「割安感ある欧州株」─米国投資家の国際分散投資の受け皿に

 

長期投資の観点でのユーロ先高観も「分散投資先としての欧州株」にプラス材料のようです。

欧州株への国際分散投資の呼びかけ

先週の拙稿(注)では、「割安感ある欧州株」に資金を一部シフトする投資家の動きを、米国メディアが今年3月前後から相次いで報道し始めたことに触れました。影響力が大きいとみられる報道の一つは、米CNBC放映番組での米イェール大学・シラー教授の一連の発言です。

(注)MYAM Market Report「米国株から欧州株への資金シフト鮮明に─良好な欧州景気で割安感」2017年5月17日付。

シラー教授はまず、「現状の米国株価は、ITバブル崩壊直前の2000年頃ほど極端な割高感はない。大暴落が迫っている訳でもない。しかし長期投資家であれば敬遠する株価水準になった。米国株式以外への国際分散投資が望ましい」(2月23日)と述べました。

【コラム】 シラー教授と高値警戒感

シラー教授は、著書『根拠なき熱狂』(Irrational Exuberance、2000年刊)やその第二版(2005年刊)で、ITバブル崩壊や住宅バブル崩壊を「事前に警告した」ことで有名です。ノーベル経済学賞も受賞(2013年)し、米国民に対する呼びかけには、相応な影響力がありそうです。

「ガス抜き安全弁」としての国際分散投資

シラー教授は、1929年の米国株価大暴落の教訓を著書『証券分析』(1934年版)で説いた米コロンビア大学・グレアム教授(当時)から影響を受けました。著名投資家のウォーレン・バフェット氏も、かつてグレアム教授に学び、『証券分析』がバイブルであったようです。その『証券分析』には、「1929年の大暴落は、米国投資家が国際分散投資をせず、国内市場へ資金流入が集中し、株価バブルを助長したのも一因」と説いた箇所があります。シラー教授が、国際分散投資を米国民に説き始めたのも、うなづけます。

そしてシラー教授は「欧州は、米国投資家にとって最も上昇が見込まれる市場だ。欧州株のPER(株価収益率)は米国株より随分と低く割安である」「欧州は、(政治リスク等)マイナス面も言われるが、誇張されている。長期的な観点で振り返れば、欧州はかなり良くやってきたことを思い出すべきだ」(4月26日)と述べました。

欧州株の出遅れ感

PERは、現在の株価が、企業が生み出す利益の何年分に相当するかを算出した指標で、株価の割安/割高判断の目安の一つとされます。利益予想数値等に恣意性が入りやすい難点もあるため、一つの取引所が同じ手法で欧米企業の予想PERを集計したデータで確認しますと、米国市場は18.5、欧州市場は15.4です(図表1参照)。またリーマンショックが発生した2008年の年末から昨日まで約8年半の株価上昇率は、米国株(NYダウ)は2.39倍、欧州株(Stoxx600)は1.98倍です。確かに欧州市場には割安感、出遅れ感がありそうです。

ユーロの先高観(対ドル)

長期投資の観点でドル安、ユーロ高が見込まれる現状も、「欧州株への国際分散投資」にはプラス材料のようです。ユーロ/ドルの長期推移を振り返りますと、ユーロ貨幣が流通し始めて以降(2002年)は1ユーロ=1ドルを下回ることはなく、概ね1.0~1.6ドルで推移しています(図表2参照)。現状の1.1ドル近辺は、歴史的な安値圏と言えるでしょう。折しも、独メルケル首相は「ユーロは弱すぎる。これはECB(欧州中央銀行)の金融緩和策が理由だ」(5月22日)と述べ、ユーロ安の是正を訴え始めています。景気改善に伴うユーロの先高観は根強いようです。

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明治安田アセットマネジメント株式会社
かつて山間部の中学校などに金融教育の補助教材を届けていた頃の現場の先生方の言葉が、コラム執筆の原動力です。「金銭面で生きる力をつける教育は大切だが、私自身、株式など金融は教えられないのですよ」と。
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