イーディーピー<7794> 新工場建設による種結晶の生産能力拡大によって成長を目指す

2022/07/11

産総研の特許を活用し、宝飾品向けにダイヤモンドの種結晶を製造・販売
新工場建設による種結晶の生産能力拡大によって成長を目指す

業種: その他製品
アナリスト: 阪東 広太郎

◆ ダイヤモンド単結晶の製造・販売・開発事業を展開
イーディーピー(以下、同社)は、ダイヤモンドの単結晶をガスから成長させる人工的な方法で製作し、宝飾品や電子材料分野向けに販売するダイヤモンド単結晶の製造・販売・開発事業を展開している。

同社は、国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下、産総研)が開発した大型ダイヤモンド単結晶製造技術の事業化を目的として09年9月に設立された。同社の代表取締役社長である藤森直治氏は、同社創業前に産総研のダイヤモンド研究センターの研究センター長を務めており、上記技術の開発を主導した。

◆ 人工ダイヤモンドの用途と製造技術
ダイヤモンドは宝飾用途に加えて、硬度の高さを活かした石材などの硬質材料を切断、研磨する砥粒注1として広く使われている。ダイヤモンドは一般には天然に産するものと考えられているが、現在使用されている工業用ダイヤモンドのほとんどは人工合成で製作されている。宝石については、天然ダイヤモンドが使用されてきたが、10年ほど前から人工ダイヤモンドが出始め、現在では相当量の人工宝石が宝石店やインターネットで販売されている。このような人工宝石はLGD(Laboratory Grown Diamond)と呼ばれ、既に欧米のみならず、中国やインドでも、市場での認知が進んでいる。

ダイヤモンドの人工合成方法は55年に超高圧合成法注2が確立し、その後同社が採用する気相合成法を含む他の2種類が登場した。気相合成法は、メタンなどの炭素を含んだガスを、何等かの手段で活性化し、1,000℃程度の温度でダイヤモンドを生成する方法である。気相合成法は、基本的には気相(ガス)から物質が生じる現象を利用する。気相へ元素を取り出す方法は、物理的な手法と化学的な手法(Chemical Vapor Deposition;CVD)の2 つがあり、この内、CVD 法のみがダイヤモンドを生成できる。

CVD 法では、ガスを原料として使用し、温度を上げる方法やその他の手段により、目的の物質を創り出すための反応を促進する。同社はダイヤモンドを成長させる手段としてプラズマ注3 を利用するプラズマCVD 法を使用している。同社はプラズマの生成方法としてマイクロ波注4 を使用する、マイクロ波プラズマCVD 法を使用している。

◆ ダイヤモンド単結晶を成長させる技術
単結晶とは、一つの結晶(構成する分子が規則正しく並んでいる状態)でできているもので、天然に産するダイヤモンドはほとんどが単結晶である。

ダイヤモンド単結晶を、CVD 法でダイヤモンドが成長できる条件下に置くと、その上を覆うように単結晶が積み上がる。成長させるための結晶を「親結晶」と言い、成長した結晶を「子結晶」と称する。成長した子結晶は、成長させた親結晶と同じ原子配列となるので、成長後には一体の単結晶となる。各種の成長装置によって、数mm 程度の厚さまで成長させる事が可能である。

単結晶の成長速度は1 時間当たり1μm から20μm でされる。つまり、1mm 程度の厚さを作るのに、50 時間から1,000 時間が必要である。成長速度が遅い程、高品質の結晶が得られるが、製造コストが高くなるため、求められる結晶品質によって、成長の条件を選択することが重要となる。気相成長した結晶の品質は、成長速度に加えて、混入する不純物や子結晶を成長させる親結晶の品質に左右される。

ダイヤモンドの気相成長においては、あるサイズの親結晶から成長させても、親結晶のサイズよりは大きくならない。従って、ダイヤモンド単結晶の成長では、必ず最終的に必要なサイズの親結晶を使う必要がある。

単結晶を大型化するには、結晶の成長方向を変えて、繰り返し成長させることが唯一の方法である。同社は4×4mm 程度の小さな元結晶から成長させる方向を6 回変更することで、12×12mm 以上の面積を持つ大型単結晶を製作している。

上記のように成長したダイヤモンドは、原子の配列が完全なダイヤモンド単結晶であり、窒素量を0.0001%以下まで制御することが可能である。純粋で欠陥の少ないダイヤモンドほど、宝石としての価値が高くなり、高品質が必要となる半導体材料や光学材料にも適した性質を持つ。

◆ 提供製品
同社は4つの製品分野で事業を展開している。4つの製品分野は、LGD生産の原料となる「種結晶」及び、半導体基板材料など向けの「基板・ウエハ」、X線や赤外光窓材、デバイス注5からの熱を除去するヒートシンク等の「光学部品・ヒートシンク」、精密加工切削工具等の「工具素材」である。22/3期第3四半期累計期間における売上構成比は、種結晶93.5%、基板及びウエハ2.7%、光学部品及びヒートシンク1.9%、工具部材1.9%である(図表1)。

(1)種結晶
同社はLGDの元となる「種結晶」を人工宝石製造会社に販売している。同社が販売する種結晶は、5~11mmの正方形で、厚さが0.2mmや0.3mmの薄い板である。人工宝石製造会社は、これを気相合成法によって、3~8mmの厚さまで成長させる。成長すると形状としては粒状の宝石の原料となる結晶(原石)が出来上がる。このような結晶を、カットし研磨すると、ルース(裸石)になり、これを宝飾品に取り付ける。同社のユーザーは原石を作っている企業が大半だが、多くの場合、原石を製作する企業は、ルースまで製作し、宝飾業者や宝石店に販売している。

(2)基板及びウエハ
同社は、ダイヤモンドの優れた半導体特性を生かすデバイスの開発に必要な基板やウエハを供給している。ウエハについては、未だ商用化されていないが、ウエハの研究開発用に各国の研究機関や企業に販売している。最終的には、2インチ以上の口径を持つウエハが必要だが、現時点では基礎研究段階であり、同社は10×10mmを最大とする単結晶基板もしくは、25×25mmまでのモザイク結晶基盤を販売している。

(3)光学部品及びヒートシンク
ダイヤモンドの持つ高熱伝導率や、光やX線を透過する特性を利用し、5Gシステムに代表される先端通信分野における安定的なデバイス動作のためのデバイスの除熱や、検査機器で使用するX 線発生装置の小型化に伴う X 線用窓に同社のダイヤモンドが使用されている。

(4)工具素材
単結晶ダイヤモンドを利用する切削、耐摩耗工具は、相手材料が限定され、特殊な加工に限られている。また、工具素材の全市場では、価格等の面から、超高圧合成単結晶が使用される場合がほとんどである。超高圧合成単結晶はサイズが限定されているため、同社の大型結晶にニーズがある。

◆ 顧客構成
同社の19/3 期から21/3 期における種結晶の最終販売先は合計45 社である。本社所在地別では、インド15 社、米国12 社、欧州8 社、中国・台湾6 社、イスラエル4 社である。インドやイスラエルは以前から人工ダイヤモンドの生産が盛んであり、多くの人工宝石製造会社が存在する。14 年頃から大型のLGD への需要増加を受けて、同社の生産する大型単結晶が注目され、取引社数及び1 社当たりの取引金額が拡大している。

同社の販売チャネルは直接取引と商社経由の2 種類ある。商社は一部の海外ユーザー向けに活用している。21/3 期における直接取引の売上高の構成は60%以上である。

同社の売上高は少数の人工宝石製造会社や商社に集中する傾向がある(図表2)。22/3 期第3 四半期累計期間においては、取引先上位4 社で売上高の78.6%を占めた。売上高の25.8%を占めるLusix(イスラエル)及び24.4%を占めるSigma Carbon Technologies(インド)は人工宝石製造会社であり、CBC(東京都中央区)及びCornes Technologies USA(米国)は商社である。

同社に対しては、販売量増への要求は強いものの、生産能力の増強にあたっては、ユーザーの需要について信頼性の高い情報が必要なため、大規模なユーザーの確保を優先している。同社は、要求量の多いユーザーには、①半年以上先の発注、②今後の設備投資計画の開示を要請している。

◆ 開発・生産・販売体制
同社は、販売する単結晶ダイヤモンドの大半を自社で生産している。同社の生産拠点は、大阪府茨木市にある横江第1工場、横江第2工場の2工場である。一部、生産量が少ない商品に関しては、高額な生産装置が必要な工程について外部に生産を委託している。営業及び開発拠点は同社の本社のみである。

同社は種結晶に対する需要の増加を受けて、ダイヤモンド単結晶の製造装置へ継続的に投資をすると共に、生産工程の改善を進めている。同社のダイヤモンド単結晶の生産能力は20/3期の71,000カラットから22/3期の110,000カラットへと拡大している。

22年4月末時点における同社の従業員47名の機能別の配置は、約3分の2が生産であり、残りの3分の1が管理・営業・開発である。営業および開発は若干名である。

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資本市場のエンジンである新興市場の企業情報の拡充を目的に、アナリスト・カバーが少なく、適正に評価されていない上場企業に対して、中立的な視点での調査・分析を通じ、作成されたレポートです。