(6575:東証マザーズ) ヒューマン・アソシエイツHD 他社にない強みを事業拡大へ

2019/03/28

6575HAHD

今回のポイント
・19/3期3Q(累計)は前年同期比3.5%の減収、同24.4%の営業減益。メンタルヘルスケア事業の売上が同1.9%増加したものの、好調だった前4Q(1-3月)の反動による1Q(4-6月)の売上減少が響き、人材紹介事業の売上が同7.9%減少。売上が減少する中、上場に伴うガバナンス強化による全社費用の増加や人材紹介事業における積極的な採用活動等の先行投資が負担になった。連結子会社Optia Partners(株)ののれん減損損失を特別損失に計上した事等で四半期純利益は同95.3%減少した。・通期予想は前期比1.4%の減収、同26.4%の営業減益。人材紹介事業、メンタルヘルスケア事業共に売上が期初予想を下回る見込み。人材紹介事業はコンサルタントの採用遅延等の影響で下期の売上が想定したほど伸びず、メンタルヘルスケア事業は、前年並みの受注は獲得しているものの、新規顧客獲得の苦戦が響く。営業・経常利益については売上下振れの影響を受けるものの、当期純利益については、本社移転に伴う受取補償金を特別利益に計上するため同23.4%増加する。

・人材紹介事業は景気にリンクする事業だったが、労働人口の減少を背景に企業の人材ニーズは質・量の両面から堅調で、景気との相関性が低下していると言う。また、採用した社員がリテイン(retain)して、更に能力を発揮する事、言い換えると、エンゲージメントも重みを増している。メンタルヘルスケア事業はエンゲージメント強化のためのサービスであり、新規事業として取り組むアセスメントとコーチングも広義のエンゲージメントである。人材紹介を手掛ける企業やエンゲージメントを手掛ける企業は多いが、現状、両事業を手掛ける企業は同社のみ。この強みを事業拡大につなげていく事ができるかどうか、が今後のポイントになる。

会社概要
持株会社である同社の下、エグゼクティブやグローバル人材の紹介を行う人材紹介事業と組織人材向けのカウンセリング、ストレスチェック及びその後のフォローアップサービスを行うメンタルヘルスケア事業を手掛けている。グループは、持株会社であるヒューマン・アソシエイツ・ホールディングス(株)の他、会社経営層や高度スペシャリストのエグゼクティブサーチを行うAIMSインターナショナルジャパン(株)、ミドルマネジメントのキャリア開発を手助けする登録型人材紹介会社(株)A・ヒューマン、外資系企業を中心にグローバル人材を紹介するOptia Partners(株)、及び組織人材のメンタルヘルスケアを行うヒューマン・フロンティア(株)、の100%子会社4社。尚、大和PIパートナーズ(株)が発行済株式数の36.5%を保有する筆頭株主であり、取締役1名の派遣を受けている。

【経営理念】
「企業組織における最も重要な経営資源である人材の価値を高め、企業がより高度な活動を継続していくお手伝いをすること」。
様々な人事機能に関するサービスを当社グループで一括して提供することで、企業を取り巻く様々なリスクや課題を解消するための解決策を総合的に提供し、また、当社グループの特色を活かした事業展開による高付加価値ソリューションの提供を行っております。

【沿革】
1996年9月に安藤秀人氏が(株)ケンブリッジ・リサーチ研究所から独立してヒューマン・アソシエイツ(株)を創業し(1990年3月に設立され、当時休眠会社だった和栄(株)を買収して創業)、ヘッドハンティング(サーチ型人材紹介)事業を開始した。2000年2月にメンタルヘルスケアサービスを提供するヒューマン・フロンティア(株)を、11月に登録型人材紹介を手掛ける(株)A・ヒューマンを、それぞれ設立。2007年9月に、安藤氏の後継者として渡部昭彦氏(現代表取締役社長)がヒューマン・アソシエイツ(株)代表取締役社長に就任。業容拡大を踏まえて、2009年7月にHAグループ(株)を持株会社とする体制へ移行した。

2011年9月、グローバルサーチファームのAIMS Internationalと提携し、AIMSインターナショナルジャパン(株)を設立。2013年には5月にサーチ型医師紹介会社HAメディカル(株)を設立し、同年6月には持株会社HAグループ(株)がヒューマン・アソシエイツ・ホールディングス(株)に商号を変更。2014年12月に大和PIパートナーズ(株)が安藤秀人氏から株式を取得した。

2015年5月にHAメディカル(株)がヒューマン・アソシエイツ(株)を吸収合併し、ヒューマン・アソシエイツ(株)に商号を変更。2016年4月に(株)A・ヒューマンがヒューマン・アソシエイツ(株)を吸収合併。2016年11月には人材紹介会社Optia Partners(株)の全株式を取得。2018年4月に東京証券取引所マザーズ市場に株式を上場した。

【事業概要】
事業は人材紹介事業とメンタルヘルスケア事業に分かれ、人材紹介事業は、企業の人材ニーズを的確に把握する一方、キャリアコンサルティングを通じ個々の人材に対して最も適した企業を紹介し、企業と人材の橋渡しを行う。一方、メンタルヘルスケア事業は、従業員の日常の悩み事についてカウンセリングを行い、問題解決のサポートや職場環境の改善を支援する。
18/3期の売上構成は、人材紹介事業58%、メンタルヘルスケア事業42%。

ミドルマネジメント以上の人材紹介に特化し、事業会社3社が求人企業及び求職者のニーズに沿ったサービスを提供しつつ、シナジーを追及している。3社とは、会社経営層や高度スペシャリストのエグゼクティブサーチを行うAIMSインターナショナルジャパン(株)、ミドルマネジメントのキャリア開発を手助けする登録型人材紹介会社(株)A・ヒューマン、及びグローバル人材を紹介するOptia Partners(株)である。

尚、AIMSインターナショナルジャパン(株)のターゲットの年収は11.9百万円(過去3年平均)、Optia Partners(株)は11.1百万円(過去2年平均)、(株)A・ヒューマンのターゲットの年収は7.3百万円(過去3年平均)。

同社グループの強み
各業界で15~20年の勤務経験を持ち業界知識の豊富なコンサルタントを確保している事が強みであり、インターナショナル領域では、Optia Partners(株)の充実したコンサルタント陣に加え、提携先であるAIMS Internationalとの連携が強み。Optia Partners(株)はコンサルタントの9割超が外国人のため外資系企業のトップ(外国人)へアプローチしやすく、的確にニーズをつかむ事ができる。AIMS Internationalとの連携では、世界50ヶ国以上に90ヶ所以上の拠点を構え、350人以上のコンサルタントを擁するエグゼクティブサーチネットワークを活用できる。

市場動向
同社資料によると、人材紹介市場は2016年度に2,300億円となり、リーマンショック前のピーク時の水準を上回った。「人材不足」を背景に引き続き7~8%前後での成長が見込まれる。

事業会社ヒューマン・フロンティア(株)が、カウンセリング、ストレスチェック及びその後のフォローアップサービス、及び各種研修等のメンタルヘルスケアサービスをワンストップで提供している。
具体的には、大企業約480社と年間契約し、全国約80名のカウンセラーが顧客企業の現場に赴いてEAP(Employee Assistance Program:従業員支援プログラム)を提供している。また、EAPカウンセリングを通して培ったノウハウを活かして、管理職向けメンタルヘルスケア研修、パワハラ研修、ワークライフバランス研修等の研修や、ストレスチェック・組織分析、休業者・復職者支援プログラム、CISM(Critical Incident Stress Management)、組織コンサルテーション等のサービスも提供している。

ストレスチェックについては、2015年12月の改正労働安全衛生法の施行に伴い、従業員50名以上の事業所で実施が義務化され需要が拡大した。厚生省モデルの質問を使い、従業員の回答を集計し、問題点等を整理・分析して企業に提出する。また、ストレスチェックを通して、組織上の問題が浮き彫りになれば、組織コンサルテーションにより様々なコンサル提案により問題の解決を支援する。

同社グループの強み
他社では対応が難しい、メンタルヘルス対策の一次予防から三次予防までのワンストップ提供と「現場型」出張カウンセリングを強みとする。メンタルヘルス対策に対するニーズは、企業規模に比例して多様化する傾向があるが、同社のように、多様化する企業ニーズに全国規模かつワンストップで、柔軟に対応できる企業は限られる。

「現場型」出張カウンセリングは、連結子会社ヒューマン・フロンティア(株)が擁する全国の専属カウンセラーが可能にしている。「専属カウンセラーは、理論だけでなく、実際に組織で働く社員の気持ちを理解できる人材でなければならない」、という考えから、臨床心理士や産業カウンセラー等の資格保有に加え、企業での勤務経験も採用条件となっている。専属カウンセラーは原則として月1回、東京での集合研修の受講が義務付けられており、常に高い水準の知識が維持されている。同社グループでは、全国津々浦々、Face To Faceで、専属カウンセラーが現場でカウンセリングを行っているが、専属カウンセラーを持つ同業者は少なく(外部委託が多い)、しかも、電話でカウンセリングするケースが多いと言う。

加えて、同社においては、カウンセラーだけでなく、従業員スタッフも高い専門知識を有する。このため、ストレスチェック後の職場改善提案や研修等のフォローアップサービスが充実している事に加え、災害・事故時におけるCISM(惨事ストレスマネジメント)にも対応できる。これは、同社が定期的に実施している組織内研修の成果であり、この結果、年間EAP契約(1年契約)の継続率は95%と高い水準を維持している。

市場動向
シードプランニング「EAP・メンタルヘルス市場の現状と将来展望2017」によると、2016年度のEAP・メンタルヘルス領域の市場規模は166.4億円。2020年度には1.3倍の217.3億円に拡大する見込み。

2019年3月期上期決算
前年同期比3.5%の減収、同24.4%の営業減益
売上高は前年同期比3.5%減の14億28百万円。メンタルヘルスケア事業の売上が同1.9%増加したものの、好調だった前期第4四半期(1-3月)の反動による第1四半期(4-6月)の売上減少が響き(第2四半期以降、回復傾向)、人材紹介事業の売上が同7.9%減少した。
利益面では、売上の減少に伴い売上総利益が減少する中、上場に伴うガバナンス強化による全社費用の増加や人材紹介事業における積極的な採用活動(コンサルタントが前期末との比較で9名純増)等の先行投資が負担になり、営業利益が1億57百万円と同24.4%減少。業績が低迷する連結子会社Optia Partners(株)の、のれんの減損損失66百万円を特別損失に計上すると共に、これに伴う繰延税金資産の取崩しによる法人税等(15百万円) を計上したため、四半期純利益は6百万円と同95.3%減少した。
尚、当社は2016年11月にOptia Partners(株)の全株式を取得し連結子会社化したが、当期業績の低迷を踏まえて投資時点に想定していた計画を修正した。Optia Partners(株)は、前期に退職したコンサルタントの減少部分を前期中に採用で補えず、当期初に積極的に採用を行ったものの、当期中の本格稼働には至らず、当期の売上が減少した。

人材紹介事業
期初からの累計では、第1四半期の落ち込み等による上期の減収の影響を吸収できなかったが、第3四半期(10-12月)は前年同期と同水準の売上を計上した。第3四半期末のコンサルタント数は子会社3社合計で67名とOptia Partners(株)を中心に9名純増した。ただ、上期の純増が5名に留まった事や、前年同期同様、12月の案件が1月にズレ込んだ事もあり、第3四半期の売上は想定を下回った模様。

メンタルヘルスケア事業
ストレスチェックの寄与で第3四半期(10-12月)の売上が前年同期を上回り、累計でも前年同期比増収となった。研修及びストレスチェック後のフォローアップサービスも増加傾向にある。同社グループの中心顧客である大手企業は、少子高齢化の中で社員が働きやすい環境づくりに力を入れており、「ストレスチェックの結果をどのように活かしていくか」(ワーク・エンゲージメントの向上)について問題意識が高いと言う。また、ハラスメント防止対策強化の動きを背景に、2018年「ハラスメント防止研修」の実施回数が約200回と2017年の約100回から倍増した。

第3四半期末の総資産は前期末との比較で1億80百万円増の12億44百万円。4月10日の東証マザーズ上場に伴う資金調達と自己株の処分で2億円程度の資金を調達した事等で、現預金と純資産が増加した。自己資本比率69.8%(前期末63.6%)。

2019年3月期業績予想
通期予想は前期比1.4%の減収、同26.4%の営業減益
売上高は前期比1.4%減の19億21百万円。人材紹介事業、メンタルヘルスケア事業共に期初予想を下回る見込み。人材紹介事業はコンサルタントの採用遅延等の影響で下期の売上が想定したほど伸びず、メンタルヘルスケア事業は、前年並みの受注を獲得しているものの、新規顧客獲得の苦戦が響く。営業利益及び経常利益については売上下振れの影響を受けるものの、本社移転に伴う特別利益(受取補償金)を計上するため当期純利益は2億17百万円と同23.4%の増加が見込まれ、初予想を上回る見込み。

特別利益及び特別損失の計上
現本社所在地(東京都港区芝)周辺地区の再開発に伴い、連結子会社3社と共に第4四半期(1-3月)に本社を東京都港区南青山に移転する。このため、第4四半期(1-3月)に本社移転に伴う退去費用約15百万円(現在精査中のため概算値)が発生する見込みで特別損失に織り込んだ。既に説明した通り、第3四半期(10-12月)には、収益性が悪化していると認識した「のれん」の減損損失として特別損失66百万円及び繰延税金資産の取崩しにより法人税等15百万円を計上したが、現本社ビル(東京都港区)の貸主から受け取る中途解約に伴う補償金3億02百万円を特別利益に計上する予定で上記減益要因を上回る見込み。

2年連続の増配
期末配当は1株当たり2円51銭増配の21円80銭(配当性向29.8%)を予定している。配当については、将来の事業展開と経営基盤強化のために必要な内部留保を確保しつつ、連結配当性向30%程度を目安として安定した配当を実施していく事を基本方針としている。

人材紹介事業
期末71名のコンサルタント体制(前期末58名)を目指しており、既に9名純増している。純増したコンサルタントの本格稼働により、来期以降の業績回復はある程度見込めるものの、改めてビジネスモデルの見直しを行い、成長戦略を練り直す。特に、Optia Partners(株)については、従来のビジネスモデルである「外国人コンサルタントによる外資系企業へのバイリンガル人材の紹介」からの脱却を図るべく、経営体制の刷新による新たなビジネスモデルの構築を検討している。アジアマーケットの拡大に向けたコンサルタントの採用を強化すると共に、リテーナー契約の推進や候補者獲得のためのWebの活用等、グループ内のノウハウを共有しグループシナジーを追求する。具体的な改善案及びそれに基づく成長戦略については、当期中に分析・検討・見直しを行い、5月の決算発表時までに策定する。

メンタルヘルスケア事業
現場型出張カウンセリングでは、カウンセリング品質の維持向上による既存顧客の満足度向上と新規顧客の開拓に力を入れている。ストレスチェックでは、ストレスチェック後のフォローアップサービスの強化に取り組んでおり、並行してストレスチェックシステムの全面改修を進めている。研修では、ハラスメント防止研修の受注が大幅に増加している。新たに、レジリエンス研修とワーク・エンゲージメント研修をリリースした。

成長戦略
人材紹介事業
「コンサルタントの積極的採用・人材育成」、「地域拡大」、及び「求職者の一層の獲得のためのHP等自社チャネルのシステム改善」に取り組んでいる。「コンサルタントの積極的採用・人材育成」では、19/3期は13名の増員を計画しており、「地域拡大」では大阪支店を開設する。既にビジネスとしては全国展開しているが、現在の拠点は、田町(東京都品川区)と赤坂(東京都港区)の都内2拠点のみ。年内の大阪支店開設を予定している。「求職者の一層の獲得のためのHP等自社チャネルのシステム改善」では、高い有効求人倍率が示すように求職者不足が深刻化している事から、登録型人材紹介を手掛ける(株)A・ヒューマンの求職者確保と求職者の利便性向上に向け、Webサイト等、自社チャネルにおける情報の質の向上と量の拡大に取り組む。

メンタルヘルスケア事業
「全国を一律及び均質にカバーするカウンセリング体制の維持構築及び更なる充実」、「ストレスチェック後のフォローアップサービスの強化」に取り組んでいる。「全国を一律及び均質にカバーするカウンセリング体制の維持構築及び更なる充実」では、19/3期は大阪支店を増強すると共に、来期の名古屋支店開設に向けた準備を進める。現在、東京本社と大阪支店に拠点を有するが、営業活動は関東に集中している。このため、大阪支店を増強して関西での営業基盤の強化を図り、東京本社は関東エリアの深耕に専念する。
カウンセラーの積極採用も続けていく。「ストレスチェック後のフォローアップサービスの強化」では、ストレスチェックの結果に基づく、組織分析、組織コンサル、更には研修等のフォローアップサービスを強化する(サービスの横展開)。ストレスチェックの法制化から2年が経過し、今後、競争激化が予想される事から、独自性に磨きをかけ、差別化を図っていく考えだ。法制化以前に開発したストレスチェックの自社システムについても、多様化する顧客ニーズへの対応や組織分析の付加価値向上を念頭に全面改修する。

尚、19/3期は4名の増員を図り期末従業者数は34名を予定しているが、今後の事業拡大については、自社での対応に捉われず、M&Aにも柔軟に対応していく。メンタルヘルスケアサービスに対する顧客ニーズは多様化・総合化が進んでいるが、ニーズに応える事が難しい中小の同業者は多い。こうした同業をM&Aでグループに取り込んでいきたい考え。

グループ全体
アセスメント事業とコーチング事業の育成にも取り組んでいく。アセスメントは人材の能力・適性の発見・評価による人材ROIの向上につながり、コーチングは能力向上や適性(資質)の磨き込みにつながる。両事業は既存事業で培ってきたノウハウを活かす事ができ、シナジー(企業の人材をサービスの対象とし、人事部門を窓口とする)も期待できる。自社での対応だけに捉われず、M&A等にも柔軟かつスピーディに対応していく考え。

ビジネスコーチ株式会社と業務提携
コーチング事業育成の一環として、2018年11月にビジネスコーチ株式会社(東京都千代田区、代表取締役社長 細川馨)と業務提携した。ビジネスコーチ(株)が提供するサービスの内、エグゼクティブ層向けの意識改革・行動変革プログラム「エグゼクティブコーチング」及び対話の質向上のためのプログラム「1on1ミーティング導入プログラム」を重点的にグループ各社が販売していく。尚、ビジネスコーチ(株)は、米国でエグゼクティブコーチングの第一人者であるマーシャル・ゴールドスミス氏と提携して同氏のコンテンツ等を取り入れた独自の行動変革プログラムを有するビジネスコーチング及びコーチング研修のサービスを展開している。

(2)中長期成長戦略
人材紹介事業はオーガニックに堅実な成長を目指し、メンタルヘルスケア事業はM&Aも視野に入れより一層の拡大・成長を目指す。中期的には新規事業の育成により成長速度を加速させ、5年以内に売上高50億円を達成したい考え。

社長インタビュー - 渡部社長に聞く -
渡部社長は1979年3月に東京大学経済学部を卒業し、日本長期信用銀行に入行。支店業務、国際金融、本店営業等、企業金融にかかわる業務全般で経験を積まれた後、人事部門に勤務。2000年以降は、日本興業銀行を経て、セブン-イレブン・ジャパンで人事部門を、楽天証券では人事にとどまらない管理部門全体を、それぞれ管掌。2007年9月にヒューマン・アソシエイツ(株)の代表取締役社長に就任された。【市場動向と強み】
人材紹介事業
御社の資料を拝見すると、人材紹介市場は2018年度予想で2,690億円。今後、年率7~8%の成長が見込まれています。

渡部社長 :人材の流動化が進みますから、ポテンシャルとしては、グロスで、その程度の成長力があるのではないでしょうか。ただ、我々が注力している経営階層の人材紹介は、より高い伸びが期待できると考えています。「グロスで」と付け加えたのは、そのためです。投資ファンドが事業会社等を買収した際、経営者を交代させる事はよくある事ですし、事業会社も、企業買収や新たな事業展開に伴い、人材を外部に求めるケースが少なくありません。

経営階層の人材紹介は市場の成長を上回る伸びが期待できるとの事ですが、ピラミッドの頂点に位置するような方が対象になるのですから難易度も高いのでしょうね。どのようにして、紹介する人材をスカウトするのでしょうか。

渡部社長 :人材紹介サービスには、登録型とサーチ型があり、当社は両方に対応しています。登録型は、転職を希望される方にWebサイト等で登録していただき、コンサルタントが転職を斡旋します。当社グループでは、A・ヒューマンが登録型サービスを提供しています。紹介させていただく人材は、求人広告の外部サイトに登録されている方とA・ヒューマンの自社サイトに登録されている方になります。

サーチ型は、“エグゼクティブサーチ”や“ヘッドハント”等とも言われ、社長や部長以上の経営階層や上級専門職層といった求人依頼に対応します。当社グループでは、AIMSとバイリンガル・グローバル人材のOptiaがサーチ型のサービスを提供しています。コンサルタントが独自のネットワークを使ったり、様々なルートからコンタクトをとったりして、企業の要望にあった人材をスカウトします。求人のニーズは、ダイレクトメールや電話でのご案内を通して能動的に掘り起こしていく事が基本ですが、最近では、Webサイトや電話での問い合わせが増えています。幹部人材が不足する中で、当社の人材サーチ力とマッチングの実績が評価されてきているのだと思います。

求人ニーズについては、一度実績を作ると、リピートと言うのでしょうか、更なる取引につながるのでしょうね。

渡部社長 :おっしゃる通りです。しっかりと実績を残す事が営業基盤の強化・充実につながります。それができているのだと思います。

エグゼクティブサーチのAIMSやミドルマネジメント層を対象とするA・ヒューマンは、様々な業界で勤務経験のある方をコンサルタントとして採用しているそうですね。人材紹介事業は総じてコンサルタント個々の営業力に頼るところが大きいのでしょうか。

渡部社長 :会社の力とコンサルタント個々の力の両方の要因があるのでしょうが、やはり会社の力、信用力が大きいと思います。スカウトされた方は、先ず当社について調べます。自分をスカウトした会社が信用に足る会社かどうかです。当社であれば、20年来の実績がありますし、この4月には上場もさせていただきましたから、安心していただけると思います。会社をご評価いただいた後は、コンサルタント個々の力が要求されます。当社に限らず、営業はどの会社もそうなのでしょうが、水際でお客様とコンタクトをとる社員の力が強くなければなりません。このため、実務経験とコンサルタントとしての適性を有する方の確保に力を入れています。実務経験に基づく専門性のあるコンサルタントによるサービスで同業他社との差別化を図っています。

前期末時点のコンサルタントの出身業界別の内訳は、人材ビジネス27%、金融20%、機械製造16%、消費流通13%、IT7%、サービス4%、メディカル4%、石油4%、ファッション4%、と多種多様です。当社は、同業他社と比較し、コンサルタントの職務経験を重視しています。コンサルタントの専門性を重視している、と言い換えてもいいかも知れません。単なる“紹介”ではなく、企業と候補者の双方と接して、業種や産業について議論をしながらマッチングさせていきますから、専門性が必要になります。

専門性を重視した採用活動とコンサルティングにより差別化を図っている訳ですね。そして、その戦略が奏功してますね。ところで、よく競合する企業、あるいは特に意識している企業等はあるのでしょうか。

渡部社長 :同業者は沢山あります。AIMSはリテーナーハウスといって、リテーナー契約(注:個別・専属契約による固定報酬型契約)の下、難易度の高い求人依頼に応えています。この分野は外資系ビッグ5と言われる、スペンサースチュアート、ラッセル・レイノルズ、エゴンゼンダー、コーン・フェリー・インターナショナル、ハイドリック・アンド・ストラグルズが強く、国内企業も5~10社あります。リクルート(証券コード6098)さん、ジェイエイシーリクルートメント(同2124)さん、その他、派遣等を中心とする人材サービス会社が直接またはグループ企業を通して間接的に手掛けています。ただ、人材不足の時代ですから、競合を意識する事はありません。人材紹介事業は「人材を探す事ができれば、OK」というところがありますから。むしろ、そこの方が問題ですね。社員が全て外国人でバイリンガル・グローバル人材にフォーカスしているOptiaも、同じような業態の会社が5~10社くらいあります。やはり、競合企業を意識するというよりは、候補者をご紹介できるかどうか、が問題です。ただ、候補者の取り合いになっていますから、その面で競合と言えば競合ですね。

メンタルヘルスケア事業
人材紹介事業は競合企業を意識するよりも、候補者のサーチ力に磨きをかける事が大切という事ですね。もう一つの事業の柱であるメンタルヘルスケア事業についてお聞きします。御社の資料によると、2016年度に109.6億円だったEAP(Employee Assistance Program)・メンタルヘルス市場が2022年度にかけて年率5.8%成長、56.8億円だったストレスチェック制度関連市場が同8.9%成長、全体で同6.9%の成長が見込まれています。

渡部社長 :世の中の需要としては、その程度の成長率で伸びていくだろうと考えています。市場化される面では、ですね。メンタルヘルスケアでは、大企業では内製化するケースもありますから、我々が売上を上げる規模としては、それでいいのかわからない面があります。ただ、ポテンシャルとしては、その程度の成長力がある、と考えていいのではないでしょうか。当社としては、より高い成長を目指しています。

労働安全衛生法の改正がストレスチェックの追い風になっているようですね。改めて事業の特徴を説明して頂けますでしょうか。

渡部社長 :メンタルヘルスケア事業では、現場型出張カウンセリング、ストレスチェック・組織分析、休業者・復職者支援プログラム、研修、CISM(注:Critical Incident Stress Management、特別サポート)、組織コンサルテーションと言ったメンタルヘルスケアに必要なサービスをワンストップで提供している事と全国約80名の専属カウンセラーによる「現場型」カウンセリングを特徴としています。

ご存知のように、2015年12月1日施行の改正労働安全衛生法で、2016年11月末を期限に労働者数50人以上の事業所に対してストレスチェックが義務化されたため、市場が活性化され当社の受注も拡大しました。ストレスチェックは毎年11月末を期限に企業側が実施を検討するため、その影響で、当社は第2四半期・第3四半期の売上が第1四半期・第4四半期よりも大きくなる傾向があります。

カウンセラーの方はどのような方なのでしょうか。

渡部社長 :当社のカウンセラーの採用条件は、産業カウンセラーや臨床心理士の有資格者で、かつ、企業勤務の経験がある事。
業務委託という形態をとっていますが、品質の維持・向上には絶えず取り組んでいます。カウンセラーの方には、定期的に東京で研修を受けていただいていますし、2003年にEAP事業者として日本で初めて取得したISO9001(国際品質認証)の認証を現在も維持しています。こうした取り組みの下、約80人の専属カウンセラーが日本全国の現場に出張してカウンセリングを行っているのですから、サービス品質は高いと思います。

単に業務委託契約を結び任せているのではなく、御社が主体的に品質の維持・向上に努めているのですね。日本全国の現場に出張してカウンセリングを行っている「現場型」カウンセリングが特徴との事ですが、「現場型」カウンセリングは珍しい事なのでしょうか。

渡部社長 :同業他社の場合、全国対応はしていたとしても、首都圏以外は外部に委託している、といったケースが多いように思います。また、人材紹介を手掛ける会社は数多いですが、同じヒューマンリソース関連のサービスであるメンタルヘルスケアを手掛けている人材紹介会社は当社以外になく、当社のユニークなところです。当社は優良企業を中心に付加価値の高いエグゼクティブ層向けのサービスを提供しているという人材紹介会社としての強みに加え、他の人材紹介会社にない独自性を有している訳です。

【成長戦略】
メンタルヘルスケアに対する関心の高まりは時代の要請のように感じます。御社は、この分野でしっかりした経営基盤を持っていますから、他の人材紹介会社とは単純な比較はできないという事ですね。また、経営階層の人材紹介をきっかけにメンタルヘルスケアのニーズを汲み上げ、メンタルヘルスケアサービスを提供している中で人材ニーズを汲み上げる、と言ったシナジーも期待できると思います。こうした強みや特徴を活かして、今後どのように事業を展開していくのでしょうか。

渡部社長 :人材紹介事業はコンサルタントを増員し、専門性を強みに市場の成長を上回る成長を目指します。メンタルヘルスケア事業では、EAPカウンセリングとストレスチェックによる成長に加え、M&Aにも対応していきます。また、新規事業として、アセスメント事業とコーチング事業の育成にも取り組みます。組織としてオーガニックに伸ばしていく事を基本とし、メンタルヘルスケア事業でのM&Aと新規事業により成長を加速させていきたいと考えています。社内に有するリソースとマーケットの拡大余地を考えると、最も高い成長が期待できる事業がメンタルヘルスケア事業ではないでしょうか。

なるほど。人材紹介事業は子会社3社がターゲットを定めて事業展開していますが、成長をけん引するのは、どの子会社でしょうか。

渡部社長 :量的にはボリュームゾーンであるA・ヒューマンが最も伸びると思いますが、政策的には、メンタルヘルスケア事業や新規事業とのシナジーが期待でき、エッジが利いて企業に食い込んでいく事ができるAIMSを伸ばしていきたいと考えています。量としてはA・ヒューマン、率としてはAIMSといったイメージでしょうか。

A・ヒューマンをけん引役としつつも、経営階層と深いつながりをつくる事ができるAIMSがキーになる訳ですね。メンタルヘルスケア事業は、どのような成長イメージでしょうか。

渡部社長 :基本的には、これまでと同様にオーガニックに伸ばしていきたいと考えています。そのためにEAPをコアに、横展開を進めます。メンタルヘルスケアに対する意識の高まりや環境の変化に加え、労災認定件数の増加等もあり、EAPカウンセリングは引き続き堅調な推移が期待できます。また、ストレスチェックにより、新しいお客様が増えましたから、単にストレスチェックのスコアを出すだけでなく、そこから出てきた問題点や抽出された課題についてのコンサルサービスを提供していきたいと考えています。

ストレスチェックは、第1フェイズの導入が進み、これからこの結果を活用する第2フェイズに移行していくという事ですね。強いニーズを感じているようですね。

渡部社長 :おっしゃる通りですし、こちらからも提案させていただきます。ストレスチェックを導入されたお客様は、とりあえず法律をクリアするために導入されました。今後、継続していく事になりますが、どう活かしていくか、が課題になってきます。ストレスチェックの結果を踏まえた組織分析や職場環境改善活動等のフォローアップサービスの提供でニーズに応えていきます。それが成長戦略の一つです。
もう一つはM&Aです。当社は6つのサービス(注:現場型出張カウンセリング、ストレスチェック・組織分析、休業者・復職者支援プログラム、研修、CISM、組織コンサルテーション)を提供していますから、ワンストップでお客様のニーズに応える事ができます。EAPサービスを提供する会社は多いのですが、小規模な事業者さんも多く、ニーズがあってもEAP以外のサービスは難しい状況です。お客様のニーズが多様化する中で、こうした同業者さんを当社が包摂する事で、そのお客様に様々なサービスを提供できれば、お互いにシナジーを出せると思います。ですから、M&Aも一つの柱として考えていきたい、と言う事です。もっとも、現状では、ヘルスケアでのM&Aの実績はありませんから、数億円規模の売上の会社を対象にして、実績を積み上げていきたいと思います。

一気通貫のサービス体制がM&Aにおいてもポイントになるのですね。アセスメント(経営層等を中心とした人材の能力・適性の評価)事業とコーチング(能力向上のための教育、経営意識の改革)事業を二本柱とする新規事業はいかがでしょうか。

渡部社長 :AIMSはエグゼクティブサーチを専門としていますから、経営者や役員の方と常にコンタクトをとっています。その中で、「来年の役員選任に当たって部長クラスのアセスメントをやってくれないか」とか、そういう方への「研修やコーチングをやってくれないか」といった依頼を受ける事があります。以前からあった事で、間違いなくニーズはありますし、最近、それが増えています。これまでは外部に委託していましたが、今後は社内に取り込んでいこうという事です。先ほどお話したエグゼクティブサーチ企業等は、現在、人材紹介よりもアセスメントの事業規模の方が大きくなっていると聞いており、かなり高い対価で、サービスを提供しているようです。コーチングはアセスメントと一体となって提供される事が多いので、コーチングも同様にニーズがあると考えていいでしょう。

【投資家へのメッセージ】
新規事業は既存事業のノウハウが活用でき、シナジーも期待できる訳ですね。しかも、エゴンゼンダーの実績を考えると、エグゼクティブサーチよりも大きなマーケットかも知れない。お話を伺っていて、興味は尽きないのですが、頂いた時間が参りました。最後に株主や投資家の皆さんへメッセージをお願いします。

渡部社長 :少子高齢化が進展する我が国においては、政府の「働き方改革」に示されているように、働きやすい職場環境の整備や適材適所を実現する労働市場改革により、労働力を確保し生産性を向上させる事が不可欠です。当社は、会社設立以来、外からの「適材適所を実現する人材紹介」と内からの「ビジネスケアによる環境整備を支援するメンタルヘルスケア」により、社会のニーズに応える事ができるサービスを提供してきました。時にはFace To Faceで、お互いを理解しあう事が必要なビジネスですから、必ずしも規模の優位が効かない分野です。今後、これらの事業を更に伸ばし、その上で、新規事業を追加する事で、お客様に対して付加価値の高いサービスをパッケージで提供できる強みを更に強化していきたいと考えています。
上場を機に株式公開企業としての責任を自覚し、更なる業容の拡大と共に皆様方に信頼され、広く社会に貢献できる企業となるよう、役員はじめ従業員一丸となって一層精励してまいる所存です。

なるほど。外的能力の適材適所を実現する人材紹介と内面の環境整備によるモチベーションの向上を支援するメンタルヘルスケアは、「企業における人材の価値の向上」というミッションの実現だけでなく、政府が進める「働き方改革」の考えにも合致し、社会貢献という性格も有する訳ですね。長時間にわたり、丁寧なご説明をいただき有難うございました。渡部社長とヒューマン・アソシエイツ・ホールディングス株式会社の益々のご活躍とご発展をお祈り申し上げます。

今後の注目点
これまで人材紹介事業は景気にリンクする事業だったが、労働人口の減少を背景に企業の人材ニーズは質・量の両面から堅調に推移しており、景気との相関性が薄れていると言う。例えば、昨今の特徴であるガバナンス関連の人材ニーズ等は、その典型だ。また、採用した社員がリテイン(retain)して能力を発揮する事、言い換えると、エンゲージメントも重みを増している。メンタルヘルスケアはエンゲージメント強化のためのサービスであり、能力評価のアセスメントと、それに基づき能力を引き上げるコーチングも、エンゲージメントの強化につながる。人材紹介を手掛ける企業やメンタルヘルスケアを手掛ける企業は多いが、現状、人材紹介とメンタルヘルスケアの両事業を手掛ける企業は同社のみ。この強みを事業拡大につなげていく事ができるかどうか、が今後のポイントになる。メンタルヘルスケアに対する企業の関心は高まりつつあり、外部環境は同社に追い風だ。
<参考:コーポレート・ガバナンスについて>
◎コーポレートガバナンス報告書更新日:2018年07月09日
基本的な考え方
・コーポレート・ガバナンスの取組みに関する基本方針
当社は、事業環境が刻々と変化する人材紹介業界において企業価値の持続的な増大を図るには、経営の効率化を図ると同時に、経営の健全性、透明性及びコンプライアンスを高めて社会的信頼に応えていくことが不可欠であるとの認識のもと、ガバナンス体制の強化・充実を重要課題と位置づけています。
こうした認識のもと、業務分掌の実施や規程の整備等により内部統制を強化するとともに、随時体制の見直しを実施し、企業価値の向上を図ることで、株主や債権者、従業員など企業を取り巻くさまざまなステークホルダーへの利益還元に努めてまいります。

<コーポレートガバナンス・コードの各原則を実施しない理由>
コーポレートガバナンス・コードの基本原則を実施しております。

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