日銀、2%物価目標撤廃の兆候─125円超の円安回避に間に合うか?
安倍政権の財政再建の軽視で、日銀は長期金利引上げ準備を始めたようです。
財政再建を軽視する安倍政権
安倍首相は「増税分の8割を財政再建に充てる」との3党合意(2012年)を破棄する形で「2019年消費増税の使途変更を問う解散総選挙」に踏み切りました。かつてプライマリーバランス(PB、基礎的財政収支)の2020年黒字化目標を「『国際公約』だと一度も申し上げたことはない」(参院予算委員会、2015年2月)と言い切ったこともあります。国際資本市場における評価の差は歴然です。平成バブル崩壊までAAA格だった日本国債は現状A格です。これは例えば財政黒字を続け(日本を追い抜き)AA格となった韓国の国債等と対照的です(図表参照)。
財政再建軽視が黒田日銀の従順姿勢を変えた?
このところ市場の一部では、安倍首相の解散総選挙表明を受けて、黒田日銀が「2%物価目標を断念」する政策変更の兆候がある、との観測が浮上しています。財務官僚だった黒田総裁には、国債買入れ大幅増額を決めたハロウィン緩和(2014年10月)で「消費増税のお膳立てをしたが、食い逃げ(消費増税を先送り)され財政再建の崩壊を助長した」(市場関係者)苦い経験があります。その上、ハロウィン追加緩和が生んだ大幅な円安に国民的批判が強まり、1ドル=125円付近で円安牽制発言を余儀なくされる「後始末」まで黒田総裁はさせられました。
今回は「汚名挽回のチャンス」──すなわち好景気の米欧との金利差拡大で円安圧力が高まりつつある情勢下、黒田日銀にとって「長期金利ゼロ%解除すれば125円超の円安も回避できる最後のチャンス」との市場の見立てです。
黒田日銀が発した3つのサイン
市場は次の3つのサインを意識しています。
(1)2%物価目標を定めた「アコードには有効期限がある」
黒田総裁は会見(9月21日)で「共同声明は今でも有効なものであると思っています」等と発言し、「アコードには有効期限があり、それを過ぎれば無効だ」とも受け取られかねないフレーズを2度繰り返しました。アコードとは、日銀側は2%物価目標達成を、安倍政権側は構造改革及び財政再建を、相互に確約し合った共同声明(2013年)のことです。さらに、「労働市場改革と社会保障政策の改革といったことは、まだ必要なものが残っているとは思います」と踏み込み、アコードが定める役割を政府は果たしていないと突き放したのです。
(2)「労働市場改革を欠いた2%は非現実的」
そのうちの労働市場改革については中曽副総裁が補足説明しました(ロンドン講演、10月5日)。①アベノミクスの「第三の矢」である構造改革は労働市場改革であった。②もしも米国並みに日本の労働市場の流動性が高まるのであれば、景気拡大に伴ってインフレ率は上昇する、と。つまり、「すでに日銀の守備範囲を超え、2%物価目標の達成には政府の構造改革が待たれる」とのメッセージでした。しかも同日、日銀は「日本が2%のインフレを経験したことがないのなら2%物価目標の達成は無理」(マーク・ガートラー教授)との研究結果(日本語訳)も公表しました。これまで「2%物価目標はグローバル・スタンダード」等と正当化してきた日銀ですが、その前提が崩れかけているようです。
(3)国民の8割が「物価上昇は困ったこと」
黒田総裁が懇談会の挨拶(9月25日)で、かつて白川・前総裁が、安倍・自民党総裁(当時)から2%物価目標の導入要請を受けた事実を公表した会見(2012年12月)で使っていたフレーズを使ったことも、市場を驚かせました。日銀の『生活意識に関するアンケート調査』では「物価上昇を8割強の方が『どちらかと言えば、困ったことだ』と答えている」とのフレーズです。かつてバブル期でも1.3%だったので、構造改革や財政改革を欠けば日銀だけで2%達成は無理、との立場でした。任期満了まで残り半年となった黒田日銀の動きに市場は注目しています。
- 当資料は、明治安田アセットマネジメント株式会社がお客さまの投資判断の参考となる情報提供を目的として作成したものであり、投資勧誘を目的とするものではありません。また、法令にもとづく開示書類(目論見書等)ではありません。当資料は当社の個々のファンドの運用に影響を与えるものではありません。
- 当資料は、信頼できると判断した情報等にもとづき作成していますが、内容の正確性、完全性を保証するものではありません。
- 当資料の内容は作成日における筆者の個人的見解に基づいており、将来の運用成果を示唆あるいは保証するものではありません。また予告なしに変更することもあります。
- 投資に関する最終的な決定は、お客さま自身の判断でなさるようにお願いいたします。
金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第405号
加入協会:一般社団法人投資信託協会/一般社団法人日本投資顧問業協会