GDP成長率と財政赤字の対GDP比の市場の予想を見ると、今年の1月以降はバイデン政権から大型の経済政策が発表されたため、いずれの予想も大きく上昇しました。

■このように成長期待と財政悪化懸念が同時に進行する場合もあります。こういった時は、最終的に株価が堅調に推移するのであれば、市場は良い金利上昇とみなし、株価の調整が長引けば市場は悪い金利上昇とみなしている、と判断する方がわかりやすいかもしれません。

今回の金利上昇は良い金利上昇

■いずれにせよ、名目金利から期待インフレを差し引いた実質金利が重要です。米実質金利の上昇は来年以降と市場で見られている米国の量的緩和の縮小などの金融政策の変更に対する懸念もさることながら、間近に迫る大幅な景気回復への期待が背景です。

■前回テーパリング懸念から大きく実質金利が上昇した13年以降の金利上昇局面を整理しました。13年年央は金融引き締め懸念が金利上昇のトリガーとなり、米株が同期間5%程度の調整となりました。16年後半は成長を織り込む良い金利上昇となり、株価も上昇しました。足元の金利上昇が、前述の通り間近に迫る景気回復への期待が主因とすると、金融引き締め懸念は低く、良い金利上昇になると見られます。実際に株価はおおむね堅調に推移していますので、そのように考えて差し支えなさそうです。

■FRBは早期のテーパリングや利上げは否定しつつも、長期金利の上昇を容認しています。FRBは期待インフレをある程度維持することで、実質金利の急騰を抑えつつ、金融環境をこれまでの緩和状態から正常化へ緩やかに戻そうとしているかもしれません。

3.今後の見通し~物価は落ち着き、資産運用の中心は引き続き株式投資

■米国金融市場は、1.9兆ドルの追加経済対策の成立や景気拡大期待に加え、インフレ懸念などが背景となって米長期金利が上昇しましたが、再び落ち着きを取り戻しつつあります。特に大型経済対策第1弾(米国雇用計画2.25兆ドル)では、計画期間が4年から8年に延びたこと、財源として増税計画も15年という長期になったことで、成長期待が維持されつつ、相対的に財政悪化懸念が後退することとなりました。

■インフレは、4-6月期に昨年の大幅な落ち込みの反動や財価格の上昇から大きく上昇する見通しです。実際にインフレ率が上昇すれば、市場ではインフレ懸念が話題となる可能性は十分あり、短期的には注目する必要があります。しかし、年後半に向けて物価の上昇は緩やかにおさまっていく可能性が高いと思われます。このカギを握るのが年央以降のサービス価格、すなわちサービス業の賃金の動向です。失業率が高止まり、労働市場が改善していないため、賃金が上昇するにはまだ時間がかかると思われます。弊社では、FRBが利上げを意識せざるを得ないほどの持続的なインフレは22年までには生じないと予想しています。

■2000年以降のコアPCEデフレータと米国株式のパフォーマンスを四半期ベースで見ました。インフレ率が2%を大きく上回った局面は2005年~2008年で、以後は概ね1.0%~2.1%のレンジで推移しており、極端なインフレ率とはなっていません。インフレ率が上昇した局面を見ると、株式はマイナスとなった局面はなく、堅調に推移していることがわかります。

■今後は、長期金利の急上昇や短期的なインフレ懸念の強まりなどが、株式投資の重石となる場面も想定されますが、インフレ率が極端な上昇にならなければ、株式は引き続き魅力的な資産と考えることができそうです。

(2021年4月20日)

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