円安加速と自動車株 -高田 悟-

2014/09/19

9月に入り1米ドル105円を超えて円安が進んだ。105円はなかなか超えられなかったし、久方ぶりの円安水準だから、輸出株の代表自動車株はもっと勢いよく上昇してもよいのではないかと思ったむきもあろう。しかし、反応が鈍い。昨日、円が対米ドルで108円台後半へ下落し110円台も視野に入り始めると株価は漸く動意づいた。大手の中では国内生産・輸出比重が高いトヨタ株が2%強上昇し、年初来高値を更新した。とはいえ、仮に1米ドル110円程度の円安が定着すれば今期のトヨタ予想営業利益を1割弱程度は押し上げる効果があることを踏まえると何か上昇に物足りなさがあるが何故だろう。

海外生産拡大と輸出比重の低下が原因であるとよく言われる。ホンダは北米向け 「フィット」の生産をメキシコに移した。日産は既に「ローグ」生産を九州から北米に移し、そして「ムラーノ」の移管が続く。足元で輸出比重低下が目立つホンダや日産株価の円安への感応はトヨタや輸出比重がかなり高いマツダ、富士重工業に比べ確かに鈍い。次によく聞くのが過度な円安が①原材料価格上昇→国内生産コストの上昇、②エネルギー価格上昇→国内消費鈍化、を招き完成車メーカー収益を圧迫するとの説だ。しかし、むしろドル高で原材料価格上昇が抑えられている、そもそも国内生産・販売の収益インパクトは従来から低下している、車は必需品である、などを踏まえると一理あるがピンとは来ない。

今回の円安加速は米ドル独歩高による。これが円安と自動車株高の連動性を弱めている最大の理由と筆者は見ている。金利の方向感が違う米ドルは対円に止まらず、対ユーロや対新興国通貨で上昇が続く。そして、相対的に安定感のあるユーロが周辺のルーブルなどに対し強含みだ。リーマンショック後、完成車メーカーは北米のみならず、潜在需要の大きい新興国で現地生産、調達の現地化を急速に進めた。足元ではタイやインドネシアの強化が目立つ。新興国では米ドルで部品を調達し完成車をローカル通貨で販売するとう流れが全てではないが必ずあり、米ドル高/生産国通貨安は生産拠点の採算悪化を招く。

日産は今期予算では為替が減益要因になる。ロシアでの販売、生産比重が近年増す中、ルーブル安がマイナスに働く。ヤマハ発動機はインドネシアにおける二輪車販売・生産の収益インパクトが大きい。8月の中間決算発表時に通期計画を上方修正したが、ドル高/インドネシアルピア安が上方修正幅をかなり抑制したことは記憶に新しい。最早、円安/ドル高が完成車メーカーの収益向上にストレートに繋がるという構図にない。ドル高/新興国通貨安が同時に進行すればこの効果をかなり相殺してしまう。これは、需要地で調達・生産の現地化が進み為替動向に左右されにくい体質づくりが進んだことの証左でもある。しかし、完成車メーカーなどを中心とする輸出株の短期的な収益動向、それに基づく株価見通しには米ドル/円の動きと止まらず、主要生産拠点・販売地域はどこかとの視点や米ドル/生産・消費国通貨の動向を注視して行く姿勢が一段と重要になってきたと言える。

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