(7776)株式会社セルシード 減収減益も、期初予想を大きく上回る

2020/04/02
 

橋本 せつ子 社長

株式会社セルシード(7776)

 

 

企業情報

市場

JASDAQ

業種

精密機器(製造業)

代表者

橋本 せつ子

所在地

東京都江東区青海二丁目5番10号 テレコムセンタービル

決算月

12月

HP

https://www.cellseed.com/

 

株式情報

株価

発行済株式数(自己株式を控除)

時価総額

ROE(実)

売買単位

326円

12,981,665株

4,232百万円

100株

DPS (予)

配当利回り (予)

EPS (予)

PER (予)

BPS (実)

PBR (実)

102.24円

3.2倍

*株価は02/28終値。発行済株式数は直近四半期末の発行済株式数から自己株式を控除。ROE、BPSは前期末実績。

 

連結業績推移

決算期

売上高

営業利益

経常利益

親会社株主帰属利益

EPS

DPS

2016年12月(実)

100

-1,413

-1,415

-1,414

2017年12月(実)

85

-956

-964

-966

2018年12月(実)

1,026

140

140

129

11.35

2019年12月(実)

275

-780

-786

-782

2020年12月(予)

310

-1,020

-1,020

-1,020

* 予想は会社予想。単位は百万円、円。

 

 

株式会社セルシードの2019年12月期決算の概要と今後の見通しについて、ブリッジレポートにてご報告致します。

 

目次

今回のポイント
1.会社概要
2.2019年12月期決算概要
3.セグメント別動向
4.中期経営計画(20/12期~22/12期)
5.今後の注目点
<参考:コーポレート・ガバナンスについて>

今回のポイント

  • 19/12期は前期比73.1%の減収、7億80百万円の営業損失(前期は1億40百万円の利益)。再生医療支援事業の売上が同77.2%増加する一方、台湾での独占的事業提携契約に基づく売上の減少で細胞シート再生医療事業の売上が同83.5%減少したが、総じて期初予想に沿った着地。売上の減少で、営業損益が損失に転じたが、開発業務委託費用や細胞培養施設の維持費用等が想定を下回ったため期初予想を大きく上回った。 
  • 「歯根膜細胞シート」で再生医療受託サービスの収益貢献が始まり、器材販売は、過去最高を達成。特に海外向け売上が増加した。器材販売は収益貢献だけでなく、「細胞シート工学」を基盤技術とする「細胞再生シート」の認知度向上にも貢献する。台湾事業は、昨年12月末にMetaTech社の提携先病院である義大病院が申請した「自己軟骨細胞移植」が台湾での先進医療として承認された。台湾に設立された合弁会社も、パートナーに恵まれただけに今後の展開が期待される。 
  • 一方、「食道再生上皮シート」は新たにステロイド投与にリスクがある患者を対象とする必要が生じたため、対象患者や症例数に関してPMDAとの協議が続いている。食道癌の内視鏡治療後の狭窄予防として安価なステロイド治療が広がりつつあり、この影響を受けそうだ。必ずしも好材料ばかりではないが、現在の財務基盤に不安はない。20/12期は、どれだけ好材料を伸ばし、増やすことができるか注目していきたい。 

1.会社概要

失われた臓器や損傷あるいは機能が低下した臓器を再生して治療する新たな医療である再生医療。東京女子医科大学の岡野光夫名誉教授・特任教授が開発した日本発・世界初の「細胞シート工学」を基盤技術とし、この技術に基づいて作製した「細胞シート(シート状の培養細胞)」を用いた再生医療等製品の開発を行う「細胞シート再生医療事業」と細胞シートの基盤ツール(培養器材)である温度応答性細胞培養器材等の開発・製造・販売及び再生医療の研究開発・事業化を支援する再生医療受託サービスを提供する「再生医療支援事業」を二本柱とする。

 

【Mission:価値ある、革新的な再生医療をリードし、世界の医療に貢献します。】
大学の研究成果をシーズとして、同社が治験を行い再生医療製品として製品化する事で世界の医療への貢献を目指している。

 

(同社資料より)

 

1-1.事業内容

細胞シート再生医療事業
大学との共同研究(臨床研究)によりシーズを発掘し事業化する。現在のパイプラインは、「細胞シート工学」を基盤技術とする「食道再生上皮シート」と膝軟骨の「軟骨再生シート」の2本。「食道再生上皮シート」は国内で19/12期第1四半期に治験が終了したが、追加治験が必要なため、現在PMDAと追加治験について協議を行っている。また、海外では、17/12期4月に台湾の三顧股有限公司(以下、MetaTech社)と事業提携契約を締結し、同社が2018年12月末に治験届を提出した。
一方、「軟骨再生シート」は、東海大学医学部付属病院が申請していた先進医療が2019年1月に承認され、大学病院で治療の開始に向けた準備が進められている。また、MetaTech社への導出も実行されMetaTech社が台湾での事業化に向けた準備を進めている。

 

再生医療支援事業
温度応答性細胞培養器材等の開発・製造・販売、及び細胞シート製品の製法開発・受託製造、施設管理・申請支援、細胞培養技術者教育等の再生医療受託サービスを手掛けている。

 

 

UpCellR

細胞シート回収用温度応答性細胞培養器材

 

RepCell ™

細胞回収用温度応答性細胞培養器材

(3×3mmのグリッドウォールを備えているため、微小な細胞片の回収)

 

HydroCell ™

超低付着性細胞培養器材

   

(画像はいずれも同社資料より)

 

細胞シート製品の製法開発・受託製造
製薬会社・研究機関からの委託を受けて、主に細胞シートの受託開発・製造を行う。日本再生医療学会認定の臨床培養士が所属しており、培養の経験豊富なスタッフによる再生医療等製品の製法開発・製造を特定細胞加工物の製造許可を受けた細胞培養加工施設で行う。尚、軟骨再生シートは東海大学が申請していた先進医療Bが2019年1月に承認された。この先進医療に使用される細胞シートは同社が細胞培養センターで培養(受託加工)する事が決まっている。

 

1-2.細胞培養センター

延床面積約763 ㎡で、自動モニタリングシステムによって、清浄度、室圧、温湿度、機器(培養器や保冷庫等)が自動管理され、監視カメラシステムも完備。また、羽田空港まで車で約20分と至近で空輸にも対応しやすい。2017年3月には「再生医療等の安全性の確保等に関する法律第35 条第1項の規定に基づく「特定細胞加工物製造許可」(許認可権者:厚生労働省)を取得しており、特定細胞加工物の受託製造も可能。

 

(同社資料より)

 

2.2019年12月期決算概要

2-1 連結業績

 

18/12期

構成比

19/12期

構成比

前年同期比

期初予想

予想比

売上高

1,026

100.0%

275

100.0%

-73.1%

300

-8.1%

売上総利益

994

96.9%

216

78.5%

-78.2%

販管費

854

83.3%

997

362.5%

+16.7%

営業利益

140

13.7%

-780

-1,100

経常利益

140

13.7%

-786

-1,100

親会社株主帰属利益

129

12.6%

-782

-1,100

* 単位:百万円

 

前期比73.1%の減収、7億80百万円の営業損失(前期は1億40百万円の利益)
売上高はMetaTech社への技術導出による大きな売上達成のあった前期に対して73.1%減の2億75百万円となった。再生医療支援事業の売上が同77.2%大幅増加したものの、細胞シート再生医療事業の売上が同83.5%減少した。営業損益は7億80百万円の損失。売上の減少で前期の1億40百万円の利益から損失に転じたが、開発業務委託費用や細胞培養施設の維持費用等が想定を下回ったことで期初予想に対しては大幅な改善を達成。

 

2-2 セグメント別動向

 

18/12期

構成比

19/12期

構成比

前期比

再生医療支援事業

66

6.4%

117

42.5%

+77.2%

細胞シート再生医療事業

960

93.6%

158

57.5%

-83.5%

連結売上高

1,026

100.0%

275

100.0%

-73.1%

再生医療支援事業

-70

-46

細胞シート再生医療事業

497

-424

調整額

-287

-310

連結営業利益

140

-780

* 単位:百万円

 

再生医療支援事業では、多数の展示会への出展と積極的な販促活動による海外売上の大幅な増加と、国内での主要代理店の戦略的集約及びマーケティング情報の共有等の成果で器材販売が過去最高となった。また、自社細胞培養センターを活用する再生医療受託事業において、東京女子医科大学から受託した医師主導治験用の歯根膜細胞シート4案件の納品を行った。この他、アカデミアに対し、細動シート培養トレーニングを実施するなど、様々な活動の結果が好業績へと結びついた。

 

一方、細胞シート再生医療事業では、台湾MetaTech社との間で締結した細胞シート再生医療事業に関する台湾での独占的事業提携契約に基づく売上が実現した前期の9億60百万円から1億58百万円に減少した。

 

2-3 財政状態及びキャッシュ・フロー(CF)

財政状態

 

18年12月

19年12月

 

18年12月

19年12月

現預金

1,057

1,065

前受金

64

30

売上債権

328

56

負債

174

110

流動資産

1,505

1,245

純資産

1,411

1,345

固定資産

81

210

負債・純資産合計

1,586

1,456

* 単位:百万円

 

総資産は前期末と比べて1億30百万円減の14億56百万円。フリー・キャッシュ・フローがマイナスとなったが、新株予約権の行使による株式の発行により7億18百万円を調達したことで前期末を上回る現預金の水準を維持した。

 

尚、10億65百万円の現預金を確保しているため現在の財務基盤に不安はないが、細胞シート再生医療事業において再生医療第1号製品の早期事業化の道程を示すまでには至っていないため、継続企業の前提に疑義を生じさせる状況が存在している。食道再生上皮シートと軟骨再生シートの開発を推進し、細胞シート再生医療第1号製品の早期事業化の実現と事業提携先の開拓を通じて、更なる収益機会を獲得し当該状況の解消を図っていく考え。

 

キャッシュ・フロー

 

18/12期

19/12期

前年同期比

営業キャッシュ・フロー(A)

-306

-577

-270

投資キャッシュ・フロー(B)

-1

-133

-132

フリー・キャッシュ・フロー(A+B)

-308

-710

-402

財務キャッシュ・フロー

24

721

+696

現金及び現金同等物期末残高

1,057

1,065

+7

+0.7%

* 単位:百万円

 

税引前損失7億82百万円等で営業CFは5億77百万円のマイナスとなった。投資CFは投資有価証券の取得等によるもので、財務CFは新株予約権の行使による株式の発行による収入等による。

 

2-3 トピックス

細胞シート工学イノベーションフォーラムの開催
2019年7月19日に第1回細胞シート工学イノベーションフォーラムを東京都立産業技術研究センター(東京都江東区)にて開催した(一般聴講者135名、ポスター発表者23名)。

 

講演は、岡野光夫 東京女子医科大学名誉教授・ユタ大学細胞シート工学センターディレクター、佐藤正人 東海大学医学部外科学系整形外科学 教授、岩田隆紀 東京医科歯科大学 大学院歯学総合研究科 歯周病学分野 主任教授、汐田剛史 鳥取大学大学院医学系研究科 遺伝子医療学部門 教授、関根秀一 東京女子医科大学 先端生命医科学研究所 講師。

 

「細胞シート」又は「温度応答性細胞培養器材」を用いた研究をポスター演題とし、最優秀ポスター賞を、信州大学 医学部 今村哲也氏が受賞し、優秀ポスター賞を、東海大学医学部外科学系整形外科学 高橋匠氏と、東京女子医科大学先端生命医科学研究所 菊池鉄太郎氏が受賞した。最優秀ポスター賞を受賞した、信州大学医学部今村哲也氏は泌尿器科分野において、間葉系幹細胞を用いたTissue Engineering手法での再生医療研究に取り組んでいる。

 

第2回細胞シート工学イノベーションフォーラムの開催を予定
2020年10月15日(13:30~18:00)に日本未来館(東京都江東区)にて、第2回細胞シート工学イノベーションフォーラムを開催する予定である(定員200名で研究者を対象とする事前登録制)。講演者は、東京女子医科大学 清水達也教授、東京医科歯科大学 宮原裕二教授、大阪工業大学 崎山亮一准教授。「細胞シート」又は「温度応答性細胞培養器材」を用いた研究に関するポスター演題を募集している。

 

合弁会社の設立
2019年11月に、同社と、MetaTech社、陳宗基氏(台湾 貝德比修投資有限公司 董事長)、及び杜元坤氏(台湾 財団法人義大病院 院長)等が出資した合弁会社が2020年1月30日に設立された(事業開始は2020年4月を予定)。

 

合弁会社は日本又は台湾の大学、研究機関から提供を受けたシーズ技術を基に細胞シート工学を応用した再生医療等製品・治療法の開発を行い、その実現に向けて製品概要の検討、製造方法の最適化等を行う。台湾義大医療財団法人義大病院(台湾高雄市)の杜元坤教授が開発したシーズが候補の一例である。再生医療支援事業として、臨床開発のコンサルティング及び製造販売承認申請の支援等も行っていく予定。

 

名称 Up Cell Biomedical Inc(中国名:日生細胞生技股?有限公司)
所在地 新北市 汐止區新台五路 1段 75 號 14 樓之 2
代表者 董事長 王惠鈞(中央研究所生物化学研究所客座教授、国家生技研究園区代理執行長)
事業内容 台湾・日本の大学等のシーズをベースとした細胞シート再生医療事業の研究開発及び事業化
資本金 130,000,000台湾ドル(設立時)(日本円:約5億円)
決算期 12月期

* ボードメンバー:王惠鈞 董事長、何弘能 副董事長、橋本せつ子 董事
* 顧問:楊知恵 董事長室顧問、サイエンティフィックアドバイザリーボード:陳耀昌、黄彦華、高橋政代

 

 

世界展開に向けた事業提携推進
事業提携・ライセンシングに向け、国内外での展示会に積極的に参加している。

 

19/12期実績

2月 DUPHAT(ドバイ) 6月 Bio International(フィラデルフィア)
3月 Bio Asia(東京) 7月 Bio Asia Taiwan(台北)
3月 Bio Europe Spring(ウィーン) 10月Bio Japan(横浜)
5月 China BIO(上海) 12月Healthcare EXPO Taiwan(台北)

 

20/12期予定

5月 China BIO(蘇州) 9月 BIO Partnering APAC 2020(上海)
6月 Bio US(サンディエゴ) 10月BIOEU Fall(ドイツ)
7月 Bio Asia Taiwan(台北) 12月Healthcare EXPO Taiwan(台北)

 

3.セグメント別動向

細胞シート再生医療事業では、食道再生上皮シートと軟骨再生シートの細胞シート再生医療製品パイプラインの自社開発を中心とした研究開発の進めると共に、歯根膜細胞シート開発の検討を開始した。一方、再生医療支援事業では、器材事業の拡大を目指し、顧客の要望を踏まえた新規器材及び特注品の研究開発に取り組むと共に、展示会への出展等、販促活動にも力を入れ海外売上の拡大につなげた。また、2018年11月に開始した再生医療受託事業も売上を計上した。

 

3-1 細胞シート再生医療事業

食道再生上皮シート
日本では、年間約22,000人が食道がんと診断され(日本では食道がんの90%が扁平上皮がん)、年間約11,500人が食道がんで死亡している。男性の発症率・死亡率は女性の5倍で、5年後の生存率は男性36%、女性44%、と男女共に低い。治療法として、2008年に保険収載された内視鏡切除手術(ESD)が増加しているが、ESDは手術後の食道狭窄の副作用がある。

 

(同社資料より)

 

「食道再生上皮シート」は、食道がん再生治療の問題を解決するために(食道創傷治癒・狭窄予防)として東京女子医科大学が開発した治療法である。患者の口腔粘膜から採取した細胞を温度応答性培養器材で約2週間かけて培養し、細胞シートを作成する。細胞シートの培養に合わせて、食道がん切除内視鏡手術を行い、食道潰瘍面に移植する。
2008年から2014年にかけて大学で臨床研究が行われ、東京女子医科大学10症例、東京女子医科大学・長崎大学10症例(長距離輸送検証:長崎大学で採取した細胞を東京女子医科大学で培養し、長崎大学で移植手術)、カロリンスカ大学病院(スウェーデン)10症例、の計30症例が既にあり、同社は、東京女子医科大学と開発基本合意契約を締結して同大学の研究成果を実業化に向けて引き継いだ。

 

 

承認取得に向けた国内外での取り組み
国内では、18/12期第2四半期に症例登録を終了し、19/12期第1四半期に治験を終了した。治験において、副作用の発生はなく、安全性についての問題は認められなかったが、主要評価項目である「ESD(内視鏡的粘膜切除術)後8週目の狭窄予防効果」の有効率(非狭窄率)が12.5%にとどまり、閾値奏効率(ESD後の無処置患者に対する非狭窄率)に対して統計的な優位性が証明されず、追加治験が必要になった。

 

現在、追加治験についてPMDAと協議中だが、状況が変わってきた。2017年に発刊された食道癌診療ガイドライン(日本食道学会編)に、食道癌の内視鏡治療後の狭窄予防として、ステロイド局注、ステロイド内服のいずれかを行うことを強く推奨すると掲載された。ステロイドは安価で有効な治療法としての認知が広がり、最近では狭窄の予防を目的としたステロイド治療が用いられることが多くなっているようだ。この影響で「食道再生上皮シート」の追加治験は対象患者をステロイド投与にリスクがある患者とする必要が生じた。このため、PMDAと、対象患者や必要な症例数等についての協議を行う予定である。

 

一方、海外では、17/12期第1四半期(4月)にMetaTech社と事業提携契約を締結し、同社が2018年12月末に治験届を提出した。また、欧州では、16/12期に欧州医薬品庁(EMA)と承認取得に向けた話し合いを実施した。

 

 

軟骨再生シート
軟骨再生シートは緩徐に進行する難治性の関節軟骨変性の治療に用いられる再生医療製品である。変形性膝関節症とは、緩徐に進行する難治性の関節軟骨変性である。国内における患者数(40歳以上)は2,530万人、そのうち有症病者は800万人と推定されている(東京大学医学部附属病院22世紀医療センター調査)。また、高齢化により患者数の増加が予測され、国民健康寿命・介護費・医療費の観点から喫緊に対処すべき疾患であると言う(平成25年厚生労働省国民生活基礎調査によると、要支援・要介護になった原因の25%を運動器の障害が占めた)。

 

 

(同社資料より)

 

「軟骨再生シート」は、東海大学整形外科 佐藤正人教授との共同研究であり、スポーツによる損傷や加齢を原因とする軟骨欠損や変形性関節症を適応症とする。現状では根治する方法がないが、佐藤教授との共同研究は軟骨表面の根本的な再生を目的としている。膝の軟骨は、硝子(しょうし)軟骨と言い、耳や鼻等の軟骨とは異なり、クッション性と対摩耗性に優れた硬い軟骨で再生が難しい。しかし、共同研究を進めている「軟骨再生シート」は、硝子軟骨として膝の軟骨を再生できる事が臨床研究で確認されている。
変形性膝関節症の治療には人工関節による治療もあるが、人工関節は15~20年程度の耐用年数があり根本的な治療とは言えない。また、他社の膝関節再生医療との比較では、細胞シートを使う同社の治療法は欠損した軟骨部分への定着力に優れるため、確実に軟骨を再生できる。

 

 

自己細胞シートによる治療
佐藤正人教授は、2010年に自己軟骨シートの臨床研究を開始し8症例を完了した。また、2019年1月には厚生労働省「第71回先進医療会議」において、東海大学医学部付属病院が申請していた「自己細胞シートによる軟骨再生治療」が先進医療Bとして承認された。
同社は、独立行政法人「日本医療研究開発機構(AMED)」の事業を通して、変形性膝関節症治療のための、軟骨細胞シートの有効性因子の探索や同種軟骨再生シートの治療に向けた研究を佐藤正人教授と共同で行ってきた実績がある。このため、先進医療として承認された自己細胞シートによる軟骨再生治療の実施に際して、同社は軟骨再生シートの製造を請け負う。

 

海外展開では、MetaTech社への導出も行い、台湾の法律(日本の先進医療B に準じた法律)を基に自己軟骨シートの事業化に向けた準備を進めている。また、2019年11月には、佐藤正人教授と共に、「細胞培養シート、製造方法及びその利用方法」を米国で特許出願し成立した。これにより、日米欧で知的財産権が保護された。

 

尚、先進医療Bとは、高度の医療技術を用いた治療法や医療技術を対象とするもので、販売承認取得前だが、有効性や安全性について一定の基準を満たした治療法や医療技術である。販売承認取得前のため先進医療のための治療費は全額自己負担となるが、自由診療と異なり、通常の治療と共通する部分(診察、検査、投薬、入院料など)は保険診療と同等に扱われる自由診療は、原則、保険診療と併用する事ができない。

 

 

同種軟骨シートによる治療
同種軟骨シートによる治療ついては、佐藤正人教授が2017年2月に臨床研究(同種軟骨細胞シートの移植手術)を開始し、その後、3年間で10名の患者に同種軟骨細胞シートの移植を完了した(臨床研究で予定していた10症例の移植が2019年12月に完了)。また、臨床研究と並行して、セルバンクの構築及び細胞シート製造の自動化にも着手した。

 

(同社資料より)

 

同種軟骨シートは、多指症患者から軟骨組織を採取し、2~3週間かけて培養した細胞シートを移植する(先天的に手の指が6本ある乳児から切除された指の軟骨細胞を、同意を得て利用)。しかし、商業利用を目的としたヒト組織の提供の仕組みが現状では未整備のため、先ずこの仕組みを整備する必要がある。整備には時間を要するため、2021年に予定していた治験開始時期が遅れる見込み。

 

尚、同種軟骨シートによる治療は、AMED「再生医療の産業化に向けた評価化基盤技術開発事業(再生医療シーズ開発加速支援)」に採択されたため、補助金が研究開発費として利用されている(事業期間:2018年10月~2021年3月予定)。

 

 

再生医療受託サービス
再生医療受託サービスでは、細胞シート製品の製法開発・受託製造、施設管理・申請支援、細胞培養技術者教育等のサービスを提供している。

 

細胞シート製品の製法開発・受託製造では、日本再生医療学会認定の臨床培養士等、培養の知識・経験豊富なスタッフが多数所属し、特定細胞加工物製造許可及び再生医療等製品製造許可を受けた施設(施設番号:FA3160008)において、同社製品であるUpCellRを用いて細胞シートを作製する。AMEDに採択された東京女子医科大学先端生命医学研究所(研究開発担当者 岩田隆紀氏)の再生医療実用化研究事業「同種歯根膜由来間葉系幹細胞シートによる歯周組織の再建」における同種歯根膜由来間葉系幹細胞シートの製造関連業務を2018年11月に受注し、19/12期に売上計上した。

 

施設管理・申請支援では、特定細胞加工物の製造の申請資料の作成や申請・届出や文書作成コンサルティング、施設設備・管理体制の維持、管理支援等のサービスを提供しており、細胞培養技術者教育では、細胞シート培養トレーニングや細胞シート剥離トレーニング等のサービスを提供している。

 

 

ISO9001取得
細胞培養器材における更なる信頼性の向上と顧客満足度の向上を目的に、品質マネジメントシステムの国際規格であるISO9001:2015の認証を取得した。この規格に準拠した法令の順守と品質マネジメントシステムの継続的な改善に取り組んでいく考え。

 

適用規格 ISO9001:2015/JIS9001:2015   登録日 2020年1月6日
登録番号 JP20/063104   有効期限 2023年1月6日
登録範囲 細胞培養器材の設計及び製造管理

細胞特性モニタリング装置及び測定機器の販売

  認証機関 SGSジャパン株式会社
  認定機関 UKAS(英国認証機関認定審議会)

 

4.中期経営計画(20/12期~22/12期)

4-1 概要

同社は、細胞シート工学という日本発の革新的再生医療技術を基盤として様々な細胞シート再生医療等製品を開発し、その世界普及を目指している。日本では、2014年11月に「医薬品医療機器等法」及び「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」が施行されて以降、再生医療を取り巻く環境が大きく変化し、再生医療等製品の産業化が進みつつある(実際、この約5年間で7品目の製造販売が承認された)。
こうした中、同社は再生医療支援事業等の領域において、海外での器材ビジネスの拡大、受託事業の体制構築、MetaTech社及び台湾合弁会社との協業強化等、社内外で環境が整ってきた。日本だけでなく、海外における大きな外部環境の変化を活かしつつ、下記概要の通り計画を推進していく考え。

 

 

細胞シート再生医療事業

食道再生上皮シート 追加治験に関してPMDAと協議を進め、早期の製造販売承認申請を目指す。
軟骨細胞シート(自己細胞) 東海大学が進める先進医療を支援し、その製造を請け負う。
軟骨細胞シート(同種細胞) 早期の治験開始に向け、セルストック構築、細胞シート製造自動化を加速する。
第3品目 東京医科歯科大学と歯根膜細胞シートについて協議終了後、開発に着手する。

 

 

再生医療支援事業

受託製造 受託製造・コンサルティング事業を推進し、更なる収益獲得を目指す。
器材事業 新製品開発の推進、需要増加に対応した生産能力の確保、収益機会の拡大を目指す。

 

海外展開

台湾での収益機会 台湾における再生医療への投資拡大を見据え、MetaTech社、合弁会社との協業を強化する。
事業提携 日本発の細胞シート工学の世界展開のために事業提携を積極的に推進する。

 

 

4-2 数値目標

 

20/12期 予想

21/12期 目標

22/12期 目標

 再生医療支援事業

230

320

390

 細胞シート再生医療事業

80

40

1,010

連結売上高

310

360

1,400

連結営業利益

-1,020

-1030

10

連結親会社株主帰属利益

-1,020

-1,030

10

 

再生医療支援事業は海外での器材販売と再生医療受託サービスの堅調な推移が見込まれ、細胞シート再生医療事業においては提携事業の収益化を見込んでいる。

 

5.今後の注目点

2017年に発刊された食道癌診療ガイドライン(日本食道学会編)に、「食道癌の内視鏡治療後の狭窄予防として、ステロイド局注、ステロイド内服のいずれかを行うことを強く推奨する」と掲載された。この掲載を契機に、ステロイドは安価で有効な治療法としての認知が広がり、狭窄予防でのステロイド治療が増えていると言う。同社の「食道再生上皮シート」を用いた食道癌の内視鏡治療後の狭窄予防は、対象患者をステロイド投与にリスクがある患者に限定される見込みで、これまでの想定よりも対象患者が減少してしまう。

 

もっとも好材料も多く、東京医科歯科大学向けの「歯根膜細胞シート」で再生医療受託サービスの実績があがり、温度応答性細胞培養器材は過去最高の売上を達成した。海外の販路ができつつあるようだ。温度応答性細胞培養器材の販売は、収益貢献だけでなく、「細胞シート工学」を基盤技術とする「細胞再生シート」の認知度向上にも貢献する。
また、台湾事業も進展している。昨年12月末にMetaTech社が「食道再生上皮シート」の治験届を提出したことからわかるように、スピードが速い。「軟骨再生シート」も含めて早期の収益化が期待される。膝の軟骨は、硝子(しょうし)軟骨と言い、耳や鼻等の軟骨とは異なり、クッション性と対摩耗性に優れた硬い軟骨で再生が難しい。「細胞シート工学」を基盤技術とする「軟骨再生シート」は、硝子軟骨として膝の軟骨を再生できる事が臨床研究で確認されている。また、他社の膝関節再生医療との比較では、細胞シートを使う同社の治療法は欠損した軟骨部分への定着力に優れるため、確実に軟骨を再生できることも強みだ。もちろん日本国内でも期待されており、既に承認された先進医療の立ち上がりと同社への受託製造としての貢献に期待できる。台湾に設立された合弁会社も、パートナーに恵まれただけに今後の展開が期待される。
事業活動を支える財務基盤は健全で不安はない。20/12期は、どれだけ好材料を伸ばし、新たな好材料を増やすことができるか注目していきたい。

 

<参考:コーポレート・ガバナンスについて>

 

◎組織形態及び取締役、監査役の構成

組織形態 監査役会設置会社
取締役 4名、うち社外2名
監査役 3名、うち社外2名

 

◎コーポレート・ガバナンス報告書(更新日:2019年04月04日)
基本的な考え方
当社は、技術革新と創造性を発揮し、質の高い優れた製品とサービスの提供を通じ、人々の健康と福祉に貢献していくことを使命とし、全ての企業活動において品質を高めるべく企業統治の整備を進めています。
今後につきましては、ディスクロージャーの透明性を高めるため一層説明責任を充実するとともに、さらなる経営のチェック機能強化を図ってまいります。

 

<コーポレートガバナンス・コードの各原則を実施しない理由>
当社は、JASDAQ上場企業としてコーポレートガバナンス・コードの基本原則をすべて実施しております。

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