1月29日妥当レンジ 17,200円~18,550円
マイナス金利で日本経済は上向くか??

2016/02/02

【「IFIS/TIWコンセンサス225」によるマーケットの妥当レンジの推計】

<マイナス金利は、為替水準の維持には効果>
■29日の日銀金融政策決定会合において、マイナス金利の導入が発表された。為替は一時期121.70円/ドルまで円安が進み、長期国債利回りも昨日には瞬間的に0.05%にまで低下、日経平均株価は2日間の上昇幅が823円となった。銀行など金融関連株が値下がりする一方で、不動産、輸出関連が大きく上昇した。
■資産買入れによる量的緩和には限界が予想されていた中で、マイナス金利を導入することで(マイナス幅の拡大の可能性)、日銀は緩和期待形成の維持を行ったものと考えられる。実際に、日銀の発表資料『マイナス金利付き量的・質的金融緩和』には「今後、必要な場合、さらに引き下げる」という文言が付け加えられている。その結果、投機的な円買いには抑止効果が生じることから120円/ドル前後の為替水準が暫くは続くと見られているものの、中長期的に円安が一段と進むという予想は少なくなっている。
■マイナス金利の効果は、為替水準を保つことにより、輸出産業を中心とした製造業へのサポートになることは挙げられるものの、日銀の当座預金にブタ積みされた資金が融資や投資に回ってゆくかは未知数である。また、米国の追加的な利上げ期待が後退している中での金利差拡大は限定的であり、大幅な円安は期待しにくい。
■他方で、マイナス金利の弊害としては以下のような指摘がある。1)中国人民元はドルを基準としており、ドル高が進むことによって実質上昇しており、再び人民元の大幅な引き下げが生じて市場が不安定化する可能性。2)金融機関の収益悪化が予想されことから銀行のリスクテイク能力が低下して、金融引き締めと同じような状況に陥る可能性。3)ユーロ圏でも生じているが預金者の受取利息の減少と年金運用利回りの低下による将来給付の減少の可能性、それに伴う貯蓄志向の高まりと消費の停滞。4)通貨引き下げ競争による世界経済の不安定化によって高金利通貨から低金利通貨(=リスクオフ)のシフトが生じる可能性。
■いずれにしても未体験の政策であり、長期的に続けることへのリスクは未知数であることは言うまでもないだろう。

 

<12月の経済指標は厳しい状況>
■12月の国内経済指標はいずれも厳しい内容であった。商業動態統計(28日発表)は、商業販売額が前年同期比▲2.9%。家計調査(以下は29日発表)では、二人以上世帯の消費支出が前年同月比▲4.4%、勤労者世帯の実収入が名目で前年同期比▲2.7%。鉱工業生産指数は、96.5と前月比▲1.4%、15業種中11業種で低下となった。特に電子部品・デバイスが▲3.5%、汎用・生産用・産業用機械が▲2.9%であった。こうした中で唯一、有効求人倍率が1.27倍と前月比0.02ポイント上昇した(失業率は3.3%で11月と変わらず)。こうした結果から、10-12月期の日本のGDP(2/15第1次速報)は大幅なマイナスになるとの見方も浮上してきている。
■米国経済指標もこのところ芳しくない。12月の耐久財受注(28日発表)は前月比▲5.1%と1年4ヵ月ぶりの落ち込みとなった(市場予想は▲0.6%)。輸送用機器受注、非国防用航空機受注の落ち込みが激しい。29日発表の10-12月期のGDP(速報値・実質年率換算)では+0.7%と7-9月期の+2.0%から大きく減速した。個人消費が伸び悩む中で在庫投資が縮小、輸出も減少した。2月1日発表の1月のISM製造業景気指数(PMI)は、48.2と12月(48.0)から上昇したものの4ヵ月連続の50割れとなっている。
■今週は、ISM非製造業指数(3日発表)、米雇用統計(5日発表)と米国の主要統計の発表が続く。(特に雇用統計が)あまり芳しくない内容であるならば、円安が一服する可能性には注意したい。
■1日発表の財新中国PMI指数(1月)は、48.4と11ヵ月連続して50を下回ったが、12月(48.2)から上昇した。

 

<日経平均は18,000円台半ばが上限とみる>
■1月29日時点のIFIS/TIWコンセンサス225(日経225のコンセンサスEPS)は、4週続けて全期間マイナスであった。前週比で予想EPSがプラスになった銘柄の比率は、再び38.2%(来期ベース・変化なし銘柄を除く)と22日時点(44.4%)から後退した。ファナック(6954)、アルプス電気(6770)、京セラ(6971)など電子部品や製造用機械、海運などのマイナスが目立っている。
■企業業績が低下傾向を強めている中で、今回は妥当レンジを大幅に引き上げる。為替が円安に向かうことによって輸出関連企業の業績見通しがやや好転することが見込めること(それに伴う株価上昇)も要因であるが、長期国債利回りが日銀のマイナス金利導入によって引き下げられたことが大きい。期待収益率(=投資家の要求利回り)が引き下げられたことからバリュエーション面で上方シフトが生じた。ただし、長期金利の低下によるインパクトは、仮に0.00%となったとしても今後はそれほど大きくは無い。その結果、18,000円台半ばが株価の上限と思われる。
■従来から述べているように、来年度の会社予想に関してはかなり慎重な内容が予想されるだけに、上限(18,000円台半ば)を株価が大きく上回る局面では、利益確定を提案したい。
■海外経済環境には不透明感が強く、為替については各国の中央銀行の政策によって引き続き不安定な動きが予想されるだけに、(個人消費の影響を強く受けない)内需関連・小型株を中心に考えたい。

 

◇日経平均妥当水準(レンジ)

17,200円~18,550円 (前回16,400円~17,700円)

*「IFIS/TIWコンセンサス225」(1月29日)来期予想ベースEPSをもとに算出

◇IFIS/TIWコンセンサス225(1月29日)

今期予想EPS 1000.18 (前週 1001.41円)
来期予想EPS 1115.20 (前週 1118.78円)
再来期予想EPS 1215.11 (前週 1220.29円)
今期予想PER 17.52 (前週 16.93倍)
来期予想PER 15.71 (前週 15.16倍)
再来期予想PER 14.42 (前週 13.90倍)
来期予想PBR 1.14 (前週 1.09倍)
来期予想ROE 7.23% 前週 7.18%)
来期予想
インプライド・リスク・プレミアム
6.87% (前週 6.77%)

*1月29 日経平均終値より、PER、PBR、ROE等を算出

 

 

図1長期金利低下の影響を強く受けて妥当レンジも反発

 

図2来期予想ベースのプラス企業比率は、 51.9%→41.1%→31.9%→44.4%→38.2%。
再来期予想ベースのプラス企業比率は、49.0%→38.5%→35.2%→47.9%→36.8%。

想定以上に3Q決算は不振か?

[注:4~5月は例年、対象決算期変更の影響があるのでイレギュラーな値になることに留意]

 

 

図3今期予想EPS1000円割れ間近に


 

 図4期初(2015/5/22基準)段階の予想をいずれの期間でも下回る。

 

図5期待収益率は低下トレンドを辿るが、金利低下からインプライド・リスク・プレミアムは上昇

 

図6配当利回りから長期金利を差し引いた差分は、ユーロ危機時に匹敵

 

 

出所:IFISコンセンサスを基にTIW作成
いずれも2012年1月から表示

「IFIS/TIWコンセンサス225」について
IFIS/TIWコンセンサス225」は、株式会社アイフィスジャパンが集計しているアナリストコンセンサス・データ等を原データとして、2009年4月より株式会社ティー・アイ・ダヴリュが東証株価指数(日経225)に対応するように構成銘柄のEPSを算出・集計したものである。今期予想EPS、来期予想EPSの変化を追うことによって、マーケット全体の業績見通しを確認する。
理論上では株価は、自己資本配当率(ROEと配当性向の積)、EPS成長率、無リスク証券の利回り(国債利回り)、リスクプレミアムの4要素で決定される。株価をこれら構成要素に分解することによって、株価変動の要因について考察するとともにファンダメンタルからの妥当な株価(マーケット)水準を思量する。なお、リスクプレミアムを正確に計測することは、一定期間を経た後でないと困難なことであることから、当レポートではインプライド・リスクプレミアム(株価と他の構成要素からの逆算値)を使用している。
4つの構成要素の内、株価の短期的な変動に最も影響を与えるのがリスクプレミアムである。リスクプレミアムは、無リスク証券の金利に対して投資家が要求する上乗せ金利と定義されるが、投資家心理(マーケットセンチメント)、他の投資対象(金融商品)との利回り格差の変動などによって変化する。長期的な見通しの変化が無い中では、インプライド・リスクプレミアムは一定のレンジ内で推移する傾向にある。日経平均株価の妥当水準を算出には、インプライド・リスクプレミアムの一定レンジからの逆算によって行っている。
〔今期予想ベースEPS、来期ベースEPSにおける“今期”、“来期”の取扱い〕
会計上の業績計測期間ではなく、本決算発表を基準とする。例えば、2011年4月30日現在では、2011年3月期は決算発表前であれば今期、決算発表が行われていれば前期、となる。
〔予想EPS増減社数〕
今期ベースならびに来期ベースを示している。週間(週末値)のデータを基に、前週末に比べてEPSが増加・変化無し・減少した企業の数。
〔予想PBR(今期末)〕
前期末BPS(1株純資産)に今期予想EPSを加えて、予想DPS(1株配当)を控除した値(=予想BPS)で株価を除した数値。中間配当は考慮していない。
〔予想ROE(来期ベース)〕
前述の予想BPSで来期予想EPSを除した値。
〔リスクプレミアム〕
特に断りの無い限りインプライド・リスクプレミアムを表す。計算式は、{ 1-予想配当性向×(1-予想B/Pレシオ)}×予想ROE-無リスク証券利回り

 

株式会社ティー・アイ・ダヴリュ
TIWマガジン「投資の眼」   株式会社ティー・アイ・ダヴリュ
独立系証券リサーチ会社TIWのアナリスト陣が、株式市場における時事・トピックスや業界動向など、取材に基づいたファンダメンタル調査・分析を提供するともに、幅広い視野で捉えた新鮮な情報をお届けします。

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