「貿易戦争」懸念は行き過ぎ─日米株、押し目買いの好機か
知的財産の中国流出にも対日貿易摩擦で制度化したCFIUS補強で対応。今夏の押し目も浅そうです。
今年の夏は、株価は大きく下落するか?
最近、市場で関心が高いテーマは「今年の夏は、日米株価はどれくらい下落するか?」です。昨年の夏は下落は限定的でした。今年の主な相場材料は、(a)トランプ減税による米国景気の力強い拡大、という買い材料と、(b)米国金利上昇や(c)「貿易戦争」懸念による米国──ひいては世界景気悪化、という売り材料です。IMF(国際通貨基金)も4月の世界経済見通しで(a)をメイン・シナリオに、(b)や(c)等を(可能性は低い)リスク・シナリオに列挙しました。
(c)「貿易戦争」懸念はメイン・シナリオになり得るのでしょうか? 海外メディア(CNBC、POLITICO、Reuters等)記事を丹念にたどり「貿易戦争」の全体像を図表化してみました。
まずは強硬派に先導させるトランプ流の交渉術
見えてきたのは、トランプ流の交渉術です。まずは政権内の強硬派に先導させ、交渉相手にプレッシャーを与えた後に、大統領自らがツィートして強硬論を取り下げたり、穏健派にバトンタッチさせる、臨機応変な交渉術です。日本のメディアが報じるような、強硬姿勢一辺倒の「報復合戦」とか「貿易戦争」に発展する気配は感じられないのです。
「貿易戦争」の第一ラウンド(図表1参照)は、貿易障壁の撤廃に向けた関税交渉です。中国製品への関税(500億ドル規模)発表の裏では、自由貿易論者コーンNEC(国家経済会議)委員長(当時)らの反対を押し切り、コーン氏の部下であった対中強硬論者ナバロ氏のプランを大統領が大筋採用するドラマがありました。コーン氏は政権を去りましたが、大統領は後任にナバロ氏を昇格させず自由貿易論者クドロー氏を起用しました。強硬論に傾いた訳ではなさそうです。
この関税発表の翌日、中国は米国産豚肉等への報復関税を発表しました。しかし、トランプ大統領が中国通信機器大手ZTEへの制裁を「解除する」とツィートすると、翌日には中国が米国産豚肉等への報復関税を取り下げたのです。
また「貿易戦争」の第二ラウンドは、知的財産の流出抑制策ですが、ナバロ氏ら強硬派の中国を狙い撃ちにするプランを大統領は採用せず、穏健派ムニューシン財務長官の既存のCFIUS(対米外国投資委員会)を補強するプランを採用したのです(図表1参照)。CFIUSは対日貿易摩擦が激化した80年代に体制が整った経緯があります(図表2参照)。
リスク・シナリオでも、関税等の影響は軽微か
どうやら冒頭の(c)「貿易戦争」懸念はメイン・シナリオにならなそうです。今週7月6日は、上述500億ドルのうち(消費者に配慮し)中間財・資本財に絞った340億ドル分の関税発動予定日ですが、回避される可能性もありそうです。リスク・シナリオとして万一、発動されても、トランプ減税で企業の資金繰りは楽になっており(注)、投入コスト上昇は吸収可能と考えられます。また資金繰りが楽になった企業が(b)米国金利上昇を理由に、設備投資を抑制するとも考え難く、(c)や(b)の景気悪化懸念はやはり(可能性が低い)リスク・シナリオのようです。今夏も押し目は浅そうです。
(注)MYAM Market Report「米国中小企業の経営者、「前例ない空前の楽観─即時償却で」(2018年6月20日)
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