米大統領選挙の見通しと米市場への影響

 

米大統領選挙の見通しと米市場への影響

1.米大統領選挙の流れと過去の相場のアノマリー
2.トランプ大統領の実績と今回の選挙、民主党候補の戦い
3.今後の見通しと金融市場への影響

今年最大の政治イベントは米大統領選挙です。前回の大統領選挙以降、世界経済や金融市場を動かしてきたのはアメリカファーストを掲げているトランプ大統領の経済、対外政策でした。米中貿易摩擦や地球温暖化への取り組みの後退など、議論はありますが、米景気は順調で、株式市場も最高値を更新中です。この路線が続くのか、全く異なる政策に向かうのか、注目されます。ここでは米国の大統領選挙について、仕組み、大統領選挙と金融市場の関係、トランプ大統領の再選戦略、民主党の取り組みを確認し、最後に今後の行方や金融市場への影響について考えます。

1.米大統領選挙の流れ、過去の相場のアノマリー

■米大統領選挙は4年に一度行われます。仕組みを簡単にまとめると、まず、2大政党の共和党と民主党内で大統領候補者を選び、その後、その候補者同士が大統領の座をかけて選挙戦を行うといった具合に、2段階で行われます。2月3日に行われたアイオワ州の党員集会を皮切りに、11月3日の大統領選挙まで9カ月に及ぶ選挙戦が始まりました。

■各党の大統領候補者の選出は「予備選挙」と呼ばれます。初戦のアイオワ州と2回目のニューハンプシャー州が注目されますが、最初の山場は3月3日の、いわゆるスーパーチューズデーです。14州等で予備選挙が行われ、候補者指名の大勢が明らかになるためです。民主党は7月、共和党は8月の党大会で大統領候補者を決定します。

■9月からはテレビ討論会も行われ大統領選候補者間の激しい選挙戦が行われます。投票日まで、日々、支持率調査が注目されることになります。

■大統領就任後は、選挙公約に沿った政策運営が行われますが、任期は4年のため、金融市場にも4年ごとに影響が現れるようです。過去を見るとNYダウ指数は大統領選挙直前1年のリターンが最も高く、大統領選挙の年のリターンが低くなっています。選挙の1年前は、経済を良くする政策をとるためと考えられています。大統領選挙の年は、選挙の不透明感を嫌気した動きが、リターンの低さに現れていると考えられます。

2.トランプ大統領の実績と今回の選挙、民主党候補の戦い

■今年の大統領選挙は、共和党は再選を目指すトランプ大統領が候補になる事が実質的に固まっています。民主党は複数の候補者が立候補しており、現時点では圧倒的に有力な候補者がいないため、激しい予備選挙が繰り広げられると考えられます。まずは現職大統領のトランプ氏の大統領選挙活動についてまとめます。

トランプ大統領は実績をアピール

■弾劾裁判を無難に乗り切ったトランプ大統領は、再選へ向けた活動を本格化させますが、ポイントは実績のアピールと、重要な選挙区を如何に戦うかです。

■まず、実績については、トランプ大統領は多くの公約を実現させてきました。4日に行われたトランプ大統領の一般教書演説は、通常今後の政策の方針を示すものですが、自らの政策の実績紹介に大半の時間が費やされました。

■自由貿易協定の見直しを強調し、メキシコとの国境の壁建設を推進したと述べ、イラン革命防衛隊司令官やイスラム国指導者の殺害を強調しました。国内経済面では、失業率の低下や株価の上昇などをアピールしました。

■たしかに、国内経済や金融市場は、減税や米連邦準備制度理事会(FRB)の金融緩和への転換もあって好調です。リーマン危機後の景気拡大は11年に及び、雇用は堅調に拡大、失業率は3.6%と歴史的な低水準となるほか、主要株式指数は最高値を更新しています。

■大統領選挙についての事前予想では、この実績を背景にトランプ大統領が勝つとの見込みが高まっています。

ターゲットは農業州とテキサス・フロリダ

■別の角度から選挙戦を見ると、どの州で勝つことが必要かという点も重要です。今回の選挙では、アイオワやミシガンがある、いわゆるラストベルトやコーンベルトと、大票田のテキサス、フロリダが特に重要と考えられます。

■ラストベルトは、前回の選挙でトランプ大統領が勝利し、選挙全体の勝利をおさめた主な要因になったと言われています。ただし、中国製品に追加関税をかけても、依然、製造業の苦境が続いているため、ラストベルトは厳しい状況です。このためトランプ大統領は農業州と言われるアイオワ、オハイオに力を入れると見られます。

■大きい選挙区で、選挙のたびに支持政党が変わる傾向があるのがフロリダです。前回選挙ではトランプ大統領はここを押さえましたが、今回は支持率が低迷している模様です。共和党の牙城と言われるテキサスと合わせ、落とすことのできない州と考えられます。

民主党の候補者とその主張・考え方:中道と左派に分裂

■対する民主党では、圧倒的に強い候補者がいないため、有力候補が拮抗する混戦となっています。なかでも、米国の伝統的な政策を重視する「中道派」と、格差是正のために税制などを大きく変えると主張する「左派」が争う構図となっています。

■これまでのアイオワ州とニューハンプシャー州の結果は、左派のサンダース氏と中道的なブティジェッジ氏が支持を伸ばしました。一方、事前の世論調査で支持率がトップだったバイデン氏は大きく出遅れる展開となっています。

■前回の大統領選挙では、国民の分断が明らかになりましたが、今回は多くの有力候補者がいる事や、その中でも支持が分かれていることから、民主党を支持する人々の中でも分断が起こっていると考える事が出来そうです。

3.今後の見通しと金融市場への影響

■共和党の候補者はトランプ大統領で実質的に決定しているため、今後の焦点は、誰が民主党の候補者に選ばれるかといった点です。これまでのところ、左派のサンダース氏と中道的なブティジェッジ氏が優勢ですが、まだ予備選挙戦は始まったばかりです。

■候補者が中道的であれば金融市場への影響は限定的とみられます。一方、急進左派となれば、大幅増税による景気減速、企業業績悪化などが懸念されるため、一時的にせよ株式市場への売り圧力が高まる事が懸念されます。この点では左派候補のサンダース上院議員とウォーレン上院議員への支持率も要注意と言えます。ただし、リベラルな民主党支持者と言えども左派が多数を占めているわけではないため、左派同士で票が割れた場合、中道的な候補が有利になります。

■また、トランプ大統領との対抗の点では、中道と左派が割れたままでは大統領選挙での勝利は難しくなります。民主党候補が大統領選挙で勝つには、出来るだけ早期に候補者を一本化して対トランプの選挙戦を行う必要があると考えられます。

接戦が予想されるため、大統領選挙前は株式相場は一旦足踏みへ

■金融市場では、トランプ大統領の再選を見込む人がやや多くみられますが、政治の専門家の間では違う意見もあるとの報道もあります。実績から言うとトランプ大統領が有利ですが、感情論という観点ではトランプ大統領が嫌いな人が多いようです。ただ、左派の民主党候補が大統領になるのも歓迎されないとみられ、いずれにしても接戦になることが予想されます。

■また、アイオワ州の党員集会でも明らかになったように、前回の大統領選挙に続き、事前予想の精度があまり高くないようです。つまり、選挙の直前には不透明感が強まる可能性が高いと考えられ、金融市場、特に株式市場は不透明感を嫌うため、大統領選挙が近づくにつれて一旦は相場は足踏みに入る可能性もあると考えられます。その後は、誰が候補になるかによって左右される展開になると予想します。

(2020年 2月14日)

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