マイクロ波化学<9227> 新規案件数の拡大及び既存案件のステージアップによる成長を目指す

2022/07/01

マイクロ波プロセスを化学品の製造プロセスに応用する事業を展開
新規案件数の拡大及び既存案件のステージアップによる成長を目指す

業種: サービス業
アナリスト: 阪東 広太郎

◆ マイクロ波プロセスを化学品製造プロセスに応用する事業を展開
マイクロ波化学(以下、同社)は、化学品メーカーに対して、顧客課題に応じたマイクロ波プロセスに関する研究開発からエンジニアリング・製造支援までワンストップで提供するマイクロ波化学関連事業を展開している。

伝統的なモノづくりの方法においては、エネルギー伝達手段として、伝熱注1プロセスが用いられている。ガス、熱媒、蒸気といった熱エネルギーを空間のある場所から対象物質に移動させることによって、反応を起こそうとするプロセスである。伝熱プロセスでは、エネルギー伝達が外部からの間接的なものとなり、全体を加熱するためにエネルギーロスが生じる。また、大規模生産をしようとすると、対象物質へのエネルギー伝達が不均一になるため、収率低下、品質劣化が生じる。

一方、マイクロ波プロセスでは、エネルギー伝達の方法が全く異なる。マイクロ波は波長約1mmから1mの電界と磁界が直行した電磁波である。マイクロ波は、特定の物質に内部から直接かつ選択的にエネルギーを伝達することができるため、媒介を介したエネルギー伝達が不要になり、必要最小限のエネルギーしか要さない。また、目的とする物質のみが共鳴する周波数のマイクロ波を照射することで、均一にエネルギーを伝達できるため、ムダ・ムラを排除し高収率・高品質を達成することができる。

マイクロ波の化学への適用は、1980年代の電子レンジの改造ラボ装置からスタートした。現在に至るまで、有機合成を始めとした各種の化学反応において、反応時間短縮、高収率、素材の性能向上などの効果がラボスケールで報告されてきた。しかし、2000 年代に入っても化学プロセスとして大型産 業化された事例はなく、「化学反応においては、マイクロ波を制御することが 困難であり、産業利用は不可能」という見解が化学業界の常識となってい た。

同社は、14 年に大阪にて、世界初の大規模マイクロ波化学工場である「M3K」を完成させ、消防法等の各種法令にも対応し、新聞用インキ原料である脂肪酸ブチルエステルの商業出荷を開始した。

◆ 提供ソリューション
化学品の製造プロセスへのマイクロ波プロセスの応用は黎明期にあり、顧客も研究開発段階にある場合が大半のため、同社は顧客の研究開発から商業化までを複数のフェーズを分けて、段階的にソリューションを提供している。このため、同社は、顧客の課題解決を目指す研究開発会社としての側面と、マイクロ波プロセスを設計して反応器注2 を納入するエンジニアリング会社的な側面を併せもっている。

同社は、研究開発及びエンジニアリング・製造支援のソリューションを4 つのフェーズに分けて提供している。4 つのフェーズは、フェーズ1 のラボ開発・POC 注3、フェーズ2 の実証開発、フェーズ3 の実機導入(装置販売)、フェーズ4 の製造支援で構成される。22/3 期におけるフェーズ別の売上高構成比は、フェーズ1 が36.0%、フェーズ2 が37.2%、フェーズ3 が3.5%、フェーズ4 が23.3%である(図表1)。

フェーズ1 のラボ開発・POC では、顧客の課題に合わせたソリューションの検証やマイクロ波を用いた反応系のデザインを行っている。期間は約3 カ月である。同社からは研究者を中心に3 名程度アサインされる。顧客はフェーズ1 の結果を踏まえてフェーズ2 の実証開発への移行可否を判断する。22/3 期におけるフェーズ1 からフェーズ2 への移行率は約5 割であった。

フェーズ2の実証開発では、実機を想定してベンチ機注4パイロット機注5を用いた実証開発を行っている。具体的には主に、反応器のデザインや実機導入に向けた経済性を検証している。期間は1年から2年程度である。

フェーズ3の実機導入(装置販売)では、同社が実機を設計・製作し、顧客に納入する。期間は3年から10年程度と顧客・案件によって大きく異なる。

フェーズ4の製造支援では、多くの顧客がマイクロ波設備の使用経験が無いため、同社が生産技術部員を派遣して設備の立ち上げから製造やメンテナンスを支援する。

◆ 収益モデル
フェーズ1及び2では、共同開発費や実証機の設計費という形で収益を計上している。フェーズ1の案件単価は10百万円程度であり、フェーズ2の案件単価は中小型案件で10百万円から100百万円、大型案件で100百万円から1,000百万円程度である。

フェーズ3では、実機の設計・製作に関わるプロジェクトマネジメントフィーや設計費を計上している。フェーズ3の案件単価は小型案件で200百万円から300百万円程度、大型案件で500百万円から1,000百万円程度である。

フェーズ4では、顧客がマイクロ波プロセスを導入することによって実現できたコスト削減や付加価値向上などの価値の一部及び同社が所有するバックグラウンドIP注6利用料としてライセンス収入を、一時金やロイヤリティという形で計上している。同社はフェーズ4について、ライセンス収入に関する継続収益の計上を目指しているが、22/3期末時点で継続収益を計上した実績は無い。ライセンス収入の一時金の実績値は200百万円から600百万円程度である。

同社は顧客にとって研究開発の段階であるフェーズ1及び2においても粗利段階で黒字を確保している。粗利率はライセンス収入が中心かつ必要な人員も少ないフェーズ4がもっとも高く、フェーズ1が次に高い。フェーズ2及び3では、設備費がかかることもあり、相対的に粗利率は低くなるようである。

◆ 顧客構成・獲得経路
同社の顧客は国内の大手化学品メーカーが大半を占めており、同社の売上高は少数の顧客に偏る傾向がある(図表2)。また、フェーズ4の一時金収入やフェーズ3における実機導入、フェーズ2の大型案件の有無によって、売上高構成比が上位の顧客が入れ替わる。20/3期にはペプチスター(大阪府摂津市)へのペプチド合成装置の納入によって、ペプチスター向けが売上高の57.0%を占め、22/3 期においては、同社が50%、太陽化学 (2902 名証)が50%出資するティエムティ(三重県四日市市)のショ糖エステ ルの出荷開始に向けたライセンス収入の一時金200 百万円が同じく29.6% を占めた。22/3 期に売上高の25.0%を占めた三菱ケミカル(東京都千代田 区)には自動車のボディに使用されるアクリル樹脂分解、24.9%を占めた三 井化学(4183 東証プライム)には廃プラスチックの分解等に関するソリューシ ョンを提供している。

顧客獲得の経路は、顧客からの問い合わせがほとんどである。顧客企業は新規事業への参入や既存事業の製造プロセスの見直しを検討する中で、選択肢の一つとして同社に問合せする。顧客企業の窓口は経営企画や研究企画といった企画部門と研究開発部門の2 パターンがある。

顧客の問合せを受けると、同社は共同開発に進む可能性があるものをスクリーニングし、同社がフェーズ0 と位置付けている開発難易度の見極め及び顧客との期待値設定を実施している。事業成功確率を高めるために、開発課題の特定を行うとともに、顧客の予算確保状況や注力度などを見極めると同時に、開発難易度を踏まえた期待値設定を行っている。同社によると、22/3 期におけるフェーズ0 からフェーズ1 への移行率は約3 割である。

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一般社団法人 証券リサーチセンター
資本市場のエンジンである新興市場の企業情報の拡充を目的に、アナリスト・カバーが少なく、適正に評価されていない上場企業に対して、中立的な視点での調査・分析を通じ、作成されたレポートです。